駈落かけおち)” の例文
さだめて皆さんは、雪は夜逃げをしたとか、駈落かけおちをしたとか思っていらっしゃるかも知れませんが、そういうわけではございません。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年來御恩をきて居りながら、かやうな時に御意見のひと言も申上げることか、却て駈落かけおちの女を隱まふなどとは、言語道斷、憎い奴。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
一番目の女房かないはその男を捨てて、若い恋人と駈落かけおちしたので、男は涙を流してその女の噂ばかりしてゐたが、程なく二度目の結婚をした。
家斉の末の娘が鳥取に嫁いで、仲間ちゅうげん駈落かけおちしたという有名な秘話は、皆様も何かの機会にお聴きになったことがあると思います。
早瀬 それでなくッてさえ、掏賊すりの同類だ、あいずりだと、新聞ではやされて、そこらに、のめのめ居られるものか。長屋はぬけて、静岡へ駈落かけおちだ。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親爺おやじはその頃めかけを持っていたようです。いまぼくの愛しているお袋は男に脅迫されて箱根に駈落かけおちしました。お袋は新子と名を改めて復帰致しました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
で——どうでせう——その方とジョウジアァナお孃さんとは駈落かけおちしておしまひになつたのですよ。ですがお二人は見付かつて駄目になつちまひました。
殺人、盗賊、駈落かけおち、男女の情死、諸役人の腐敗沙汰ざたなぞは、この街道でめずらしいことではなくなった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昨日までは愛すればこそ、一種の恐れをさえ抱いていたこの人と、今駈落かけおちをしているのだと思うと、悲壮な様な、甘い様な、名状めいじょう出来ない感じで胸が痛くなった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
結局つまり二人で駈落かけおちなどいう軽卒かるはずみな事でもしやしないか、困ったものだと云う事が私の耳に入っているが、私も兄弟は無し、心細いから平常ふだん親切にしておくれのお前と
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「……タ……大将……大変ですぜ。お嬢さんはね。どっかの色男と……今夜、駈落かけおちの相談を……」
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ようやく三年目に、それでは一緒になってもいいと女が言うようになったので、男は飛びたつばかりに喜び、さっそく、駈落かけおちすることになって二人は都を逃げだしたのです。
文学のふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
とうとう、男はもう我慢がし切れなくなって、二人で駈落かけおちしようと言い出した。
変な恋 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
だが、行ってみて驚いたよ。庄左衛門の相手の女というのも、昨夜から姿を見せないというので、向うでも大騒ぎをしているのだ。てっきり二人しめし合せて駈落かけおちをしたものに相違ないね。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
駈落かけおち三回心中未遂一回」とか、「野心満々、惜しむらくは低能」とか、「彼いつの日にか悔い改めん」とか、「愚鈍なるが如くにして、最も警戒を要す」とか、そういったさまざまの文句が
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
の女は金之助の病中に、碁の弟子で、町の豪商なにがしの弟と怪しい仲になり、金之助の病気はそのため更に重くなったのを気の毒とも思ず、つい乳飲児ちのみごを置去りにして駈落かけおちしてしまったのだと話しました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何事にも退嬰たいえい的な本家が、女の洋行などと云うことを簡単には許しそうにもないので、又駈落かけおちでもされたら大変であるから、———と、多少おどかすような意味合で話して貰う、と云う訳であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
駈落かけおちをなさるのなら、いっそ二人でなすったらいいでしょう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人もあろうに風呂番をしていた与太郎という馬鹿と駈落かけおちするなんて、わたしもあきれ返ってしまった、あんな世話甲斐せわがいのない子というはありやしない
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此の船中に話したがね、船頭はじめ——白痴たわけめ、おんなに誘はれて、駈落かけおちの真似がしたいのか——で、船は人ぐるみ、うして奈落へさかさま落込おちこんだんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それとも駈落かけおちでもしたのか、そんなことはいっさい判らないのですが、その小僧の祖母ばあさんという人が井戸屋へ押掛けて来て、自分の大事の孫を返してくれという。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すぐに墓場から駈落かけおちをして、其の晩は遅いから松戸まつどへ泊り、翌日宿屋を立って、あれから古賀崎こがざきどてへかゝり、流山から花輪村はなわむら鰭ヶ崎ひれがさきへ出て、鰭ヶ崎のわたしを越えて水街道みずかいどうへかゝり
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕の家に居候いそうろうをしていた男が、あいつを盗み出したのです。何の為にか少しも分りませんが、二人は——いや、一人と一匹とは、まるで駈落かけおちでもする様に、手に手をとって逃出してしまったのです。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「源太の二番目娘、お銀のかたの妹のお徳ですよ。親父の子分でお小姓の捨吉と言はれた好い男と出來て、駈落かけおちまでした札付の娘でさ、一時は品川に巣を構へて小唄か鼻唄の師匠をして居たといふ——」
