遊蕩ゆうとう)” の例文
甚だしき遊蕩ゆうとうの沙汰は聞かれざれども、とかく物事の美大を悦び、衣服を美にし、器什きじゅうを飾り、いずるに車馬あり、るに美宅あり。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その大なるかまどのまわりに席を有しない人々も——野心家、利己主義者、空疎な遊蕩ゆうとう児なども——その色せた反映に身を暖めようとする。
酒は飲めず、遊蕩ゆうとうの志は備わっているが体力微弱である私は、先ず幸福に対する費用といえば、すこぶる僅少きんしょうで足りる訳である。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
又その一部分を子供の死亡に帰した。それから、他の一部分を平岡の遊蕩ゆうとうに帰した。又他の一部分を会社員としての平岡の失敗に帰した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのために、庶務課長として、信任があるばかりでなく、彼は今井の遊蕩ゆうとう生活において取巻であり、お相手であるらしかった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女房を迎える暇もないようなせわしい遊蕩ゆうとう——そんな出鱈目でたらめな遊びの揚句は、世間並みな最後の幕へ押し流されて来たのです。
……その話によると、左馬之助はいちど林数右衛門という物頭の家へ養子にゆき、一子をあげたが、遊蕩ゆうとうのため離別された。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あのいかめしい顔に似合わず、(野暮やぼを任じていたが、)いきとか渋いとかいう好みにも興味を持っていて相応に遊蕩ゆうとうもした。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
以前、この氏の虚無思想は、氏の無頼ぶらい遊蕩ゆうとう的生活となって表われ、それに伴って氏はかなり利己的でもありました。
「無駄なことがあるものか。公衆の好奇心を満足させる点において、きみらが遊蕩ゆうとうに金を使うよりよっぽど有意義だ」
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この間内務省の懇談会で、またたびもの、遊蕩ゆうとうもの、女の生活の放縦を描いたもの(女子学生もこめて)はいけないというおふれが出たばかりです。
十人衆、五人衆、旦那衆と尊称され、髪の結いかたは本田髷ほんだまげ細身の腰刀こしのものは渋づくりといったふうで、遊蕩ゆうとうを外交と心得違いをしていた半官半商であった。
その市十郎を連れて来たのは、従兄の大岡亀次郎で、亀次郎の方が、二つ三つ年上でもあり遊蕩ゆうとうも先輩だった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼がこのごろ恐ろしく不安な『遊蕩ゆうとう』生活に耽溺たんできしていることも、また曖昧あいまいな金のことで父親と喧嘩をして、非常にいらいらした気持になっていることも
あるいは真実の愛情のない放埒ほうらつ遊蕩ゆうとう生活をしたりして育つと、恋物語をあざわらい、恋愛小説を小説家や詩人の単なる虚構にすぎないと考えるものである。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
しかれども、いまだこの日をもって、放肆ほうし遊蕩ゆうとうすべきを聞かず。しかるに邦人語意を誤解し、はなはだしきにいたりては、嫖蕩ひょうとう放肆の義となす者またすくなからず。
日曜日之説 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
だが、一般の浮世絵とは異なって遊蕩ゆうとうの美ではない。そこには町民たちの機智や皮肉がある。大津絵は民画ではあるが、かかる意味で原始的な絵画ではない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
近代の遊蕩ゆうとう文学の中には、酒に取持たれ歌に心を動かされて、測らぬ因縁の結ばれた物語はちている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
徳川というものに反逆させたのが光圀みつくにでありとすれば、尾張を、徳川家から去勢させたのが宗春むねはるだ——宗春以後の尾張は、華奢きゃしゃと、遊蕩ゆうとうと、算盤そろばんとの尾張だ
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吉原きた豪奢こうしゃの春のおごりもうれしいが、この物寂びたやしろの辺りの静かな茶屋も面白い。秋の遊蕩ゆうとうはとかくあまりケバケバしゅうないのがよい。のう、露月どの」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
このさはらしには、遊蕩ゆうとう紳士殿村啓介に変身して、いまわしい記憶を洗い落とすほかはないと思った。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嫁入よめいりの時に持って来た衣服いしょう道具などはいつしかもうこの無情な夫の遊蕩ゆうとうとなって失われておった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
女は私の遊蕩ゆうとうをさのみとがめないばかりか、うつされてもよいと云って、全治せぬうちに遊ぼうとした。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
……勝手な極道ごくどうとか、遊蕩ゆうとうとかで行留りになった男の、名はていのいい心中だが、死んでく道連れにされてたまるものではない。——その上、一人身ではないそうだ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まちおもむくとそれを抵当にしてあっちこっちの茶屋や酒場で遊蕩ゆうとうふけっては、経川に面目をつぶすのが例だったが、相変らずさようなことに身を持ちくずしていると見える。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
一人の遊蕩ゆうとうの子を描写して在るゆえをもって、その小説を、デカダン小説と呼ぶのは、当るまいと思う。私は何時でも、わば、理想小説を書いて来たつもりなのである。
デカダン抗議 (新字新仮名) / 太宰治(著)
何卒どうかして夫の愛を一身に集めたいと思ったからで……夫の胸に巣くう可恐おそろしい病毒、それが果して夫の言うように、精神の過労から発したのか、それとも夫が遊蕩ゆうとう報酬むくい
