トップ
>
慟哭
>
どうこく
ふりがな文庫
“
慟哭
(
どうこく
)” の例文
なにものももうわたしで終り、なにものももうわたしから始らないのかとおもうと、わたしのなかにすべての
慟哭
(
どうこく
)
がむらがってくる。
鎮魂歌
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
私は大声を放って
慟哭
(
どうこく
)
した。私が泣いたのは長男が死んだ時と、昔愛人が死んだ時と、その次がこの猫が死んだ時と、三回だけである。
猫料理
(新字新仮名)
/
村松梢風
(著)
が、その中でもたつた一人、座敷の隅に
蹲
(
うづくま
)
つて、ぴつたり畳にひれ伏した儘、
慟哭
(
どうこく
)
の声を洩してゐたのは、
正秀
(
せいしう
)
ではないかと思はれる。
枯野抄
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その詩はすこぶるセンチメンタルなものであって、死を憧憬し、悲恋を
慟哭
(
どうこく
)
する表現がいかに少女の情緒にも、誇張に感じられた。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
訴えるように、悲しげに、びょうびょうと長く尾をひいて、地の底でなにものかが
慟哭
(
どうこく
)
するかのように、陰々と聞えて来るのであった。
風流太平記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
▼ もっと見る
それは微笑の寸前であるとともに、
慟哭
(
どうこく
)
の寸前でもあるようにみうけられる。菩薩の微笑とは、
或
(
あるい
)
は慟哭と一つなのかもしれない。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
そして
慟哭
(
どうこく
)
せる感情と深い絶望とは、その最も悲痛な独語の苦悩のうちにあってもしばしば、問題を取り扱い論議するものである。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
チェホフの短篇の話をきいて、ここのところを読むと、なんだかこう一層、そのときのペテロの
慟哭
(
どうこく
)
が身ぢかに感ぜられて来るようだな。
雪の上の足跡
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
糸毛車の
簾
(
す
)
が閉じられるやいな、わだちはもとへ
旋
(
めぐ
)
っていた。中宮の
慟哭
(
どうこく
)
そのままに、車の姿も、中門の外へ、揺れ揺れ消えた。
私本太平記:05 世の辻の帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
(泣き女というのは、死者のあった家に傭われて
慟哭
(
どうこく
)
する職業婦人であって、悲しみをそそり、かつ近隣への死亡通知になったものです)
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
権門富貴の最後の儀式を飾る金冠
繍服
(
しゅうふく
)
の行列こそ見えなかったが、皆故人を尊敬し感嘆して心から
慟哭
(
どうこく
)
し痛惜する友人門生のみであった。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
死者の
枕辺
(
まくらべ
)
足辺
(
あとべ
)
を這い
廻
(
もとお
)
って
慟哭
(
どうこく
)
すべきほどに、またその慟哭の声が天上にまでも響き行くべきほどに、悲しいものであった。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
慟哭
(
どうこく
)
したいような、気がします。子供のように、だれかの胸に顔を当てて、思う存分に泣いてみたら、さぞ胸が清々するだろうと思います。
仁王門
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
憎
(
にく
)
んでくれ。あなたがたは仲よく
慰
(
なぐさ
)
め合って暮らしてくれ。わしはそれを望む。わしはそれをねたんではならない。(
慟哭
(
どうこく
)
す)
俊寛
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
過渡時代の影を痛々しく語りつつ相川良之介を襲って来る必然的な結論に
慟哭
(
どうこく
)
していることが発見されたとして、石田重吉は
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
「お前という奴は、まるで、こん
畜生
(
ちくしょう
)
め! 友達の心のこれっぱかしも分らねえ奴で……」それから後は唐突な
慟哭
(
どうこく
)
になる。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
よよと泣くのだから、
黙泣
(
もっきゅう
)
でもなければ
慟哭
(
どうこく
)
でもない、むしろ忍び音といった低い調子でしたけれども、ソプラノの音で、女の泣く声でした。
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
兄弟は、その夜三条小橋の宿屋で、相擁して
慟哭
(
どうこく
)
した。短気でわがままな兄は、弟が見つけたときに、なぜ即座に打ち果さなかったかを責めた。
仇討三態
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
