かご)” の例文
スッと、内からかご塗戸ぬりどをあけて、半身乗り出すように姿を見せた人物を仰ぐと、青月代あおさかやきりんとした殿とのぶり、二十はたち前後と思われます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
峠路のかごに興じたり、雨の宿りをびしがったり、高原の道に馬をせがんだりして、いつか知らず故郷の土を踏んでしまったのである。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大場から平井、丹那の山に入ってからは、幾度となくかごの側まで来て、何か訴えたいような表情をしては、切出しかねて、又見えなくなった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
最後に涼葉りょうよう十七句を調べてみた。「牛」が二頭いる。「草鞋わらじ」と「むしろ」と「わら」、それから少しちがった意味としても「かご」と「かご」がある。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
松平信祝からの火急の使者が来たので、紀州家附家老つけがろう、安藤帯刀たてわきは、自慢の南紀重国なんきしげくにの脇差と、蜜柑一籠ひとかごとを、家来に持たせて、かごを急がせてきた。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
八番の右は立場たてばと見えて坊さんを乗せたかご一梃いっちょう地に据ゑてある。一人の雲助は何か餅の如きものを頬ばつて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
資本もとでに初めし醫者家業いしやかげふ傷寒論しやうかんろんよめねどもなりとて衣服いふくおどかし馬鹿にて付る藥までした三寸の匙加減さじかげんでやつて退のいたる御醫者樣もう成ては長棒ながぼうかごよりいのち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(此の時おくみは跣足はだしで先に、蓮如上人はかごに乗り、取るものも取りあえぬ形で花道を駈けつけて来る)
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
また椅子のかごに乘らんかとのことであつたが、私はそれを辭して今度は歩くことにした。なるべく迂路を取つて勾配の緩い道を撰んだ。が中には近道を取る人もゐた。
横山 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「でも、あのへんは伊勢かごの繩張だから、下手なことをすると、ぶったたかれますぜ」
魂祭たままつり過ぎて幾日、まだ盆提燈のかげ薄淋しき頃、新開の町を出し棺二つあり、一つはかごにて一つはさし擔ぎにて、駕は菊の井の隱居處よりしのびやかに出ぬ、大路に見る人のひそめくを聞けば
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かごが用意してあつて否応なしにその中におしこまれてしまひました。
嫁泥棒譚 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
そのあいだに大阪方では「輝虎配膳」と「もどかご」を出した。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところへ、ドンと川長の前へ投げ出されたのは、道中早次はやつぎかご二つ、着くが早いか、その一ちょうの中から、半病人で飛び出した由造が
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは辛いでしょう。——履物屋も閉めてしまったろうし、かごでは追手にてがかりがつくだろうし、負ってゆくわけにもいかないし」
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だが、二人が流している時に、通りすぎるかごには勿論、お俊が乗っていなくてはならぬ。そして、二人が茶店へ呼ばれて上った奥の小間にはお俊がいた。
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
頼みし女中は今日は通駕籠とほしかごにて鎌倉迄かまくらまでゆくべき約束ゆゑ善六は朝早く龜屋へ來り亭主にかくと言入れ約束やくそくかごむかひに參りたりといはせたり徳右衞門は南無なむ三と思ふ色を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
明くる日はかごかきの人足まで皆村方から出て来て、その外お供が非常に多かった。三島明神みょうじんの一の鳥居前から、右に入って、市ヶ谷いちがや中原なかはら中島なかしま大場だいばと過ぎ、平井ひらいの里で昼食ちゅうじき
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
魂祭たままつり過ぎて幾日いくじつ、まだ盆提燈ぼんぢようちんのかげ薄淋しき頃、新開の町を出し棺二つあり、一つはかごにて一つはさしかつぎにて、駕は菊の井の隠居処よりしのびやかに出ぬ、大路に見る人のひそめくを聞けば
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
滝見かご青岸渡寺せいがんとじの玄関に
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
先に出た渡舟のうちに見える似た人などにも——馬の上、かごの中の人間、およそすこしでも武蔵の姿をどこかで想わせる者を見れば
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「つれて来ておる」えっというように内膳は眼をみはった、寅寿はにこりともせず、「かごかき二名、その者でござる」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「只今、南奉行御役宅におきまして、天一坊常楽院、赤川大膳以下を召捕りまして御座りまする。供の者一同も、数寄屋橋を固めてかごの者まで残りなく——」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
魂祭たまゝつぎて幾日いくじつ、まだ盆提燈ぼんぢようちんのかげ薄淋うすさびしきころ新開しんかいまちいでくわん二つあり、一つはかごにて一つはさしかつぎにて、かごきく隱居處いんきよじよよりしのびやかにいでぬ、大路おほぢひとのひそめくをけば
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「川崎の本街道へお出ましになれば、馬でも、かごでも御自由で……」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
