気質かたぎ)” の例文
旧字:氣質
時雄は時代の推移おしうつったのを今更のように感じた。当世の女学生気質かたぎのいかに自分等の恋した時代の処女気質と異っているかを思った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
構わず談じようじゃあねえか、十五番地の差配おおやさんだと、昔気質かたぎだからいんだけれども、町内の御差配ごさいはいはいけねえや。羽織袴でステッキ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藤枝蔵人老人は、そんな行届いたことまで言って退けて、武士気質かたぎを半分ほどは銷磨しょうましてしまったらしい月代さかやきで上げるのです。
士族気質かたぎのマダせない大多数の語学校学生は突然の廃校命令に不平を勃発ぼっぱつして、何の丁稚でっち学校がという勢いで商業学校側を睥睨へいげいした。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
われ等のような慶長けいちょう元和げんなの古風を慕い、まだ尚武の風のあった寛永気質かたぎを尊ぶ者などは、所謂いわゆる、頭が陳腐ふるいと云われるやつだろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方のより金の力のつよい側に一方の悪口をいったりするのは、おべっかか、お追従として、日本の気質かたぎが下劣と認めている態度である。
平和への荷役 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
先方には年老いた母親があり、私の方には老人夫婦がいるために、昔気質かたぎの義理深く、時々はこういう知らせも寄越よこしていたのでしょう。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
愛情のあたらしい表現が生れるのではなかろうか。私は、自分の血の中の純粋の津軽気質かたぎに、自信に似たものを感じて帰京したのである。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
気質かたぎの彼はそれらの事を思い合わせて、若者の前でもなんでもおかまいなしに何事も大げさに触れ回るような人たちを憎んだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうしてこういう生活もあるということを、同情者の前に展開しようとする、作者気質かたぎには双方やや似通うた点があるのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
面白いことに、今東京の面影をしのぼうとするなら、下町を訪ねるにくはありません。品物にも何か昔の江戸風な気質かたぎが残されております。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
三百代言気質かたぎに煩わしいことを以て政宗を責めは仕無かった。却って政宗に、一手を以って葛西大崎の一揆をたいらげよと命じた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
志郎は淡白きさくな軍人気質かたぎ、信吾を除いては誰とも仲が好い。緩々ゆるゆる話をするなんかは大嫌ひで、毎日昌作と共に川にゆく、吉野とも親んだ。——
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と是から丈助の悪事の一伍一什いちぶしじゅう話をしたときには、田舎気質かたぎのおしのは肝を潰してぶる/\手を震わし、涙を膝へ落しまして
質樸しつぼくな職人気質かたぎから平八郎がくはだての私欲を離れた処に感心したので、ひて与党に入れられたうらみを忘れて、生死を共にする気になつたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
騒ぎ立ててぶちこわしになることもおそれたし、それに、彼にはこのすばらしい発見を独占したいという素人探偵気質かたぎがあった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのあとでは彼らによく職人気質かたぎというものを話して聞かせた、砥石に向って仕事をしながら訥々とつとつとした調子で古い職人たちの逸話を語るとき
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私の家は黒田藩のお馬廻うままわり五百石の家柄で、お父様は御養子でしたが、昔気質かたぎの頑固一徹とよく物の本やお話にあります。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
西鶴のねらった気質かたぎものに出て来る様な社会的集団的性格の確然たる剔出、その集団的性格と性格の組合いと圧力、その力学性の徹底的見透しなど
「壇」の解体 (新字新仮名) / 中井正一(著)
弥太郎は武士気質かたぎの強い、正直律義りちぎの人物であったが、酒の上がすこしよくないので、酔うと往々に喧嘩口論をする。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
美妙に、令嬢気質かたぎを捨てろとでもいわれたためか、お転婆てんばな、悪達者わるだっしゃだともいわれ、莫蓮女ばくれんおんなのようにさえ評判された。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
畑のくろの立話にも、「今日は」「今日は」とそもそも天気の挨拶からゆる/\とはじめる田舎いなか気質かたぎで、仁左衛門さんと隣字の幹部の忠五郎さんとの間には
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『武道伝来記』に列挙された仇討物語のどれを見ても、マテリアリストの眼から見た武士気質かたぎの不合理と矛盾の忌憚きたんなき描写と見られないものはない。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それで、面倒であったり、または、腕のにぶい師匠は、そっと草鞋銭わらじせんを出して出て行ってもらったなど、これらもその当時の職人気質かたぎの一例でありました。
英国の探険家ジョージ・ホーキン氏は、愛児のジョンを失ったことを、驚きも悲しみもしたけれど、そこは冷静な英人気質かたぎ、あわても血迷いもしなかった。
素性の明らかでない連歌師宗祇そうぎであるが、こうした東常縁の目の動き方といい、宗祇の世なれた商売人気質かたぎといい、これもすべて公家の間のものではない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
