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轍
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わだち
ふりがな文庫
“
轍
(
わだち
)” の例文
「
風
(
かぜ
)
がなくていいな。」と
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
だけれど
思
(
おも
)
っていたときです。
蒸気
(
じょうき
)
ポンプの
轍
(
わだち
)
が、あちらの
広
(
ひろ
)
い
通
(
とお
)
りを
横
(
よこ
)
の
方
(
ほう
)
へ
曲
(
ま
)
がったようです。
火事
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
やっと別荘のちらほらとある釜の沢の方に出たら、道もよくなり、いましがた通ったらしい自動車の
轍
(
わだち
)
さえ生ま生ましくついている。
雉子日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
振返って見ると誰も居ませんで、ただざあざッという雨に紛れて、
轍
(
わだち
)
の音は聞えませぬが、一名の車夫が
跟
(
つ
)
いて来たのでありました。
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
主人の君も我を愛し給ふ。この愛は、
曩
(
さき
)
に
料
(
はか
)
らずも我母上を、おのが車の
轍
(
わだち
)
にかけしことありと知りてより、愈〻深くなりまさりぬ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
道路の曲り角に、床屋の白服をきた若者が、黒いものを棒のさきで衝ッつきながら、
折柄
(
おりから
)
正面から来た駄馬の
轍
(
わだち
)
に
轢
(
ひ
)
かそうとした。
童子
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
▼ もっと見る
トム公は、思わず木桟の目隠し窓へ、顔をこすりつけて見たけれど、馬車の
轍
(
わだち
)
は、深夜の街上を、もうグワラグワラと廻っていた。
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
轍
(
わだち
)
の音が森に響き、次第次第に町の方へ行く。町へはいったが深夜のこと、家々では雨戸を厳重にとざし、
燈火
(
ともしび
)
一筋もれていない。
任侠二刀流
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
車の
轍
(
わだち
)
に傷めつけられた路は一条
微赤
(
うすあか
)
い線をつけていた。その路は爪さきあがりになっていた。高い林の梢の上に
微
(
かすか
)
な風の音がしていた。
殺神記
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
頭の上で遠雷のような鈍い地響がするのは、多分電車の
轍
(
わだち
)
の音であろう。すると加十はいま田村町の通りに沿って歩いている勘定になる。
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
やがて
涯
(
はて
)
しもなく広い砂原へ来ますと、
轍
(
わだち
)
が砂の中へ沈んで一歩も進まなくなりましたから、今度は馬車を乗り棄てて
徒歩
(
かち
)
で行きました。
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
轍
(
わだち
)
の泥のかんかんにこびりついたままになっている収穫車の上には、しまい残された牧草が魔女の髪のようにしだらなく垂れ下がっていた。
フランセスの顔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
かれは木の葉一つ落ちし音にも耳傾け、林を隔てて遠く響く
轍
(
わだち
)
の音、風ありとも覚えぬに
私語
(
ささや
)
く枯れ葉の音にも耳を澄ましぬ。
わかれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
真暗
(
まっくら
)
な晩だった。そして広い道から狭い道へ曲った頃から雨が降り始めた。その狭い道には、
轍
(
わだち
)
の跡が幾本も入り乱れて、深くついていた。
黄色な顔
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
狭い町は石畳になって、それに車の
轍
(
わだち
)
が深い
溝
(
みぞ
)
をなして刻みつけられてあった。車道が人道に接する所には、水道の鉛管がはみ出していた。
旅日記から
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
路は
固
(
もと
)
よりついていない。東西南北共に天に作った路であるから、
轍
(
わだち
)
の
迹
(
あと
)
は行く人の心任せに思い思いの
見当
(
けんとう
)
に延びて行く。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
堤防のかなたに川があるのではなく、やはり野原で、
轍
(
わだち
)
の跡が深く泥濘にくいこんだ田舎道が、堤防の橋の下をくぐったさきにつづいて見えた。
赤い貨車
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
この時、大梁の方角から旅車の一つが
轍
(
わだち
)
