長刀なぎなた)” の例文
(翁と嫗とはうろうろして奥を窺ううちに、奥より蛇は髪をふり乱して走りいず。蟹は赤きよろいをつけ、かの長刀なぎなたを持ちて追い出ず。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十日あまり照り續いた往來の土埃つちほこりを、少々長刀なぎなたになつた麻裏草履に蹴飛ばして、そのまゝ拭き込んだ上がりかまちに飛び上がるのですから
よろい長刀なぎなた、大刀をかいこんであっという間もなく延暦寺の額をたたき割って、「うれしや水、鳴るは滝の水、日は照るとも絶えず」
源吾の装束いでたちは華やかだった。長刀なぎなたかと見えるような大太刀をつかって、黒小袖の下には、燃えるような両面のくれないの袖を重ねていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
残った者は、めいめいお殿様の馬を囲んで行列を作って歩きました。不思議なことに、どの男もどの男も、弓や長刀なぎなたやを持っていました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
長刀なぎなた朽縁くちえんに倒れた。その刃のひらに、雪のたなそこを置くばかり、たよたよと崩折くずおれて、顔に片袖をおおうて泣いた。身の果と言う……身の果か。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とびいろの眼と、ユウマアのみなぎった、人のいい顔をしてる。この年齢としまで、独身を通してきた。長刀なぎなたの名手なのだ。渋川流しぶかわりゅうやわらもやる。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして虚空から、「天王寺の妖霊星ようれぼしを見ずや」と歌います。その声が聞えると、高時は正気に返って立上り、小長刀なぎなた片手に空をにらみます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「某家では、板女が衣類を持って逃げようとするところを知って、妻女さいじょ長刀なぎなたを持って切りかけると、壁厨おしいれの戸板へ引附いて消えてしまった」
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その当時の能楽は全く長押なげしやり長刀なぎなた以上に無用化してしまって、誰一人として顧みる者がなかったと云っても決して誇張ではないであろう。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
武蔵を先登せんとうに女ふたり長刀なぎなたを持ち、百右衛門の屋敷に駈け込み、奥の座敷でおめかけを相手に酒を飲んでいる百右衛門の痩せた右腕を武蔵まず切り落し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そばにあった人物の置き物を私にし、「お前、この人を知ってるか」とかれたので、私はオッカナビックリ見ると、長いひげが胸までれ、長刀なぎなたを持っているので
その翌る年、不昧公は江戸のやしきへ宗左を招いた。宗左は名高い大名の折角のお招きだといふので、出来るだけ供をたんと連れて、供にははさばこ長刀なぎなたなどを担がせた。
若い時三井寺でくだんの鐘を見たるに𤿎裂筋あり、往昔弁慶、力試しにこれをげて谷へげ下ろすと二つに裂けた、谷に下りし合せ長刀なぎなたにのうて上り、堂辺へ置いたまま現在した
先から冷たいからこれもあったかゝったら旨かろうと思います……瓜揉は感心で、少し甘ったるいのは酢が少し足らない……今日きょう小峰こみねさんと云う芸妓げいしゃが参りますが、是も昔は長刀なぎなた
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
担ぎ出されたのは梯子と竹竿ばかりでなく、水弾みずはじきや、槍、長刀なぎなたまで担ぎ出されるという有様です。米友はよく屋根の上を走りました。或る時はこれ見よがしに直立して走りました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たけが二寸からある、長刀なぎなたほおずきは、その時分でも一本一銭五厘から二銭位した。
歿なくなられた良人つれあひから懇々くれぐれも頼まれた秘蔵の秘蔵の一人子ひとりつこ、それを瞞しておのれが懲役に遣つたのだ。此方このほうを女とあなどつてさやうな不埒ふらちを致したか。長刀なぎなたの一手も心得てゐるぞよ。恐入つたか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「——ただいまにてもあれ、鎌倉におん大事あらば、ちぎれたりともこの具足、取って投げかけ、びたりとも長刀なぎなたを持ち、痩せたりともあの馬に乗り、一番にはせ参じ着到ちゃくとうにつき、さて」
馬によくのり劔も余程手づよく、長刀なぎなたも出来、チカラハなみ/\の男子よりつよく、先たとへバうちにむかしをり候ぎんという女の、力料ばかりも御座候べし。かほかたち平井(加尾)より少しよし。
(蛙は蓮の葉を地にしきて坐す。柳のかげより大いなる赤き蟹いず。蟹は武装して、鋏のごとき刃をつけたる長刀なぎなたを携えたり。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぷんと、麝香じゃこうかおりのする、金襴きんらんの袋を解いて、長刀なぎなたを、この乳の下へ、平当てにヒヤリと、また芬と、丁子ちょうじの香がしましたのです。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か、敵味方大声がこだましあうと、一団また一団、太刀長刀なぎなたをひっさげた兵が、われがちに薄暮はくぼの谷間をのぞんで駈け降りてゆく。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ところが、あの足跡は足袋を穿いた新しい草鞋わらぢですが、宗次郎は足袋を穿かないし、草鞋わらじもきれかゝつて長刀なぎなたになつて居たといふことですよ」