火に行く先をふさがれて、ぜひなくかごを休めていると、そこへそちと、もう一人、よしありげな女子おなごとが、気を失って引きずられてきた
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長門は平伏して待っていたがするするとかごの間近へ進んで両手をおろし、しずかに主君を仰ぎ見ながら
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「飴色網代のかごへ、何故なぜ、許しもなく御乗り召さる」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
愁眉しゅうびをひらいて、人々は、上水の川尻へ眼をやった。大曲おおまがりの方から、川端を、悠長ゆうちょうに練ってくる一列の提灯とかごとが、それらしく見える。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
原とかごを並べて上屋敷へゆき、原の案内で、そのまま奥庭へはいっていった。——正篤は麻の帷子かたびらはかまはつけず、短刀だけ差した恰好で、日月亭の縁側に腰をかけていた。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鴫野しぎの花圃はなばたけか、牡丹ぼたん園へ行った戻りでもあろうかと見える、派手な町かごが五、六挺、駕の屋根へ、芍薬しゃくやくの花をみやげに乗せて通り過ぎる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「五日間、かごと馬のぶっ通しで追って来たそうで、あんまり疲れているようすだから、風呂へはいって寝るようにすすめたんです、向うの部屋でもう眠っているでしょうが……」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
千住の宿場遊廓しゅくばぐるわから飛んで来た帰りかご提灯かんばんらしいのが、どう道を勘ちがいしたか、刑場の原へぶらぶら迷いこんで来る様子——
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
穆清はその日は私宅に帰る番に当っていたので、午後三時が過ぎるとかごで役所を出た。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのご機嫌を見計らって、取りまきの湯女ゆなのおかんとお千代が、しきりに浅草の景気をそそったので、つい、かごを四つあつらえてしまった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
というところへ、老僕六平が付添ってかごがきた、中から半身を乗出すようにして
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あいつという符牒ふちょうは、無論、大火の夜に、かごのなかからヌッと鉄扇を出した侍を指すので、それを考えあぐねていたのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
供は十人ばかりだったが、かごが幾つも付いて来て、若い腰元が五人とその持物が運びこまれた。……このありさまを見ると、菊千代はすぐに別家の主税を思いだし、侮辱されたように肚が立った。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「こんな姿をして歩くと、道中かごかきや人足にばかにされて困りますから、ちょっと支度をなおしたいと思うんですが……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎の門そとのつじかごをひろい、汐止しおどめの橋から木挽町へ出て、築地のほうへ向った。まさか山村座ではあるまい。こう思いながら、半之助はふと、ついこのあいだ見た、茶屋の出来ごとが眼にうかんだ。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おかごわきへ——」と、仲間ちゅうげんの提灯と、紅葉もみじを投げて騒ぎ乱れた紅白の女房たちが、青漆砂子塗せいしつすなごぬり女駕おんなかごと娘の間をさえぎって
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、あとにかごがひとつ残った。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
登城の大小名のかごは大手の濠端ほりばため、松の内の城内は諸礼諸儀式の吉例ずくめで日ごと型どおりな繁忙で暮れている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕方の六刻むつというと、もう三道の客が織るように入ってくる。温泉町ゆまちの入口は馬やかごや運送の人足で埋まっていた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうする? ……諦めるなら綺麗きれいがいいし、四ツにる気なら、つい川下流かわしもだ、舟でも、かごでも、出してやるが」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しっかりした道中かごちょう背丈せいのそろった駕かき、別に、肩代りが二人ついて、こなたへさしてくるのが見えた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かごに酔ったのは船暈ふなよいより気もちが悪い。酔い癖のある者は駕の戸をあけて乗るがいい。ムカムカ頭痛がしてきた時には、熱湯に生姜しょうがしぼり汁を入れて呑む。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『それから、夜半よなかになったら、済まないけれど、かごを二ちょう、そっと裏口の木戸へ呼んで来ておくれでないか』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小出しの財布はもう帯の間を抜けて、土工かかごかきらしい男の手に掴まれたまま、往来の方へ飛んでいた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど、どこかのいきなお内儀かみさん——というかっこう、誰の目にも旅をしている者とはうけ取れまいと思えるが、さすが、街道かせぎのかごかきは目が高かった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)