を鳴らして来たが荘子の前へ来ると急に止まって
御者
(
ぎょしゃ
)
台の傍から一人の
佝僂
(
せむし
)
が飛降りた。近付いて来ると
荘子
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
震災がこの大都をバラックにした以前から、形ばかりの大通りは
只
(
ただ
)
吹き通しの用を勤めるのみで、これを
薬研
(
やげん
)
にして
轍
(
わだち
)
が土と馬糞とを粉に砕く。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
大きく
轍
(
わだち
)
の跡がついているのを名残として、美しい朝日がキラ/\と輝いて、屋根からも路の上からも橋の上からも、悠々と
陽炎
(
かげろう
)
を立たせていた。
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
にんじんは、
秣槽
(
かいおけ
)
の水の中に、鎖のちぎれたのとか、車の
轍
(
わだち
)
とか、すり切れたシャベルなどがはいっているのを見た。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
見るからに急進国の素晴らしさを誇るような馬のいななき、
轍
(
わだち
)
の響きを耳に聴いてだった。
颯爽
(
さっそう
)
と時代の新風が乗合馬車そのものには吹き流れていた。
円太郎馬車
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
鉄輪の車輪が敷石の上に音をたてたり
轍
(
わだち
)
を変えて車体にぶつかったりするのを、馬車のまわりに憲兵らが馬を駆けさせる響きを、御者の鞭が鳴るのを。
死刑囚最後の日
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
我をひきて水を渉れる美しき淑女とスターツィオと我とは、
轍
(
わだち
)
に殘せし弓の形の小さき
方
(
かた
)
なる輪に從ひ 二八—三〇
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
人の通る道路には——歩道というものはないので——木製のはき物と細い人力車の
轍
(
わだち
)
とが、面白い跡をのこしている。下駄や草履には色々な種類がある。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
二人の間には、荷車の
轍
(
わだち
)
に
轢
(
ひ
)
き倒された真つ黒な小猫が、雑巾のやうに平べつたくなつて横たはつてゐました。
黒猫
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
赧
(
あか
)
い落葉は、踏む足のしたでカサとの音もたてず、降りつづく陰欝な
霖雨
(
りんう
)
にうたれて、
轍
(
わだち
)
のなかで朽ちていた。
寡婦
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
五分ばかりたった後、僕等はもうO君と一しょに砂の深い
路
(
みち
)
を歩いて行った。路の左は砂原だった。そこに
牛車
(
うしぐるま
)
の
轍
(
わだち
)
が二すじ、黒ぐろと斜めに通っていた。
蜃気楼
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
問『人類の無智と
頑陋
(
がんろう
)
との為めに、啓蒙事業は幾回か失敗の歴史を遺して居る。今回も又その
轍
(
わだち
)
をふまぬか?』
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
橋の上を渡る車の
轍
(
わだち
)
の響が、或は近く或は遠く、ごろ/\がう/\と、絶えず枕を震ひ動かすやうな気がした。
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
轍
(
わだち
)
の跡が入り乱れている道であった。その小さい原を横切って行く行手に、もう一つ木柵が引廻されていて、その中に、詰所と、白い
庫
(
くら
)
とが、並んでいた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
うろ覚えの道を、医師がさきだちにて車の
轍
(
わだち
)
を慕って来たのが、昼さえ人の足跡なき上野村
大字
(
おおあざ
)
宇留野の山奥にて、宇留野原と称する所に一枚のむしろあり。
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
けだしこの朝の小雨が仏軍大砲の
轍
(
わだち
)
を汚し、そのために進軍の予定が数十分
後
(
おく
)
れた。ために仏軍は普軍到着前に英軍を破るべくして破り得なかったのである。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
この道は暗緑色の草がほとんど土を隠す程茂っていて、その上に荷車の通った
轍
(
わだち
)
の跡が二本走っている。
女の決闘
(新字新仮名)
/
ヘルベルト・オイレンベルク
(著)
彼は仰向けになったまま今にも胸へのしかかろうとする
轍
(
わだち
)
をば、両手で精一杯に支えている。肱がその重さで地面へ喰いこみ、顔面はひきつり、眼はつり上っている。
乞食
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
誰れだか分らない男又は女が、この夫人に毒薬をのませた。そして、夫人の死体を線路まで持って来て汽車の
轍
(
わだち
)
が、万事を目茶苦茶に押しつぶして呉れるのを待った。
