頸脚えりあし)” の例文
日あたりをけて来て、且つ汗ばんだらしい、あねさんかぶりの手拭てぬぐいを取って、額よりは頸脚えりあしを軽くいた。やや俯向うつむけになったうなじは雪を欺く。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶴子さんは後れ毛の多い白い頸脚えりあしを突出して三藏にコーヒー茶碗をすゝめる。三藏は會釋しながらも尚其頸脚、稍〻紅を潮した頬、素直に高まつた鼻を見る。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
髪だけは艶々つやつやと島田に結っていました。色の白い吃驚びっくりするほど人柄な、その若いのが、ぽッと色を染めて、黙って手をついた頸脚えりあしが美しい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毛氈もうせんに片膝のせて、「私も仮装をするんですわ。」令夫人といえども、下町娘したまちッこだから、お祭り気は、頸脚えりあしかすかな、肌襦袢はだじゅばんほどはくれないはだのぞいた。……
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
びんのはずれの頸脚えりあしから、すっと片乳かたちの上、雪のかいなのつけもとかけて、大きな花びら、ハアト形の白雪を見たんです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
横顔で莞爾にっこりしたようで、唇が動いたが、そのまま艶々つやつやとした円髷まるまげの、手柄てがらの浅黄を薄く、すんなりとした頸脚えりあしで、うつむいたのがうなずいた返事らしい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……撫肩なでがたに重荷に背負って加賀笠を片手に、うなだれて行くほっそり白い頸脚えりあしも、歴然ありあり目に見えて、可傷いた々々しい。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして手巾に(もよ)と紅糸あかいと端縫はしぬいをしたのが、苦痛にゆがめて噛緊かみしめる唇が映って透くようで、涙は雪が溶けるように、頸脚えりあしへまで落ちたと言います。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
百姓家の納戸の薄暗い中に、毛筋の乱れました頸脚えりあしなんざ、雪のようで、それがあの、客だと見て真蒼まっさおな顔でこっちを向きましたのを、今でもわたくしは忘れません。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……と見ると艶々つやつやしたその櫛巻くしまき、古天井の薄暗さにも一点のすすとどめぬ色白さ。おしい事に裸身はだかではないが、不断着で着膨れていながら、頸脚えりあしが長くすらりとしていた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頭からゾッとして、首筋をこわく振り向くと、座敷に、白鷺かと思う女の後ろ姿の頸脚えりあしがスッと白い。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高髷たかまげ俯向うつむけにして、雪のような頸脚えりあしが見えた。手をこうやって、何か書ものをしていたろう。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その間、頸脚えりあしが白かった。振仰向ふりあおむくと、ほっと息して、肩が揺れた、片手づきに膝をくねって
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちながら、すつとしろもすそ真直まつすぐ立靡たちなびいて、なかばでふくらみをつて、すぢくぼむやうに、二条ふたすぢわかれようとして、やはらかにまたつて、さつるのが、かたえ、頸脚えりあしえた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でつけの水々しく利いた、おとなしい、しずか円髷まるまげで、頸脚えりあしがすっきりしている。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小さな紅茸べにたけを、私が見つけて、それさえ嬉しくって取ろうとするのを、遮って留めながら、浪路が松の根に気もえた、袖褄そでつまをついて坐った時、あせった頬は汗ばんで、その頸脚えりあしのみ
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(番傘を横に、うなだれて、さしうつむく。頸脚えりあし雪をあざむく)宿の男衆が申したのは、余所よその女房という意味ではないのです。(やや興奮しつつ)貴方あなたの奥さまという意味でございました。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五分刈ごぶがりびたのが前は鶏冠とさかのごとくになって、頸脚えりあしねて耳にかぶさった、おしか、白痴ばかか、これからかえるになろうとするような少年。わしは驚いた、こっちの生命いのちに別条はないが、先方様さきさま形相ぎょうそう
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒格子をほのかに、端がなびいて、婦人おんなは、頬のかかり頸脚えりあしの白く透通る、黒髪のうしろ向きに、ずり落ちたつまを薄く引き、ほとんど白脛しらはぎに消ゆるに近い薄紅の蹴出けだしを、ただなよなよとさばきながら
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学海施一雪紅楼夢——や不可いけねえ。あのひげが白い頸脚えりあしへ触るようだ。女教員渚の方は閑話休題として、前刻さっき入って行った氷月の小座敷に天狗てんぐの面でもかかっていやしないか、悪くひねって払子ほっすなぞが。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄紅ときいろ撫子なでしこと、藤紫ふじむらさき小菊こぎくかすかいろめく、友染いうぜんそつ辿たどると、掻上かきあげた黒髪くろかみ毛筋けすぢいて、ちらりと耳朶みゝたぼと、さうして白々しろ/″\とある頸脚えりあしが、すつとて、薄化粧うすげしやうした、きめのこまかなのさへ
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くツきりとした頸脚えりあしなが此方こなたせた後姿うしろすがたで、遣水やりみづのちよろ/\と燈影ひかげれてはしへりを、すら/\薄彩うすいろ刺繍ぬひとりの、數寄すきづくりの淺茅生あさぢふくさけつゝ歩行ひろふ、素足すあしつまはづれにちらめくのが。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
群集で傘と傘がしぶも紺もかさなり合ったために、その細い肩にさえ、あがきがったらしいので。……いずれも盛装した中に、無雑作な櫛巻くしまきで、黒繻子くろじゅすの半襟が、くっきりと白い頸脚えりあしに水際が立つのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)