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馥郁
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ふくいく
ふりがな文庫
“
馥郁
(
ふくいく
)” の例文
神田お
臺所町
(
だいどころまち
)
、これから親分の錢形平次の家へ朝詣りに行かうといふところで、八五郎は
馥郁
(
ふくいく
)
たる年増に抱きつかれてしまひました。
銭形平次捕物控:311 鬼女
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
馥郁
(
ふくいく
)
として沈香入りの練り炭が
小笠原流
(
おがさわらりゅう
)
にほどよくいけられ、今は、ただもうそのお来客と城主伊豆守のご入来を待つばかりでした。
右門捕物帖:03 血染めの手形
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
この部屋も、あの広間と同じように、窓という窓が一ぱい開け放してあって、ポプラや紫
丁香花
(
はしどい
)
や薔薇の匂いが
馥郁
(
ふくいく
)
と香っていた。
接吻
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
おのずから
馥郁
(
ふくいく
)
たるものでありたいと思います、詩情というものが、人間の深い理性の響から輝きかえって来るものであること
獄中への手紙:08 一九四一年(昭和十六年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
それには何ともいえない明るいこぼるるばかりの色気というか、愛嬌というか、触らば落ちん風情が
馥郁
(
ふくいく
)
と滲み溢れてきていた。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
▼ もっと見る
日向
(
ひなた
)
の土の窪んだところに、雞が寝て砂を浴びている。あたりにある梅が
馥郁
(
ふくいく
)
たる香を放っている、というようなところらしい。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
また菊の香という名詞の下には「の
馥郁
(
ふくいく
)
たるがごとく」という文字とか、また温雅なる色彩とか、
蒼古
(
そうこ
)
な感じとかいうような
俳句の作りよう
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
マリヤ物言わず、イエスも無言、ナルドの香油はイエスの
髯
(
ひげ
)
に流れ、衣の裾にまでしたたり、芳香
馥郁
(
ふくいく
)
として
室
(
へや
)
に満ちました。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
そして落雷の異臭では決してない、いや、
馥郁
(
ふくいく
)
といってもよい香気が自分に近づいている思いだった。まぎれなくそれは人の気配にちがいなく
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
美しく
馥郁
(
ふくいく
)
ときらびやかに、黄の刺繍をした青い羅紗服で、赤褐の髪にパリ出来の帽を頂いて入って来た。そしてティツィアン式の眼で微笑した。
予言者の家で
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
気がついたのは——
此際
(
このさい
)
呑気
(
のんき
)
な話であるが——なにかしら、
馥郁
(
ふくいく
)
たる
匂
(
におい
)
とでもいいたい
香
(
かおり
)
が
其
(
そ
)
の辺にすることだった。
西湖の屍人
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
でも、それにレモンの
雫
(
しずく
)
を絞って垂らしてやりますと、その脂は切れて、口へ
掬
(
すく
)
い込むなり
馥郁
(
ふくいく
)
とした一片の脆い滋味となって舌の上でほぐれます。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
お銀様は月に乗じて、この平野の間を限りなく歩み歩んで行くと、野原の中に、
一幹
(
ひともと
)
の花の木があって、白い花をつけて
馥郁
(
ふくいく
)
たる香りを放っている。
大菩薩峠:36 新月の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
斯
(
こ
)
う習慣になってくると今度はその吸飲量を増さなければ満足しなくなる、
馥郁
(
ふくいく
)
たる幻を追うことが出来なくなる。
息を止める男
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
馥郁
(
ふくいく
)
とした芳香が、部屋をふっくりと包んでいるのも、花瓶に生けられた花のためではなく、何か化学的の香料が、どこかに置かれてあるからであろう。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
深窓の
美姫
(
びき
)
、
紅閨
(
こうけい
)
の
艶姐
(
えんそ
)
、
綾羅錦繍
(
りょうらきんしゅう
)
の
袂
(
たもと
)
を揃えて、一種異様の勧工場、六六館の婦人慈善会は冬枯に時ならぬ
梅桜桃李
(
ばいおうとうり
)
の花を咲かせて、
暗香
(
あんこう
)
堂に
馥郁
(
ふくいく
)
たり。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
紅葉の『色懺悔』は
万朶
(
ばんだ
)
の花が一時に咲匂うて
馥郁
(
ふくいく
)
たる花の香に息の
塞
(
つま
)
るような感があったが、露伴の『風流仏』は千里
漠々
(
ばくばく
)
たる広野に彷徨して
黄昏
(
たそが
)
れる時
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
