あが)” の例文
水の泡のやうな世の中の便利不便利や、僅か生きてる間の遊び事を一生懸命考へるだけの人なら、私はさうあがめる氣になれませんよ。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
王は単にその夫たるだけの訳であがめらるるに過ぎず、したがって王冠があかの他人の手に移らぬよう王はなるべくその姉妹を后とした。
「相馬殿——」と、彼をあがめ、また内にあっても「お館」と敬称して、もう以前のような悪友ぶりや非礼は決して現わさなくなった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事実順慶は、三十人にあまる秀次の嬪妾ひんしょうのうちで彼女を一段と高くあがめており、いかなる場合にも敬慕の念を失うことがないのである。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
またそういう婦人になにかふしぎな事があって、神にあがめまたはつかまつったという伝説は、今でもおりおり田舎いなかにはのこっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
揚子江と灌水かんすいの間の土地では、蛙の神を祭ってひどくあがめるので、ほこらの中にはたくさんの蛙がいて、大きいのは籠ほどあるものさえある。
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俗書はなにから生まれるか、なにが俗書を生むかである。殊に家元の人々といえば、茶の宗家として由来あがめ続けられている人々である。
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ことに先年来、自ら妖怪学を研究して、一層この不思議の妙味を感ずるようになり、爾来、妖怪を神のごとくあがめ奉りて喜んでおります。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
いやいやかれに限つては、乃公を真底主人ぞと、あがむればこそ、勝気のかれが、もの数さへにいひかねて、ひかえ目がちの、涙多。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
私も敬念を以て天才をあがめよう。だが情愛を以てさらに民衆に近づこう。天才の作よりさらに偉大な工藝を産み得るその民衆を。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その他の人間については、「大なる者」をあがめることでなく、「小さき者」を顧みる心を、私どもはイエス様から教えられているのです。
混迷の度を強めてござる! かるがゆえにあえてそれがしは申す! 我らには唯一に純粋性の、動かぬ大柱の帝がおわす! 尊み、あがめ、誇り
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今でこそ、画聖とあがめられ、名宝展などで朝野の貴顕きけんに騒がれようとも、応永の昔の雪舟は高が雲水乞食に過ぎないのである。
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ゆえに英文学を論ずるものは、『失楽園』を批評するにあたり、ミルトンの神をけなし、ミルトンの悪魔をあがめぬものはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
たとひ有るまじきことある世とならんも、羅馬は猶その古き諸神の像と共に、その無窮なる美術と共に、世界の民にあがめられん。
誰か徒為いたづらに旧思想を墨守し、狭隘けふあいなる国家主義を金城鉄壁とあがめ、己れと己れの天地を蠖屈くわくくつせまきに甘んぜんとするものぞ。
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そのもてなし方は有難いのが半分、面白がりが半分で、やたらにあがめ奉って、これから到るところ、そのお立寄りを願うことになりそうです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
広瀬中佐は日露戦争のときに、閉塞へいそく隊に加わってたおれたため、当時の人から偶像アイドル視されて、とうとう軍神とまであがめられた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして木村の方へ向いて、「これまで死刑になったやつは、献身者だというので、ひどくあがめられているというじゃないか」
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
家柄だの財産だのを、無上のものとあがたてまつる世間にたいして、自分の名誉やぱりぱりの名声でもって、仕返しをする気なのだろうと思っていた。
住吉すみよし移奉うつしまつ佃島つくだじまも岸の姫松のすくなきに反橋そりばしのたゆみをかしからず宰府さいふあがたてまつる名のみにして染川そめかわの色に合羽かっぱほしわたし思河おもいかわのよるべにあくたうずむ。
いまも神を侮りてあがむることなしとみゆ、されどわが彼にいへる如く彼の嘲りはいとにつかしきその胸の飾なり —七二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
言い換えれば、あがむべき人と良心を託すべき人と、すべての人が世界的に一致して、蟻塚ありづかのように結合する方法である。
そしてそのなきがらをめたおはか将軍塚しょうぐんづかといって、千何年なんねんというながあいだ京都きょうと鎮守ちんじゅ神様かみさまのようにあがめられて、なになかわざわいのこるときには
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「この鏡は私のたましいだと思って、これまで私に仕えてきたとおりに、たいせつにあがまつるがよい」とおっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
和尚様は、お寺が立派になつたわけと、愚助が大和尚様とあがめられてゐるわけとを聞いて、腹を抱へて笑ひました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
人あれといへば即ち人あり。諸人何ぞこの大神をあがめざるや。何ぞ猥りに神威を疑ひ、大神の怒、天地滅尽、じゆいそぜらるの時来らむを恐れざるや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
長崎に居ること難しソリャう次第になって来た。その奥平壹岐おくだいらいきと云う人に与兵衛よへえと云う実父じっぷの隠居があって、私共はこれを御隠居様とあがめて居た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それに、だあれも、自分たちの名誉を知らずにいたんだ。新しいブルタスをあがめようじゃないか。このブルタスはラテン語を司教さんのようにしゃべる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
妾は妾のやうなものに堅く門を閉ぢて決してうけ入れないやうな厳しい宗門をこそあがめますわ。讃美しますわ!
