花魁おいらん)” の例文
『上流の方々の亡くなられたのは、ほんとにほんとにお気の毒ですが、こんな吉原の花魁おいらんなんか、死んでしまった方がよござんすね』
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
麦藁の花魁おいらんがあかい袂を軽くなびかせて、紙細工の蝶のはねがひらひらと白くもつれ合っているのも、のどかな春らしい影を作っていた。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此の長崎にて切支丹の御検分おんあらためことのほか厳しくなり、丸山の妓楼の花魁おいらん衆にまで御奉行、水尾様御工夫の踏絵の御調べあるべしとなり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「若旦那が、女遊びに身を打込むとか、花魁おいらん請出うけだして、内儀にされたといふなら、御主人は、あまりお小言も言はなかつたでせうね」
その日は丁度大金を所持してゐたので花魁おいらん吃驚びっくりして店の金庫へ蔵してくれたこと、娼妓も三十を過ぎると全てに親切である話、等々
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「なるほど、なるほど。花魁おいらんの道中は、わしも一度、江戸の吉原で見ましたっけ。こちらのは、また変った趣向でもありますかな」
さて、もうここまで事が運べば、それなる達磨だるまを好いた花魁おいらん薄雪の来るか来ないかが、右門の解釈と行動の重大なる分岐点ぶんきてんです。
間もなく店員たちの蔭口で知ったが、御しんさんはもと真金町遊廓の神風楼でお職を張っていた全盛の花魁おいらんだったとの事である。
花魁おいらんの口上だと云つていい加減なこしらヘごとを客に耳打すると云ふ、そんな人の悪いことは、お糸さんは決してしなかつた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
京都、島原しまばら花魁おいらんがようやく余命を保っている。やがて島原が取払われたら花魁はミュゼーのガラス箱へ収められてしまわなければならぬ。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
僕ののちに聞いたところによれば、曾祖父は奥坊主を勤めていたものの、二人の娘を二人とも花魁おいらんに売ったという人だった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それに私なんかう見えても温順おとなしいんだから、鉄火てつかな真似なんかとても柄にないの。ほんとうに温順しい花魁おいらんだつて、みんながう言ふわよ。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
……すえは芸者かネ、花魁おいらんか、サ、なにも、おやじがあくせくして稼ぐものはねえ、功利的結果が、よってたかって、飯を喰わしてくれらアね。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
でげすから、あっしは浅草おくやまときに、そうもうしたじゃござんせんか。まつくらい太夫たゆうでも、花魁おいらんならばものもの
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
花魁おいらんしかけにも客の小袖にも。新流行の奔放な色と模様とがあつた。店清掻みせすががきの賑かさ、河東、薗八のしめやかさ。これを今日の吉原に見る事は出来ぬ。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「もうしもうし花魁おいらんえ、と云われてはしなんざますえとふり返る、途端とたんに切り込むやいばの光」という変な文句は、私がその時分南麟からおすわったのか
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そんなことを言ッてなさッちゃア困りますよ。ちょいとおいでなすッて下さい。花魁おいらん、困りますよ」と、吉里の後から追いすがッたのはおくまという新造しんぞう
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
例の花里花魁おいらんでございますが、この混雑ごったかえしている中に一層忙がしい、今日で三日三晩うッとりともしないので、只眠いねむいで茫然ぼっとして生体しょうたいがない。
近所の驢が来て鼻で懸金を揚げ小馬と二匹伴れて遊びに往ったてい、まるで花魁おいらんと遊客の懸落かけおちのようだったと。
〽吉原花魁おいらん手紙は出すけど、外へは出られぬぱあ 〽こっちでのろけて向こうじゃ知らない、てけれっつのぱあ 〽くどいて、おどして、なだめて、すかして
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
私が初花はつはなという吉原の花魁おいらんと近づきになったのも、やはり好奇心のためでした。ところが段々馴染んで行くと、好奇心をとおり越して、一種異ような状態に陥りました。
遺伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あたしたちが、邪魔をしたようだが、松山の花魁おいらんはうぶで、初会しょかいのお客には、すぐには馴染なじめない。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其から歴史を別にしてゐるはずの遊女——花魁おいらん——かう言ふものゝ中、時代物としての感覚に統べられて立つ世界の立て物なる女は、立役の領分に引き直されて行つた。
あけてフナフナと笑ひ転けたあの時だ……「へえい、小桜さんの花魁おいらん、ええ、あの花魁は」と頭を
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「そう聞けば、気のどくだが、親のために花魁おいらんになる者もある。それとも許婚いいなずけでもあるのか」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今紫は大籬おおまがき花魁おいらん、男舞で名をあげ、吉原太夫よしわらだゆうの最後の嬌名きょうめいをとどめたが、娼妓しょうぎ解放令と同時廃業し、その後、薬師錦織にしごおり某と同棲どうせいし、壮士芝居勃興ぼっこうのころ女優となったりして
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「この栄太さんの馴染みってのは、たしか仲の町岩本楼の梅の井花魁おいらんだったけのう。」
