ひそ)” の例文
新字:
其處で生徒に訊いて見ると、田邊先生は時々しか出席簿を附けないと言つた。甲田はひそかに喜んだ。校長も矢張り遣るなと思つた。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それで私は心ひそかに覚悟をめたのでございます。そうして当日は、乗物をも用いず辰の口のお役宅まで、お伺いしたのでございました。
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たとへば母親が何處かへ旅立つた時には、ひそかに氣遣つてゐながら、歸つて來ても驅け出して抱き付くといふやうな氣持にはなれなかつた。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
翌年よくとしになり權官はあるつみを以てしよくはがれてしまい、つい死亡しばうしたので、ぼくひそかに石をぬすみ出してりにたのが恰も八月二日の朝であつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その挙止きょし活溌かっぱつにして少しも病後びょうご疲労ひろうてい見えざれば、、心の内に先生の健康けんこう全くきゅうふくしたりとひそかに喜びたり。
受け出し長庵方に差置さしおいて折々通ひたのしまば此上もなき安心成りと思ふも若氣わかげ無分別むふんべつまよふ心の置所おきどころつゆの命と氣も付かず不※ふと惡心あくしんや發しけんひそかにたなの有金の内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其後そのゝち一高軍いつかうぐんもの見事みごと復讎ふくしゆうげたであらうが、いまだならばわたくしひそかに希望きぼうしてるのである、他日たじつ我等われらこの孤島こたうつて日本につぽんかへつたのち武村兵曹たけむらへいそう軍艦ぐんかんじやう
余はひそかに坐を会堂の一隅燈光暗き処に占め、心に衆とともに歌い、心に衆とともに祈らん、異端の巨魁たる余は公然高壇の上に立ち粛然福音をべ伝うるの許可を有せざれば
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
恋愛を自然なる境地にめて写実したるものゝ上々なる事は、余のひそかに自から信ずるところなるが、自然は即ち自然にてあれど、何の生命もなく何の希望もなく、其初めは肉情に起し
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ひそかに再会を期して上京するというは、三吉にも想像し得るように思われた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この「ガ」の先にはどんな不了簡ふりょうけんひそまッているかも知れぬと思えば、文三畏ろしい。物にならぬ内に一刻も早く散らしてしまいたい。シカシ散らしてしまいたいと思うほど尚お散りかねる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は心ひそかに沈丁花の高い香りを期待していたのである。しかし今日の暖気の中には、花の香りはなかった。やはりこの花の香は、早春の寒冷な空気の中に、漂い匂うのがふさわしいのか知れない。
落日の光景 (新字新仮名) / 外村繁(著)
私はさう思つてひそかに快を覚えて居た。
秋の第一日 (新字旧仮名) / 窪田空穂(著)
ひそかに驚きぬ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そして、ひそかに、「女の子にまで高等な學問をさせるやうになつたとすると、家の身代にも大分餘裕が出來たな。」と思つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
約束やくそくには、櫻木大佐さくらぎたいさ日出雄少年等ひでをせうねんらともに、海底戰鬪艇かいていせんとうていじやうじて朝日島あさひじまはなれ、ひそかに橄欖島かんらんたういたりて、吾等われら兩人りようにん應援おうゑんを、今日けふか、明日あすかと、くらことであらうが。
しかれども先生は従来じゅうらい他人の書にじょたまいたること更になし、今しいてこれを先生にわずらわさんことしかるべからずとこばんで許さざりしに、ひそかにこれをたずさえ先生のもとに至り懇願こんがんせしかば
然れどもひそかに居士の高風を遠羨ゑんせんせしことあるものなり、而して今や居士在らず、いたづらに半仙半商の中江篤介、怯懦けふだにして世を避けたる、驕慢にして世をげたる中江篤介あるを聞くのみ。
兆民居士安くにかある (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
是は長庵近來ちかごろ再び無頼ぶらいの行ひになりし事を知ざればなりさて又長庵は追々おのれが心がらにて困窮こんきうに及び何哉なにかによき仕事しごとあれかしと思ひ居ける所故是を見るより先々まづ/\かねつるに取付たりとひそかに悦び直に返事へんじ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、辰男はこんな話にすこしも心をそそられないで、例の通り默々としてゐたが、只ひそかにイルミネーシヨンといふ洋語の綴りや譯語を考へ込んだ。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
氣球きゝゆうがいよ/\大陸たいりく都邑とゆう降下かうかしてのち秘密藥品ひみつやくひん買收ばいしうから、ひそかにふね艤裝ぎさうして、橄欖島かんらんたうおもむまであひだ駈引かけひき尋常じんじやうことい、わたくしはやくも櫻木大佐さくらぎたいさこゝろたので、みづかすゝた。
さして立歸りやがて近所の湯屋ゆやの二階へ上りて夫となく樣子を聞糺きゝたゞし夫より近邊きんぺん割烹店れうりやへ上りひそかに千太郎を呼び出し初めて面會めんくわいに及び段々だん/\の挨拶も終りければ彼小夜衣よりの言傳ことづておちもなく物語りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
病氣が消滅したのか、ひそかに放任主義を執ることになつたゝめなのか、避病院といふこの村には開闢かいびやく以來の一種特別な建物は、年の暮れには不用になつた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
明日あすうちに立たう。」と、榮一は急に決めたが、ひそかにそれを喜んだのは、辰男だつた。明日の晩から、何時いつまでランプを點けてゐようとも、最早苦情を云ふ者はなくなるのである。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)