広野ひろの)” の例文
旧字:廣野
太郎たろうは、もしや、おじいさんが、この真夜中まよなか雪道ゆきみちまよって、あちらの広野ひろのをうろついていなさるのではなかろうかと心配しんぱいしました。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
座にことばが途絶えると漂渺ひょうびょうたる雪の広野ひろのを隔てて、里あるかたに鳴くように、胸には描かれて、はるかに鶏の声が聞えるのである。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「訴えのおもむきをいうてみい。また、このようなさびしい広野ひろのに、ただひとりおるそちは、いったい何者の娘だ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人立ひとだちおびただしき夫婦めをとあらそひの軒先のきさきなどを過ぐるとも、ただ我れのみは広野ひろのの原の冬枯れを行くやうに、心に止まる物もなく、気にかかる景色にも覚えぬは
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
昔の画家えかきが聖母を乗せる雲をあんな風にえがいたものだ。山のすそには雲の青い影がいんせられている。山の影は広い谷間にちて、広野ひろの草木くさきの緑に灰色を帯びさせている。
かおりのする花の咲き軟らかな草のしげって居る広野ひろの愉快たのしげに遊行ゆぎょうしたところ、水は大分に夏の初めゆえれたれどなお清らかに流れて岸を洗うて居る大きな川に出で逢うた
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貞観のはじめ前越後守伴龍男の従者吉弥きみこの広野ひろのの、その主の犯罪を官に密告せる書生物部稲吉を殴殺せしがごときその一なり。『将門記』に、平将門の駆使に丈部はせつかべ子春丸あり。
武士を夷ということの考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
はてしのない広野ひろのめ尽すいきおいで何百万本という護謨の樹が茂っている真中に、一階建のバンガローをこしらえて、その中に栽培監督者としての自分が朝夕あさゆう起臥きがする様を想像してやまなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういう寺及び七、八軒ある小村を過ぎて少しく北に行くと、平地に二丁四面程の高地があって、そこに武器庫が建ててある。それから北へ二里、西へ半里、東へ二里ばかりある広野ひろのがあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大空、大海、大山、大川、広野ひろの等の如し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
万里一白いつぱくの雪の広野ひろの……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
すずめは毎日まいにちゆきなかやまのあちらへ、また、はやしのこちらへとびまわって、だれもとおらない、さびしいゆき広野ひろの見渡みわたしていていました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真中に一棟ひとむね、小さき屋根の、あたか朝凪あさなぎの海に難破船のおもかげのやう、つ破れ且つ傾いて見ゆるのは、広野ひろのを、久しい以前汽車が横切よこぎつた、時分じぶん停車場ステエション名残なごりである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山の頂の夕焼は最後の光を見せている。あの広野ひろの女神達めがみたちが歩いていて、手足の疲れるかわりには、とうとい草を摘み取って来るのだが、それが何だか我身に近付いて来るように思われる。
桑田くわた町屋まちやに変り、広野ひろの絃歌げんかともしびうつす堀となり、無数の橋や新しい道路は、小鳥の巣やさぎのねぐらを奪って、丘の肌は、みな生々なまなましい土層を露出し、削られたあとには、屋敷が建ち、門がならび
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そらくもは、まりがつかれて、広野ひろのにころがっているのをました。くもは、あわれなまりを、どくおもったのであります。
あるまりの一生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
野良調子のらでうし高声たかごゑげて、広野ひろのかすみかげけぶらせ、一目散いちもくさん駆附かけつけるものがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雪枝ゆきえむね伸上のしあげて、みさき突出つきでわんそとのぞむがごと背後状うしろざま広野ひろのながめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さいなまれるたましいが、やわらかな、あたたかいあいのしらべにすくわれて、くらなかかぜく、はてしない広野ひろのをさまよい、はやしほうへ、らないまちほうへ、また、たかい、たかい、そらうえへと、くるしみのない
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この汽車だが……はてしの知れない暗闇くらやみ広野ひろの——とてもその時の心持が、隅々まで人間の手の行届いた田圃とは思われない、野原か、底知れぬ穴の中途——その頼りなさも、汽車の通るのが
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、そのひとたちの死骸しがいは、えたおおかみやくまにべられたか、つかりませんでした。ただ、この物悲ものがなしい音色ねいろは、かぜおくられて、そののち幾夜いくよも、この広野ひろのそらただよっていたのです。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この三角畑の裾の樹立こだちから、広野ひろのの中に、もう一条ひとすじなわてと傾斜面の広き刈田を隔てて、突当りの山裾へ畦道あぜみちがあるのが屏風のごとくつらなった、長く、せいの高い掛稲かけいねのずらりと続いたのにおおわれて
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広野ひろのえてかなたには、まちがありました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かか広野ひろの停車場ステエションの屋根と此のこずえほかには、草より高く空をさえぎるもののない、其のあたりの混雑さ、多人数たにんずふみしだくと見えて、敷満しきみちたる枯草かれくさし、つ立ち、くぼみ、又倒れ、しばらくもまぬ間々あいだあいだ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
渺茫びょうぼうたる広野ひろのの中をタタタタとひづめ音響ひびき
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)