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この上あだを返そうとすればまず旅に出なければならない。しかし当てもない旅に出るのは現在の伝吉には不可能である。伝吉は烈しい絶望の余り、だんだん遊蕩ゆうとうに染まり出した。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、この新体を創始した廷臣たちにとっては、身を以て抒情した「詩」である所の新古今調に寄せてお詠みになった多くのお作は、帝王の風雅であり、遊蕩ゆうとうであらせられる。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
抽斎が岡西氏とくうませた三人の子のうち、ただ一人ひとり生き残った次男優善は、少時しょうじ放恣ほうし佚楽いつらくのために、すこぶる渋江一家いっかくるしめたものである。優善には塩田良三しおだりょうさんという遊蕩ゆうとう夥伴なかまがあった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
先生年すでニ七十。嗣子遊蕩ゆうとうニシテ家道とみニ衰フ。人アリ慫慂しょうようシテ曰ク高齢古ヨリ稀ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さらに進んで妻と死別した後の遊蕩ゆうとう時代、それから今の探偵小説家時代までの、ことごとくの時代の中に、彼の奇妙な男の姿を探し求めたけれど、どうもうまく思い出せなかった。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の貧に驚かない彼女も実家の没落にはひどく心をいためた。幾度か実家へ帰つて家計整理をしたやうであつたが結局破産した。二本松町の大火。実父の永眠。相続人の遊蕩ゆうとう。破滅。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
自分の遊蕩ゆうとうは、人の倍もする癖に、主税の嫁さえとってやらずに——厳格な家庭で——家庭と、遊里とで、丸でちがった人になるように、この人の表面と、腹の中とは、全くちがうんだ。
寺坂吉右衛門の逃亡 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
橄欖かんらんみどりしたたるオリムピアがすでにむかしに過ぎ去ってしまった証拠しょうこには、みんなの面に、身体に、帰ってからの遊蕩ゆうとう、不節制のあとが歴々と刻まれ、くもり空、どんよりにごった隅田川すみだがわ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
大方の屋敷まわりを兄に委せかけてあった実家の父親は、兄が遊蕩ゆうとうを始めてから、また自分で稼業かぎょうに出ることにしていたので、お島はそうして帰って来ていても滅多に父親と顔を合さなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
むろんおれには切支丹とならない立派な理由があるのだ。そしておれがあの女を『買う』というのも、それにはいやでも応でも金銭が必要とされる不快な事情からで、決していわゆる遊蕩ゆうとうではない。
七年間の遊蕩ゆうとうに崩れきったらしい安芸人肌——きっとした大次郎の視線を受けても、利七は平気の平左で、がさがさと笹を鳴らして上って来ると、自分から先に中央の三角石の前へ行って、ばらり
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お金のかからない遊蕩ゆうとうじゃないですか
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
酒は飲めず、遊蕩ゆうとうの志は備わっているが体力微弱である私は、先ず幸福に対する費用といえば、すこぶる僅少きんしょうで足りる訳である。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
同時にあれほどの大酒おおざけも、喫煙もすっかりやめて、氏の遊蕩ゆうとう無頼ぶらいな生活は、日夜祈祷きとうの生活と激変してしまいました。
遊蕩ゆうとう社会、快楽の獣ども、フランス人でもない奴ら、道楽者や政治家ややくざ者、国民に触れはしなくてその上を飛び過ぐる騒々しい連中ばかりだ。
やはり桶屋職人で、酒も煙草も賭博も遊蕩ゆうとうも嫌いであり、食うのと寝る時間のほかは働きどおしに働いた。弥八が四十六で死んだとき、弥六は二十一であった。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
物穀ぶっこく商人、さては、扶持ふち取りろく高とりのお武家衆のみが、遊蕩ゆうとうの、遊楽のと、のんきでいるのは、天地に済まないこと——広海屋は、幸い、豊作の上方、西国に
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
現に列強は軍備の為に大金を費しているではないか? し「勤倹尚武」と言うことも痴人の談でないとすれば、「勤倹遊蕩ゆうとう」と言うこともやはり通用すると言わなければならぬ。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幾年たっても、会えばすぐ遊蕩ゆうとうを考える。ほかに能はないかのように見える男である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清助はもと京都の両替店りょうがえてん銭屋ぜにや息子むすこで、遊蕩ゆうとうのために親に勘当せられ、江戸に来て渋江氏へ若党に住み込んだ。手跡がなかなかいので、豊芥子の筆耕にやとわれることになっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この「うき世を立つる」というのは遊蕩ゆうとう生活のことで、京ではそれをすら飯の種にしていると、太鼓持たいこもちか何かのことを言った句であるが、それをこの絵本には眼鏡めがねの老人が御産おさん枕屏風まくらびょうぶの外で
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
五十歳を越した遊蕩ゆうとう夫人で、いかにも女親分のかっぷくである。二宮友子は三十五、六歳に見える遊蕩美人、あのふたりの好青年を捜し出してきた腕まえからも、その日常生活のほどが察しられた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
金持の旦那衆はそれを眺めて悦に入ってることでしょう。ただそう聴いただけで、平次がいっこうに驚かなかったのも、遊蕩ゆうとう気分にひたった、グロテスクな旦那衆の遊び、と思ったのかも知れません。