真物ほんもの)” の例文
旧字:眞物
冥府の役人からこういう差紙さしがみを貰って来たのだぞといって、眼のさきへ突き付けたら、先生もおそらく真物ほんものだと思って驚くでしょう。
真物ほんものの山水のなかへひたつて、自分も景物の一つになつて暮らす気持は、雪舟の名幅を見てるよりも、ずつと気が利いてるからな。」
「わしは真物ほんものだ。——源八、わしはそこへ跳び降りようと思うのだが、おまえは、降りて来たらわしを真二つに斬ろうとしているな」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「写真では彼の玩具の鳥居が真物ほんものに見えるから余程巨大な岩だと思い込む。比例尺スケールを普通の鳥居の現寸大アクチュアルサイズと考えさせるところが手だ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今も昔も変らないのが骨董こっとうの夜店であるが、銀座の夜店の骨董に真物ほんものなしといわれるまでに、イミテーション物が多いのは事実である。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
第一に、この犯人は、機密書類の『写しコピー』を取って、真物ほんものを返す積りで居るらしい。『暫らく借りて行く』と書いたのはその為だ。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「助さん、何を言うんだよ。お前さんこそ真物ほんものはちゃあんと隠しておいて独占めしようっていうんだろう。大方そんな量見だろうさ。」
世の中にはこの種類最も多けれども、あまり巧みにできたる分は、偽怪の化けの皮を現さずに、真物ほんものとなりて伝わりております。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
考えてみると似非物にせもの真物ほんもののザックバランに優ることはない。そこでいっそのこと、辮子を廃し、洋服をて、大手を振って往来を歩いた。
頭髪の故事 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかし、トムきちが、真物ほんものどおりの相場そうばで、正直しょうじきったとると、たちまち、主人しゅじんかお不機嫌ふきげんわって、おこしました。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あとから聞きましたら、それは真物ほんものの「縫いつぶし」といって、今の人が誰も作り方を知らない昔の刺繍だったのだそうです。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ちぇッ」彼は忌々しそうに舌打した「だが器用に出来てるなあ。俺は真物ほんものとばかり思っていた」そして彼は鉢を調べた。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ナニ最早もう大概吐き尽したんですよ、貴様あなたは我々俗物党と違がって真物ほんものなんだから、さいわい貴様あなたのを聞きましょう、ね諸君!」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
罪人ざいにん石山いしやまの絶頂から生きながら棄てた断崖も名所としてのこつて居るさうだ。釈迦の歯の真物ほんものは異教徒に焼かれて今のは象牙で偽作した物だと聞いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
千利久は茶器の新旧可否を鑑定して分限者ぶげんしゃになった男だが、親疎異同しんそいどうによって、贋物にせもの真物ほんものしんと言い張って、よく人を欺いたということである。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大きい方も西瓜を除けばザボンかパインアップルであろう。椰子の実も大きいが真物ほんものを見た事がないから知らん。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
やっこさん、宮岡警部に写真酷似そっくりに変装してやがった。二人宮岡警部が出来ちゃって、どっちが真物ほんものだか分らなかった。そのために遂々捕え損ったんだそうだよ
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
ただマイダス王も、この時ばかりは、こんな手の込んだ、高価な魚の模型よりも、真物ほんものの川鱒がお皿に乗っていた方がどんなにいいか知れないと思いました。
こいつだけが真物ほんものだ、と言はなければならないやうな、のつぴきならない力で迫つてくるものがあるね。かりに愛や憎しみや嫉妬といふものを挙げてをかう。
伊「師匠、れは葮簀張よしずっぱりの茶見世に居た道具屋のハタ師が持っていたんだが、あれ真物ほんものなら強気ごうきと儲かるぜ」
天井にへばりついていたために、下からは本当の蠅としか見えなかったのだ。だが誰が天井にへばりついている一匹の蠅を、真物ほんもの偽物にせものかと疑うものがあろうか。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
扱いだけじゃないんだ、僕らを真物ほんものの泥棒猫か、もっと適切にいえば、去勢した馬車馬と考えてるんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
車を横に押し親父おやじを勘当しても女房に持つ覚悟めて目出度めでたく婚礼して見ると自分の妄像もうぞうほど真物ほんものは面白からず、領脚えりあし坊主ぼうずで、乳の下に焼芋のこげようあざあらわれ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夫から森主水の繩を解いて遣ると彼は至急に運動せねば可けぬとて、其の夜の中から昨日へ掛け一生懸命に奔走して、其の反証が全く真物ほんもので有る事を夫々突き留め
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
