おと)” の例文
どうせ都市上空で迎え撃つものなら、なぜ事前に一機でもおとしてくれないのだろう。たとえ一トンの爆弾でも無効になるではないか。
一つの世界:――私信―― (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
師の房は、彼を憎んだことも、おとし入れたこともないのに、幼少から今日まで弁海が範宴を憎悪することはまるで仇敵のようである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
零落不平素志を達せずしてつひに道徳上世にれられざる人となることもあるべし。憤懣ふんまん短慮終に自己の名誉をおとすこともあるべし。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
しかもそれは一石にして二鳥をおとす名案でもあったのです。……オヤ、どうかしましたか。しっかりなさい。まだお話することがあります。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
玄機は前夜のうちに観の背後うしろに土を取った穴のある処へ、緑翹のかばねを抱いて往って、穴の中へ推しおとして、上から土を掛けて置いたのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしてよろづ被造物つくられしものをさなりしかの第一の不遜者ふそんじやが光を待たざるによりてまざる先におとし事よくこれをあかしす 四六—四八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
これけだし、すでに腹の畑はこやしができ、掘り起こされて土壤どじょうが柔かになり、下種かしゅの時おそしと待っているところに、空飛ぶ鳥が偶然ぐうぜんりゅうおとしたり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今度の一件も薩州屋敷あたりの者が内々で運動費を使って、こんな悪戯いたずらをして、幕府の歩兵の信用をおとさせようと企てたのであろうと云うのです。
「すると、昨晩の十時から十一時までの間に殺された訳ですね。そしていつ頃に投げおとされたものでしょう?」
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
白刃をポロリと地上におとすと体をしぼ手拭てぬぐいのようにねじって、両手を代り代りに伸ばしては虚空をつかむと見えたが、やがて、ズドーンと地上に転落した。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第八号機がまっ先にうちおとされた。つづいて「毒ガスの雨を降らしてやるぞ。」といばっていた第十号機が、雲間に悲しいさけびを立てながら燃え落ちた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
万乗の君主金冠をおとし、剃刀ていとうの冷光翠髪すいはつぐ。悲痛何ぞえんや。呉王ごおうの教授揚応能ようおうのうは、臣が名度牒どちょうに応ず、願わくは祝髪してしたがいまつらんともうす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
パッティが晩年まで「歌の女王」の名声と格式をおとさなかったのは、この要領のためであったかも知れない。
斯うなると、世間の注目は私一身にあつまっているような気がして、何だか嬉しくて嬉しくてたまらないが、一方に於ては此評判をおとしては大変という心配も起って来た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
地獄にちてもだえ苦しむ者と、地獄におとして喜ぶ悪魔との咽喉のどから一緒になって、ただ地獄からだけ聞えてくるものと思われるような、なかば恐怖の、なかば勝利の
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
あるじは彼の為人ひととなりを知りしのち如此かくのごとき人の如何いかにして高利貸などや志せると疑ひしなり、貫一はおのれの履歴をいつはりて、如何なる失望の極身をこれにおとせしかを告げざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
河に突きおとされた雪の塊が、船の間にしきりに流れて来る。それに陽がさすと窈幻ようげんな氷山にも見える。こんなものの中にもえさがあるのか、烏が下り立って、くちばしあさる。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その魂さえ地獄へおとした筈の坂下鶴吉は、そうした罪悪を犯した事が却って懺悔の材料となり、天国へ行けると云うことは、少くとも私にとっては奇怪至極な理窟のように思われます。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もし兵衛が病死したら、勿論いくら打ちたくとも、かたきの打てる筈はなかった。と云って兵衛が生きたにせよ、彼自身が命をおとしたら、やはり永年の艱難は水泡に帰すのも同然であった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、子供の僕は、しかしやはり振りおとされている人間ではなかったのだろうか。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
廟の傍の林には数百の鴉が棲んでいて、その前を往来する舟を数里のさきまで迎えに往って、舟の上に群がり飛ぶので、舟から肉を投げてやると一いちくちばしでうけて、下におとすようなことはなかった。
竹青 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
けません可けません、私は大事の体です。これから出世しなくちゃなりません。信用をおとしちゃ大変です」お島は片意地らしくおどしつけるように言って、筋張った彼の手をきびしく払退はらいのけた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
渠は我をうしろざまに馬の脊に掻き載せて、おのれは前の方に跨り、水におとさぬ用心なりとて、太き綱を我胸とひぢとのめぐりに卷きて、脊中合せにしかと負ひたり。我には手先を動かす餘地だになかりき。
『恨めしい茂作さん、わたしを天からおとしたね。』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