夫人の身体全体から出る、
馥郁
(
ふくいく
)
たる女性の香が、彼の感覚を
爛
(
ただら
)
し、彼の魂を溶かしたと
云
(
い
)
ってもよかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
柳さくらをこきまぜて、都は花のやよい空、
錦繍
(
きんしゅう
)
を
布
(
し
)
き、らんまん
馥郁
(
ふくいく
)
として
莽蒼
(
ぼうそう
)
四野も
香国
(
こうこく
)
芳塘
(
ほうとう
)
ならずというところなし。
燕子
(
えんし
)
風にひるがえり
蜂蝶
(
ほうちょう
)
花に
粘
(
ねん
)
す。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
ルイザはナポレオンに引き
摺
(
ず
)
られてよろめいた。二人の争いは、トルコの香料の
匂
(
にお
)
いを
馥郁
(
ふくいく
)
と
撒
(
ま
)
き散らしながら、寝台の方へ近づいて行った。緞帳が
閉
(
し
)
められた。
ナポレオンと田虫
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
自然は我らに無償にて百花を
爛漫
(
らんまん
)
たらしめ、芳香を
馥郁
(
ふくいく
)
たらしむることを思わば、枝葉を折り採る事の出来得べきはずなし、万物の霊長たる資格を標示すべきである。
尾瀬沼の四季
(新字新仮名)
/
平野長蔵
(著)
われわれは
市
(
いち
)
ヶ
谷
(
や
)
外濠
(
そとぼり
)
の埋立工事を見て、いかにするとも将来の新美観を予測することの出来ない限り、
愛惜
(
あいせき
)
の
情
(
じょう
)
は自ら人をしてこの堀に
藕花
(
ぐうか
)
の
馥郁
(
ふくいく
)
とした昔を思わしめる。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
その官能は
馥郁
(
ふくいく
)
たる熱国の香料と滑らかな玉の肌ざわりと釣り合いよき物の形とに慣れている。いかに慈悲のためとはいっても癩病人の肌に唇をつけることは堪えられない。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
やがて彼が
馥郁
(
ふくいく
)
とかおる麦畑に通りかかり、
蜂蜜
(
はちみつ
)
の香を吸いこみながら見わたすと、うっとりするような期待が彼の心に忍びこんで、うまいホットケーキにバタをたっぷりつけ
スリーピー・ホローの伝説:故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
富島さんの家へ行くと、きちんとした日本趣味に彩られた
馥郁
(
ふくいく
)
と匂うてくる或高雅なものがあつた。栄一は富島さんに於て、初めて日本婦人の尊敬すべきものであることを知つた。
死線を越えて:02 太陽を射るもの
(新字旧仮名)
/
賀川豊彦
(著)
もしそれ山花
野艸
(
やそう
)
に至りてはこれに異なり、その香
馥郁
(
ふくいく
)
としてその色
蓊鬱
(
おううつ
)
たり。隻弁単葉といへども皆
尽
(
ことごと
)
く霊活ならざるなし。自由の人におけるその貴ぶべきことけだしかくの如し。
『東洋自由新聞』第一号社説
(新字旧仮名)
/
中江兆民
(著)
得
(
え
)
もいわれぬ
馥郁
(
ふくいく
)
たる匂いが、
水脈
(
みお
)
をひいてほんのりと座敷の中へ流れこんで来る。
顎十郎捕物帳:16 菊香水
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
とある宏壮なる邸の奥深くへと
舁
(
かつ
)
ぎ入れられたのであったが、
常春藤
(
きづた
)
の絡み付いた
穹窿
(
アーチ
)
形の門、そして橄欖や糸杉の
聳
(
そび
)
えた並樹、芳香
馥郁
(
ふくいく
)
として万花繚乱たる花園の中を通り抜けて
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
人を逸らさず、倦ましめず、談笑の間
馥郁
(
ふくいく
)
として梅花の匂うが如き雰囲気裡に、人をしてとこしなえに春園に遊ぶの思いあらしめる、……大袈裟なことを云うなどと笑ってはいけない。
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
白玉にも
譬
(
たと
)
へたい自分の置場を、他の傷つき易い所に置きたくないからで
馥郁
(
ふくいく
)
たる香を湛へて名利の外にある恋だけはよく自分を安らかならしめるであらうとかう定めて居ると云ふ意。
註釈与謝野寛全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
殊に梅の花は百花に
魁
(
さきが
)
けて
発
(
ひ
)
らきいわゆる氷肌の語があり、枝幹は玉骨と書かれて超俗な姿態を
呈
(
あら
)
わします。時には「暗香浮動ス月黄昏」と吟ぜられてその清香の
馥郁
(
ふくいく
)
を称えられます。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
彼は改めてそれを手に取り、上げて見たり、下げて見たり、廻して見たり、中の重みを測って見たりしていたが、やがて恐る/\蓋を
除
(
の
)
けると、
丁子
(
ちょうじ
)
の香に似た
馥郁
(
ふくいく
)
たる匂が鼻を
撲
(
う
)
った。
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
舌頭
(
ぜっとう
)
へぽたりと
載
(
の
)
せて、清いものが四方へ散れば
咽喉
(
のど
)
へ
下
(
くだ
)
るべき液はほとんどない。ただ
馥郁
(
ふくいく
)
たる
匂
(
におい
)
が食道から胃のなかへ
沁
(
し
)
み渡るのみである。歯を用いるは
卑
(
いや
)
しい。水はあまりに軽い。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
得も云えぬ香気が
馥郁
(
ふくいく
)
