怪物ばけもの)” の例文
塩梅あんばい酔心地よいごこちで、四方山よもやまの話をしながら、いなご一ツ飛んじゃ来ない。そう言や一体蚊もらんが、大方その怪物ばけもの餌食えじきにするだろう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けつしておろかなる船長せんちやうふがごとき、怨靈おんれうとかうみ怪物ばけものとかいふやう得可うべからざるものひかりではなく、りよくこう兩燈りようとうたしかふね舷燈げんとう
世の中には怪物ばけものが沢山居る、学問が進んで怪物ばけものの数がすくなくなったと云うがそれはいい加減なことでかえってえたかも知れない
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
「由っちゃん、——なぜ俺なんかがすきなんだい、こんな怪物ばけものみたいな男が——。店にはもっと色男が一杯来るだろうに……」
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そばには重太郎が獣のような眼をひからして見張っている。窟の奥には山𤢖らしい怪物ばけものも居る。みちは人間も通わぬ難所なんじょである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まるで山全体が真っ黒な怪物ばけもののように見えて、今にも頭の上からおおい被さってくるような気持がすると、私の宿をしていた百姓屋のお内儀かみさんなぞは
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人が決してすままわないとの事だった、その怪物ばけものの出る理由については、人々のいうところが皆ちがっているので取止とりとめもなく、解らなかったが、そののちにも
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
部屋へやの中は、障子しょうじも、かべも、とこも、ちがいだなも、昼間のように明るくなっていた。おばあさまの影法師かげぼうしが大きくそれにうつって、怪物ばけものか何かのように動いていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ところが、事実はけっして……」と伸子は真剣な態度で、キッパリ否定してから、「まるであの時のダンネベルグ様は、偏見と狂乱の怪物ばけものでしかございませんでした。 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それの年に此井のほとり夜々よな/\怪物ばけものが出ると云ふ噂が立つた。或晩柏軒が多紀茝庭さいていの家から帰り掛かると、山伏井戸の畔で一人の男が道連になつた。そして柏軒にことばを掛けた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
新吉が落ちたから、驚いてニョコリと此の野郎が立ったから、新吉は又怪物ばけものが出たかと思って驚きましたが、新吉は襟がみを取られた時は、もう天命きわまったとは思ったが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ヘエ」と、伯母は良久しばし言葉もなく、合点がてん行かぬ気に篠田のおもてもれり「お前の神様のお話も度々たび/\聞いたが、私には何分どうも解らない、神様が嫁さんだなんて、全然まるで怪物ばけものだの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
忠公が猿になって、六公が熊になって、乃公は怪物ばけものになった。その外種々いろいろ余興があった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
目鼻立めはなだち尋常じんじょうひげはなく、どちらかといえば面長おもながで、眼尻めじりった、きりっとした容貌かおだちひとでした。ナニ歴史れきしに八十人力にんりき荒武者あらむしゃしるしてある……ホホホホ良人おっとはそんな怪物ばけものではございません。
つづけさまに、電話は、生きた怪物ばけものみたいに震鈴していた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遥々はるばる我を頼みて来し、その心さえ浅からぬに、蝦夷えぞ、松前はともかくも、箱根以東にその様なる怪物ばけものすませ置きては、我が職務の恥辱なり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一体いったい怪物ばけものと云えば不思議なもので世間にあまり類と真似の無いもののようだが、よく考えてみるとこの世の中にありとあらゆるものは皆怪物ばけものになる
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
支那の怪物ばけもの………私は例の好奇心に促されて、一夜をの空屋に送るべく決心した。で、さらくわしくの『』の有様をただすと、いわく、半夜に凄風せいふうさっとして至る。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
叔父をぢさん/\、獅子しゝなんかのほうでは、屹度きつと私共わたくしども怪物ばけものだとおもつてるんでせうよ。』とさけんだがまつた左樣さうかもれぬ 暫時しばし其處此處そここゝかくれに、たかくし
顔の色も最早もう真蒼まっさおになっていたので、二人ながら大笑おおわらいしながら、それからは無事に家に帰ったが、如何いかにも、このうちというのは不思議な所で、のちに近所で聞いてみると、怪物ばけもの屋敷という評判で
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
歯の斜にらされた古下駄を穿いて、ぶらりとこの怪物ばけもの屋敷を出た。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
怪物ばけもの!)と云うかと思うと、ひょいと立って、またばたばたと十足とあしばかり、駆戻って、うつむけに突んのめったげにござりまして、のう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
成程なるほど地球の引力で物が下にじっとしているのだが、もし地球の運転が逆になったらかえって宙を飛ぶのが並のもので下にじっとしているのが怪物ばけものになるかも知れない。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
而巳のみならず、その附近にはローマンケーヴと昔から呼ばれている岩穴が有る。それやこれやを綜合して考えると、賊はピキシーと云う怪物ばけものでも何でも無い、おそらく古代の羅馬人であろうと鑑定した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まあ、滝の家のお姉様、どうぞこちらへ。……まあ、御全盛な貴女様が、こんな怪物ばけもの屋敷見たような処へ、まあ、どうした風の吹廻しで。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
謹むのではない笑うので、キャッキャックックッ、各自てんでんがあっちこっち、中には奥へ駆込んで転がるまで、胡蝶ちょうちょう鸚鵡おうむが笑う怪物ばけもの屋敷の奇観を呈する。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
盗人ぬすっとでも封印のついたものは切らんと言います。もっとも、怪物ばけもの退治に持って見えます刃物だって、自分で抜かなければ別条はないように思われますね。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またこの橿原かしわばらというんですか、山のすそがすくすく出張でばって、大きな怪物ばけものの土地の神が海の方へ向って、天地に開いた口の、奥歯へ苗代田なわしろだ麦畠むぎばたけなどを、引銜ひっくわえた形に見えます。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こりゃ眉毛につばじゃ。貴辺も一ツ穴のむじなではないか。怪物ばけものかと思えば美人で、人面瘡にんめんそうで天人じゃ、地獄、極楽、円髷まるまげで、山賊か、と思えば重箱。……宝物が鮎の鮨で、荘河の名物となった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)