熨斗のし)” の例文
その箱が桐で出来ていて、金水引きがかかっていて、巨大な熨斗のしが張りつけられてあり、献上という文字が書かれてあるのであるから。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これが豆腐とうふなら資本もとでらずじゃ、それともこのまま熨斗のしを附けて、鎮守様ちんじゅさまおさめさっしゃるかと、馬士まごてのひら吸殻すいがらをころころる。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ごらんの通りの居酒屋をはじめたンで、あっしらは、まアこうして熨斗のしのついた暖簾の一枚も奮発ふんぱつして景気をつけに来ているンでございます。
私は色々考えた結果、極くおだやかにお嬢さんを取戻す工風くふうをしたのです。つまり、賊の方から熨斗のしをつけて返上させるといった方法ですね。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こちらから熨斗のしを付けて親許へ帰して上げるから、仲人を呼ぶまでのことはない、ここでハッキリした理由を言いなさいというようなわけで
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
立派に熨斗のしをつけて進上するから、ねえ、宗さん、後になっていざこざのないように一筆書いておくんなさいよ。その代りこれはわたしのこころざしさ。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「うぬ、空襲葬送曲まで、米国のお世話になるものか、いまに見ておれ、この空襲葬送曲は、熨斗のしをつけて、立派に米国へ、返してやるから……」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あつしはまだ手輕な方で、——あの娘は赤坂から麻布へかけての評判ですぜ、あの娘が貰へるなら、あつしだつて、身上は此方から熨斗のしをつける」
そりゃあ時と場合によりけりで、好きな男があるというなら、熨斗のしをつけてやらない限りもねえけれど、対手あいてに依る!
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
非常にまさった者のように思ってお梅さん熨斗のしを附けようとする! 残念なことだと彼は恋の失望の外の言い難き恨をまなければならぬこととなった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この国では贈物というものが非常に深い意味を持っている。そして如何に些少であっても、必ず熨斗のしがつけられる。
主人は紋服袴穿はかまばきで大玄関に出迎え、直ちに書院に案内して、先ず三宝に熨斗のしを載せて出して、着到を祝し、それから庄屋格だけを次の間に並列さして
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
こんな調子で御土産おみやげはとんと頂戴ちょうだいはせぬ。頂戴しないどころではない、御土産に熨斗のしをつけて返してやるのだ。
我輩の智識吸収法 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
耐忍たへしのびて田原町に到りけるに見世には客有りて混雜こんざつの樣子なれば裏へ廻りて勝手口よりひそか差覗さしのぞくに今日は餅搗もちつきと見えてそなへを取もあれば熨斗のしを延もあり或はなます
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これがよろしかろうと思いましたので、或る日、それに熨斗のしを附け、病中一方ならぬ世話に預かったお礼のしるしという意を述べて、それを合田氏に贈りました。
甚だしきはその形を忘れて「いも」と書いたり「のし」と書いたりしているのは、今はもう熨斗のしをもらっても食料にする人がなくなって無用の長物だからである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしは要らなくなった自分の命を熨斗のしにして、わたしが今世で純粋に誠実な愛を注げたと信ずる蝶子おまえに無理にも引取って貰おうかとも思って来たのだった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かびはえ駄洒落だじゃれ熨斗のしそえて度々進呈すれど少しも取りれず、随分面白く異見を饒舌しゃべっても、かえって珠運が溜息ためいきあいの手のごとくなり、是では行かぬと本調子整々堂々
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうして造船所が売屋であるのか。どうしてまた、それがいよいよ出来しゅったいの上は旗じるしとして熨斗のしを染め出しても、なお土蔵付きの栄誉を残すであろうと言われるのか。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吉原に火災があると、貞固は妓楼ぎろう佐野槌さのづちへ、百両に熨斗のしを附けて持たせて遣らなくてはならなかった。また相方まゆずみのむしんをも、折々は聴いて遣らなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
どこやらのことわざにも云うではないか。「女房と城と犬とは他人に貸すな。」と。私はあいつが私に向けて投げつけた言葉を、そのまま熨斗のしをつけて返上してやろうかと思った。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
生徒にむかって金二分持て来い、水引みずひきも要らなければ熨斗のしも要らない、一両もって来ればつりるぞとうように触込ふれこんでも、ソレでもちゃんと水引を掛けて持て来るものもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
継ぎはぎな幕の上に半分だけある大きな熨斗のしや、賛江さんえと染め出された字が、十燭の電燈に照らされている。げんのしょうこを煎じた日向くさいような匂がその辺に漂っていた。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
半襟位をあんな大きな奉書へ包んでなしの水引や熨斗のしをつけたのは茶番めいています。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
なに忘れてッたのじゃアえ、コウ見ねえ、魚肉なまぐさへえってる折にわざ/\熨斗のしはさんであるから、進上というのに違いねえ、独身もので不自由というところを察して持って来たんだ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鏡台わきの手拭かけにあった白地に市川という字が手拭一ぱいの熨斗のしの模様になって、莚升えんしょうと書いてある市川左団次の配り手拭をとらせると、上手にあねさんかぶりにして、すっと立上ると
何よりも、あの不自然な又七夫婦の態度、すこし過分な、羽二重の熨斗のし、四日前の大浚え、それから暗打やみうち——助五郎はにやりと笑った。一つの糸口が頭の中で見付かりかけた証拠である。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
かめの水がゆるがされて打ちふるえる水の輪がふちに寄ってやがて静まるとおなじように、すべての乱れはこういうふうにたちまちやわらかに熨斗のしをかけられたようにおさまってしまうのである。
しかも金水引に熨斗のしをつけた見事なその菓子折を差出しておくと、奇怪なあの目を空に見開いたまま、ふるえふるえあとずさりして、物をも言わずに怕々こわごわとそのまま消えるように立ち去りました。
それに一等賞として水引をかけて熨斗のしをつけてあったじゃないか?
