屈竟くっきょう)” の例文
胴中には青竹をりて曲げて環にしたるを幾処いくところにか入れて、竹の両はしには屈竟くっきょう壮佼わかものゐて、支へて、ふくらかにほろをあげをり候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
Kのおじさんも不運に生まれた一人で、こんな相談相手に選ばれるには屈竟くっきょうの人間であった。おじさんは無論喜んで引き受けた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ねて、計画をしてあった屈竟くっきょうの隠れ場所に、ゴロンと横たわったまま、昼といわず夜といわず、睡眠病息者のように眠りつづけていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっとも、敏子に対する腹癒はらいせの感情も手伝った。綺麗さっぱりとはねつけられた返礼としては正に屈竟くっきょうの手段であらねばならぬ。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それと並んで走って行くのは、金剛杖を斜めに構えた、山伏姿の金地院範覚で、その二人の後ろから続いて、屈竟くっきょうの城兵が十人ばかり走った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さっき電報が来たよ、もう二三日滞在させて貰うという事だ。なに屈竟くっきょうの若者が四人もいるんだからこちらは大丈夫さ」
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
屈竟くっきょう手懸てがかりに、くだけよとばかり尾をくわえながら左右にふると、尾のみは前歯の間に残って胴体は古新聞で張った壁に当って、揚板の上にね返る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此処ここはスチームも通っていないし、冬になるととても寒いので余り人も通らず先ず屈竟くっきょうな場所といわねばならない。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
こう言うことばと共に、ほこの先からは、火花が飛んだ。中でも屈竟くっきょうな、赤あざのある侍が一人、衆に先んじてかたわらから、無二無三に切ってかかったのである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
に今宵こそ屈竟くっきょうなれ。さきに僕退出まかりでし時は、大王は照射ともしが膝を枕として、前後も知らず酔臥えいふしたまひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
矢張り会社と銀行が一番儲かると見えて、僕の同級生ばかりでなく、屈竟くっきょうな男が皆これへ入りたがる。友達の家庭にかんがみても、会社員銀行員を父兄に持つものが多い。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし、屈竟くっきょうな者はほとんど皆、講堂のうちに粛然と膝をつめ合って上人の熱心な講義に耳を傾けているので、その声を聞いても、顔色を動かしただけで起つ者はなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外の場所、それは最も手近な所に幾つも棺桶が埋めてあるのですから、死体を運び出した者がそれをどこかへ隠そうとするなら、そのお隣の棺桶ほど屈竟くっきょうの場所はありません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
栃木の大平山おおひらやま岩舟山いわふねさん出流山いずるさん等は、平野のうちの屈竟くっきょうの要害だと主張するものもある。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今まで、夫婦間に、何一つ隠すところのないために、どこに一つ鍵のかかっているところもない、この机こそ、こうなっては屈竟くっきょうのものである。袖に五つ、抽出しが付いている。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
科学上の智識を得るには屈竟くっきょうの機会であるから、サー・デビーと共に旅行を続けようと思う。けれども、他方ではこの利益を受けんがために、多くの犠牲を払わねばならぬのは辛い。
それゆえにこそ、退屈男もまたこの際この場合、二人と得難きぐずり松平の御前が近くにおいでときいて、これぞ屈竟くっきょうの味方と、目を輝かしつつ打ち喜んだのは無理からぬことでした。
相模さがみ上総かずさ安房あわ等の海浜にて漁船中の最も堅牢けんろう快速なるもの五十そうばかりに屈竟くっきょう舸子かこを併せ雇い、士卒に各々小銃一個を授けて、毎船十名ばかりを載せ、就中なかんずく大砲を善くする者を択び
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たよい白雲のなかに、眼も体もやすめようとする所もなく、疲れはてて仕舞った時、ひとりでに私の首が下を向き、つばさをやすめるに屈竟くっきょうな黒く落ち付いた土の底が、はっきり見えましたので
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その日のうちに厚くねぎらひて家人にいとまを与へ、家屋倉廩そうりんを封じて「公儀に返還す。呉坪太くれつぼた」と大書したる木札を打ち、唯、金銀、書画の類のみを四駄に負はせて高荷たかにに作り、屈竟くっきょう壮夫わかものに口を取らせ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おもいほか手びろく生計くらしも豊かに相見え候のみならず、掛離かけはなれたる一軒家にて世を忍ぶには屈竟くっきょうの処と存ぜられ候間、お蔦夫婦の者には、愚僧同寮の学僧と酒の上口論に及び、ぼうにも御迷惑相掛け
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
みなこれ屈竟くっきょう大男おおおのこ、いずれも手拭てぬぐいにおもてつつみたるが五人ばかり、手に手にぎ澄ましたる出刃庖丁でばぼうちょうひさげて、白糸を追っ取り巻きぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もうひとつには一種の好奇心もまじって、村では屈竟くっきょうの若者どもが申合せて、かの怪しい馬の正体を見届けようと企てた。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この暴風雨は、人を殺すに屈竟くっきょうの時だ。これ泣くな、泣いたとて、わめいたとて、誰にも聞こえやせん。お前はもう、へびに見こまれたかえるも同然だ。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さっき玄関へ出た三太夫が知らせてあったのだろう、廊下の向こうから作男とみえる屈竟くっきょうの若者が三人やって来た。
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