それに水戸の藩から出た武士気質かたぎは、なかなか一朝一夕にぬけないで、新門のいう話なぞはまるで初めから取合わず、この興行の仕舞まで渡りをつけないで
寺内の奇人団 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
彼に雇われる以上、彼の旦那気質かたぎで、おそらく組合のことでも、対等には三吉にしゃべらせないのが眼にみえていたからだった。ほんとに地方はせまかった。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
隊長も、士官も、武士気質かたぎを持っていた。軍人が労資の対立にちょっかいを入れることをいさぎよしとしなかった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そこにいくぶん武士気質かたぎが残って、文展の審査などにも必ず五つ紋の羽織袴に威儀を正して列席したものだ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
と芳夫さんは四月から先生になるのだけれども、今のところは未だ学生気質かたぎが抜けない。治にいて乱を忘れず、師弟関係も常にストライキの折の要領でいる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その謎は吉平にも判らないことはなかったが、彼はそれを潔としない程気を負うた武士気質かたぎの男であった。
義人の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
このギルドの気質かたぎと仁義にかなわないような学問や人物は、「学術」でもなければ「学者」でもない。
社会時評 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
当時流行の気質かたぎ本を読み、狭斜きょうしゃちまたにさすらひ、すまふ、芝居の見物に身を入れたはもとよりである。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
武男が母は昔気質かたぎの、どちらかといえば西洋ぎらいの方なれば、寝台ねだいねてさじもて食らうこと思いも寄らねど、さすがに若主人のみは幾分か治外の法権をけて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
蘿月宗匠そうしょうはいくら年をとっても昔の気質かたぎは変らないので見て見ぬようにそっと立止るが、大概はぞっとしない女房ばかりなので、落胆らくたんしたようにそのまま歩調あゆみを早める。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ましてその頃はまだ武士気質かたぎの、律義りちぎな男でござりましたから、お女中の御機嫌をうかゞうことなどは出来そうもござりませなんだのに、お二た方の御前へ出ますと
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
気質かたぎの一徹な敬吉の父は、敬吉の再度の不始末に、火のやうに怒つてしまつた。おくみの前借を、抱主に払つた代りに、敬吉には、以後絶対に送金せぬと云つて来た。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
父は由緒ある家系を誇る昔し気質かたぎの人間であるばかりでなく、娘の家を常々卑しんでいて、ことにエドナの性質を見抜いて、「鬼女」という綽名あだなをつけた程であるから
誤った鑑定 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
おさむらひ気質かたぎがすたれて、次第に実力で押し通す時代が現出されて居る時、買物をする女の心も、昔のやうに浮々としないで根拠のあるものになつてゆくのであらう。
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
学校を出るとなるたけ早く月給にありついてつていふ当節の青年気質かたぎを、自分が一番代表してゐるやうな気がして、途端に僕は、あそこへ勤めてるのがいやになりました
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
欧洲戦乱は誰も知つたやうに、其辺そこらぢゆうに成金をこしらへて、成金気質かたぎといふ一種の気風さへ出来たが、その気質かたぎにも東京と大阪とでは、大分だいぶん色彩いろちがふところが面白い。
されどもこなたへはたやすく顔も出さざるを、世間気質かたぎの善平は大いに面白からず思いぬ。第一不断からおれを軽蔑けいべつして、と伯父おいの間は次第にむずかしくならんとす。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
父親の手紙は、いつも同じようであったが、お島の身のうえについて、立っているらしいろくでもないうわさが、むか気質かたぎ老人としよりを怒らせている事は、その文言もんごんでも受取れた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女はこれまで素振にも見せなかつた物やさしい母親気質かたぎ情緒サンテイマンで話しながら荷物の緒を解いた。
素描 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
応答の内にはいずれも武者気質かたぎ凜々りりしいところが見えていたが、比べ合わせて見るとどうしても若いのは年を取ッたのよりまだいくさにも馴れないので血腥気ちなまぐさげが薄いようだ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
馬鹿野郎呼はりは太吉をかこつけにれへの当こすり、子に向つて父親てておや讒訴ざんそをいふ女房気質かたぎれが教へた、お力が鬼なら手前は魔王、商売人のだましは知れてゐれど
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
道具屋輩をして呆然ぼうぜんたらしめるようなより以上な巧言令色はお茶人気質かたぎの旦那筋にこそあって、本当の商売人という凄腕すごうでは果たしていずれであろうかが分明しない現実もある。
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
彼はクリストフとは異なった道徳観をいだいていた。一種の青年気質かたぎでもって、両性間の関係のうちには、道徳的性質をことごとく脱した自由な遊戯をしか見たがらなかった。
これは世界に例のない床しい習慣だと思う。芸の危さを本能的に知っている職人気質かたぎしからしむるところだ。ただ不思議なことに、近代の作家と評論家にこの風習が欠けていた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)