逗留とうりう)” の例文
一昨日をとゝひの晩あの人混みの中で、曲者が捨てた匕首の鞘なんか、橋の上に何時までも逗留とうりうしてゐるわけはないぢやありませんか。
我が郡中ぐんちゆう小千谷をぢやちゞみ商人芳沢屋よしさはや東五郎俳号はいがうを二松といふもの、商ひのため西国にいたりある城下に逗留とうりうの間、旅宿のあるじがはなしに
晴さんと五六日早咲はやさき逗留とうりうして居たりしが不※心に思ふやう此處にて金銀をつかすてんよりは江戸へ行て身を落付おちつけのち心の儘に樂まんと夫より室を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
先日こなひだ備中びつちゆう酒津さかづに同じ画家ゑかき仲間の児島こじま虎次郎氏を訪ねて、二三日そこに逗留とうりうしてゐたが、満谷氏がうかすると押売おしうりに謡ひ出さうとするのを知つてゐる児島氏は
七日前なぬかぜん東京驛とうきやうえきから箱根越はこねごし東海道とうかいだう。——わかつた/\——逗留とうりうした大阪おほさかを、今日けふ午頃ひるごろつて、あゝ、祖母おばあさんのふところ昔話むかしばなしいた、くりがものふ、たんばのくに
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もつとも柏亭君の滞在は長かつたから良家りやうかの女を見た上の批評だらうが、僕の短い逗留とうりう中では先刻迎へに出てれたホテルの一人ひとり娘を除いたほかに美しいと思ふ女は見当らなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
たゞ「坊主く来た」と云つて、微笑ほゝゑみつゝ頭をでゝくれたことだけを、かすかに記憶してゐる。両親と母とには、余り逗留とうりうが長くなるので、一寸ちよつと逢ひに帰つたと云つたさうである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と嘉吉は、それぎり黙り込んでしまふのが常だつた。しかし今度妹が当分の間逗留とうりうの積りで帰つて来たのも、そこには何かの事情がなくてはならなかつた。嘉吉はそれを知つてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
見舞ひ或ひは永訣——そのどちらになるかは、東京を立つた時の彼には判らなかつた——のために大阪へ来たついでに、甥にさそはれて立寄つたのを機会に、しばらく逗留とうりうしたまでであつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
大方、彼の友人の副監督のところで逗留とうりうを長びかしてゐたのだらう。が兎に角、彼の不在は、私には救ひであつた。私には彼が來るのをこはがる私自身の理由があつたことは云ふまでもない。
夏中逗留とうりうするといへば、うせ又顔を合せなければならぬのだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
我が郡中ぐんちゆう小千谷をぢやちゞみ商人芳沢屋よしさはや東五郎俳号はいがうを二松といふもの、商ひのため西国にいたりある城下に逗留とうりうの間、旅宿のあるじがはなしに
致さるゆゑ我れ永々逗留とうりうなす事甚だ氣の毒に思ふなり是は少しなれどもまづくらし方の足にも致されよと渡すに主は大いにおどろき是は思ひもよらぬ事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むかし支唐禅師ぜんじといふ坊さんが、行脚あんぎやをして出羽の国へ往つた。そして土地ところ禅寺ぜんでら逗留とうりうしてゐるうち、その寺の後方うしろに大きな椎の木の枯木かれきがあるのを発見めつけた。
いまから二三年前ねんまへのこと、其時そのときは、ふね出懸でがけから暴風雨模樣あれもやうでな、かぜく、あめる。敦賀つるが宿やど逡巡しりごみして、逗留とうりうしたものが七あつて、つたのはまあ三ぢやつた。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あの方達は長いこと逗留とうりうなさるとお思ひになつて?」
聞夫婦は増々ます/\よろこ心靜こゝろしづかに逗留とうりういたしけるうち早くも十日程立疵口もやゝ平癒へいゆして身體も大丈夫になりければ最早江戸表へ出立せんと申に亭主八五郎は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この苧纑をがせ商人、或時あるとき俳友はいいうの家に逗留とうりうはなしくだんの事をかたいだし、彼時かのとき我六百の銭ををしみ焼飯をかはずんば、雪吹ふゞきうち餓死うゑじにせんことかの農夫のうふが如くなるべし
して、百年ひやくねん以来いらい天守てんしゆあるあやしいものゝさらはれて、いまらるゝとほりの苦艱くげんける……なにとぞおもむきを、温泉をんせんいま逗留とうりうするをつとつたへて、寸時すんじはや人間界にんげんかいたすけられたい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この苧纑をがせ商人、或時あるとき俳友はいいうの家に逗留とうりうはなしくだんの事をかたいだし、彼時かのとき我六百の銭ををしみ焼飯をかはずんば、雪吹ふゞきうち餓死うゑじにせんことかの農夫のうふが如くなるべし
れたことを、貴様きさまがおうら掴出つかみだした、……あの旅籠屋はたごや逗留とうりうしてる。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
われ江戸に逗留とうりうせしころ、旅宿りよしゆくのちかきあたりに死亡ありて葬式さうしきの日大あらしなるに、宿やどあるじもこれにゆくとて雨具あまぐきびしくなしながら、今日けふほとけはいかなる因果いんくわものぞや
若かりし時、妻有つまありしやうに(魚沼郡の内に在)用ありて両三日逗留とうりうせし事ありき。