老獪ろうかいなA——氏は私達の計画にたぶらかされはしたが、なお幾分の疑を抱いて一方木村探偵に相談すると共に、上下に一枚ずつ真物ほんものの百円紙幣を挟んだ紙束を私に呉れたのだった。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
別に何んにもありませんので、親仁殿おやじどの惜気おしげもなく打覆ぶっかえして、もう一箇ひとつあった、それも甕で、奥の方へたてに二ツ並んでいたと申します——さあ、この方が真物ほんものでござった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちで臼川のが一番劣り候。あれは少々イカサマの分子加わり居候。他は皆真物ほんものに候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ヹルレーヌの認めて最も真物ほんものの詩人となした五人の詩人中に加へられてゐるのである。
デボルド―ヷルモオル (新字旧仮名) / 中原中也(著)
ただ一枚の板で真物ほんもの同様の色彩が写されるというのがこの種板の優れた特色である。
天然色写真新法 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三色版で変な機械的なよくある図でなしに、みな真物ほんものをうつしたんですからね。
「実に面白い、帽子が二個ある……一個は我々の唯一の証拠であった真物ほんもので、馭者の頭に乗って飛んでいった他の一個は偽物で、それが君の手にある。やあ!こいつは一杯喰わされたね。」
それから、この実験に用いた真物ほんものの環も、王立協会になお保存されてある。
去年は月に十日ずつきまった作男を入れたが、美的百姓と真物ほんものの百姓とはりが合わぬ所から半歳足らずで解雇かいこしてしまい、時々近所の人を傭ったり、毎日仕事に来る片眼のおかみを使って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その中の一枚を拾い取って見ると、疑う方なき正徳判の真物ほんもの……
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
サンモリッツはにせ真物ほんもの振酒器ミックサアなのだ。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
真物ほんものじゃあございませんねえ……」
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
たぬき真物ほんものになって、ツイ、うとうととした平次、ガバと飛起きて行って見ると、お静は流し元に崩折くずおれて、顳顬こめかみを押えております。
「野郎。——よくもおれの名をかたって、しかもおれの故郷で、追剥おいはぎなどしていやがったな。さあ、偽名代かたりだいを支払え、真物ほんもののおれ様へ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの日本一太郎を真物ほんものの相良寛十郎とは知らずに、すっかりにせものを仕立てた気で出してよこしたのだから、笑わせるじゃあございませんか」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
みぎほうきましたのは、真物ほんもので、ひだりほうきましたのは贋物にせものであります。」と、おじいさんは、もうしあげました。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
していても子供がもう四人出来たぜ。これ丈けは模擬じゃない。真物ほんものの証拠に一番小さいのが一昨日から病気になって模擬看護婦に来て貰っている
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鯨はとどこおりなく由兵衛の手に渡って、十三日からいよいよ奥山の観世物小屋にさらされることになったが、これはインチキでなく、確かに真物ほんものだ。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あるいは呉一郎と瓜二つなのを利用して、真物ほんものの呉一郎に覚られないように絡み合って、奇抜巧妙な二人一役を演じながら所在ありかくらましていたものかも知れない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寛蓮たくみに帝の御いたづらの裏をかき、かねて別の枕を用意しておいて井戸へ投げこみ、自分はそつと引返してまんまと真物ほんものは我家へ持帰つてしまつたのである。
醍醐の里 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
これは博多の神屋宗湛から借りた真壺まつぼだ。よく似せてあるが、呂宋ではない。真物ほんもの真壺まつぼは、もうすこし茶の色が深く、いちめんに鶉斑が出て、揚底あげぞこになっている。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あゝの人は双児のようだと申しますから、真物ほんものの双児は似る筈ではございますが、男と女のお印が違っているばかり、一寸ちょっと見ると何方どちらが何方かさっぱり分りかねるくらい
捕ったのは真物ほんものの犯人だったのか、あるいは義賊と云われるほどの人ですから、自分の身代りに斬首される人間まで出て来ては申訳ないという考えから善心に立ち還ったものか
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
真物ほんものかにせ物か知らないが、名に聞こえた五本の刀、ズラリと並んだものである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その女用文章の中の挿画さしえ真物ほんものだか、真物が絵なんだか分らないくらいだった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「君の来るのを待っていた。どうだい、うまいだろう。しかし真物ほんもののマッシバン博士はちゃんとあるんだよ。何ならお目に掛けてもいいよ。どうだい、一緒に俺の自動車で帰らないかい?」