ねじ)” の例文
今まで気もつかなかった、変にねじけた自我がそこに発見された。葉子をおどかすようなことも時には熱情的に書きかねないのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
琵琶びわ海老尾えびおに手をかけて、四つのいとねじをしきりと合せていた峰阿弥みねあみは、やがて、調べの音が心にかなうとやや顔を斜めに上げて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから片隅の手洗場のコックをねじって、勢よくき出る水のシブキにせかえりながら、ゴクゴクと腹一パイになるまで呑んだ。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
由「これは何うも御機嫌宜しゅう……先刻さっきもちょいとお噂を致しましたが、是れは何うも……今度は首ねじりじゃアないのでしょう」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「やあ作平さくべいさんか、」といって、その太わくの面道具おもてどうぐを耳からねじり取るよう、ぎはなして膝の上。口をこすって、またたいて
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帯の掛けを抜いて引き出したので、薄い金紗きんしゃあわせねじれながら肩先から滑り落ちて、だんだらぞめ長襦袢ながじゅばんの胸もはだけたなまめかしさ。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また器械の廻転軸のねじれを直接光学的に読み取るトーションメーターの考案も最も巧妙なものとして帝国学士院から授賞されたものである。
工学博士末広恭二君 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
警部は黙って書斎に通ずるドアに近づき、そのハンドルに手を掛けましたが、厳重に締っている様子で、押してもねじってもビクともしません。
彌作も魂消たまげて息を殺していると、𤢖は鶏舎とやの中から一羽をつかみ出して、ぎゅうとくびねじって、引抱ひっかかえて何処どこへか行ってしまったと云いますよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
下女が怪訝けげんな顔をして小さい球と取り換えましょうかと聞くと、いいえさ、そこをちょいとねじって暗くするんだと真面目まじめに云いつけるので
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たちまちわたしはとてもこんな処にいられないと思った。同時にわたしは機械的に身をねじって力任せに外の方へと押出した。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
この場合も、冷水のつもりで熱湯をねじって、それこそ手を焼く——などという大失敗を演ずる旅行者が、ちょいちょいある。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
髪もありあまるほどの濃い沢山なのを、洗髪のねじりっぱなしの束髪にして、白い小さな、四角な肩掛けを三角にかけていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この形が、一種の記号語パジグラフィなんだよ。元来死者の秘顕なんて陰険きわまるものなんだから、方法までも実にねじれきっている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いさゝかランプの心をねじると、卓子の上の物皆明るく、心もおのずからあらたまる。家族一同手をひざに、息をのんでひかえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
春田龍介はそういって、怪しの手紙を無雑作にポケットへねじこむと、皆に挨拶して大股にグラウンドを立去った。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
トダ人蛇咬を療するに、女の髪をねじり合せて、創の近処三所括り呪言を称う(リヴァルス著『トダ人篇』)。
膝においた手をねじるように揉んだが、汗がまとっているからでもあろう、ツルリツルリと指がはずれた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これを譬えば力士がわれに腕の力ありとて、その力の勢いをもって隣の人の腕をねじり折るがごとし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
腕をねじって上向けにしたり、下向けにしたりする変化とも、思われたが、偃松で眼近かに見ると、そうではなく(枝にしるしをつけて試してみたが)、指をただ下に屈したり
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
げてねじって紺屋こうやなどにも持って行くのだが、以前ははたを織る女がそのままで首に掛けていることもあったらしく、それが大きな蚯蚓の首に白い輪のあるものと似ているので
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
暫らく文三がシケジケと眺めているト、やがて凄味のある半面よこがおが次第々々に此方こちらねじれて……パッチリとした涼しい眼がジロリと動き出して……見とれていた眼とピッタリ出逢であう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これは立像りゅうぞうで、手にはちすを持っている。次が制吒迦童子せいたかどうじ、岩に腰を掛け、片脚かたあしを揚げ、片脚を下げ、ねじり棒を持っている。この二体が出来て来ると、次は本体の不動明王を彫るのです。
雲はまるで渦のかたまりで、ねじれ合い、もつれ合って、ぐるぐる廻っている。この映画を見られた藤原先生も、あまりにも雲が、自分で考えていたとおりの運動をするので、ひどく驚かれた。
映画『人類の歴史』 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
六本かためてったようなものらしいと、藤吉は、局所の皮膚のねじれ工合いなどから判断したのだが、それならいっそう、そんな糸で首を絞めつけたぐらいで、あの武右衛門が即死しようとは
