くわ)” の例文
といって、くわしくみちおしえてくれました。ぼうさんはなみだをこぼして、わせておがみながら、ころがるようにしてげていきました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
くわしく云うと、暇がかかるから、このくらいで御免蒙ごめんこうむって先へ進みます。現代の理想が美でなければ、善であろうか、愛であろうか。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御船手付から北町奉行所へとどいた取調書のほうがむしろくわしいくらい。なんという手掛りもなく、ぼんやりと御船蔵を出てきた。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
くわしく話そう、お種は兵二郎を怨んでいたのさ、間がよくばと思ったかも知れない。あの晩、若い人たちはみんな市ガ谷八幡へ行った。
イヤしかしそなたの質問とい大分だいぶんわし領分外りょうぶんがい事柄ことがらわたってた。産土うぶすなのことなら、わしよりもそなたの指導役しどうやくほうくわしいであろう。
名簿めいぼを取りに立とうとすると、東海さんが、突然とつぜん、大声で、「大坂ダイハンに聞けよ。大坂は、女の選手のことなら、とてもくわしいんだ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
恵子が淫売で拘留されたことがあるとか、家の裏に抜穴があるとか、もっとくわしいことが噂立った。龍介はイライラしてきた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
もっとただしたくもあり、黙って引き退るべきであるような曖昧あいまいな気持になりながら、矢張り、も少しくわしく聞きたかった。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
憑きもののしていない彼等には、実際に見もしない事柄について、あんなにくわしく述べることなど、思いも寄らぬからである。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この町のガスはご存知の通り、石炭でなしに、魚油を乾溜かんりゅうしてつくっているのですから。いずれ又お目にかかってくわしく申しあげましょう。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ところが深山氏は閣下にいろいろとくわしく説明していた最中さいちゅうなのです。深山氏がしゃべっているのに、閣下はウーンといってたおれられたのです。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
くわしい事は判然わかりませんが、その遊神湖という湖の周囲には、歴史以前に崑崙国といって、素敵に文化の進んだ一つの王国があったそうです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ならば、この辺の地理にはくわしかろうが、高野路もふさがれ、水路もならぬとすれば、袋の鼠、どう落ちのびる道があろ」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして、師匠の英善の身のうえに就いて自分の知っているだけのことをくわしく話して帰った。帰る時に、半七はかれに何事かを教えてやった。
半七捕物帳:25 狐と僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「その男を決定するには条件がある。宿の事情にくわしい男、その日は宿に残っていた男、鍵を自由に扱える男、最後に褌ひとつで飛出した男だ!」
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
例の失敗におわった夜中の遠征えんせいから、一週間の間にわたしの経験したことを、くわしく話してみろと言われたら、わたしはすこぶる閉口するに違いない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そうしてさらにくわしくいえば、純粋自然主義はじつに反省の形において他の一方から分化したものであったのである。
わが輩が歩いた道のことをくわしく知らぬ人が、よその人から聞いて、この道は非常に悪路である、嶮岨けんそだとか、危険の多い道だとか信じている人は
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
中には、高い崖の上から落下して長い間気絶していた人や、溺死した人やのその人自身のくわしい実話などもあった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
真空技術のことを書いた本には、いろいろくわしい記述があり、それを読むと、10-6ミリくらいの高真空は、何でもないように思われるかもしれない。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
博覧無双の名あったプリニウスの猴の記載はこれに止まり、李氏のややくわしきに劣れるは、どうしてもローマに自生なく中国に多種の猴を産したからだ。
始めから終りまで千鳥の話をくわしく見てしまうまでは、かざす両手のくたぶれるのも知らぬ。袖を畳むとこう思う。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
琉歌のことでも、音曲おんぎょくのことでも、楽器のことでも、実にくわしい知識をもっていました。それに大の料理通で、私は長夜の宴に列する栄を度々得たことでした。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
くわしくいうと十一月の十日に御即位の御大礼が挙げられて、大阪の町々は夜ごと四ツ竹を持った踊りの群がくりだすという騒ぎ、町の景気も浮ついていたので
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
手前、存じているだけのことは申し上げてしまいますが、文麻呂様は御自身でもかたく口をつぐんでおられますので、くわしいことは手前とても皆目かいもく存じませぬ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
