西瓜すいか)” の例文
「おっと、待てよ。これは悴の下駄を買うのを忘れたぞ。あいつ西瓜すいかが好きじゃ。西瓜を買うと、おれもあ奴も好きじゃで両得じゃ。」
(新字新仮名) / 横光利一(著)
部屋のテーブルのうえに西瓜すいかがあった。グーロフは一きれ切って、ゆっくりと食べはじめた。沈黙のうちに少なくも半時間は過ぎた。
「そんな、そんな事、何、こんな内、上るにも、踏むにも、ごらんの通り、西瓜すいかの番小屋でもありゃしません、南瓜畑の物置です。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、ぬしのない血まみれなその小舟がしおに乗って流されてゆくそばに、ぽかりと、西瓜すいかのような物が浮いた。ふたつの人間の頭である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし糸瓜へちまのように巨大な胡瓜きうり、雪達磨だるまのような化物の西瓜すいか南瓜かぼちゃ、さては今にも破裂しそうな風船玉を思わせる茄子なす——そういった
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
殊にショーウインドウには当時大家の西瓜すいかの切り口を写生した油絵と、娘が琴を弾ずる油絵がかかっていて、非常に評判であった。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
裏木戸の外へ西瓜すいかの皮を捨てに行くと、木戸の内側の砂利道に、無帽の麻川氏がうずくまり、向うむきで地べたをじっと見つめて居る。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「だって口惜しいじゃありませんか、親分。若くて綺麗な娘は、天からの授かりものだ。それを腐った西瓜すいかのように叩き割られちゃ——」
やちきしょう、西瓜すいかをこんなにかじっていやがる。オヤはすも食ったなどと、いかにも興味ある発見をしたような声を出す。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ソレカラ江戸市中七夕たなばたの飾りには、笹に短冊を付けて西瓜すいかきれとかうり張子はりことか団扇うちわとか云うものを吊すのが江戸の風である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かわやへはいっているとき窓から西瓜すいかを投げ入れたのと、酔って寝ている枕許まくらもと半揷はんぞうを置いて、起きると水をかぶるような仕掛けをこしらえたときだ
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
西瓜すいかの皿を前にしながら、まるで他聞でもはばかるように、小声でひそひそ話し出した容子ようすが、はっきりと記憶に残っています。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兵曹長は、その綱の一番端に鋼鉄でつくってあるいかりをむすびつけました。その錨は、西瓜すいかぐらいの小型のものでありました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
○くだものにじゅんずべきもの 畑に作るものの内で、西瓜すいか真桑瓜まくわうりとは他の畑物とは違うて、かえってくだものの方に入れてもよいものであろう。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
四方を眺むれば橋の袂に焼くもろこしの匂い、煎豆いりまめの音、氷屋の呼声かえッて熱さを加え、立売の西瓜すいか日を視るの想あり。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
むかしから東京の人が口にし馴れた果物は、西瓜すいか真桑瓜まくわうり、柿、桃、葡萄、梨、栗、枇杷びわ蜜柑みかんのたぐいに過ぎなかった。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二つの西瓜すいかの様な彼等の頭を、その表情の微細な点に至るまで、舞台の着色照明そのままに、異様に映し出すのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
西瓜すいかの汁は色も安っぽく、味も水っぽくて栄養になりそうもない。元来西瓜は好きなのだけれどこうして果汁にしてみると掛け値のないところが出る。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
浮いて来る埃塵ごみかたまりや、西瓜すいかの皮や、腐った猫の死骸しがいや、板片いたきれと同じように、気に掛るこの世の中の些細ささいな事は皆ずんずん流れて行くように思われた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それに未来の子供が、いろんな器械を持って来てくれたり、西瓜すいかのような大きさの林檎りんごを持って来てくれたりしたって、それがどうなるでしょう。おう。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
横擲よこなぐりに擲った切先が少し残ったものですから、ホンの甘皮ばかり、そのほかは西瓜すいかを輪切りに切り損ねたのが斜めにパックリ口があいたようなものです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
桃や梨や西瓜すいかなどをたくさん食べてはいけません。暑いところを遊んで来て、そういうものをたくさんに食べますと、おなかをこわすばかりではありません。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
俺の好きな西瓜すいかを買っておいて、今日は帰ってくる、そしてその日帰って来ないと、明日は帰ってくると云って、たべたがる弟や妹にも手をつけさせないで
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
万惣まんそうの果物店で、西瓜すいかがまっかに眼にしみる。私は駅の入口に立って白いハンカチを持って立っている事になっている。どんな男が肩を叩くのかは知らない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やっぱり花火というものは、夏の夜にみんな浴衣ゆかたを着て庭の涼台すずみだいに集って、西瓜すいかなんかを食べながらパチパチやったら一ばん綺麗に見えるものなのでしょうね。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