徳川と織田とは、非常に離れて戦っているようであるが、最後には乱戦になったらしく、酒井忠次の払った長刀なぎなたのほこ先が信長勢の池田勝三郎信輝の股に当った位だ。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
長刀なぎなたを持たせると大喜びでノサバリまわって危険この上もないので地謡が皆中腰で謡ったという。流石さすがの只圓翁もこの人物にはかぶとを脱いでいたらしく稽古の時にも決して叱らなかった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
長刀なぎなた一手ひとてぐらいは知っても居ようが、高の知れた女の痩腕、汝等うぬらに斬られてたまるものか、今まで上手を使って居たが、こう云い出したからは己も男だ、□□□□□□□□□□□□□
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女はニヤニヤと笑って、キュッキュッと長刀なぎなたほうずきをみならしながら
長刀なぎなたを小脇にしたわかい妻女が庭のくぐりを開けて出て来たところであった。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
組子は突棒つくぼう刺叉さすまた、槍、長刀なぎなたを取って、弁慶に打ってかかるから、弁慶も金剛杖では間に合わず、ついに太刀たちさやはずして、縦横無尽にそれを斬り散らす騒ぎになったから、見物は喜びますけれど
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上皇は、恐怖にみちたお声の下できたてた。あっと、木工助家貞がまず答え、忠盛は、長刀なぎなたを横にひそめて、そこへけた。
とりなりの乱れた容子ようすが、長刀なぎなたに使ったか、太刀か、刀か、舞台で立廻りをして、引込ひっこんで来たもののように見えた。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
掻いて足からすそほこりだらけぢやないか。良い若い者が、長刀なぎなたになつた草履なんかいて行くのは、止しちやどうだ
(蟹は長刀なぎなたをたずさえて悠々と奥に入る。翁と嫗と娘はそのうしろ姿を拝む。青年わかものは腕をくみて考える。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おばあさんは長刀なぎなたほおずきを鳴らすのが好きで
だが、後に捨てられてあった長刀なぎなたをふと拾い上げてみると、長巻ながまきは青貝、こしらえは黄金こがね、吉良家の定紋、梧桐きりの紋どころが散らしてあるではないか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小親がかろき身のはたらき、躍ればつちつまを着けず、舞の袖の飜るは、そらに羽衣かかると見ゆ。長刀なぎなたかつぎてゆらりと出づれば、手につ敵の有りとも見えず。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上、芯のはみ出した帯に、長刀なぎなたになったキルク草履という有様、全く妙子の姿は見る影もありません。
私たちは狐や外道げどう仮面めんをかぶって往来をうろうろしていたものです。そのほかには武器に関する玩具が多く、弓、長刀なぎなた、刀、鉄砲、兜、軍配ぐんばい団扇うちわのたぐいが勢力を占めていました。
我楽多玩具 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
弁慶の長刀なぎなた山鉾やまぼこのように、見える、見える。御曹子おんぞうしは高足駄、おなじような桃太郎、義士の数が三人ばかり。五人男が七人居て、かりがねが三羽揃った。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頼朝の長刀なぎなたは、無意識に縦横の閃光を描いた。その一閃は、敵の馬の鼻づらをかすめたので、馬はおどろいてねた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘のころ江戸のお屋敷で長刀なぎなたのひと手、柔術やわらから小太刀こだちまで教わり、家中かちゅうでも評判の腕前だったってね。
螺鈿らでんの鞍を置いた駒は、もうそこへ着いていたが、弾正大弼は、長刀なぎなたの石突きを敷台に突いて、化石したように、じっと立って、彼をそこに待っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫁入道具に附いて来た、藍貝柄あおがいえ長刀なぎなたを、柄払つかばらいして、仁右衛門親仁が担ぎました。真中まんなかへ、お産婦の釣台を。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘の頃江戸のお屋敷で長刀なぎなたの一と手、柔術やはらから小太刀まで教はり、家中でも評判の腕前だつたつてね。
『ひとの長刀なぎなたたおしながら、肩そびやかして出て行くは、どこの何者だっ。待ちおろうッ、そこな小男』
と、にょっと出た、お源を見ると、取次に出ないも道理、勝手働きの玉襷たまだすき長刀なぎなた小脇に掻込かいこんだりな。高箒たかぼうき手拭てぬぐいかぶせたのを、柄長に構えて、逆上のぼせた顔色がんしょく
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次の見幕の凄まじさに、八五郎は這々はふ/\の體で飛び出しました。長刀なぎなたになつた麻裏を懷ろにぢ込んで、四つん這ひになつて逃げ出すのが、まことに精一杯だつたのです。
旗が、長刀なぎなたが、うねうねと、山伝いに遠のいてゆく。けれど、後から後から続く兵馬は容易に絶えなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みに揉んで、太刀と長刀なぎなたが左右へ開いて、尺八が馬上に跳返った。そのかわり横田圃よこたんぼへ振落された。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)