胡蝶こちょう)” の例文
ましてや、いまここに集められたほどの者は、みなへいぜいから、咲耶子さくやこ胡蝶こちょうの陣に、りにねり、きたえにきたえられた精鋭せいえいぞろい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは胡蝶こちょう装の本で、よく読まれたのであろう、かなり手ずれているし、歌のところどころに、薄墨の細筆で書き入れがあった。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのころ、しろくものあわただしくはしる、そらしたで、ねこは、はなにとまろうとする、しろ胡蝶こちょう葉蔭はかげにかくれて、ねらっていました。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
来客は二百人余り……宴が終って舞踏会に移る。オーケストラにつれて満場、胡蝶こちょうのごとくに北欧晩秋の宵を踊り狂っている時であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
海底の岩石をつかむためには十一本の鉄の爪を有し、雲間の風をとらえるためには胡蝶こちょうよりも多くの翼と触角とを有している。
胡蝶こちょうの曲(作品二)」はきわめて初期の曲で、稚気ちき愛すべきものがある。コルトーのが良い(ビクターJE九七—八)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
菜の花、豆の花ならば戯るるすべもあろう。偃蹇えんけんとして澗底かんていうそぶく松がには舞い寄る路のとてもなければ、白き胡蝶こちょうは薄き翼を収めて身動きもせぬ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秋の木の葉が風に舞うように、春の胡蝶こちょうが花になずむように、自由自在に空に向かって高くも低くも飛ぶことが出来る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若衆歌舞伎十二枚のうち、江戸屋江戸五郎胡蝶こちょう物狂いの図と、彫り書きの見える一枚刷りの大にしき絵の前に、供え物のごとくに置かれてあるのです。
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
胡蝶こちょう蝗麻呂いなごまろも戻って来た。わらべ達はみんな二人の青年となよたけを囲むようにして、並んで聞いている。………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
かくその婦人が、始終一人の男から他の男へと、胡蝶こちょうのように飛んで歩く種類の女であることは確かであった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……が、またひるがえってさっと揚羽。輝く胡蝶こちょうの翼一尺、ひらめく風に柳を誘って、白い光も青澄むまでちりを払った表二階。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
増賀上人の遥に遠い東の山には仔細らしい碁盤や滑稽こっけい胡蝶こちょう舞、そんな無邪気なものが判然はっきりと見えたのであろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それが終ると、十文字の長剣だけは遊ばせて、横手の鎌だけをヒラリヒラリと胡蝶こちょうのように舞わしています。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
真佐子の無性格——彼女はただ美しい胡蝶こちょうのように咲いて行く取り止めもない女、ち溢れる魅力はある、しかし、それは単に生理的のものでしかあり得ない。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして、自分が胡蝶こちょうの精にでもなったように思われて、思わず足どり軽く踊りはじめるのでありました。
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
胡蝶こちょうはねを飾る、あの美くしい粉ばかりを綴ったように、日の光りぐあいでどんな色にでも見える衣を被って、渦巻く髪に真赤なてんとう虫を止らせている乙女は
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と、少女は庭へおりてそこにあった草履ぞうり穿くなり、胡蝶こちょうの飛ぶようにひらひらと駆けだして来た。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
自己の経験をかえりみて百年があいだ胡蝶こちょうとなって花の上にたわむれてのち驚きめたるごとく言った。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
蜂鳥はちどりや、はちや、胡蝶こちょうつばさをあげて歌いながら、あやのような大きな金色の雲となって二人の前を走って歩きました。おかあさんは歩みも軽く海岸の方に進んで行きました。
ありも詠み、しらみも詠み、書中の胡蝶こちょうも詠み、窓外の鬼神も詠み、饅頭も詠み、杓子しゃくしも詠む。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
支那の哲人荘子そうしは、かつて夢に胡蝶こちょうとなり、醒めて自ら怪しみ言った。夢の胡蝶が自分であるか、今の自分が自分であるかと。この一つの古い謎は、千古にわたってだれも解けない。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そして何よりも——眠れる獅子王ししおうの傍に咲く牡丹花ぼたんかのような容顔、春風になぶられてうごく雄獅子のひげに戯むれ遊ぶ、翩翻へんぽんたる胡蝶こちょうのような風姿すがた、彼女たちの世界の、最大な誇りをもって
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
夫人を妖婦ようふのように思うのも、みんな自分の邪推かも知れない。彼女は、男性との恋愛ごっこに飽き/\しているのだ。彼女の周囲に、あつまる胡蝶こちょうのような戯恋者に、飽き/\しているのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