人通りの
杜絶
(
とだ
)
えた路地に彼の下駄の音を今か/\と耳を澄ましてゐる時、この支那蕎麥屋の笛を聞いて、われを忘れて
慟哭
(
どうこく
)
したといふのである。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
転がりまわりつつ、どんなに大きな声をあげて泣き崩れたか……心ゆくまで泣いては
詫
(
わ
)
び、あやまっては
慟哭
(
どうこく
)
したか……。
木魂
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
けれども、さすがに窓の下を走る車のヘッドライトが暗闇の天井を一瞬明るく染めたのを見ると、
慟哭
(
どうこく
)
の想いにかられた。
雨
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
もってひとたびは
錯愕
(
さくがく
)
、もってひとたびは
慟哭
(
どうこく
)
、情緒乱れて、またなすところを知らず。しかれども、事すでにここに至る、いかんともするあたわず。
妖怪報告
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
突然、一人の女が、死に行く者の膝を抱いて
慟哭
(
どうこく
)
した。慟哭の声は五秒も続いたろうか。再び、いたいたしい沈黙。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
然
(
しか
)
り雨の窓を打ち軒に流れ
樹
(
き
)
に
滴
(
したた
)
り竹に
濺
(
そそ
)
ぐやその
響
(
ひびき
)
人の心を動かす事風の
喬木
(
きょうぼく
)
に叫び水の渓谷に
咽
(
むせ
)
ぶものに優る。風声は憤激の声なり水声は
慟哭
(
どうこく
)
なり。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
自分の夫が、自分以外の女を思って
慟哭
(
どうこく
)
し、ふるへ、もだえているのを見てこらえているなんて、妾は、我ながら自分の神経の抵抗力にあきれたくらいだ。
オパール色の手紙:――ある女の日記――
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
死後三日目に、張夫婦は墓前に伏して、例のごとくに
慟哭
(
どうこく
)
をつづけていると、たちまち墓のなかで
呻
(
うな
)
るような声がきこえたので、夫婦はおどろいて叫んだ。
中国怪奇小説集:12 続夷堅志・其他(金・元)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
とはいえウルリーケとて同じことで、夫の死に
慟哭
(
どうこく
)
するようなそぶりは、
微塵
(
みじん
)
も見られなかったのであるが、まもなく法水は、その理由を知ることができた。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
軌道の発見せられていない
彗星
(
すいせい
)
の
行方
(
ゆくえ
)
のような己れの行路に
慟哭
(
どうこく
)
する迷いの深みに落ちていくのである。
二つの道
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
犬神の娘の
慟哭
(
どうこく
)
する、犬の悲鳴さながらの声を、千木のたっている建物の、二階の部屋に聞き流して、ご上人様をお守りして、その屋敷から脱け出しましたのは
犬神娘
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
ロッセ氏は、
映幕
(
スクリーン
)
の前に、金博士の手を握り、子供のように
慟哭
(
どうこく
)
した。
余程
(
よほど
)
嬉
(
うれ
)
しかったものと見える。
のろのろ砲弾の驚異:――金博士シリーズ・1――
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
船はルビー色の飾をつけて静かに
横
(
よこた
)
わっていたが突然黄色い声で外国詩の
慟哭
(
どうこく
)
する金切声が聞えた。
孟買挿話
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
中には
慟哭
(
どうこく
)
して、井戸に身を投げようとしたものがあり、自害しようとするものさえあったという。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
血縁の者はいま邪魔なく、
障礙
(
しやうがい
)
なくして
慟哭
(
どうこく
)
し得るのである。僕は布団をかぶりながら両眼に涙の
湧
(
わ
)
くのをおぼえてゐた。間もなく
雞鳴
(
けいめい
)
がきこえ、暁が近づいたらしい。
島木赤彦臨終記
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
そう言われて
尚
(
なお
)
の事、悲しくうらめしく、しばらくは一言の言葉も出ず、声も無く
慟哭
(
どうこく
)
していた。
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
彼の「
憂鬱
(
ゆううつ
)
の全音階を支配した」と言われた絶望の音楽の底には、言うに言われぬ
温
(
あたた
)
かさがあり、その悲嘆と
慟哭
(
どうこく
)
とのうちには、大きな光明への予感が芽ぐむのである。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