これ船中せんちうはなしたがね、船頭せんどうはじめ——白癡たはけめ、をんなさそはれて、駈落かけおち眞似まねがしたいのか——で、ふねひとぐるみ、うして奈落ならくさかさま落込おちこんだんです。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「だって先生、先生はお目が御不自由なんでございましょう、それを見捨てて、二人で駈落かけおちをするなんぞということは、このがんりきにはできませんな」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
丁度あの鳶頭が来た翌日あくるひでした、吉原なか彼女やつ駈落かけおちと出懸けやしたがね、一年足らず野州やしゅう足利あしかゞで潜んでいるうちにかゝあは梅毒がふき出し、それが原因もとで到頭お目出度めでたくなっちまったんで
ならん! この場に及んで分別も糸瓜へちまもあるかい。こんな馬鹿は、助けて返すと、おんなを連れて駈落かけおちをしかねない。短兵急に首をおさえて叩っ斬ってしまうのだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ただいま、浴槽ゆぶねで聞いたのだが、昨晩は君の姿が見えないために、総出で探し、どうしてもわからないから、君は駈落かけおちをしてしまったものときめているらしい」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かますを卸してまぐさあてがってどっさり喰わせ、虫の食わないように糸経いとだてを懸けまして、二分と一貫の銭を持って居りますゆえ、大概のものなら駈落かけおちをするのだから路銀に持ってきますが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
う?多分たぶんわがまゝな駈落かけおちものの、……わたし子孫しそんだ、とおもふんだがね。……御覽ごらんとほりだからね、」
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
切羽せっぱつまった末に、とうとう駈落かけおちと覚悟をきめて、ある夜、しめし合わせ、手に手をとって駈落を決行したが、その時、若い美僧は、重々悪いこととは知りながら
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
情死、駈落かけおち勘当かんだう等、これ皆愛の分弁たり。すなはち其人のために喜び、其人のために祝して、これをめでたしといはむも可なり。但社会のためには歎ずべきのみ。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なかにはお君がお銀様をそそのかして、一緒に駈落かけおちをしたのではないかと言っているものもありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雖然けれども襦袢じゆばんばかりに羽織はおりけてたびをすべき所説いはれはない。……駈落かけおちおもふ、が、頭巾づきんかぶらぬ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
え、それでは駈落かけおちだとおっしゃるのですか。そうかも知れませんね、でも……
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もうお夏の、こう隔てのない、打開けた、——、敵討かたきうちの、駈落かけおちの相談をさるるような、一の(当てて御覧)がなかったら、火の玉は転がって、格子の外へ飛んだであろう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人はこの場の出来心——というよりも、非科学的であることのはなはだしい弁信法師の頭だけの暗示をたよりとして、一種異様なる駈落かけおちを試みようということに、相談が一決してしまったのです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
杜若かきつばた一年ひととせうゑたが、あのむらさきのおいらんは、素人手しろうとであかとりぐらゐなところではつぎとしかうとしない。ばかりのこして駈落かけおちをした、どろのまゝの土鉢どばちがある。……それうつして、ふたをした。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しめし合わせて駈落かけおちでもしたように思っているが、以ての外だ、なんらの関係はない、偶然に出会でっくわして、偶然の道づれになったまでのことなのだ、情実関係も、利害関係も、一切ありはしないのだよ
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もともと人間がそういうことをこしらえたのなら、誰だって同一おんなじ人間だもの、何密夫まおとこをしても可い、駈落かけおちをしても可いと、言出した処で、それが通って、世間がみんなそうなれば、かえって貞女だの
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいつ無闇に親船を駈落かけおちして来は来たものの、本来あの兵部の娘にしてからが、そんなに思慮の計算のあるやからではない、人の金を持ち出して、二十日余りに四十両の五十両のと使い果してから
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上方あたりへ駈落かけおちをして一生いようと思って、五月二十八日に股引ももひきをはきてうちを出たが、世間の中は一向知らず、金も七八両盗み出して、腹に巻き附けて、まず品川まで道を聞き聞きして来たが
行方も知れず……一寸ちょいと……駈落かけおちをしてしまつたんだわ!
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その浴客らのうわさは、昨晩、芸者の駈落かけおちということで持切りです。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
行方ゆくへれず……一寸ちよいと……駈落かけおちをしてしまつたんだわ!
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
近所の人は男と駈落かけおちをしたものだろうと言っています。
もう箱根はこねから駈落かけおちだ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またしても駈落かけおちかと、読んで神尾が苦笑しました。
「あの子はお前、駈落かけおちをしてしまいましたよ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)