トップ
>
誂
>
あつら
ふりがな文庫
“
誂
(
あつら
)” の例文
指さした縁側には、
誂
(
あつら
)
へたやうに泥足、
鑿
(
のみ
)
でこじ開けたらしい雨戸は、
印籠
(
いんろう
)
ばめが痛んで、敷居には滅茶々々に傷が付いてをります。
銭形平次捕物控:269 小判の瓶
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
今日は気も
晴々
(
せいせい
)
として、散歩には
誂
(
あつら
)
え向きというよい天気ですなア。お
父様
(
とッさま
)
は先刻どこへかお出かけでしたな。といつもの調子軽し。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
そのせっかくの白い衣裳を、一つ流行文様に染めましょうと思って、梟
紺屋
(
こうや
)
に
誂
(
あつら
)
えたところが、梟は
粗忽
(
そこつ
)
で真黒々に染めてしまった。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
三十間堀にいた時分、よくここからそばをとると若い衆が「お待遠、藪でござい」と勇みな声を出して、
誂
(
あつら
)
えを置いて行ったものだ。
新古細句銀座通
(新字新仮名)
/
岸田劉生
(著)
無理にアイ子さんを誘い出しました私は、一緒に西洋亭へ上りまして、二人で思い切り御馳走を
誂
(
あつら
)
えて、お別れの
晩餐
(
ばんさん
)
を取りました。
少女地獄
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
上物の
鎧
(
よろい
)
だけでも三、四十
領
(
りょう
)
、ほか具足やら腹巻やら、
数
(
かず
)
と来たら、ちょっと、
眩
(
めまい
)
がしそうな程のお
誂
(
あつら
)
えだ。ただ弱ったのは日限さ。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二、三人の募集員が、汚い折り鞄を抱えて、時々格子戸を
出入
(
ではい
)
りした。昼になると、お庄はよく
河岸
(
かし
)
の
鰻屋
(
うなぎや
)
へ、丼を
誂
(
あつら
)
えにやられた。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
汁粉屋の看板を掛けた店へ来て支那
蕎麦
(
そば
)
があるかときき、蕎麦屋に入って
天麩羅
(
てんぷら
)
を
誂
(
あつら
)
え断られて
訝
(
いぶか
)
し気な顔をするものも少くない。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
由「
昨夜
(
ゆうべ
)
は
些
(
ちっ
)
とも寝られませんでしたから、此処で昼寝をして顔を洗ってから、何か
誂
(
あつら
)
い物を致しましょう……姉さん何が出来るかい」
霧陰伊香保湯煙
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
香木
(
かうぼく
)
の車を造らせるやら、象牙の椅子を
誂
(
あつら
)
へるやら、その贅沢を一々書いてゐては、いつになつてもこの話がおしまひにならない位です。
杜子春
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
酒倉は地下室にある。まもなくそこを捜索してお
誂
(
あつら
)
えの
壜
(
びん
)
を持って来て、葡萄酒の方は、まあこれでいいが、その五日後である。
戦雲を駆る女怪
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
詩を作り俳句を作るには誠に
誂
(
あつら
)
え向きの病気なりとて自ら喜びぬ。俳友も時におとずれくるるに期せずして小会を開くことさえ少からず。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
あり合せの鍋物を
誂
(
あつら
)
えて、
手酌
(
てじゃく
)
でちびりちびり飲みだしたが、いつもの小量にも似ず、いくら飲んでも思うように酔わなかった。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
「物は取りようじゃ、この二つの刀の鞘が
誂
(
あつら
)
えたようにしっくりと合い、目釘の穴までがピタリと合うのは、あいえんの証拠に違いない」
大菩薩峠:21 無明の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
三人の
迎
(
むかい
)
は来ていたが、代助はつい車を
誂
(
あつら
)
えて置くのを忘れた。面倒だと思って、嫂の
勧
(
すすめ
)
を
斥
(
しりぞ
)
けて、茶屋の前から電車に乗った。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
無紋の黒の着流しに、お
誂
(
あつら
)
い通りの覆面頭巾、何か物でも考えているのか、
俯向
(
うつむ
)
きかげんに肩を落とし、シトシトとこっちへ歩いて来た。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
彼女は新規に
誂
(
あつら
)
えるまでもなく、松坂屋あたりの店で見つけた出来で間に合わせて、唯寸法だけを少し詰めて貰ったとも言った。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
石竹を買はうと思つて見れば、カアネエシヨンが並べてある。花隠元を
誂
(
あつら
)
へて置いて取りに往くと、スヰイト・ピイをくれる。
田楽豆腐
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
……柱も天井も丈夫造りで、床の間の
誂
(
あつら
)
えにもいささかの
厭味
(
いやみ
)
がない、玄関つきとは似もつかない、しっかりした屋台である。
眉かくしの霊
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
先日はご苦労様でしたとか何とか挨拶をして、さてお