一枚の切符
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
思いがけない運命ではまりこんだ
轍
(
わだち
)
から、いっかな抜けようとはしないで、その新しい友達の頸へ自分の鼻面をのっけて、相手の耳へ何やら囁いているようだったが
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
新聞を見ていると、どろんこの
轍
(
わだち
)
の中へ、牛の
糞
(
ふん
)
をにじりつけたような気持ちの悪さになって来る。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
暗闇の千葉街道を、
驀地
(
まっしぐら
)
に、疾走しているのは、
世田
(
せた
)
ヶ
谷
(
や
)
の自動車大隊だった。
囂々
(
ごうごう
)
たる
轍
(
わだち
)
の響は並木をゆすり、ヘッド・ライトの前に、
濛々
(
もうもう
)
たる土煙をあげていた。
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
轍
(
わだち
)
の跡の深く刻まれた畦道は行くに従つて次第に低くなると共に、両側の畠は次第に高く、やがて見上げられるやうになつて、一列に
唐黍
(
もろこし
)
の茎の立並んだ土地の側面は
畦道
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
切明けの幅は一間もあり、両側に
轍
(
わだち
)
の跡のような溝が掘ってあるから、少しも紛れる心配はない。
三国山と苗場山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
町の闇に消え込む武家、外に三人の供と大八車が二臺、
轍
(
わだち
)
の音を殺して靜かに/\後を追ひます。
銭形平次捕物控:155 仏像の膝
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
砲車の
轍
(
わだち
)
の連続は響を立てた河原のようであった。朝日に輝いた剣銃の波頭は空中に虹を撒いた。
ナポレオンと田虫
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
ふと前方の道に當つて
轍
(
わだち
)
の音が聞えたと思ふと、私は山と積み込んだ荷車が
喘
(
あへ
)
ぎ/\丘を上つて行くのを見た。そして餘り離れてゐない處に二匹の牛と牛追ひ達もゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
その中に、馬車の
轍
(
わだち
)
の跡だけが、泥に
染
(
にじ
)
んでいる。私はいま、東北の或る田舎を旅をしているのだが、この地方では、三月の半ば過ぎていると言うのに、まだ空は
雪催
(
ゆきもよ
)
いだ。
月見草
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
だが、前日と変っている点は、門のあたりの溝近くに一ヶ所、荷車でも落ち込んだかと思う大きな
轍
(
わだち
)
の穴が出来ているばかりで、他に何の特別なものも発見は出来なかった。
小曲
(新字新仮名)
/
橋本五郎
(著)
侠は愛と其
轍
(
わだち
)
を
双
(
なら
)
べつゝ、自から優美高讃なる趣致を呈せり、我が平民社界に起りしシバルリイは、其ゼントルマンシップに於て既に女性を遊戯的
玩弄物
(
ぐわんろうぶつ
)
になし了りたれば
徳川氏時代の平民的理想
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
小住宅の影を長々と引いた原を横切つて、犬を連れた牛乳車が小さく
轍
(
わだち
)
をきしらせて行く。
姉弟と新聞配達
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
部落に入つて間もなく、路傍に空地があつて古い酒樽が二つ三つころがつてゐたり、恐らく雨時にできたのだらう荷馬車の
轍
(
わだち
)
の跡が深くいくつも切れこんだまゝ固まつてゐた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
何
(
なん
)
とせん
道
(
みち
)
を
間違
(
まちが
)
へたり
引返
(
ひきかへ
)
してと
復
(
また
)
跡戻
(
あともど
)
り、
大路
(
おほぢ
)
に
出
(
いづ
)
れば
小路
(
こうぢ
)
に
入
(
い
)
らせ
小路
(
こうぢ
)
を
縫
(
ぬひ
)
ては
大路
(
おほぢ
)
に
出
(
い
)
で
走
(
そう
)
幾走
(
いくそう
)
、
轉
(
てん
)
幾轉
(
いくてん
)
、
蹴
(
け
)
立
(
たつ
)
る
雪
(
ゆき
)
に
轍
(
わだち
)
のあと
長
(
なが
)
く
引
(
ひき
)
てめぐり
出
(
いづ
)
れば
又
(
また
)
以前
(
いぜん
)
の
道
(
みち
)
なり
別れ霜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
犬は二人の方へ近寄ってきた。クリストフとオットーとは、小道の
轍
(
わだち
)
の中に、枯葉の上に身を伏せ、息をこらして待ち受けた。吠声は止んだ。犬は獲物の足跡を見失ったのである。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
轍
漢検準1級
部首:⾞
19画
“轍”を含む語句
轍鮒
車轍
途轍
覆轍
一轍
前轍
転轍機
転轍器
陋轍
達磨転轍器
轍心
転轍手
転轍台
転轍
此轍
愚轍
御轍
同一轍