みだ)” の例文
その腕を広げて、あろうことか、私にみだらしいいどみを見せてまいったのです。そして、その獣物けだもののような狂乱が、とうとう私に……
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
野卑やひな凡下の投げることばのうちには、もっと露骨な、もっと深刻な、顔の紅くなるようなみだらな諷刺ふうしをすら、平気で投げる者がある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さてはその蝙蝠かわほりの翼、山羊の蹄、くちなわうろこを備えしものが、目にこそ見えね、わが耳のほとりにうずくまりて、みだらなる恋を囁くにや」
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雪之丞、みだらな雌狼めすおおかみにでもつけまわされているような怖れと、わずらわしさとに、一生懸命おさえていた、殺気が、ジーンとき上って来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
れた柘榴ざくろの実のような、紅いネバネバしたあいつの口は、みだらなことばかりを語っている。それがまた女には好もしいらしい
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠い下町の、はなやかなみだらな街に売られて行くのを出世のように思って面白そうに嬉しそうにお鶴の話すのを私はどんなに悲しく聞いたろう。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
さうしてかの柳河のただ外面うはべに取すまして廢れた面紗おもぎぬのかげにみだらな秘密をかくしてゐるのに比ぶれば、凡てがあらはで、元氣で、またはなやかである。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかも僕の見て来た認識者とは、汚れた服装で、みだらな鼻歌を歌いながら、この戸口から中を覗きこむだけのものだった。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
珈琲店に入りびたってみだらな話にふけったり、一日の仕事に疲れはてていたり、知識階級の女に飽き飽きして嫌悪けんおの念をいだいたりしています。
きわめて薄手な色白の皮膚がまだらに紅くなった。斑らに紅くなるのはある女性においては、きわめてみにくくそしてみだらだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
燃え立つような長襦袢を裾もあらわに引きはえつつ、青白い光線をふり仰いで眼を細くした姿はみだりがましいと云おうか、神々こうごうしいと形容しようか。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして山谷は、お君と安二郎にその絵を結びつけ、口に泡をためてみだらな話をした。いきなり、豹一はぎりぎり歯軋はぎしりし、その絵を破ってしまった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
どうやらあの十一人のかすめ取った女達をその左右にでもはべらせて、もう何かみだらな所業を始めているらしい容子です。
彼等かれらが、勝手放題に、みだらな踊り方をしたり、または木蔭こかげ抱擁ほうようし合っているのをみると、急にさびしく、あなたがしくてたまらなくなるのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その頃の結改場けつかいばは、裕福な町人達の樂しみ場で、矢取女に美しく若いのこそ置きましたが、決してみだらな場所ではなく、平次が盛んに働いてゐる頃は
年長の兄を差置いてと云ふ理由から、父が生きとつたら、こんな順序を心得ぬみだらな真似はさせん、とよく云つた。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
彼は、ぱふりぱふりと煙草をくゆらしながら、和尚の生活のみだらなことや、けちで、彼には卵を食わせないこと、煙草も買ってくれないことなどを話した。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
私は当時の姉のみだらな行為を聯想して、堪らなく憎悪を感じた。私自身の純な生活をも汚され、蹂躙じうりんされたやうな、強い屈辱を感ぜざるを得なかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ナオミをまん中に、浜田や熊谷が行儀の悪い居ずまいで、べちゃくちゃ冗談を云い合っているみだらなアトリエの光景が、まざまざと見えて来るのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
師が臣節をけがすのを懼れるのではなく、ただこのみだらな雰囲気ふんいきの中に師を置いてながめるのがたまらないのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それだけで東京全体が、ひどくけがらわしくみだらがましく、酸ッぱいものが咽喉のどの奥にこみ上って来るのだ。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そして、そういう騒々しい噂のなかを、ひとりお浜だけが、下腹のつき出た、裾のあわない、はっきりとみだらな印象を与える異様な姿で、屈託もなく歩きまわっている。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
漁色漢ぎょしょくかんの望月王仁は、ああいう女はムッツリ助平と云って、冷めたく取り澄しているくせに内心はみだらなものだ、案外ウブなもんで変に情熱があって一晩はよろしいものだ
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
山椒さんしょうの豆太郎、どことなくみだらな眼をニヤつかせて、さすがに争われずふっくらと白い弥生の胸元をのぞきこむようにしているので、はッとした弥生、思わず立ちあがった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その微細なものまでが、感情と意志の喰い違いを現す不自然さに苦痛を快楽として諦め返そうとする野狐やこ的な知性がうかががれると、それはみだらがましいものにさえ感じさせます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