今度は平ヶ岳を下って只見川の上流から尾瀬沼へ抜ける考えでいた、そこで人夫の経済上からとその路にくわしい者を、檜枝岐から雇うことにしてあったのである
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
ポルトガル国はオランダ、メリケン国に優るとも劣らぬ繁昌の国小判の国とくわしく書いてじゃ。対馬は常に只、貧しい者達の懐中を思うてやりたい。決断致すぞ。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
敬愛けいあいする讀者どくしや諸君しよくんよ、わたくしいまこのおどろおそ海底戰鬪艇かいていせんとうてい構造こうざうについて、くわしき説明せつめいこゝろみたいのだが、それは櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ大秘密だいひみつぞくするから出來できぬ。
「縁あらばくわしいお身の上を聞きもし語りもしましょう。して、そなた様は今どこにおられます」
これらをくわしく物語りたいのは、筆者の心からの願いである。しかし、次郎は今母に死別したばかりである。彼のこれからの生活を知っているものは神様だけしかない。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そこへやれと言わんばかりに、金山寺屋は、神田の場処ばしょまでも、くわしく知らせて行ったのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
... さあ、くわしくおっしゃって下さい」と申しあげた。すると、崇徳院はさっと顔色をかえられて
先刻さっきはね、お父さんが大変心配していらしたから、私が医者にくわしく聞いてあげようと云ったんだよ。そして医者が帰る時一緒に外を歩いて、種々なことを尋ねて来たよ。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何をしてつかまるんだか、お徳はくわしく話してくれたんだが、生憎あいにく今じゃ覚えていない。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これらのいろいろの解釈が可能であると思われるが、著者は本書ではそれを、政治現象の基本的な諸問題に一通りの究明を試み、よりくわしい研究への示唆しさを与えるものと解釈した。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
昨夜の男が官邸にはいったに違いないと思って、家へ帰ると主人にくわしく報告した。すると、主人は検非違使の長官とは割合懇意こんいであったので、すぐ出向いてその事を長官に話した。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もっともあのの始めの口振りじゃ、何でも勤人のところへ行きたい様子で、どうも船乗りではと、進まないらしいようだったがね、私がだんだんくわしい話をして、並みの船乗りではない
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
生は歌よみよりは局外者とか素人しろうととかいはるる身に有之、従つてくわしき歌の学問は致さず、格が何だか文法が何だか少しも承知致さず候へども、大体の趣味如何いかんにおいては自ら信ずる所あり
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
くわしくいえばパーリー・ゾンで五日暇取ひまどるとすればチベット暦の五月八日まで掛る。で三日追手がラサを出立すると仮定すればちょうど私は関門内にぐずぐずして居る中にとらえてしまう訳です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その日はなお種々いろいろのものをきっしたが、今くわしく思出すことは出来ない。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それも道理、松浦家の戸籍財産信用なぞがくわしく書き上げてある。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
云うならぼくだけに話せ、随分ずいぶん妙な人も居るからなと忠告がましい事を云った。四つ角で分れたからくわしい事は聞くひまがなかった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「話は少し差障りがありますが、くわしく申上げないと、お解りにならないかも知れません。どうぞ、しばらくお許しを願います」
くわしいことはあと追々おいおいはなすとして、かく人間にんげん竜神りゅうじん子孫しそんそちとてももとさかのぼれば、矢張やはりさるとうと竜神様りゅうじんさま御末裔みすえなのじゃ。
それにもかかわらず、平田一郎という陰険いんけんな男は、一体どこから見ているのか、実にくわしく、実に正確に、夫婦間の秘事ひじを手紙の上に暴露ばくろしてある。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
出先の秀吉の軍状にもくわしく、わが織田家の内状にも通じておるために、村重に買われたものだ。策士たる彼奴としては、ありそうな事よ。……
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生退職の理由をくわしく確めながら、学園生徒全体の留任運動を正月早々起しても手遅れにはなるまいと、義光ちゃんは考え深く附け足しました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
蒙古人古来馬肉を食い、殊にその腐肉をこのみ、また馬乳で酒を作った事は支那人のほかにルブルキスやマルコ・ポロやプルシャワルスキ等の紀行にくわし。
かえって先方では寝耳に水の家出沙汰におどろかされて、長三郎にむかって前後の事情などをくわしく詮議した。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
紅木大臣は心配のあまり家来を町に出して人の噂を聞かせますと、お目見得に来た女は六人共、皆宮中に留っているとの事で、くわしい事はよくわかりませぬ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)