一層ぞんざいにおとし入れている。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おとすようなことはしなかった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
善く導きて、名をなおとしそ。
いや、その一瞬に、足場板もろとも、まッ逆さまにぼくはドックの底へおとされていたのである。高さは約四十フィートぐらいだったかと思われる。
とりあへずその椿を掘り倒してみたが、その結果はいたづらに賣卜者の信用をおとすにすぎなかつた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
被害者野口がおとされたと思われる東北側の隅へ歩み寄り、腰をかがめてタイル張りの床を透かして見たり外廓を取りぐる鉄柵の内側に沿う三尺幅の植込みへ手を突込んで
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
千人をりていつわりてくだらしめ、燕王を迎えて城に入らしめ、かねて壮士を城上に伏せて、王の入るをうかがいて大鉄板をおとしてこれを撃ち、又別にふくを設けて橋を断たしめんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と思った瞬間、頭の上からバッサリ、熱くて重いものが、わしを、突きおとすように、落ちてきた。そして、ッという間に、ヌラヌラと、顔や腕を撫でて、下へ墜落していった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんな家業に身をおとされたのも、むを得ざる事情の為とは承知してをりますが、父への追善、又その遺族の路頭に迷つてゐるのを救ふのと思つて、金を貸すのはめて下さい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さいわいに竜池は偽善を以て子を篏制かんせいしようとはしなかった。自分の地味な遊には子之助を侍せしめて、これに教うるに酒色のむしろにあっても品位をおとさぬ心掛を以てした。子之助の態度はここに一変した。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
東両国は石原の利助の縄張で、今では廃人同様の利助が、娘のおしなに助けられながら、わずかに十手捕縄の威光をおとさずにいるのは、銭形平次の好意で、子分の八五郎を後見に付けておくからでした。
「抜かりはございませぬ。——しかも逆茂木打った道へは、八重やえ十文字に素縄を張りめぐらし、その上に、おとあなまで仕掛けてありますれば」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう周囲の事情から、彼は次第に主君の信用をもおとしかけて来たところへ、足利兄弟が不和を生じて、兄の尊氏と弟の直義とが敵味方に引き分かれることになった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わざわざ運び込んで屋上から投げおとし墜死に見せかけよう、なんてナンセンスは信じられない。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
すると源三は何を感じたかたきのごとくに涙をおとして、ついにはすすなきしてまなかったが、泣いて泣いて泣きつくしたはて竜鍾しおしおと立上って、背中に付けていたおおき団飯むすびほうり捨ててしまって
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
東京市なんか、敵国の爆撃機が飛んできて、たった五トンの爆弾をおとせば、それでもう、大震災のときのような焼土しょうどになるんです。そのとき敵の飛行機は、きっと毒瓦斯を投げつけてゆきます。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
馬場は三度目にようよう箕浦の首をおとした。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこから直ぐ海口の方へ寄って鳴海なるみの城がある。これは一時は織田でおとしたが、その後また、駿河勢力に蚕蝕さんしょくされて、今では敵の岡部元信おかべもとのぶが固めている。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉が姿絵を氏郷の造らせたということを聞いて感涙をおとしたというのも、何だか一寸考えどころの有るようだが、全くの感涙とも思われる。すべてに於て想察のまとまるような材料は無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
つまり、屍体は、タンク機関車73号からおとされたもので、同時にこれらの血の雫は、同じ73号の操縦室キャッブの床の端から、機関車が給水で停車している時から落始めたものだ、と言う風にね。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
織田とりで鷲津わしづ、丸根を攻めおとした手際から見て、信長は、最も油断のならぬ敵として、重視していたからである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただすはらで、他人ひとを、野火におとし入れようとした悪戯わるさが、かえって、自分を焼く火となって手痛い目に会ったので、その遺恨が、今もって、消えないのか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもその人は、ことしまだ二十歳はたちの若さと聞いている。桶狭間の合戦の折、義元の先手さきてうけたまわって、味方の鷲津わしづ、丸根のとりでおとしたあの手際てぎわもよかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「遠巻きの戦法も不策、短気にかかって兵を損じるのも不策。いかにせば稲葉山の天嶮てんけんおとすことができるか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
獄につないだまま、むじつの罪におとし入れようとするならば、獄を破っても、お救いして来なければならない
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だまれッ、まだ罪がある。おまえは仲間ちゅうげんの龍平と不義をしていた、そして、自分の罪をなするために、入れ札の時に、龍平の名をさして男を獄門におとした」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)