黒く塗られた駕籠が一丁、屈竟くっきょうな男に担がれて、トットとこちらへ来たからである。恐ろしい恐ろしいトヤ駕籠だ!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここはゆきどまりでだれもこないから、喧嘩には屈竟くっきょうのところだ。堀口生には尾沢横田篠崎小川の四名がついていた。正三君の左右には高谷細井松村花岡の外に十五、六名ひかえていた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やしきのまわりに高いコンクリート塀をめぐらしたのも、その塀の上にガラスの破片を植えつけたのも、門長屋を殆どただの様な屋賃で巡査の一家に貸したのも、屈竟くっきょうな二人の書生を置いたのも
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
常識はいつも探索に失敗と迂遠うえんな笑いを招く。道とばかり考えているから思いつかなかったが、そこは増上寺の寺領で、遠く麻布あざぶの台町まで林つづきである。人目にかからずに歩くには、屈竟くっきょうな道だ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御身がかつてたすけたる、彼の阿駒おこまこそ屈竟くっきょうなれど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わかくて屈竟くっきょうなその客は、身震いして、すっくと立って、内中うちじゅうで止めるのもかないで、タン、ド、ドン! とその、其処のしとみを開けた。——
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘の机のうへには手習草紙てならいそうしのあるのを見つけて、これ屈竟くっきょうのものだと彼等はその草紙の一枚を引きいて、娘の顔をつゝむやうに押しかぶせた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
矢倉下の辻を三人の屈竟くっきょうな男が歩いてまいる、頭巾をかぶり刀を差して、だがどこやら寒そうな肩つきで、……肩の高いせた男は「中将ちゅうじょう」と呼ばれる
「いずれ仔細はあるだろうが、屈竟くっきょうな若者が大勢で、一人の老人を手込めにしては、もうそれだけでいい訳は立たぬ。悪いことは云わぬ、堪忍してやれ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丁度そこへ、彼の貧窮時代同じ下宿にいた縁故えんこで知合の小林紋三が、屈竟くっきょうな事件を持込んで来た。山野夫人の話を聞いている内に、彼は多年の慣れで、これは一寸面白そうな事件だと直覚した。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
高台の職人の屈竟くっきょうなのが、二人ずれ、翌日、水の引際を、炎天の下に、大川ぞいを見物して、ながれの末一里有余あまり、海へ出て、暑さに泳いだ豪傑がある。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何はあれ、ここは屈竟くっきょうの隠れ家である。万一、𤢖が昔のままに棲んでいるならば、これに乞うて何等なんらかの食物を得て、一時の空腹をしのごうとも思った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三十人あまりの屈竟くっきょうの武士が、鉄砲を打ちかけ矢を放し、丸太で門の扉を打ち、威嚇的に喊声をあげていた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしくい止めるには此処が屈竟くっきょうだと思うので、秀之進は辛抱づよくそこで待つことにした。それで日の出少しまえにかれは清水の流れるところへいって握り飯を喰べた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして早速この寺の附近で聞合せて見ると、丁度その朝早く、一台のゴミ車が寺の門をくぐったことが分ったのだ。死骸を隠すのに墓地程屈竟くっきょうな場所はない。うまいことを考えたものだと思った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
頼長のそばには藤内太郎、藤内次郎という屈竟くっきょう射手いてが付き添うていて、手にあまると見たらばすぐに射倒そうと、弓に矢をつがえて待ち構えていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うれしや人里も近いと思う、月が落ちて明方あけがたの闇を、向うから、洶々どやどやと四、五人づれ松明たいまつげて近寄った。人可懐ひとなつかしくいそいそ寄ると、いずれも屈竟くっきょう荒漢あらおのこで。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行きついた! 見れば地獄絵! 若衆姿の男装の女が、浪人者らしい屈竟くっきょうの武士に、斬り立てられてよろめきよろめき、シドロモドロにあやうくなっていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また万一さようなおそれがいささかでもみえましたなら、守役のわたくしが手をつかねておる道理がございません、わたくしと致しましては、若ぎみがおんみずから御胆力をためす屈竟くっきょうのおりと
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
兼吉はもう五十ばかりであるが、男でもあり、職人でもあり、こういう時の道連れには屈竟くっきょうだと思われたので、文字春はほっとして一緒にあるきだした。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「さてさて情を知らぬ奴! 屈竟くっきょうの武士が賊どもに捕虜とりこにされて、尚おめおめ生きているものと思いおるか! 捕えられた時は死ぬ時じゃ! 腹かっさばいて死ぬ時じゃ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
死出の山辺に一つ見える、一つともしにただ松一つ、一本松こそ場所屈竟くっきょうと、頃は五月の日も十四日、月はあれども心のやみに、迷う手と手の相合傘よ、すぐに柄もりに袖絞るらむ。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここらでも名代なだいの貧乏寺さ。いくら近眼ちかめの泥坊だって、あの寺へ物取りにはいるような間抜けはあるめえ。万一物取りにはいったにしても、坊主も虚無僧もみんな屈竟くっきょうの男揃いだ。
目の光る……年配は四十あまりで、稼盛かせぎざかりの屈竟くっきょう山賊面さんぞくづら……腰にぼッ込んだ山刀の無いばかり、あの皿はんだ、へッへッ、生首二個ふたつ受取ろうか、と言いそうな、が、そぐわないのは
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
応と返辞いらえる声あって、五人の屈竟くっきょうの若者が、千寿と朱丸との側へ走った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)