或良人の惨敗 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
熨斗のしの取手のような物やロラアから出来ている器械だがな
熨斗のしをはりつけ進上申すと
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのふたの上には、熨斗のし屋の看板みたいなでっかい熨斗をはりつけ、胴中を、これも水引みずひき屋の看板みたいなべら棒に大きな水引でくくってあった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「まア、怒るな、彦兄イ。俺は二三年前から、お富坊に眼をつけていたんだ、——この縁談さえ承知なら三百八十両は結納代り、熨斗のしをつけて差上げるよ」
とこには、きのう草心尼が心をこめた立花りっか置鯉おきごいが飾られ、ふたりの前には、熨斗のし三方、向い鶴の銀箸ぎんばし、それにはまぐりの吸物などが供えられた。次に、媒人のあいさつ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卓子台ちゃぶだいの上に、一尺四五寸まわり白木の箱を、清らかな奉書包ほうしょづつみ水引みずひきを装って、一羽、紫の裏白蝶うらしろちょうを折った形の、珍らしい熨斗のしを添えたのが、塵も置かず、据えてある。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この場合贈物は通常「鰹節」(材木みたいに固く乾した魚)で、これには例の熨斗のしをつけない。
おろし表門おもてもんかゝる此時大膳は熨斗のし目麻上下なりすでにして若黨潜門くゞりもんへ廻り徳川天一坊樣の先驅赤川大膳なり開門かいもんせられよと云に門番は坐睡ゐねむりし乍らなに赤川大膳ぢやと天一坊は越前守が吟味ぎんみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
広縁の前に大きな植木棚があって、その上に、丸葉の、筒葉の、熨斗のし葉の、みだれ葉の、とりどりさまざまな万年青おもとの鉢がかれこれ二三十、ところもにずらりと置きならべられてある。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを貝十郎は桐の小箱へ納め、熨斗のしをつけ水引きをかけ、遺言状に似かよった紙片を、お浦の髪の中へひそかに入れ、小箱をたずさえると織江をめた、奥の座敷へはいって行った。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
生徒入学の時には束脩そくしゅうを納めて、教授する人を先生とあおたてまつり、入学の後も盆暮ぼんくれ両度ぐらいに生徒銘々めいめいの分に応じて金子きんすなり品物なり熨斗のしを附けて先生に進上する習わしでありしが、私共の考えに
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この俚諺はそのまま熨斗のしをつけて彼女に返上した方がいい。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
「この象牙は熨斗のしを附けて差し上げます……」
つけるわけぢやねえ。この首が欲しきア、熨斗のしを附けてくれてやるが、あの屋敷の中で死んだんぢや無禮討で濟まされるから、これほど詰らねえことはねえ
三郎進の身は、仰せにまかせてござるが、この越前守は、はや老い先なき身、この城の熨斗のしがわりに添えてただ今進上申すであろう。見たまえや、おい武者の最期を——
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひさしへ張って、浅葱あさぎに紺の熨斗のし進上、朱鷺色ときいろ鹿の子のふくろ字で、うめという名が一絞ひとしぼり
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
來た事ゆゑ土産みやげもたぬとて矢張やはりさけがよしほかの物は何を上ても其樣におよろこびなされず酒さへ上ると夫は/\何よりのお悦びなり我も同道どうだうせんにより夫は我等が宜樣よきやうにするとて五升入の角樽つのだるへ酒を入熨斗のし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紐の下に熨斗のしをはさんだ物とを、贈物として受けるのであった。
「まア、怒るな、彦兄イ。俺は二三年前から、お富坊に眼をつけて居たんだ、——この縁談さへ承知なら三百八十兩は結納代ゆひなふがはり、熨斗のしをつけて差上げるよ」
相良金吾! おれを仇とねらッて屋敷を出ているやつ! おれの大望に邪魔だてをする万太郎や釘勘と同腹のやつ! そいつに熨斗のしをつけて進上するわけにはまいらねえ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)