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犇々
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ひしひし
ふりがな文庫
“
犇々
(
ひしひし
)” の例文
ああ「自ら起て籠を開いて白鷴を放つ」白
鷺
(
ママ
)
を放つ。この情。「秋来見月多帰思」境遇の上から実感に
犇々
(
ひしひし
)
と迫るものがあったのだ。
春
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その周囲を重役以下男女社員が
犇々
(
ひしひし
)
と取り囲んで、敵選手の練習を見ている処へ乗り込んだ時には、何かなしに全身を冷汗が流れた。
ビール会社征伐
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
そして何でもこの時知らぬ顔の岩が根を埋没しないでは止まないといったように、幾重にも重り合って
犇々
(
ひしひし
)
と押し寄せているさまだ。
釜沢行
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
とたじろぐところを、折重なって、
犇々
(
ひしひし
)
と縛り上げます。ガラッ八も人柄相応に馬鹿力があるので、こんな時は存外役に立つのでした。
銭形平次捕物控:008 鈴を慕う女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
これには何か深い
仔細
(
しさい
)
がなくてはかなわぬと先刻から眼惹き袖引き聴耳立てていた
周囲
(
まわり
)
の一同、ここぞとばかりに
犇々
(
ひしひし
)
と取り巻いてくる。
早耳三次捕物聞書:02 うし紅珊瑚
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
▼ もっと見る
今は邪魔物の大身の槍を奴に担がせながら、水野を案内して屋敷へ帰る途中、いい知れない寂しさが
犇々
(
ひしひし
)
と彼の胸に迫って来た。
番町皿屋敷
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
蕭条たる気が
犇々
(
ひしひし
)
と身に応えてくる。
不図
(
ふと
)
行手を眺めると、傍らの林間に白々と濃い煙が細雨の中を
騰
(
のぼ
)
って行く光景に出遭う。
茸をたずねる
(新字新仮名)
/
飯田蛇笏
(著)
とさ、斯う思って居る中に早や外から入口の戸を
犇々
(
ひしひし
)
と締める音が聞こえる、サア大変だ。余は医学士に一ぱい
陥
(
は
)
められた。
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
看護員は
犇々
(
ひしひし
)
とその身を
擁
(
よう
)
せる
浅黄
(
あさぎ
)
の
半被
(
はっぴ
)
股引
(
ももひき
)
の、雨風に
色褪
(
いろあ
)
せたる、
譬
(
たと
)
へば囚徒の幽霊の如き、
数個
(
すか
)
の物体を
眴
(
みま
)
はして、
秀
(
ひい
)
でたる
眉
(
まゆ
)
を
顰
(
ひそ
)
めつ。
海城発電
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
やがて、谷間から、裏から表から、これへ
犇々
(
ひしひし
)
近づいて来る敵の気はいを知ると、さすがに、膝を立て、太刀をつかんで
上杉謙信
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あてつけかとも思われる葉子と義公との、奇怪なダンスも別な意味で、
犇々
(
ひしひし
)
と覆い被さる重圧をもった悪夢であった。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
当路の責任者は最も深刻にこの国と人を誤らせてはならないという感じを弥之助は
犇々
(
ひしひし
)
と胸に焼きつけられた。
百姓弥之助の話:01 第一冊 植民地の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
秋の夜が
犇々
(
ひしひし
)
と二人の身に迫っていた。二人はこの寂しいうちにお互いの触れ合い結び合う生命を感じ合った。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
その川添いの庭に、百観音のお姿は、炭俵や米俵の中に、三、四体ずつ、
犇々
(
ひしひし
)
と詰め込まれ、手も足も折れたりはずれたり
荒縄
(
あらなわ
)
でくくって
抛
(
ほう
)
り出されてある。
幕末維新懐古談:33 蠑螺堂百観音の成り行き
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
彼らの頭上には、偶然にあたりくじをひいた人気作家がひかえていて、到底わりこむ余地がないし、彼らの
脚下
(
あしもと
)
には、新鋭の新進作家が
犇々
(
ひしひし
)
とつめかけている。
昭和四年の文壇の概観
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
氏郷の家来達は勿論
甲冑
(
かっちゅう
)
で、
鎗
(
やり
)
や
薙刀
(
なぎなた
)
、弓、鉄砲、昨日に変ること無く
犇々
(
ひしひし
)
と身を固めて主人に前駆後衛した事であろう。やがて前野に着く。政宗方は迎える。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
やがて太き
麻縄
(
あさなわ
)
もて、
犇々
(
ひしひし
)
と
縛
(
いまし
)
められぬ。その
間
(
ひま
)
に彼の聴水は、危き命助かりて、
行衛
(
ゆくえ
)
も知らずなりけるに。黄金丸は、無念に堪へかね、
切歯
(
はぎしり
)
して
吠
(
ほ
)
え立つれば。
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