棒縞お召のあわせ黒繻子くろじゅすの帯、えりのついた袢纒はんてんをひっかけた伝法な姿、水浅黄みずあさぎ蹴出けだしの覗くのも構わずみだらがましく立膝たてひざをしている女の側に、辰次郎が寒そうな顔で笑っていた。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は古代の希臘ギリシャの風習を心のなかに思い出していた。死者をれる石棺せっかんのおもてへ、みだらな戯れをしている人の姿や、牝羊めひつじと交合している牧羊神を彫りつけたりした希臘ギリシャ人の風習を。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
表には、ここの女たちが男を誘惑するみだらな嬌声が聞えていた。その嬌声に混って、胡弓の音がした。俺は何故ともなしにその弾き手を盲目の支那人であろうと思った。女は茶をいれた。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
そうしているうちに、博士が自分に好意をもつと同時に、みだらな葉子の熱病にも適当な診察が下されるであろうことも想像できるように思えた。何よりも博士には高い名誉と地位があった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鳴咽おえつする柿丘の声と、みだらがましい愛撫あいぶの言葉をもってなぐさめはじめた雪子夫人の艶語えんごとをまま、あとに残して、僕はその場をソッと滑るように逃げだすと、跣足はだしで往来へ飛びだしたのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼はそんなみだらな者の対手あいてになりたくはなかった。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いやしいニッケルのこなだ。みだらな光だ。)
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ここの家の娘たちのみだらな姿であった。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三角眼がみだらに光っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
錦出にしきでの皿にも、あくどい色の食物が、あたりの空気にふさわしく盛ってあった。朱塗の燭台には、ひとつひとつみだらな灯があがっている。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間も、あの女のみだりがましい、しおれた容色の厭らしさが、絶えず己をさいなんでいた事は、元よりわざわざ云う必要もない。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
決してみだらな場所ではなく、平次が盛んに働いている頃は、今日では想像されないほどの繁昌を見ていたのでした。
獣的な魂が彼のうちにあばれていた。熱く燃えたち、汗に浸って、彼はおのれを嫌忌の情でながめた。狂気じみたみだらな考えを振り落そうとつとめた。
私は朋輩の丁稚等と巫山戯ふざけたり、年長の事務員達の間に交つて、みだらな話を聞いたり、暇な時には、自由に雑誌や小説などを読んで楽しむことが出来た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
(間)幸福たらんとする乙女、既に幸福なる人妻を、思わぬ邪道に導き行くこのFなる魔法使いの、銀の竪琴のみだらの音が、あの清き音に敗けてはならぬ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さらにそれにも増していやらしかったのは旦那様のみだらなことだった。奥さんの目褄めづまを忍んでその老人のしかけるいたずらはまるで蛇に巻かれるようだった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
宵からずっと今の先迄わたくしを一室にとじこめて、みだらがましいことばかりおっしゃるのでござります。
闇太郎は、そういうお初の、みだらな、あでやかな笑いを見ると、あやしい悪寒さむけのようなものを覚えた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
風俗のみだらなのにひきかへて遊女屋のひとつも残らず廃れたのは哀れふかい趣のひとつであるが
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はすっぱな下町娘や色気たっぷりの後家ごけなどが、ゆきずりに投げてゆくこうしたみだらがましい言葉、それにさえ慣れて、はじめのような憤りや自嘲を感じなくなった栄三郎であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あまり単調で気がくるおう(⁉)そして日本の桜花の層が、ほどよく、ほどほどにあしらう春のなま温い風手かざては、いたずらに人のおもてにうちつけに触りみだれよう。桜よ、咲け咲け、うるさいまでに咲きてよ。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして形勢が悪くなるとみだりがわしく居ずまいを崩して、えりをはだけたり、足を突き出したり、それでも駄目だと私のひざへ靠れかかって頬ッぺたをでたり、口の端を摘まんでぶるぶると振ったり
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
突然にみだらなことを言い出したんです。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殊に、後宮こうきゅう生活の女性群のうちには、自然、それを助ける上品なみだらの香が濃厚であった。深窓は、その意味では、未開花の温室だった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまらない問題やかなりみだらな問題へいつもわたってゆく、不謹慎で饒舌じょうぜつな彼女らの好奇心、すべてそういう曖昧あいまいな多少獣的な雰囲気ふんいきに、彼は恐ろしく困らされた。