正気しょうき)” の例文
旧字:正氣
とにかく彼はえたいの知れないまぼろしの中を彷徨ほうこうしたのちやっと正気しょうきを恢復した時には××胡同ことうの社宅にえた寝棺ねがんの中に横たわっていた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
君がいつかきん青年の殺人犯人のことで、『犯人は気が変だ。それが馬鹿力を出して金を殺し、その直後に正気しょうきに立ちかえって逃走した』
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて正気しょうきかえってから、これはきっと神様が意見をして下さるのか、それともきつねたぬきかされたのか、どちらかだろうと思いました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それを、弓矢ゆみやにかけてもと申したいまの一ごん、それは正気しょうきか! おどかしか! 見ごと取れるものなら武力をもって取ってみろ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気をうしなっていたあき子さんが、きゅうに、正気しょうきづいて、いれられたばかりの車から、出てきたのでしょうか。
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昔、磔刑はりつけになる人間は、十字架じかの上へ乗せられると、すでに半分正気しょうきを失って居たと云うが、己は椅子にこしをかけたとたんにもう、催眠術にかゝッて居た。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし宗教にはどうも這入はいれそうもない。死ぬのも未練に食いとめられそうだ。なればまあ気違だな。しかし未来の僕はさておいて、現在の僕は君正気しょうきなんだろうかな。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西田はこういいてて、細君の寝間ねまへはいった。細君も同情どうじょう深い西田の声を聞いてから、夢からさめたように正気しょうきづいた。そうしてはいってきた西田におきて礼儀れいぎをした。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いっしょにいったものが、諭吉ゆきちそとにつれだしみずをのませると、やっと正気しょうきにかえりました。
うつしけめやも」、うつつごころに、正気で、しっかりして居ることが出来ようか、それは出来ずに、心が乱れ、茫然ぼうぜんとして正気しょうきを失うようになるだろうという意味に落着くのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
渠は実に死すべしとおもいぬ。しだいに風み、馬とどまると覚えて、直ちに昏倒こんとうして正気しょうきを失いぬ。これ御者が静かに馬よりたすけ下ろして、茶店の座敷にき入れたりしときなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もちろんです。どうも正気しょうきにはもどらないのじゃないかと心配しています。」
米友を口説くどき落したつもりの道庵は、いよいよ有頂天うちょうてんで、多年の慈姑頭くわいあたまをほごして、それを仔細らしく左右に押分け、鏡に向ってしきりに撫でつけているところは、正気しょうき沙汰さたとも見えません。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はわたしがたまたま会った人のうちでいちばん正気しょうきで、いちばん気まぐれの少ない人物であろう。昨日も今日もおなじだ。むかし、われわれはともに散歩し、語り、首尾よく俗世界外にあそんだ。
でも、いつまでも胸がわくわくして、正気しょうきがつかないようでした。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
といいながら、そこにたおれているおひめさまをこして、しんせつに介抱かいほうしました。おひめさまがすっかり正気しょうきがついて、がろうとしますと、すそからころころとちいさなつちがころげちました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
命はそれといっしょに、ふと正気しょうきにおかえりになって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ちょっとるとまるで正気しょうきのようである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼は狐に鼻をつままれたような気持でしばらくは呆然ぼうぜんとしていたが、やがてハッと正気しょうきにかえって、急いで制服を身につけ短剣を下げると
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて、長者の家の人達が、正気しょうきづいてけつけてみますと、庭の中が黒こげになっていて、長者は姿も見えませんでした。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
木隠龍太郎こがくれりゅうたろうのために、河原かわらへ投げつけられた燕作えんさくは、気をうしなってたおれていたが、ふとだれかに介抱かいほうされて正気しょうきづくと、鳥刺とりさ姿すがたの男が
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、実際厳密な意味では、普通正気しょうきで通っている人間と精神病患者との境界線が、存外はっきりしていないのです。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
礼子はただがたがたふるえて母を見守みまもっている。母はほとんど正気しょうきうしなってものすさまじく、ただハアハア、ハアハアといきをはずませてる。はっきりと口をきくものもない。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ことによると寝ぼけて停車場を間違えたんだろうと気づかいながら、窓からながめていると、けっしてそうでない。無事に改札場を通過して、正気しょうきの人間のように出て行った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ですが、この八形八重という女は、どうも正気しょうきらしいですぜ。この前の事件で、刑務所に入るのがいやで、装っていたんじゃないですかなあ。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
