とし)” の例文
旧字:
与十という男は小柄で顔色も青く、何年たってもとしをとらないで、働きも甲斐かいなそうに見えたが、子供の多い事だけは農場一だった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
⦅こりや、フォマ、フォマつたら! もう嫁を貰つてもええとしをして、お主はまるで驢馬の仔みてえな、阿房な真似をさらすだ!⦆
としは二十八でありますが至って賢い男、大形おおがた縮緬ちりめん単衣ひとえものの上に黒縮緬の羽織を着て大きな鎖付の烟草入たばこいれを握り、頭は櫓落やぐらおとしというあたま
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たしかにとしよりは十ぐらいけて見えるがその実ようやく四十になったばかりのこの絵師は、当時長崎きっての版画師であった。
「おまえは、百余歳になるというが、そんなとしなら、諸葛孔明が生きていた頃を知っているわけだ。あの人を見たことがあるか」
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより自分のとしもしらないし、ばかの癖でまだほんのたわいのない顔をしてるので彼がいくつになるのかは誰も知らなかつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
画家ゑかき田能村直入たのむらちよくにふは、晩年年齢としを取る事が大好きになつて、太陽暦で八十のとしを迎へてまだ二つきと経たぬうちに、旧暦のお正月が来ると
ダルガス、としは今三十六歳、工兵士官として戦争に臨み、橋を架し、道路を築き、みぞを掘るの際、彼はこまかに彼の故国の地質を研究しました。
宵夜中よいよなか小使銭こづかい貸せの破落戸漢ならずものに踏み込まれたり、苦労にとしよりもけた岩公の阿母おふくろが、孫の赤坊を負って、草履をはいて小走りに送って来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「君、誰か見付けて早速結婚したまへ。すぐ癒るよ。君みたいな男がそのとしになるまで独身で居るなんてわるいことだ。」
美しき敵 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
元禄袖の双子ふたごは一つとし下の従妹いとこを左右から囲んで坐つた。暫く直つて居た榮子の頬のふるへが母の膝に抱かれるのと一緒にまたはげしくなつてきた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「なにしろ小父おぢさんは、としに似あわず、様子がいいから……画にも描かれようってものさ、おれたちとはわけがちがうワ」
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
ごく控目に見積つて、そのとしは参百年か四百年でなくちやならない。此の栗の木の齢に驚いちやいけない。私の話はまだはじめたばかりだからね。
としこそいろいろだがいずれも食いもの屋のねえさんたちとおぼしいのが、寝入りばなを起されてそのまま飛び出て来たらしい、しどけない姿である。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「誠に面白かつた。見惚みぼれに気惚に底惚か。としに在ると云ふのは、これは大きにさうだ。齢に在る! 確に在るやうだ!」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
否、幻覚ではなかつた。アヽ、もう遅い、然し、女はさう呟いたのではない。もう十年若ければ……あゝ、としだ……たしかにさう呟いたのであつた。
母の上京 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして月の変りますと早々、これもあなた様よく御存じのとおり、姫君はおんとし十七を以て御落飾、法華寺の尼公にお直り遊ばしたのでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「私はいつまでも、こんなことをしてゐてよいのかと思ひます。いたづらにとしをとるばかりで、いつまでたつても、もとの栄蔵に変りありません。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
ところが親父の方がその話に乗気になり、としを取ってからでは不安であるが、今の中なら大丈夫だ、と言い出した。
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そなえたる少年、とし二十に余ることわずかなれば、新しき剃髪ていはつすがたいたましく、いまだ古びざる僧衣をまとい、珠数じゅずを下げ、草鞋わらじ穿うがちたり。奥の方を望みつつ
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
弟は兄を剃髪染衣ていはつぜんえの身ならむとは思ひもかけず、兄は弟を薪売りびとになりをらむとは思ひもかけず、かつ諸共もろともやつとし老いたればそれとも心づかざれど
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ただ、残念なことに、幾らかとしをとり過ぎていて、全体に骨ばった感じがし、歩くのが大儀そうに見える。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
土はたたかれにぎり返され、あたたかに取り交ぜられて三十年も、彼の手をくぐりぬけてとしを取っていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
同行が出来るといふのでその計画を子供らしく悦んでゐる妻と私は、平気で露はに話し合つてゐるのであるが——「あたしよりもとしは上なのね、一つ? 二つ?」
蔭ひなた (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
憂欝いううつの色が見えるんですもの、そりや梅子さん貴嬢ばかりぢやない、誰でも、としと共に苦労も増すにきまつて居ますがネ、だ私、貴嬢の色に見ゆる憂愁いうしうの底には
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その娘がとしごろになると種々な形式でもってそこに嫁いでゆくというような口碑伝説がいくらもある。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