四月三日には、崇徳院を神とあがめることになり、昔合戦のあった大炊御門おおいのみかどの跡に社を建てておまつりした。これは、すべて法皇のお指図によるものであった。
これは当時の日本人が、天皇を権力者と見なかったばかりか、神の子のようにあがめなかったことを示している。
自己が唯一の俳人とあがめたる其角の句を評して佳什かじゅう二十首に上らずという、見るべし蕪村の眼中に古人なきを。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
今までの世間の習慣は、学問といふものをあんまりあがめすぎて、一般の人達から遠ざけてしまひすぎました。
が、今はわれらの女王とあがむる小坂部殿のお指図じゃで、よんどころなしに今夜ここまで出向いてまいった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「圧迫されるよ。あの目にはね。あれ以上出て来られちゃ溜まらないから一も二もなくあがたてまつっているのさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ねえ、橋本君、吾儕われわれの商売は、女で言うと丁度芸者のようなものだネ。御客大明神だいみょうじんあがめ奉って、ペコペコ御辞儀をして、それでまあぎょくを付けて貰うんだ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
亡魂がお竹を大日如来とあがめ、十念を受けて初めて成仏するなどというぱっとしない作柄で、表紙から裏表紙まで亡霊と血痕でうんざりするような作品であった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
隠微かくれたるに鑒給みたまう神様よ。どうぞどうぞ聖名みなあがめさせ給え。み休徴しるしを地上にあらわし給え…………
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
追及する信仰あり、神は物質的恩恵の故にあがむべき者にあらず、神は神御自身の故に崇むべきものなり
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
何処までも伯父やお雪さんを親とあがめ、きつとその中御恩返しするといふ意味のことを書いてあつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
百済観音のみならず、ガラスのケースの中にも多くの古仏は並べられ、造花が添えられ、あがめられているようにみえるが、また見世物式であることも否定出来ない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
願わくば御名のあがめられんことを。御国の来らんことを。御意みこころの天のごとく地にも行われんことを。
反逆 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
現代文学はし方行く末の程も判らぬうねりの波間に、主観的必死のしがみつきを芸神としてあがめているのだから、そういう雰囲気を生活人の意力、現実性で克服して
また老人をあがめて、「人間の域を超えた尊い生神様いきがみさまに相違ない」と、みんな手をそろえて拝んだ。
かつて江戸と呼ばれたころには富士山が「自分たちの山」としてあがめられていたことであった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
なほ最後につけ加へたいのは、我我の租先は杉の木のやうに椎の木をも神とあがめたことである。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
果してそうであるとすれば、富士山の浅間神社も其本体は火山をあがめたものなのであったろう。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もっともそうは言い条、異性との交渉を微塵も持たずに征く木石の淡白さが、男性としての慕わしさにあがめられる心をも、としゑは胸のどこかにひそめてはいるのだった。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
彼と彼の犬とは同じやうに瞳を輝かして、未開人たちが神とあがめたその燃える火を見つめた。