岸に近き桜よりは幾千すうせん胡蝶こちょう一時に梢を放れ、高く飛び、低く舞う。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さっきの薔薇色の胡蝶こちょうとは別人としか思われませんでした。
何しろ胡蝶こちょうさんが、あの人に附文をしたんですさかえ
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「つねにりきたえている胡蝶こちょうじんみましょう。ふだん武芸ぶげいをはげむのも、こういう場合ばあいのためにではありませぬか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さも年来の友達ででもあるかのようにそのたおやかな衣服を胡蝶こちょうのように舞わせて——もちろん太子自身は意識してそうしていられるのではなかったが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
なよたけ 胡蝶こちょう! ほら、ほら!……向うの方からぶーんぶーんってこっちへ飛んで来る小さなものはなあに?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
囃子はやしの陽気な笛太鼓につれて、二つの扇が胡蝶こちょうのごとくもつれ、少し猫背になって、足を挙げ、尻を振り、首をすくめ、縦横無尽に踊り抜き、巫山戯ふざけ散らします。
そういう言葉の優しさは胡蝶こちょうの真の輝きにも似たもので、つかもうとすれば遠くに逃げ去るものである。
しかし衣食のために活動しているのではない。娯楽のために活動している。胡蝶こちょうの花にたわむるるがごとく、浮藻うきもさざなみなびくがごとく、実用以上の活動を示している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時に閃電せんでんす。光のうちを、と流れて、胡蝶こちょう彼処かしこに流るる処、ほとんど天井を貫きたる高き天守の棟に通ずる階子はしご。——侍女等、飛ぶ蝶の行方につれて、ともに其方そなたに目を注ぐ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見事です! ひらり、ひらり、草原の嵐に舞う胡蝶こちょうのように、京弥の小姓姿と、菊路の振袖姿が、おしよせた一陣の中をかいくぐり、かいくぐり、右へ左へ、動いたかと思うと
縫取りといっても、ここでは道具立てをしてかかるわけにはゆかないから、ただあり合せの黒いびろうどに、白の絹糸でもって、胡蝶こちょうの形を縫い出して楽しんでいるまでのことです。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
隣の房に小法師ばらの多く有りて笑いののしれるを覗きて見しに、一人の小法師、泥障を頸に懸けて、胡蝶こちょう胡蝶とぞ人は云えども古泥障を頸にかけてぞ舞うと歌いて舞いしを、おかしと思うたが
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私の心臓の小筥こばこのなかへ、あの方を胡蝶こちょうのようにとりこにしよう。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
真直まっすぐ矢走やばせを渡る胡蝶こちょうかな 木導もくどう
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、えるが早いか、胡蝶こちょうじん中堅ちゅうけんを目がけて、三につきすすんだ。それにいきおいつけられたあとの面々
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みのを取って肩に装う、美しき胡蝶こちょうの群、ひとしく蓑に舞う。さっと翼を開く風情す。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胡蝶こちょう(少女) なよたけ! 今のうちじゃないと、またお天気が悪くなるわよ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
すると、その朝、城中の武将閣に着いていた郷土の諸大将の中から、ただ一人、その姿、胡蝶こちょうの可憐な美しさにも似たる若い一将が、ばらばらと駈け出してきて
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
澄透すみとおる水に映って、ちらちらとゆらめいたが、波を浮いたか、霞を落ちたか、そのおおきさ、やがて扇ばかりな真白まっしろな一羽の胡蝶こちょう、ふわふわと船の上にあらわれて、つかず、離れず、豌豆えんどうの花に舞う。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪は紅元結べにもといで短くしばり上げ、金の型模様かたおきをした薄革うすかわ短袴たんこに玉の胡蝶こちょうの帯留を見せ、りゅうりゅうたる肉塊で造り上げられたようなその巨体は生ける仁王におうとでもいうほかはない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白き牡丹ぼたんの大輪なるに、二ツ胡蝶こちょうの狂うよう、ちらちらと捧げてく。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さよう。二十歳をこえてはおるまい。身なりも小さく、胡蝶こちょうの如き華武者はなむしゃじゃった。それがしは年七十にも相成るが、まだ、今日まで、姜維のような槍の法を見たのは初めてである」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ台所で音のする、煎豆いりまめに小鼻をいからせ、牡丹ぼたん有平糖あるへいとうねらう事、毒のある胡蝶こちょうに似たりで、立姿たちすがた官女かんじょささげた長柄ながえを抜いてはしかられる、お囃子はやし侍烏帽子さむらいえぼうしをコツンと突いて、また叱られる。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花につれて、黄と、白、紫の胡蝶こちょうむれ、ひらひらと舞上る。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)