夏の夜店で見るから涼しげなものは西瓜すいかち売りである。衛生上の見地からは別に説明する人があろう。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
深藍色はなだいろの大空にかかる月はまんまろの黄金色こがねいろであった。下は海辺の砂地に作られた西瓜すいか畑で、果てしもなき碧緑の中に十一二歳の少年がぽつりと一人立っている。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
骸骨がいこつ妖怪ようかいせみ蜻蛉とんぼ蜘蛛くもの巣、浴衣ゆかた、帷子、西瓜すいか、などいろいろと控えていて夏を楽しんでいる。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その梢に、黒い西瓜すいかのようにブラリとひっかかっているのは、紛れもないこけ猿の茶壺でございます。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それらの人を一切合財いっさいがっさい相手にして、ごみだらけのアイスクリームや、冷し飴や、西瓜すいかなどを売っている縁日商人は、売れ残りの品をはやくさばいてしまおうと思って
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
森君は犬の脚を高く上げて、爪の間に西瓜すいかの種ほどの大きさにふくれている蒼黒あおぐろい蝨をつまんで、力一杯引張ってようやくの事で引離して、地面に投げつけると踏み潰した。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
交通の便もなく、明治以来の文化にも縁のないこの山村では、出るものとては百合ゆりとかチュリップとか西瓜すいかくらいのもので、水田というものもきわめてまれであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
第一道阿弥のような坊主頭では、髪の結い方の稽古にも差支える。そのくらいなら西瓜すいかでもちぎって来た方がまだしも簡便で、床板に穴を開ける手数だけでも省ける。
ホーマーやダンテの多弁では到底描くことのできない真実を、つば元まできり込んで、西瓜すいかを切るごとく、大木を倒すごとき意気込みをもって摘出し描写するのである。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
西瓜すいかの切り方など要領を柳吉は知らないから、経験のある種吉に教わる必要にせまられて、こんどは柳吉の口から「一つお父つぁんに頼もうやないか」と言い出していた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
同勢三、四人で一個の西瓜すいかを買って石手川へ涼みに行き、居士はある石崖の上にげつけてそれを割り、その破片をヒヒヒヒと嬉しそうに笑いながら拾って食った事もあった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
... 少しずつ混ぜては幾度いくたびにも加えて固めたものです」小山「碾茶のアイスクリームはなかなか味の良いものですね、それから西瓜すいかのアイスクリームもあるそうですがどう致します」
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
むかし、千利休が飛喜百翁の茶会で西瓜すいかをよばれたことがあった。西瓜には砂糖がかけてあった。利休は砂糖のないところだけを食べた。そして家に帰ると、門人たちにむかって
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
きょうはちゃんと着物をつけておき出して机に向って見たところ、頭が丁度西瓜すいかのような感じになって来て(つまり、たてにすじが入っているような)又床に戻ってしまいました。
麦藁帽子むぎわらぼうしの縁に手をかけて空を見あげ、一雨来るかも知れんと思い、けるように陽炎かげろうをあげている周囲を見わたすと、心なしか、さっと、一陣の冷たい風が来て西瓜すいか畑の葉を鳴らした。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
初のうちは全く相合あいあわせ得る物のおおいさは相等しなどと真顔で教えられて、馬鹿ばかあつかいにするのかと不平だったが、其中そのうちに切売の西瓜すいかのような弓月形きゅうげつけいや、二枚屏風を開いたような二面角が出て来て
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
或時大きな西瓜すいかを横に切って、削り氷を乗せ、砂糖を真白にかけて、大きなさじですくって食べていられるところへ行合せました。いつものように、傍には読みかけの御本が置いてあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
魚の目玉を黒焼きにしてのみ、かにの毒にあたれば紫草しそうを食し、西瓜すいかにあたれば唐辛を食し、火爛には渋を塗り、歯痛にはその歯に「南」という字を書くがごとき、その他「おこり」といって
妖怪学一斑 (新字新仮名) / 井上円了(著)
昼間飲んだ酒に肥ったおのが身を持てあましていると見えて、真岡もうか木綿もめん浴衣ゆかたに、細帯をだらしなく締めたまま西瓜すいかをならべたような乳房もあらわに、ところ狭きまで長々と寝そべっている姿が
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
まったく寝るのが惜しくなって、わたくしはよくその光にぬれて深夜まで人っ子ひとり居ない野や山を歩いたものだ。小屋にかえれば西瓜すいかを割ったり、うで栗をむいたり、里芋をたべたりした。
山の秋 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
私はある一軒の店で、大きな木槽の辺を越して、図161で示すかような硝子ガラスのサイフォンがかけてあるのを見た。この端から出る小さな水沫は、盆に入った小型な西瓜すいかを涼しげに濡らしつつあった。
サンムトリさえ西瓜すいかのように割れたのだ。
西瓜すいかぐらい大きな梨の実でした。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
西瓜すいか喰ふ空や今宵こよいの天の川 沙明
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)