お婆さんのとしはもう八旬を越えましたので、その筆の一生も終りに近づきつつあることと思われます。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
お前だちは、まだとし若い血気の少年であるから、幽霊などがあるといったら、一概にけなすことだろうが
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
たけが低くて、まん丸こくって、太い咽喉がいつもベトリと汗ばんでいる。そのくせ、としの割に皮膚が艶々しく、どこか娼婦というよりも喰物の感じが強い女だった。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼は死んだと思われているがどこに彼が葬られているか誰も知らない。別に、いいとしをした老婦人も近所に住んでいるが、たいがいの人の眼にはすがたが見えない。
「御城内なり、御親族なりへは、知らせた方がよいの。ただの衰弱ではない。おとしが、お齢ゆえ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
としは二十二、三位、丸顔で色の浅黒い、あまり背の高くない、どつちかといへば豊艶な男好きのする女であつた。その中に小奴は順々に酌をしながら私の前に来た。そこで私は
石川啄木と小奴 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
自分の孫たちのとしかぞえて見て、絢子の方はもう四年五ヶ月以上になって居るのだから、私が死んだ後からでも何か思い出してくれる事があるかも知れぬ、などと考え及んだ。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
人間ならとしをした梅干婆うめぼしばあさんが十五、六の小娘こむすめ嬌態しなを作って甘っ垂れるようなもんだから、小滛こいやらしくてり倒してやりたい処だが、猫だからそれほど妙にも見えないで
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
西部フリースランド(オランダ)にあるフラネッケルという名まえの小都会で、五歳いつつ六歳むっつぐらいの女の子と男の子、まあそういったようなとしのいかない子どもたちが遊んでいました。
元来が上方者かみがたもの吝嗇家しまりやだったから、御殿奉公中からちょびちょび小金こがねを溜めて大分持っていたそうだ、しかしもうとしとしなので屋敷もひまを貰って自分は此処ここへ一軒あたらしく家を建てたが
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
老生既に七十のとしを越えたれば、貴兄の教えらるる如く、今更四ツいになって歩くことも致し兼ねると答えたという話がある。動物社会には我々の尊ぶ自由というものはないのであろう。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ほんの慰み事ならば又別だが、金も乏しい癖して紙代、絵具代、大変なものだ。友達は皆陰で心配してゐるのです。一体このとしわづかづゝ上達したところで、それがどうなるといふのです。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
でも、だんだんとしをとり、自分が人の子の親になってみれば、だれもそれがほんとうにわかってくるのです。科学的立場からいえば、親の流す涙も、恋人の流す涙も涙に変わりはないでしょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
これがかの夕日ゆうひもり名高なだかく、としわか閨秀をんな樂師がくしのなれのはてであらうとは!
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そういう名の人物は居住していないが、手紙の趣にある風采ふうさいとし恰好からおすと、三年前からトゥリック氏所有の別荘「エルミタージュ」を借りているラウール・デュポンのまちがいではないか。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
陽気にはしゃげるとしでないことは、自分にもよく解っていた。そのくせ、昔の思い出の中にそれを探し求めたって、彼の思い出には、今宵目のあたりに見るがごとき光景に似寄ったものは何もなかった。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それは何時いつぞやもおはなししたとおり、あの方はおとしも若いし、美しい御顔でもあるし私が行ったりするのは、はばからなけりゃなるまいと思っています。幾度交際を断とうと思ったかも知れはしません。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
自分も若いつもりではいるがしかしとしは争えないもので、あなたも齢をお取りになりましたネ、といった人があった。自分もそんな齢になったのだ、と思って空を仰ぐと銀河があきらかにかかっていた。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
娘のとしは十八、朗然和上は三十四歳、十六もちがつて居た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
続いて、「俺もとしをとつたな……」と、さう思つた。
古本屋 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
おいらくのとしにもめげず、すこやかに、まめなる声の
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
その身こそ瓜も欲りせん としわかき母にしあれば
文語詩稿 一百篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わたしの猫はずゐぶんととしをとつてゐるのだ
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
さあ。どうだか知らないけど、あなた若いようでとし取っているのね。なんだかあなたが興奮しておっしゃることはおじいさんが若者の言葉を