かぎ)” の例文
すると、投げ上げた網の上の方でかぎか何かに引っかかりでもしたように、もう下へ降りて来ないのです。それどころではありません。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
かぎの手に曲るところを、そのままそれればまたもとの茶のあたりへ入るのだが、そこへ行っては、いよいよ袋詰めにされてしまう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七月というのに、馬鹿に寒かったので、僕は頭をむけて窓のほうを見ると、驚いたことには、窓はかぎがはずれてあいているではないか。
今の人には何でもない木の小枝のかぎになったものなどが、昔は非常に重要にみられていたということは、必ずしも小さな発見ではない。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ニッケル鍍金めっきのバネつきのかぎが取りつけてありますが、この麻縄が引き上げた、天才少女、狩屋愛子の姿は見えなかったのです。
九つの鍵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
右手に持った針は尖端が少しかぎなりに曲っており、めど(針穴)には二本よりの絹糸がとおしてある。布をとりのけると、傷口が見えた。
夕べをもまたず冷えてゆく朴の枝が教えるであろう、無慈悲なかぎに捕えられたのは淵にすむますの子ではなくて私みずからであったことを。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「人間がかぎを恐れている内に、魚は遠慮なく鉤を呑んで、楽々と一思いに死んでしまう。私は魚が羨しいような気がしますよ。」
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ラスコーリニコフは慄然りつぜんとして、枘の中でおどり回る栓のかぎを見つめながら、今にも栓がはずれるかと、鈍い恐怖をいだいて待っていた。
かぎ鼻。スラブの赤い口髭。歯並のいい白すぎる歯。光のある鋭い眼。……その眼が、さっきから、博士の顔のうえにじっと据えられている。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
京子は走って潜戸まで行く。幻影はまた逃げる。潜戸を出て左へ走り、かぎの手に右に曲った。京子は口惜しさに立ち止まった。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
波田はとものかぎをはずした。とその時に「スライキ、スライキ、レッコ」と怒鳴った。「延ばせ、延ばせ、打っちゃれ」という意味である。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
伸子にはかぎのように感じられるその手でエレーナは伸子をリードして、黒いスカートをひるがえしながら、頭をたかくもたげ
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かれかぎを以ちて、その沈みし處を探りしかば、その衣の中なるよろひかりて、かわらと鳴りき。かれ其所そこに名づけて訶和羅の前といふなり。
以前変らぬ蝮捕り姿、腰にはびく、手にはかぎ、紺ずくめの裳束で、人を掻き分け境内を出たが、ションボリとして寂しそうだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かぎなりにまがった縁先えんさきでは、師匠ししょう春信はるのぶとおせんとが、すで挨拶あいさつませて、いけこいをやりながら、何事なにごとかを、こえをひそめてはなっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あるいは幾つかの材木を樺の小枝でいっしょにくくり、それからはじにかぎをつけた長めの樺またはカワラハンノキをつかってそれを引きずった。
むずかし屋を表明する「いかり鼻」(「怒り鼻」?)、分別を見せる「かぎ鼻」、又は物々しい「二段鼻」、安っぽい「つまみ鼻」なぞいうのがあります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
刑吏達は容赦もなく寄つてたかつて二人をつかまへ、火焔の中へ投げ入れて、上からかぎで抑へつけて、殺してしまつた。
穴を抜けたようにかぎの手に一つ曲って、暗い処をふっと出ると、上框あがりかまちえんがついた、吃驚びっくりするほど広々とした茶の間。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘たちの後からついていった部屋は廊下をかぎの手に回った奥の西洋間らしい階段の下の、スグ取っ付きの部屋でした。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
マニ※ジイの磁石が或る見えざる力に因つて、音もなくありともわかぬかぎもて寄する、かの鉄環の如くであつた。
プラトンは奮然として受話器をかぎに掛けて、席にかへつた。それから五分も立たないうちに、又ちりん/\と鳴る。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
いっそ、頭を前へ突き出し、鶏小舎めがけて、いいかげんにけ出したほうがましだ。そこには、隠れるところがあるからだ。手探てさぐりで、戸のかぎをつかむ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
二人の目がそそがれるあたりに立った人影は、年のころ、五十あまり、鬢髪びんぱつはそそげ、肩先はげおとろえ、指先がかぎのように曲った、亡霊にも似た男——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