その店は、重畳の浪をき並べた甍。びた紋どころに緑青ろくしょうの噴いている銅板の表羽目、長煙管を持った花魁おいらんの二の腕までは差出されるが顔は出ない狭間に作られてある連子格子れんじごうし
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
淡紅色に塊つた花魁おいらん草の花の一群。絶えず水甕へ落ちる水の音。——私は身體の中から都會の濁りが空の中へ流れ出す疲れをぐつたりと感じていつた。希望はもうここでは何ものも起らない。
榛名 (旧字旧仮名) / 横光利一(著)
ガラス張りの戸棚のうちには花魁おいらんの着る裲襠しかけが電燈の光を浴びて陳列してあった。そのガラスの廻りにへばりついている人には若い京都風の男もあれば妻君を携帯している東京風の男もあった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「ねえ御隠居様、たしかこの笄は、花魁おいらん衆のおぐしを後光のように取り囲んでいるあれそうそう立兵庫たてひょうごと申しましたか、たしかそれに使われるもので御座りましょう。けども真逆まさかの女のお客とは……」
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
家鴨あひるがおよいでいたり、小舟がうかんでいたりして、その時分の花魁おいらんは小がいのおわんいっぱいの水で、口をそそぎ顔を洗ってうらの川にすてたところから、そういう名前もできたのだそうであるが
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
かりの隱れみの頭巾づきんの上に網代笠あじろがさふかくも忍ぶ大門口相※あひづせきに重五郎其所へ御座るは花魁おいらんかと言れて白妙回顧ふりむきオヽ重さんか安さんはへ其安さんはもうとく鞠子まりこへ行て待てゞ在ば暫時ちつとも早くと打連立うちつれだち彌勒みろく町を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一、二度、友人から『花魁おいらんの道中を見にいかないか』
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
花魁おいらんももうお見えでござりましょう。まずちっとお重ねなされまし」と、彼女が銚子をとろうとすると、外記は笑いながらかぶりをふった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
赤い灯の数の一ツ一ツは花魁おいらんたちの部屋なのであろう、田圃をこえて、大尽舞だいじんまいの笛や、すががきの三味線や太鼓が、賑やかに流れてくる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このくるわでままならぬかごの鳥となっておられまするおかわいそうな花魁おいらん衆へ、わずかながらでもおこづかい金をもろうていただいたならば
京都、島原しまばら花魁おいらんがようやく余命を保っている。やがて島原が取払われたら花魁はミュゼーのガラス箱へ収められてしまわなければならぬ。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その割に花魁おいらんにはもてず、そこでかえって稼業は繁昌、夫婦別れもないという次第! 結構至極ではありますが、私の薬をお飲みになったら
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「でもね、親分。——犬が女を殺した事だけは本当ですぜ。上根岸の寮で、元吉原なかで鳴らした、薄雲花魁おいらんられたんで」
案の定惚れたと見せたは満月の手管らしかった。天下の色男と自任していた銀之丞が、花魁おいらんに身上げでもさせる事か。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それが……、「五人坊主」の呪咀絵のろいがたなんだ。……知ってるだろう、吉原の花魁おいらんなどが人を呪い殺そうとするときに使うあの「五人坊主」の絵なんだ。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「なあに、そんなに大変な事もないんです。登場の人物は御客と、船頭と、花魁おいらん仲居なかい遣手やりて見番けんばんだけですから」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鈴蘭で雑炊ざふすゐを食べてから、妓楼へ押し上つたのだつたが、花魁おいらんの部屋で、身のうへ話をきいてゐるうちにいつか夜がけて、晴代は朝方ちかい三時頃に
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
兵馬のここへ来た目的は、この花魁おいらんを相手に碁を打つことではありません、万事は金助の取計らいであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「根津へ行って遊んで御覧なさらんか、ちょうど桜時で惣門内を花魁おいらんの姿で八文字はちもんじを踏むのはなか/\品が好く、吉原も跣足はだしで、美くしいから行って御覧なさい」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかしそれは伝法肌の隠居が、何処かの花魁おいらんに習つたと云ふ、二三十年以前の流行唄はやりうただつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おれァ、一半蔵松葉はんぞうまつばよそおいという花魁おいらんを、小梅こうめりょうまでせたことがあったっけが、入山形いりやまがたに一つぼしの、全盛ぜんせい太夫たゆうせたときだって、こんないい気持きもはしなかったぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「江戸から来ておる花魁おいらんあがりが、てっきりばてれんを持って来たにちがいない、すんでのことに、昨夜ゆうべはばてれんの蟹の鋏で、この大事の眼を、衝き刺されるところであった」
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は茶碗を置き、莨盆たばこぼんをひきよせて、いっぷく吸いつけた、「いちど花魁おいらんをひかせたことがあったけれど、廓づとめをしたその人でさえ、躯がもたないって逃げだしたくらいよ」