総身そうみ)” の例文
旧字:總身
あるいは夜叉神のお怒りで、この鬼の面がとれなくなるのでは無いかと思うと、わたくしはいよいよ総身そうみにひや汗が流れました
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれらはさらに道人の指図にしたがって、むちしもとでさんざんに打ちつづけたので、三人は総身そうみに血をながして苦しみ叫んだ。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
猪熊いのくまおじは、総身そうみをわなわなふるわせながら、まだ生きているという事実を確かめたいために、重いまぶたを開いて、じっとともし火の光を見た。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お豊は六助の話を、あんまり身を入れては聞いていなかったが、この時、総身そうみに水をかけられるような気持になりました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やゝ色づいたかば、楢、イタヤ、などのこずえからとがった頭のあかい駒が岳が時々顔をす。さびしい景色である。北海道の気が総身そうみにしみて感ぜられる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今村は、はじめて、自分が容易ならぬ嫌疑を受けているらしいことを自覚して、総身そうみに水を浴びたように胴慄いした。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
と忍剣は、総身そうみの力をふりしぼった。力にかけては、怪童といわれ、恵林寺えりんじのおおきな庭石をかるがるとさして山門の階段をのぼったじぶんである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしあなたがたがそれを見たらば、魂は消え、息は止まり、総身そうみは海綿のように骨なしになって、からだの奥までぐずぐずにくずれてしまうことでしょう。
犬はやがてしずかに身を起こしたが、なおまっすぐに立ったままで、総身そうみの毛を逆立さかだたせながら、やはりあらあらしい眼をして私をじっと見つめていた。
彼は自分でも分からないほど長く腰をかけていたが、やがて驚いてちあがって総身そうみをふるわせながら再び鏡をながめると、鏡のうちに女はもういなかった。
つめの一枚一枚までが肉に吸い寄せられて、毛という毛が強直きょうちょくして逆立さかだつような薄気味わるさが総身そうみに伝わって、思わず声を立てようとしながら、声は出ずに
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
蟠龍軒はぶる/\総身そうみに震いを生じ、すらりと大刀抜くより早くお町の方を目がけて一太刀打込みました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昨日きのうまでは身体からだから火花が出て、むくむくと血管を無理に越す熱き血が、汗を吹いて総身そうみ煮浸にじみ出はせぬかと感じた。東京はさほどにはげしい所である。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の居間の敷居をまたぐ都度つど、わたしは思わず知らず、幸福のおののきに総身そうみふるえるのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
みづうつつきうばはんとする山猿やまざるよ、無芸むげい無能むのうしよくもたれ総身そうみ智恵ちゑまはりかぬるをとこよ、よつうをもとくさうつへびをどろ狼狽うろたへものよ、白粉おしろいせて成仏じやうぶつせんことねが艶治郎ゑんぢらう
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
真っ暗な森を駈け抜ける時などは、一種の迷信的の恐怖のために、総身そうみに寒さを覚えました。
やがて村瀬の眼に青年らしい決断の色がひらめいた。一台の自動車がそれをねらつてゐたかのやうに音も無く滑り寄つて来た。明子は不思議な感動が自分の総身そうみを熱くするのを感じた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
しかし検事は、そうして遭難の夜の秘密が曝露されて、その時どこかの隅に、肉の眼には見えない異様な目撃者があったのを思うと、たまらなく総身そうみに粟立つのを覚えるのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
悟空は総身そうみの血が凍るような怖ろしさを覚え、あわてて掌の外へび出そうとしたとたんに、如来が手をひるがえして彼を取抑え、そのまま五指を化して五行山ごぎょうざんとし、悟空をその山の下に押込め
と息を引いた、てのひらへ、あぶらのごとく、しかも冷い汗が、総身そうみを絞ってさっと来た。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、繁みに身を隠して、っとした途端、ギョッとして思わず総身そうみが、鳥毛立ちました。けてることを絶対兄には、感づかれてないと思いのほか、私が今身を忍ばせた道の下まで戻って来て
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あんまりくやしいから、なんとか言ってやろうと思ったんでございますけれど、あの鬼のような侍達に、じろりとにらまれましたら、総身そうみがぞうっとしまして、どんどん逃げてまいりました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
土埃つちぼこりにまみれた半顔が、変に蒼白かった。私はぎょっとして、立ち止った。草の葉に染められた毒々しい血の色を見たのだ。総身そうみに冷水を浴びせかけられたような気がして、私は凝然ぎょうぜんと立ちすくんだ。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