恁麽
(
こんな
)
風に、彼は一時間半か二時間の間、
盲目
(
めくら
)
滅法駆けずり廻つて居たが、其間に酔が全然醒めて了つて、緩んだと云つても零度近い夜風の寒さが、
犇々
(
ひしひし
)
と身に沁みる。
病院の窓
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
その時、私たちは思い思いの防水用意をして、既に右舷のブリッジのそばに
犇々
(
ひしひし
)
と詰めかけていた。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
「オーイ」と呼び返すが、先方の声はだんだん遠くなってしまい、
四辺
(
あたり
)
にはいつの間にか
犇々
(
ひしひし
)
と、おそろしい牛とか馬とかの顔をした人間の群が自分を取り
捲
(
ま
)
いている。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
しいんとして待っている観客が
犇々
(
ひしひし
)
と感じられる。イダルゴはためらった。イダルゴは胸を張った。そうしたら次ぎの瞬間、彼女は舞台でスポット・ライトを浴びていた。
踊る地平線:07 血と砂の接吻
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
晩ごはんの後、僕は部屋にとじこもって、きょう一日のながい日記を
附
(
つ
)
ける。きょう一日で、僕は、めっきり
大人
(
おとな
)
になった。発展! という言葉が胸に
犇々
(
ひしひし
)
と迫って来る。
正義と微笑
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
犇々
(
ひしひし
)
と身に迫って来るのを感じる、声を限りに叫んだが、
反響
(
エコー
)
は岩の空洞よりオーイと返すのみ、自分は友を呼ぶ、反響は自分を冷嘲する、
寥廓
(
りょうかく
)
無辺
(
むへん
)
の天の一角を
彷徨
(
さまよ
)
うて
奥常念岳の絶巓に立つ記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
徒士
(
かち
)
二十人ばかりが横列になり、先頭に抜刀をふりかざした若武者が指揮していた。かれらは黙っていた、みんな槍をぴたりと脇につけ、足並を
揃
(
そろ
)
えて
犇々
(
ひしひし
)
と進んでいった。
石ころ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
しかも自分が招待を受けなかった
此家
(
ここ
)
の盛大な晩餐会のことなどを、面白おかしく話しているのを聞くと、自分だけが
除
(
の
)
け者にされてしまったという感じが、
犇々
(
ひしひし
)
と胸へ来た。
ふみたば
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
曠野に迷った旅人のように、孤独と不安が
犇々
(
ひしひし
)
と全身をつつんで来た。熱いものの
塊
(
かたまり
)
がこみ上げて来て、ひくひくと胸が嗚咽し出したが、不思議に一滴の涙も出ないのだった。
いのちの初夜
(新字新仮名)
/
北条民雄
(著)
腰にも、腕にも、脇の下から
斜
(
はす
)
に肩へ掛けても
犇々
(
ひしひし
)
と搦んだ恐ろしい
性
(
しょう
)
の悪い藻で有った。
死剣と生縄
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
不人情者、恩知らず——父に対する哀惜の情や、跡方もなく消えた一家の
犇々
(
ひしひし
)
と身に迫る切なさから、皆は口を極めてこれらの人達を
悪
(
あ
)
し
様
(
ざま
)
に罵り、僅かに鬱憤を洩らすのであつた。
鳥羽家の子供
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
如水はねたまも天下を忘れることができず、秀吉の威風、家康の貫禄を身にしみて
犇々
(
ひしひし
)
と味ひながら、その泥の重さをはねのけ
筍
(
たけのこ
)
の如き本能をもつて盲目的に小さな頭をだしてくる。
二流の人
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
男のおそろしさを、むしろ本能的といいたいほど肉体に
犇々
(
ひしひし
)
とかんずるのである。
本所松坂町
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
夜の冷気は
犇々
(
ひしひし
)
と身に迫って来た。お婆さんは、両足を
縮
(
ちぢ
)
めて、小さくなって見たが、やはりぞくぞくするばかりであった。だが、寝床の中で震えながらも三十分間ばかり我慢して見た。
蜜柑
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
盗人たちはそれには目もくれる
気色
(
けしき
)
もなく、
矢庭
(
やにわ
)
に一人が牛の
韁
(
はづな
)
を取って、往来のまん中へぴたりと車を止めるが早いか、四方から
白刃
(
しらは
)
の垣を造って、
犇々
(
ひしひし
)
とそのまわりを取り囲みますと
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
宮は
泣音
(
なくね
)
の
迸
(
ほとばし
)
らんとするを
咬緊
(
くひし
)
めて、
濡浸
(
ぬれひた
)
れる
袖
(
そで
)
に
犇々
(
ひしひし
)
と
面
(
おもて
)
を
擦付
(
すりつ
)
けたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
此度はまた淫売のことで崇られるかな、と平常は忘れている、
其様
(
そん
)
なことが一時に念頭に上って自分をば取着く島もなく突き離されたその上に、まだ石を
打付
(
ぶッつ
)
けられるかと、
犇々
(
ひしひし
)
と感じながら
別れたる妻に送る手紙
