故意こい)” の例文
とかく我々が思わぬことを聞いたり見たりすると、一時案外あんがいの驚きに打たれて、その人が故意こいに我をあざむけりと判断することがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
煽動あふり横顔よこがほはらはれたやうにおもつて、蹌踉よろ/\としたが、おもふに幻覚げんかくからめた疲労ひろうであらう、坊主ばうず故意こいうしたものではいらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おれはこのとおり力が自慢だ、負かすのは失礼だと思ったが、さりとて故意こいに負けるとへつらうことになる、互角ごかくぐらいにしておこうと思った。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
故意こいにしても偶然にしても、とにかく仇討を延び延びにすることによって、そういう生半可なものをすぐり落された、もみぬかとをり分けられた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
私はつい覚えていた独逸ドイツことわざを返事に使いました。無論半分は問題を面倒にしない故意こい作略さりゃくまじっていたでしょうが。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あまり諸事を掘り下げすぎて自分の馬脚ばきゃくを発見したくなかったので、故意こいすべてを漠然の中にえたまま、とに角小笠原は自分の親愛な同志であるように感じた。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
また患者くわんじやあし依然いぜんとしてもんにはえぬ。あさからひるまでる四十にん患者くわんじやに、奈何どうして確實かくじつ扶助たすけあたへることが出來できやう、故意こいならずとも虚僞きよぎしつゝあるのだ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
蘿月は何というわけもなく、長吉が出水でみずの中を歩いて病気になったのは故意こいにした事であって、全快するのぞみはもう絶え果てているような実に果敢はかないかんじに打たれた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
でも、メイスンは容易たやすくどうにでもなる人のやうに思はれます。あなたの勢力はあの方には確かに強く働いてゐます。あの方は決してあなたに反抗したり、故意こいにあなたを
それは深山理学士が戸棚の中に秘蔵ひぞうしていた或る品物だったが、彼はそれを係官に報告しなかった。それは決して忘れたわけではなくて、故意こいに学士の心にめたものと思われる。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そのために、故意こいに、突き刺したまま、抜かずにおいたものでござりましょうか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政府の故意こいにして、ことさらに官途の人のみにこれをあたうるに非ず、官職の働はあたかも人物の高低をはかるの測量器なるがゆえに、ひとたび測量してこれを表するに位階勲章をもってして
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
けれども夜がけて、母がもう寝ようと云い出すまで、彼女は高木の事をとうとう一口も話頭にのぼせなかった。そこに僕ははなはだしい故意こいを認めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蘿月らげつなんふわけもなく、長吉ちやうきち出水でみづの中を歩いて病気になつたのは故意こいにした事であつて、全快ぜんくわいするのぞみはもう絶え果てゝゐるやうなじつ果敢はかないかんじに打たれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
また患者かんじゃあし依然いぜんとしてもんにはえぬ。あさからひるまでる四十にん患者かんじゃに、どうして確実かくじつ扶助たすけあたえることが出来できよう、故意こいならずとも虚偽きょぎしつつあるのだ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
まず最も多いインチキは、何といっても、故意こいにまちがったパイを持ちながらあがってしまうことである。その和りは、極めて得点がすくないのを通例とし、多くは二十二アルシーアル、又は二十四アルシースーである。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その仲間入りすることから私は故意こい除外ぢよぐわいされてゐるといふことであつた。
「私にもそんな気はちっともなかったの。つい自然そこへ持って行かれてしまったんだから故意こいじゃないのよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きにさうかも知れない。然しこの間違つた、滑稽な、ぬえのやうな、故意こいになした奇妙の形式は、しろ言現いひあらはされた叙事よりも、内容の思想をなほ能く窺ひ知らしめるのである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
故意こいならず犯罪はんざいすことがいともはれぬ、ひと讒言ざんげん裁判さいばん間違まちがひなどはべからざることだとははれぬ、そもそ裁判さいばん間違まちがひは、今日こんにち裁判さいばん状態じやうたいにては、もつとべきことなので
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この証拠湮滅しょうこいんめつは、あまりに立派すぎる。偶然にしてあまりに不幸な出来事だし、若し故意こいだとするとその犯人は鬼神のような奴だと言わなければならない。他殺の証拠を見付けることは困難だ。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
故意こいに運命が定めたものゝやうに思はれた。
御米およねはこれを故意こいから小六ころく仕打しうちかともうたぐつた。しか自分じぶん佐伯さへきたいして特別とくべつ利害りがいかんじない以上いじやう御米およね叔母をば動靜どうせいみゝにしないはうを、かへつてよろこんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
故意こいならず犯罪はんざいすことがいともわれぬ、ひと讒言ざんげん裁判さいばん間違まちがいなどはありべからざることだとはわれぬ、そもそも裁判さいばん間違まちがいは、今日こんにち裁判さいばん状態じょうたいにては、もっともありべきことなので
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今度こんだおればんかもれない」とことがあつた。御米およねはそれを冗談じようだんともき、また本氣ほんきともいた。まれにはかくれた未來みらい故意こい不吉ふきつ言葉ことばとも解釋かいしやくした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それはイミテーションでないか知らぬが、事によると故意こいに反対することもある。これは不可いけない。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御米はこれを故意こいから出る小六の仕打かともうたぐった。しかし自分が佐伯に対して特別の利害を感じない以上、御米は叔母の動静を耳にしない方を、かえって喜こんだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどもそれはあながちに、自分達じぶんたちうへついて、とく御米およね注意ちゆういためくちにした、故意こい觀察くわんさつでないのだから、あらたまつてたゞされると、こまるよりほかはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
読者の悪感情を引き起す為めに、書いてるとしか思はれやしない。徹頭徹尾故意こいだけで成り立つてゐる。常識のあるものが見れば、うしてもためにする所があつて起稿したものだと判定がつく。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
故意こいを昨夕の津田に認めているらしい清子の口吻こうふんが、彼を驚ろかした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)