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
表の店の鉄の棒が、飴をねじるように捻切ってありました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戸田老人はねじ鉢巻はちまきをして熊笹を刈りひろげていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
と廊下づたいに参り、ふすま建附たてつけ小柄こづかを入れて、ギュッと逆にねじると、建具屋さんが上手であったものと見えて、すうといた。
ウーとうなると、グイと糸をひっぱって、編棒で突きさしたりして、丸い毛糸の玉を、むしゃくしゃにねじりあげてしまった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
暫く坐っているうち我慢がしきれなくなって、中仕切の敷居際に置いた扇風機の引手をねじったがこわれていると見えて廻らない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そっと体を横にねじって、床下ゆかしたから上をのぞくと、銀五郎の半身は、濡るるを忘れて、弦之丞の帰りを気づかいながら、また独りごとを洩らしている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夢中で居ながら、あれ、が来てうらむ、が来て責める、咽喉のどめる、指を折る、足をねじる、苦しい、と七転八倒。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんなに高い処に在る電球のスイッチを、楽々と手を伸してねじって行った、その素晴しい背丈せいの高さ……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこで、熱と右の耳は左へ——というヘルムホルツの定則どおりに、たちまち全身がねじれていったのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
途端に「あッ」という悲鳴が起こり、刀をふりかぶったまま、鶴吉はからだねじりましたが、やがて、よろめくと、ドット倒れました。脇腹わきばらから血が吹き出しています。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父三也は刀をねじくり廻してそんな事まで言いますが、もとより命を投げ出した真弓は、そんなことで鷺くわけもなく、第一真弓の美しさに打ち込んだ良平は、何に代えても
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
部屋を横切って、浴室のドアをあけ放したまんま、お湯の栓をねじっている。お湯は直ぐ一ぱいになった。ちょっと手を入れてみて、マアセルは、あつう! というように顔をしかめた。
木剣を持った手がひじのすぐ上のところからねじれて、躯にそって投げだされていた。
中部地方では二月涅槃ねはんの日にヤセウマという長い団子をこしらえ、または同じ月にオネヂと謂うものを作る日もあったが、是も後にはねじり団子には限らず、かぶ胡蘿蔔にんじん等の野菜類まで
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
定規じょうぎのようなものが一ほどあるがそれがみんな曲りくねっている。ますはかりの種類もあるが使えそうなものは一つもない。鏡が幾枚かあるがそれらに映る万象はみんなゆがみねじれた形を見せる。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
平生さえ然うだったから、いわんや試験となると、宛然さながら狂人きちがいになって、手拭をねじって向鉢巻むこうはちまきばかりでは間怠まだるッこい、氷嚢を頭へのっけて、其上から頬冠ほおかむりをして、の目もずに、例の鵜呑うのみをやる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と力を入れて新吉の手を逆にってねじり、拳固げんこを振り上げてコツ/\ったから痛いの痛くないのって、眼から火の出るようでございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そういうねじけかたは彼の性格から何事にも首を延ばすことであるが、こんどのお芳のことには、非常に強い。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕のとがなるびん後毛おくれげを掻き上げたのちは、ねじるように前身ぜんしんをそらして、櫛の背を歯にくわえ、両手を高く
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それに、疑問はまだ、後へねじれたような右手の形にも、それから、右肩にある小さな鉤裂きにもあるのだ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さてさてねじるわ、ソレそこが捻平さね。勝手になされ。さあ、あの立ったり、この爺様じいさまに遠慮は入らぬぞ。それ、何にも芸がないと云うて肩腰をさすろうと卑下をする。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乳房のげた女であった。その人影は女のくびを、じっと上から見下ろした。と、斜に身がねじられた。と、右手が動いたようであった。何やらピカリと光ったようであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは十七八とも二十歳はたち近いとも見えましたが、すぐれて高い背も美しく、差す手、引く手、返す肩、ねじる腰、すべての線の躍動する見事さ、雲を踏むかと、足取りの軽さ。
その時に副院長が後手うしろでドアのノッブをねじった音がした。そうしていて落ち付いた声で
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は十二歳のとき赤井喜兵衛に鼻をねじられた。遊び仲間の少年たちの見ている前のことで、彼は或る程度以上に恥ずかしかったし、かなり屈辱的な感じをうけた。だが彼は和尚の教訓を守った。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)