北側の空地あきちに彼等が遊弋している状態は、木戸をあけて反対の方角からかぎの手に曲って見るか、または後架こうかの窓から垣根越しにながめるよりほかに仕方がない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兵隊は一列になって、崖をなゝめに下り、中にはさきに黒いかぎのついた長い竿さをを持った人もありました。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わかった、わかった、その棒は、伸縮自在しんしゅくじざい魔法棒まほうぼうなのだ。それにしても、そんな棒を何に使うのかと見ていると、小男はその先端せんたんかぎのようなものをとりつけた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ボンの家々の石やクロイツベルクやゴーデスベルクや養樹園バウムシュールやは君のためにはたくさんのかぎを持っている——悦んで君が君の思いをそこへ引っ掛けることのできる鉤を。
行者が室内で睡眠剤を呑むように段取りをつけておいて、熟睡したころを見はからい、先にかぎのついた長い綱を四本用意して、四人がギムナジウムの高い屋根にのぼる。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
後に聞けば、勝手では朝起きて戸を閉めるまで、提灯ちょうちんに火を附けることにしている。提灯のの先にかぎが附いているのを、春はいつも長押なげしくぎに懸けていたのだそうだ。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
簀框の底についたかぎで、槽に渡した二本の台木をかき寄せながら乗せる時には、繊維を残した水の大部分は濾出している、けたの上枠をはねのけ、簀をはずして両手で持つと
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
みどりすだれを銀のかぎでかけた所に美しい女がいた。それが王妃であった。陳を伴れて往った女は
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
店先の低い天井には様々なものがぶらさげてある。じょうかぎ蝶番ちょうつがい提柄さげえかぎ座金ざがね、屋号や紋入もんいりの金具等々。どれもこれも埃だらけで何年も手に触れる者がなかったと見える。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あちこちで塵埃塚ちりのなかからパンの皮を掘り出し、それをふいてから食べ、終日かぎで溝をかきまわしては一文二文をあさり、楽しみとしてはただ、国王の祝日の無料の見世物と
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
カギカズラは茎にかぎが出来るので、日本ではカギカズラ、支那では鉤藤といって居ります。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
飛行の詩神を畫ける仰塵プラフオン、オリユムポスの圖を寫したる幕、黄金をちりばめたる觀棚さじきなど、當時は猶新なりき。さじきごとに壁にかぎして燭を立てたれば、場内には光の波を湧かしたり。
防禦ぼうぎょともにこれを用いるゆえ、蜂の団体は多くの敵に勝って繁栄している次第であるが、この針には逆に向いたかぎがあって、いったんこれで人などをすとそのままになって抜けない。
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
家の前を上野広小路の方から流れて来る細い溝がかぎの手になって三味線堀に流れていた。少し行ったところが佐竹原さたけっぱらという原っぱになっていて、長屋の裏手は紺屋の干場になっていた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
娘はそれにすぐ気づいて、Kの元気を回復させるために、壁に立てかけてあったかぎ付きの竿さおをとり、ちょうどKの頭上に備えつけられた、戸外に通じる小さな通風窓をつついてあけた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
かぎの手に曲がっている路地の奥で、隣りの空地あきちには、稲荷のやしろまつられていた。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当三月下旬その大きさを計るに、頭より尾元に至るまで、長さ一尺二寸五分、高さ六寸、方言「ゴンボウ」と称し、尾の長さわずかに一寸三分、尾端びたん右方に曲がりてあたかもかぎのごとし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
犬歯を歯齦はぐきまでかぎのようにむきだして、瞳は充血で金色にひかっている。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
かぎ形に百余坪の平家建て、入口の作り庭に件の貝類をことごとく飾りつけ、館内はすべて岩組の海底のさま、当時漆喰しっくい細工の名人と知られた伊豆の長八がこて先の腕をふるって、さながら真物の岩窟
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
しかし、柔らかいあしのうらの、鞘のなかに隠された、かぎのように曲った、匕首あいくちのように鋭い爪! これがこの動物の活力であり、智慧ちえであり、精霊であり、一切であることを私は信じて疑わないのである。
愛撫 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
人夫が、先にかぎの附いた竿さおで、屍体したいの衣類をでも、引掛けたらしい。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
裏面の青い雲紋などツマキ蝶によく似ているが、あのように翅の先端がかぎ状にとがらず、円味をおびて橙黄の部分が広く、全体も大きく強い。こんな美しい蝶が今まで人に知られなかったとは……。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
広い宮殿の廻廊からは人影が消えてただ裸像の彫刻だけが黙然と立っていた。すると、突然ナポレオンの腹の上で、彼の太い十本の指が固まったかぎのように動き出した。指は彼の寝巻をきむしった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
船の者共は面白半分かぎをかけて、引上げてしまひました。
動く海底 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そこで手探にかぎのある所を捜して鉤をいぢつてゐた。