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
北の方の空は青く
澄
(
すん
)
でいる。遠くに連っている町の頭が
犇々
(
ひしひし
)
と
重
(
かさな
)
って固っている。ぎらぎらとするのは
瓦家根
(
かわらやね
)
が多いからであろう。
翻々
(
ひらひら
)
と赤い旗も見える。長い竿の先に白い旗の
翻
(
ひるがえ
)
るのも見える。
暗い空
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
思い直して次の間からピンカートンとの間に生まれた碧い眼の子供を連れてきて領事に見せ「坊やのこのママちゃんが、雨の日も風の日も」と
犇々
(
ひしひし
)
と子供を抱きしめて我児への切々たる愛を歌い
お蝶夫人
(新字新仮名)
/
三浦環
(著)
浮雲の筆は
枯
(
か
)
れきって、ぱっちり眼を開いた五十男の
皮肉
(
ひにく
)
と
鋭利
(
えいり
)
と、
醒
(
さ
)
めきった人のさびしさが
犇々
(
ひしひし
)
と胸に
迫
(
せま
)
るものがあった。朝日から露西亜へ
派遣
(
はけん
)
された時、余は其通信の一
行
(
ぎょう
)
も見落さなかった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
深夜の気配が求めずして身に
犇々
(
ひしひし
)
と感じられます。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
ヴォルガの稼ぎのなくなったゴーリキイが「外側から
犇々
(
ひしひし
)
と鉄格子で覆われ」「日の光は粉の埃で一面の窓硝子をとおしては届かない」
マクシム・ゴーリキイの伝記:幼年時代・少年時代・青年時代
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
又は
近道伝
(
ちかみちづたい
)
の太宰府参りらしい町人なんどが真黒く、
犇々
(
ひしひし
)
と押しかけて、中央の白い
花崗岩
(
みかげいし
)
の石甃の上を、折重なるように凝視している。
狂歌師赤猪口兵衛:博多名物非人探偵
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
娘の身体が白々と見えたのは着物や光線のせいではなく、半裸体にされて、
犇々
(
ひしひし
)
と荒縄に縛り上げられているためだったのです。
銭形平次捕物控:012 殺され半蔵
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
尊いと思わなければならないと自分に言い聞かせながらも、内心、
犇々
(
ひしひし
)
と淋しい気もちに包まれていくのを、どうすることも出来なかった。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
追々と集まってくる剣客はおのおの
鎖帷子
(
くさりかたびら
)
の着込みに、筋金入りの白鉢巻をなし、門下を併せて二、三百人余り、意気天を衝いて
犇々
(
ひしひし
)
と詰めかけた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし吉次郎には
犇々
(
ひしひし
)
と思ひ当ることがあるので、その枕もとへ寄付かない養母をきびしく責める気にもなれなくなつた。彼はあまりの浅ましさに涙を流した。
魚妖
(新字旧仮名)
/
岡本綺堂
(著)
犇々
(
ひしひし
)
として悠久なる物の哀れというようなものが身にせまってくるのを覚えて、泣きたくなりました。
大菩薩峠:21 無明の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
いつも
斯様
(
かよう
)
な場所にのみ
屯
(
たむろ
)
している暗く冷い空気が不安に満ちた人の心に
犇々
(
ひしひし
)
と迫って来る。
渓三題
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
未見
(
みち
)
の境を旅するといふ感じは、
犇々
(
ひしひし
)
と私の胸に迫つて来た。空は低く曇つてゐた。目を遮ぎる物もない曠野の処々には人家の屋根が見える。名も知らぬ
灌木
(
くわんぼく
)
の叢生した
箇処
(
ところ
)
がある。
札幌
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
一方は諏訪町、駒形方面から、一方は門跡から
犇々
(
ひしひし
)
と火の手が攻めかけて来るのだが、その間は横丁の
角々
(
かどかど
)
は元より
到
(
いた
)
る処荷物の山で、我も我もと持ち運んだ物が
堆高
(
うずたか
)
くなっている。
幕末維新懐古談:13 浅草の大火のはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
渡掛
(
わたりか
)
けた橋の下は、深さ
千仭
(
せんじん
)
の
渓河
(
たにがわ
)
で、
畳
(
たた
)
まり畳まり、
犇々
(
ひしひし
)
と
蔽累
(
おおいかさ
)
なつた濃い霧を、深く
貫
(
つらぬ
)
いて、……
峰裏
(
みねうら
)
の樹立を
射
(
い
)
る月の光が、
真蒼
(
まっさお
)
に、
一条
(
ひとすじ
)
霧に映つて、底から
逆
(
さかさ
)
に
銀鱗
(
ぎんりん
)
の竜の
貴婦人
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
饑
(
ひも
)
じさと、恐ろしさと、苦痛と、寒気と、そして他の座員の嘲笑とが、もう毎度の事だったが、黒吉の身の周りに、
犇々
(
ひしひし
)
と迫って、思わずホロホロと
滾
(
こぼ
)
した血のような涙が、荒削りの床に
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
犇
漢検1級
部首:⽜
12画
々
3画
“犇”で始まる語句
犇
犇放