松が取れてもやっぱり正月だと、外記はいよいよ春めいた心持ちになった。酒の酔いが一度に発したように、総身そうみがむずがゆくほてって来た。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この一刹那はさすがの若殿様も、思わず総身そうみの毛がよだつような、恐ろしい思いをなすったと申す事でございました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そればかりか、夜のけるほど風のつめたさがまして八寒地獄はっかんじごくのそこへ落ちたごとく総身そうみがちぢみあがってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、総身そうみに水をかけられたように、立ち上った途端に、すずりの水をひっくり返してしまいました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
文鳥はこの華奢きゃしゃな一本の細い足に総身そうみを託して黙然もくねんとして、籠の中に片づいている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
倒れるときお庭石にでも打ちつけたものか、脳天がずきりずきりとんでおります。わたくしはその谷間をようようい上りますと、ああ今おもい出しても総身そうみあわだつことでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
綱に両手をかけて足をそろえて反返そりかえるようにして、うむと総身そうみに力を入れた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自信をきずつけられた憤りに、お蓮様は、総身そうみをふるわせて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ときどきに部屋の障子に女の髪の毛がさらさらとさわるような音が耳について、彼は総身そうみに水を浴びせられたように感じた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれども半之丞に関する話はどれも多少可笑おかしいところを見ると、あるいはあらゆる大男なみ総身そうみ智慧ちえが廻り兼ねと言うおもむきがあったのかも知れません。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宗治は始終だまって聞いていたが、恵瓊が、これ以上はいうべき言葉もなしと、総身そうみを汗にぬらして、俯向うつむいてしまったのを見ると、初めて穏やかに口をひらいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その怖ろしさは、総身そうみに水をかけられるようで、ゾクゾクしてたまらないくらいです。
倒れるときお庭石にでも打ちつけたものか、脳天がづきりづきりとんでをります。わたくしはその谷間をやうやうひ上りますと、ああ今おもひ出しても総身そうみあわだつことでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
水はちょうどてであった。文鳥は軽い足を水入の真中に胸毛むなげまでひたして、時々は白いつばさを左右にひろげながら、心持水入の中にしゃがむように腹をしつけつつ、総身そうみの毛を一度にっている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
拳ぐらいで騒ぎが静まりゃいんですが、酔が廻ると火の玉め、どうだ一番相撲を取るか、とやせッぽちじゃありますがね、狂水きちがいみず総身そうみへ廻ると、小力が出ますんで、いきなりそのほうきの柄を蹴飛けとばして
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取り分けてわたくしなぞは昔者むかしものですから、ああいう芝居を見せられると、総身そうみがぞくぞくして来て、思わず成田屋ァと呶鳴りましたよ。あはははは
たがいの息と息は、その一しゅん、水のようにひそやかであった。しかも、総身そうみの毛穴からもえたつ熱気は、ほのおとなって、いまにも、そうほうの切先から火のをえがきそうに見える……。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お銀様は総身そうみへ水をかけられたようになりました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
急に総身そうみがぞっとして思わずそこに立ちすくんでしまったが、男はいつまで待っていても戻って来ない。
マレー俳優の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ブルブルッとしてくる総身そうみのふるえを抑えきれぬもののようでありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土地に馴れている堀部君は毛皮の帽子を眉深まぶかにかぶって、あつい外套の襟に顔をうずめて、十分に防寒の支度を整えていたのであるが、それでも総身そうみの血が凍るように冷えて来た。
雪女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この時ほど、お綱の気の弱々しく、そして総身そうみのすくんだことはなかった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きのうの今日であるから、お琴は総身そうみの血が一度に凍ったように感じた。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わけても、環は総身そうみを固くして、斬り人の手元をにらんでいた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論、新次郎は総身そうみがとろけるほどに嬉しかった。こうしてひと月ほど過ぎた後、新次郎が土蔵へ何かを取り出しに行ったところへ、お節もあとから忍んで来て、こんなことを彼にささやいた。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なにを目あてに生きてゆく。千枝松はこの世界が俄に暗黒になったように感ずると同時に、まだほんとうに癒り切らない病いの熱がまた募ってきた。彼の総身そうみは火にかれるように熱くなった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「えらい暑さじゃ。総身そうみがゆでらるるような」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)