と立ち上った、是は宝と共に何か高貴な香料を詰めて有るのであろう、後世此の箱を開く我が子孫に厭な想いをさせまいと云う先祖の行き届いた注意らしく思われる
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
今日は嬢の手料理に
飽
(
あ
)
かんよりもむしろ嬢の温情に飽かん。未来の我が妻、外に得難き良夫人と心はあだかも
春風
(
しゅんぷう
)
に包まれたる
如
(
ごと
)
し。春風は庭にも来にけん、梅花の
香
(
かおり
)
馥郁
(
ふくいく
)
として
室
(
しつ
)
に
入
(
い
)
る。
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
あなたの、菊の花の絵は、いよいよ心境が澄み、高潔な愛情が
馥郁
(
ふくいく
)
と
匂
(
にお
)
っているとか、お客様たちから、お
噂
(
うわさ
)
を承りました。どうして、そういう事になるのでしょう。私は、不思議でたまりません。
きりぎりす
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
彼女はあかつきのように愛らしく、夕暮れのように美しかったが、非常に他人と異っているのは、その息がペルシャの薔薇の花園よりもなお
芳
(
かぐわ
)
しい、一種の
馥郁
(
ふくいく
)
たる香気を帯びていることであった。
世界怪談名作集:08 ラッパチーニの娘 アウペパンの作から
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
汝の尿が水力機を動かすほどの川となり汝の糞が
馥郁
(
ふくいく
)
と芳香を発する時節が来たら汝始めて休み得べしと言った。爾来驢
毎
(
つね
)
に他の驢の尿した上へ自分の尿を垂れ加え糞するごとに必ずこれを
嗅
(
か
)
ぐと。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
ああ、彼女の床には
菖蒲
(
しょうぶ
)
の香りが
馥郁
(
ふくいく
)
と漂っていたのでありますが——。しかし、わたくしは棺を開けました。そして、火をともした提燈をそのなかにさし入れたのです。わたくしは彼女を見ました。
墓
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
宮のお移り香は実際
馥郁
(
ふくいく
)
たるものだね。後宮の方たちだってああも巧妙に
焚
(
た
)
きしめることはできないらしいがね。源中納言のはそうした人工的の香ではなくて、自身の持っている芳香が高いのですよ。
源氏物語:45 紅梅
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
馥郁
(
ふくいく
)
と香を
炷
(
た
)
くというおさまりかたなので
旧聞日本橋:23 鉄くそぶとり(続旧聞日本橋・その二)
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
郷土は峡谷に
馥郁
(
ふくいく
)
たる香の花を秘めて
天の海
(新字新仮名)
/
今野大力
(著)
それは宗祖紫琴女といふよりは、名ある
華魁
(
おいらん
)
のポーズです。體温にぬくめられて、
馥郁
(
ふくいく
)
として匂ふのは南蠻の媚藥でもあるでせうか。
銭形平次捕物控:283 からくり屋敷
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
そう書かれていることが既に私にとっては、香
馥郁
(
ふくいく
)
たる悦びの花束なのだけれど。こういうおくりものに対しては私は寡慾ではいられないわ。
獄中への手紙:04 一九三七年(昭和十二年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
三次が眼をみはると後の四人も、
加留多
(
カルタ
)
の
紛紜
(
ふんぬん
)
を忘れて、しばらくはこの一
輪
(
りん
)
の
馥郁
(
ふくいく
)
さに疲れた瞳を吸われている。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いや、死んでお墓へ入ってのちもなおかつパサパサになった俺のお骨の中では、あのお艶ちゃんという百合の花香が、
馥郁
(
ふくいく
)
と匂いを放っていることだろう
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
花の
薫
(
かおり
)
が
馥郁
(
ふくいく
)
として、
金坊
(
きんぼう
)
は
清々
(
せいせい
)
して、はツと我に返つた。あゝ、姉が居なければ、少くとも
煩
(
わずら
)
つたらう。
蠅を憎む記
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
枯木の
梢
(
こずえ
)
に清香
馥郁
(
ふくいく
)
たる白い花をつける、
痩
(
や
)
せて気高い聖賢に接するような様を見ると、つまらぬことに腹をたてたのが恥ずかしくなる、というのであります。
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
わたしの待つた消滅の薫りが
馥郁
(
ふくいく
)
としてわたしの骨に匂ひ出した。わたしは生涯働かなかつたといふことを思ひ出に漂ふ
空無
(
リヤン
)
の海に紫の
海月
(
くらげ
)
となつて泳ぎ出るのだ。
雪
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
私の周囲には四季の花が
馥郁
(
ふくいく
)
と匂う日が続くかと思うと、
真夜
(
しんや
)
に誰もいないホテルをうろつくこと
歪んだ夢
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
“馥郁”の意味
《名詞》
よい香りがすること。また、そのようなさま。
(出典:Wiktionary)
馥
漢検1級
部首:⾹
18画
郁
漢検準1級
部首:⾢
9画
“馥”で始まる語句
馥
馥柯羅摩訶秩多