正気しょうきにかえって、ポカンとあたりを見まわしたのは、ゆうべ、今宮神社いまみやじんじゃ境内けいだいで、馬にけられてヘドをいて、あのまま気絶きぜつしていた泣き虫の蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて明くる日になって見ると、成程なるほど祖母の願がかなったか、茂作は昨日きのうよりも熱が下って、今まではまるで夢中だったのが、次第に正気しょうきさえついて来ました。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
弦三は、地響きのために、いまにも振り落されそうになる吾が身を、電柱の上に、しっかりささえているうちに、やっと正気しょうきに還ったようであった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
常子は青い顔をしたまま、呼びとめる勇気も失ったようにじっと夫のうしろ姿を見つめた。それから、——玄関の落ち葉の中に昏々こんこん正気しょうきを失ってしまった。……
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女は或るはなはだ面目ないことを仕でかし、面目めんもくなさにシオらしく、ドボーンと投身自殺を果したとする。やがていよいよ死の国で、わがC子は正気しょうきづく。
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
さても御主おぬしは、聞分けのよい、年には増した利発な子じゃ。そう温和おとなしくしてれば、諸天童子も御主にめでて、ほどなくそこな父親てておや正気しょうきに還して下されよう。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
正気しょうきづいたときは、すでに半年あまりの月日がたっていたのだからなあ。そのあいだ自分は、全く無我夢中で、生死の間を彷徨ほうこうしていたのだと後になって聞かされた。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのせいでございましょうか、昨夜さくやも御実検下さらぬと聞き、女ながらも無念に存じますと、いつか正気しょうきを失いましたと見え、何やら口走ったように承わっております。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
警鈴けいれいが、あまりに永いこと鳴り響くので、私はやっと正気しょうきづいたのであった。いや、全く、本当の話である。それほど、私はずいぶん永いこと放心の状態にあった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
童部わらべはこう何度もわめきましたが、鍛冶はさらに正気しょうきに還る気色けしきもございません。あの唇にたまった泡さえ、不相変あいかわらず花曇りの風に吹かれて、白く水干すいかんの胸へ垂れて居ります。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ぼんやり立っていた丸尾は、ここでやっと正気しょうきにかえって、命ぜられた方向探知器にとりついた。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕はただ目の前に稲妻いなずまに似たものを感じたぎり、いつのにか正気しょうきを失っていました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「一寸待ったAさん。君の話は面白いが、何だか落語か法螺大王ほらだいおうの話をきいているような気がする。Aさん、怒っちゃいけないよ——君は本当に正気しょうきで言ってるのかい。」
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
桶の上に乗った女も、もう一度正気しょうきに返ったように、やっと狂わしい踊をやめた。いや、鳴き競っていた鶏さえ、この瞬間は頸を伸ばしたまま、一度にひっそりとなってしまった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを助け起してみると、なんのこと、艇内に残っているように命じてあった佐々さっさ記者だった。彼は深傷ふかでに気を失っていたが、ようやく正気しょうきにかえって一行にすがりついた。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先ず何よりも先に、閣下はわたくし正気しょうきだと云う事を御信じ下さい。これ私があらゆる神聖なものに誓って、保証致します。ですから、どうか私の精神に異常がないと云う事を、御信じ下さい。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
子供の時に彼の家の廚房ちゅうぼうで、大きなかまどの下に燃えているのを見た、鮮やかな黄いろい炎である。「ああ火が燃えている」と思う——その次の瞬間には彼はもういつか正気しょうきを失っていた。………
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その後一ヶ月をて、彼らはようやく正気しょうきらしいものに立ち帰ったようである。その証拠には、あれから一ヶ月程してから、彼らはしきりにいそがしそうに仕事を始めたことを以てうかがうことが出来る。
御承知かも知れませんが、日錚和尚にっそうおしょうと云う人は、もと深川ふかがわの左官だったのが、十九の年に足場から落ちて、一時正気しょうきを失ったのち、急に菩提心ぼだいしんを起したとか云う、でんぼう肌の畸人きじんだったのです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雨谷君も、まず正気しょうきにかえって、いまではふつうの人のようになり、退院も間ぢかという話であった。この雨谷君に茶釜の破片を持っているなら、参考のために見せていただきたいと申し入れた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「え、なんだって、金属Qを追跡しているって。きみは正気しょうきかい」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は、はっと正気しょうきに戻った。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)