誂
(
あつら
)
へを
訊
(
き
)
くと、サラダか何かのあつさりしたもので、ビールを飲ませろと云ふんです。
赤い杭
(新字旧仮名)
/
岡本綺堂
(著)
逸子は、握り箸の篤を、そのまま斜に背中へ
抛
(
ほう
)
り上げて
負
(
おぶ
)
うと、霰の溝板を下駄で踏み鳴らして東仲通りの酒屋までビールを
誂
(
あつら
)
えに行った。
食魔
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
お
誂
(
あつら
)
えむきのところで、どかんとやろうと思って手数をかけてるのさ、だがお前たちがちょっかいを出しはじめたから、もう容赦はしねえ
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
「お
誂
(
あつら
)
えは何を通しましょうね。
早朝
(
はやい
)
んですから、何も出来ゃアしませんよ。
桶豆腐
(
おけどうふ
)
にでもしましょうかね。それに
油卵
(
あぶたま
)
でも」
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
「どうしまして、台所やせんたくがなかなか忙しいのに、あれで道具運びの荷ごしらえに手がかかりますさ、力があるからお
誂
(
あつら
)
えむきだが。」
旧聞日本橋:10 勝川花菊の一生
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
「そうか、出ていったか」彼は手で口のまわりを横撫でにしながら、べそをかくような表情でだらしなく笑った、「そいつあ、お
誂
(
あつら
)
えむきだ」
五瓣の椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
しかしその偶然の中に、ちょいとは目に付かない或る必然が含まれているとすれば、なおさらお
誂
(
あつら
)
え向きだと云う訳です。
途上
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ベンヺ こりゃ
何
(
なん
)
でも、
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
に
隱
(
かく
)
れて、
夜露
(
よつゆ
)
と
濡
(
ぬ
)
れの
幕
(
まく
)
という
洒落
(
しゃれ
)
であらう。
戀
(
こひ
)
は
盲
(
めくら
)
といふから、
闇
(
やみ
)
は
恰
(
ちょう
)
どお
誂
(
あつら
)
へぢゃ。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
町人は剃刀を持つた儘、魚のやうな
愚
(
おろか
)
な眼つきをして相手の顔を見た。面師は包みからお
誂
(
あつら
)
への面を取り出した。そして
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
丁度
誂
(
あつら
)
えたように十五夜のまん丸な月が其上に出て居た。然し其時は
遽
(
あわ
)
たゞしい旅、山に上るも
果
(
はた
)
さなかった。今はじめて其
懐
(
ふところ
)
を
辿
(
たど
)
るのである。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
あれぐらい人殺しにお
誂
(
あつら
)
え向きのチャンスはありませんねえ。それはもうあの場に居合わせた全員が容疑者ですよ。全員が犯人でありうるのです。
心霊殺人事件
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
時間も一致すれば、お
誂
(
あつら
)
え向きに障子が
開
(
あ
)
いていたばかりか、鉄瓶さえ覆っていたのだ。この
真
(
しん
)
に迫ったトリックを、どうして彼が気附くものか。
灰神楽
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
一週間ほど経って、
誂
(
あつら
)
えた靴が届けられた。と、父はその靴を手に取って、
仔細
(
しさい
)
にその出来をながめながら賢に言った。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
イカバッドはそのような馬には
誂
(
あつら
)
えむきの男だった。
鐙
(
あぶみ
)
が短かったので、
両膝
(
りょうひざ
)
が
鞍
(
くら
)
の前輪にとどくほど高くあがった。
スリーピー・ホローの伝説:故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
しかし『
根本説一切有部毘奈耶
(
こんぽんせついっさいうぶびなや
)
雑事』に、女も蛇も多瞋多恨、作悪無恩利毒の五過ありと説けるごとく、何といっても女は蛇に化けるに
誂
(
あつら
)
え向きで
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
ああいう
誂
(
あつら
)
えむきな話を、裁判長に信じさせるということは、まず、余程困難だとみなければなりませんからねえ。
予審調書
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
十二月三十日の
夜
(
よ
)
、吉は坂上の得意場へ
誂
(
あつら
)
への日限の
後
(
おく
)
れしを
詫
(
わ
)
びに行きて、帰りは
懐手
(
ふところで
)
の急ぎ足、草履下駄の先にかかる物は面白づくに
蹴
(
け
)
かへして
わかれ道
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
その技は今も残っていて、見事な箪笥類を作ります。ただ昔のような頑丈な金具は跡を断ちました。職人はいても
誂
(
あつら
)
える人がなくなってしまいました。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
その小さな淵の上には、柳のかなりな大木が枝さへ垂らしてゐるといふ、赤蛙にとつては
誂
(
あつら
)
へ
向
(
む
)
きの風景なのだ。なぜあの淵を渡らうとはせぬのだらう?
