みさお)” の例文
母の庇護ひごがあればこそ、これまで化物屋敷に無事でいたお艶! その母の気が変わって、今後どうして栄三郎へみさおを立て通し得よう?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まだうらわかでありながら再縁さいえんしようなどというこころ微塵みじんもなく、どこまでも三浦みうら殿様とのさまみさおとうすとは見上みあげたものである。
浄瑠璃じょうるりの言葉に琴三味線の指南しなんして「後家ごげみさおも立つ月日」と。八重かくてその身の晩節ばんせつまっとうせんとするの心か。我不われしらず
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「私はみさおを売ろう」そこで彼女は、生命力の最後の一滴をらしてしまったんではあるまいか。そしてそこでも愈々いよいよ働けなくなったんだ。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
江景こうけいというところで独力で病院を経営している福原という人の細君が、祖母を訪ねて来た。その女はみさおといって、祖母の姪の一人である。
「それはそれは、しかしそなたほどの美しさを、ようまあ、世間がそのままにして置くものじゃ——よほど、みさおの堅固なお人と見えるのう」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
文吉ぶんきちみさおを渋谷にうた。無限の喜と楽と望とは彼の胸にみなぎるのであった。途中一二人の友人を訪問したのはただこれが口実を作るためである。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
ましてこんなみじめな生き方をしていらっしゃる人を、みさおを立てて自分を待っていてくれたかと受け入れてくださることはむずかしいでしょうね
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
段々と様子をきいて見れば私風情にみさおをたてゝ下さるお志が何うも知らぬと申しにくゝ、鳶頭の前だが誠に申訳のない次第
内儀(妻)のみさおといっしょにしばられて、伝馬町の牢にいれられ、日夜の責め問いに、いのちも危くなっているのだよ。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「やつがれの思うところによれば、そのお妻さんという女太夫さんは、佐用姫様のように色っぽいと一緒に、佐用姫様のようにみさおが正しいはずで」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
売女ばいじょのうちでもいちばんいやしい夜鷹、二十文か三十文の金で、女のいちばん大切なみさおを切売りする女、この女は十両の金が欲しくはないのだろうか
これが変わらぬ愛情なんていうものですか? わたしは夫に対してみさおを立てています。クラムにですって? クラムは一度わたしを恋人にしましたよ。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
妾が、自分のみさお清浄しょうじょうに保ちながら、荘田を倒し得ても、社会的には妾は、荘田の妻です。何人なんぴとが妾の心も身体からだも処女であることを信じてれるでしょう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして、娘は自分の態度を説明するのに女のみさおというような決定的の文字さえ使っていた。娘はなお、自分のわずらって居ることを報告して切々情をうったえている。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼方此方あっちこっち見て歩いている間に、前学期中老河原さんのところで度々蕎麦切そばきりの御馳走になったお礼にみさおさんへ何かお土産をと思いついて、コルクの草履を一足買った。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は腹立たしさと寂しさとで、いくら泣くまいと思っても、なく涙があふれて来た。けれども、それは何も、みさおを破られたと云う事だけが悲しかった訳ではない。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昔の仇討あだうち物語を、最も興奮して読んでいる。女はみさおが第一、という言葉も、たまらなく好きである。命をかけても守って見せると、ひとりでこっそり緊張している。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
世のくだれるをなげきて一道の光を起さんと志すものが、目前の苦しみをのがれるために、尊ぶべきみさおを売ろうかと嘲笑した。とはいえ、救いは願っていたのである。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そしたら、やっと居所が知れて、会えたことは会えたけど、直きその恋人が病気になりやはって、死んでしもたんで、それから一生みさお立てて、独身通してはりますねん
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みさおと言うことを壊されてしまった女とが、相抱いて別れる時にも、捨てたものとも、拾ったものとも思わないように両方で平然としているその顔が見たいような気がした。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
水鳥のたぐいにもみさおというものがあると見えまして、雌なり雄なりが一つとられますと、あとに残ったやもめ鳥でしょう、ほかの雌雄が組をなして楽しげに遊んでる中に
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
れは旧幕府にみさおを立てゝ新政府に仕官せぬ者である、将軍政治をよろこんで王政を嫌う者である、古来、革命の歴史に前朝の遺臣とう者があるが、福澤もその遺臣を気取きどっ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
したのだ。海賊の女房だってみさおというものは心得ているのだ。サア、早く行って見るがいい
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
というてそのみさおをも守らず自分の身分をも考えずに、良人が死んでまだ四十九日たぬうちに最早お代りが出来て居るというに至っては、実にあきれ返らなければならぬのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