皆の人はけはいで、覚め難い夢から覚めたように、目をみひらくと、ああ、何時の間にか、姫は
嫗
(
おむな
)
の
両腕
(
もろうで
)
両膝の間には、居させられぬ。一時に、
慟哭
(
どうこく
)
するような感激が来た。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
彼女は
死骸
(
しがい
)
を抱いたり、
撫
(
な
)
でさすったり、その廻りをうろうろ廻ったりして
慟哭
(
どうこく
)
しつづけ
松井須磨子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
底なしの絶望の
闇
(
やみ
)
に一道の希望の微光がさしはじめた瞬間の
慟哭
(
どうこく
)
とは一見無関係のようではあるが、実は一つの階段の上層と下層とに配列されるべきものではないかと思われる。
自由画稿
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
子分連中は、なお吹き荒れる嵐の中で、文字どおり、天を仰ぎ、男泣きに、
慟哭
(
どうこく
)
した。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
その音は、今井と僕との
永久
(
とわ
)
の別れを告げる悲しい響きであった。年上の娘は、顔を両手で隠して
慟哭
(
どうこく
)
した。人々は
愁然
(
しゅうぜん
)
として、墓場の
黄昏
(
たそがれ
)
を
背後
(
あと
)
にしながら、桜堂の山を下った——。
友人一家の死
(新字新仮名)
/
松崎天民
(著)
合邦
(
がつぼう
)
の浄瑠璃にもあるごとく、血縁の深い者ほど死ねば恐ろしくなるものだなどといいつつも、墓をめぐって永く
慟哭
(
どうこく
)
するような、やさしい自然の情をあらわしうることになったのも
雪国の春
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
村の者はそれと聞いて
慟哭
(
どうこく
)
した。そして、血に染まった権兵衛の錦の小袴を小さく裂いて、家の守神にすると云って
皆
(
みんな
)
で別けあうとともに、その遺骸を津寺に葬って
香華
(
こうげ
)
を
絶
(
たや
)
さなかった。
海神に祈る
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
後年服毒した夜には、隣室に千疋屋から買って来たばかりの
果物籠
(
くだものかご
)
が静物風に配置され、画架には新らしい画布が立てかけられてあった。私はそれを見て胸をつかれた。
慟哭
(
どうこく
)
したくなった。
智恵子の半生
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
僕にはあんなあなが
取憑
(
とりつ
)
いていたんだ。……(次第に
慟哭
(
どうこく
)
するもののごとく)
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
おう私はまだ生きてゐた……と、ひとりでひやうたくれながらこの大晦日の夜を、ぐびり/\と
独酌
(
どくしやく
)
でのみ明かしたが、実をいふと悔恨の生涯に
慟哭
(
どうこく
)
したい気持をまぎらすためであつた……。
老残
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
お艶はその物音にまぎれてこころゆくまで
慟哭
(
どうこく
)
することができたのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
孝孺
喪服
(
そうふく
)
して入り、
慟哭
(
どうこく
)
して
悲
(
かなし
)
み、声
殿陛
(
でんへい
)
に徹す。帝みずから
榻
(
とう
)
を
降
(
くだ
)
りて
労
(
ねぎ
)
らいて曰く、先生労苦する
勿
(
なか
)
れ。我
周公
(
しゅうこう
)
の
成王
(
せいおう
)
を
輔
(
たす
)
けしに
法
(
のっと
)
らんと欲するのみと。孝孺曰く、成王いずくにか
在
(
あ
)
ると。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
神通は連山をまたいで
慟哭
(
どうこく
)
し「黒い魔術」は
帰依
(
きえ
)
者を抱いて
大鹹湖
(
だいかんこ
)
へ投身した。空は一度、すんでのことで地に
接吻
(
せっぷん
)
しそうに近づき、それから、こんどはいっそう高く遠く、
悠々
(
ゆうゆう
)
と満ち広がった。
ヤトラカン・サミ博士の椅子
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
彼らはその前へひれ伏して、泣きながらその足に接吻し、その足の踏んでいる土を接吻し、声をあげて
慟哭
(
どうこく
)
した。また女どもは彼の方へ子供を差し出したり、病める『
憑
(
つ
)
かれた女』を連れて来た。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
彼はいきなり春生をかき抱き、
犇
(
ひし
)
と
縋
(
すが
)
りつく弟と長い間
慟哭
(
どうこく
)
していた。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
慟
漢検1級
部首:⼼
14画
哭
漢検1級
部首:⼝
10画
“慟哭”で始まる語句
慟哭的