赤蛙
(新字旧仮名)
/
島木健作
(著)
そこで
誂
(
あつら
)
えて、チビリチビリ麦酒を嘗めていると、何時の間にか隣りではひっそりとなった。早や影もないのだ。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
これでいい、月賦の自動車は引き上げられそうだし、店は倒れかかっているし、夜逃げには
誂
(
あつら
)
え向きだ。
足手纏
(
あしでまと
)
いになると思っていたみのりは自分から片を
宝石の序曲
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
しかし名刺を
誂
(
あつら
)
える時にもう後悔しました。何と工夫しても三越呉服店員という肩書がつきます。兎に角最高学府を出たものが呉服店員は情けないですな。
親鳥子鳥
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
「
弦
(
げん
)
も並ぶとしたら、この
卓子
(
テーブル
)
じゃもう狭いね、来年はミツ坊も坐って、おととを喰るだろうし、なア坊や、こりゃ
卓子
(
テーブル
)
のでかいのを
誂
(
あつら
)
えなくちゃいけねえ」
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
これまで
誂
(
あつら
)
えてある書物の
取纒
(
とりまと
)
めに掛りましたが、せっかく誂えた書物なりかつは得難い書物ですから、金の払ってある分だけは集めようと思いましたので
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
こんなにお
誂
(
あつら
)
え向きに漆が剥げ落ちて呉れる様では、その海水靴ももう相当に履き古されたものに違いないが、ここで僕は、去年の夏辺りどこかの海水浴場で
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
他人より
侮辱
(
ぶじょく
)
をうけ、カッとなりてこれに手向かいするは、一見極めて勇ましく思われ、第三者より
見
(
み
)
てにぎやかにおもしろく、見物としては
誂
(
あつら
)
え向きである。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
主人の蔭多き大柳樹の下にありて、
誂
(
あつら
)
へし
朝餉
(
あさげ
)
の支度する間に、我等はこの
烟煤
(
えんばい
)
の窟を
逭
(
のが
)
れ、
古祠
(
ふるほこら
)
を見に往くことゝしたり。
委它
(
いだ
)
たる細徑は
荊榛
(
けいしん
)
の間に通ぜり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
年からいっても、火薬の臭いを
嗅
(
か
)
ぎ、物という物を粉砕したい年になっているのだ。おやじは子供を
識
(
し
)
っている。
誂
(
あつら
)
え向きのものを持って来てくれたに違いない。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
「女の写真屋は面白い。が、あるかネ、技師になる適当の女が?」というと、さもこそといわぬばかりに、「ある、ある、打って付けのお
誂
(
あつら
)
え向きという女がある。 ...
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
そういう人たちが何かのことで意気銷沈したという場合には、まことにお
誂
(
あつら
)
えむきの幽霊の株ができるのです。といっても、何もあなたに
関
(
かか
)
わることではありません。
世界怪談名作集:17 幽霊の移転
(新字新仮名)
/
フランシス・リチャード・ストックトン
(著)
〽……足と橋場の明ちかき、はや長命寺の鐘の音も、というお染の段切の文句に
因
(
ちな
)
んだお
土産
(
みやげ
)
で、お糸さんがわざわざ向島まで出向いて
誂
(
あつら
)
えてきてくれたものである。
桜林
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
誂
漢検1級
部首:⾔
13画
“誂”を含む語句
誂向
別誂
御誂
誂物
誂主
御誂向
御誂物手鑑
誂子
誂謗