夫人が気が附いて見ると大原はそこらに居なかった。はっと思って頭に手をやると髪の毛がひどく乱れていたので、夫人は非道な方法で大原のためにみさおを破られたと思ったのである。
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
歌を歌ったからとてゾレ名の立つわけはないという意味の歌もあったのを見ると、そういう才女は自然にめずる人が多くて、久しくそのみさおを守っていられない傾きがあったのであろう。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
藤右衛門はその表紙の「松の花」という題簽だいせんをあらためて見なおした、松の緑はかわらぬみさおの色だ、そこにえらまれたのはあらゆる苦難とたたかった女性たちの記録である、いまの世にひろめ
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
マックロケのケエの手習草紙みたいな花魁おいらんみさおに、勿体ない親御様の金を十円も出しやがる位なら、タッタ二銭でこの孝行娘の辻占を買って行きやがれ。ドッチが無垢むく真物ほんものだか考えてみろ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
太十のみさおをすると、自由にくだける所があるが、輝虎配膳の老女(越路)などの役は非常に苦しんでいる。彼は顔を見ても悪婆という感じはせず、瞳が黒い上に、上品な顔の輪廓りんかくを持っている。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一体、わが国の婦人は、外国婦人などと違い、子供を持つと、その精魂をその方にばかり傾けて、亭主というものに対しては、ただ義理的にみさおばかりを守っていたらいいという考えのものが多い。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「ずっとみさおを立て通したの?」
だ近辺の噂にては倉子のみさお正しきは何人も疑わぬ如くなれど此辺の人情は上等社会の人情と同じからず上等の社会にては一般に道徳と堅固にして少しのかどあるもたゞちに噂の種とり厳しく世間より咎めらるれど此辺にては人の妻たる者が若き男に情談口を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
みさお
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「これ我こそは天帝ゼウスの神じゃ。嘘や偽りを申してはならぬぞ。でお前にたずねるが、よもや芳江姫は鬼王丸のためにみさおを破りはしないであろうな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はためくいなずまの光をまつまでもなく、やさしい声はまぎれもなく泉田筑後の妻——お千代の母親のみさおです。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
数万の人の命に代るような、大事な場合は、大切なみさおを犠牲にすることも、立派な正しいことに違いない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
聴くと、どこかに隠れているうちに、横山五助とかいう、お屋敷出入りの悪ざむらいにつけまわされ、みさおを守るために、その男を、突ッ殺したとかいうことで——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ふと老人は鶴子がみさおを破ったのはあるいは放蕩無頼ほうとうぶらいな倅にあざむかれたためではないかという気がした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その代りには一生みさおを立て通しておくれよという意味がこもっているのだしお遊さんもそれは承知であれだけ栄耀栄華えいようえいがをしても不品行なうわさはきいたこともないので
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
世間様へ通るみさおがどうのこうのとは申しませんが、あの時は、仏頂寺を憎いと思うよりは、あなたを心から憎いと思いました、今でもあの時のことを考え出すと、憎い!
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、おれはこう思った。あの女のはだは、おおぜいの男を知っているかもしれない。けれども、あの女の心は、おれだけが占有している。そうだ、女のみさおは、からだにはない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
芸は売っても、からだは売らぬなんて、みさおを固くしている人は、そこは女だ、やっぱりからだをまかせると、それっきりお客がつかず、どうしたって名妓には、なれないんだ。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お耳慣れました西洋人情話の外題げだいを、まつみさお美人びじん生埋いきうめとあらためまして…これはいけはた福地ふくち先生が口うつしに教えて下すったお話で、仏蘭西フランス侠客おとこだて節婦せっぷを助けるという趣向
祖母は貞ちゃんを女学校にあげる相談もあり、かたがた、祖母の本家に当るみさおさんの実家から長男の結婚式に招待されていたので、広島まで行くことに前からきまっていたのであった。
蓮月 ——(屹度きっと座り直し然し、息は切れ切れに)わたしは女に還りました。女に還った以上は女の意地というものがあります。脅かしや腕力でみさおを奪おうなどという男に素直にこの体は渡せません。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
数年前、長女のみさおさんに婿養子を迎える場合もこの通りだった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
みさおというのは、彼が不義を働いた、幸右衛門のめかけの名だ)
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さように不覚の女のこと、恐らく女のみさおなんども、とうに破られておろうわい!」さすがに声はうるんでいた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こいつはもと品川で勤めをしていた三十女で、以前は武家の出だというが、自堕落じだらくの身を持崩もちくずして、女のみさおなんてものを、しゃもじのあかほどにも思っちゃいない。