四方山よもやま)” の例文
海軍士官のとなりの重役風の人物は、事業で損をしなかった人物の円滑さで、向い側の陸軍軍人に、折々四方山よもやまばなしをしかけた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ある晩双鶴館そうかくかん女将おかみが話に来て四方山よもやまのうわさのついでに倉地の妻の様子を語ったその言葉は、はっきりと葉子の心に焼きついていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
塩梅あんばい酔心地よいごこちで、四方山よもやまの話をしながら、いなご一ツ飛んじゃ来ない。そう言や一体蚊もらんが、大方その怪物ばけもの餌食えじきにするだろう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、塔十郎は不躾ぶしつけにならない程度に、花世の顔を正視しながら、初対面の挨拶を交わして、静かに、品よく、四方山よもやまの座談に移る
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃、丸の内の杉山左京という旗本の邸に、月二三回ぐらいずつ毛色の変った人々が集まって、四方山よもやまの話をする会があった。
髪床の上りがまちに大胡坐をかいて、鳶の若い者や老舗の隠居を相手に、日永ひなが一日将棋を囲みながら四方山よもやまの座談を交すのが藤吉の日課であった。
ぼく先生せんせい對座たいざして四方山よもやま物語ものがたりをしてながら、熟々つく/″\おもひました、うるはしき生活せいくわつがあるならば、先生せんせい生活せいくわつごときはじつにそれであると
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一 小説家二、三人打寄りて四方山よもやまの話したりし時一人いちにんのいひけるはおよそ芸術を業とするもののうちにて我国当世の小説家ほど気の毒なるはなし。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とんぼと山茶花さざんかは、それから、四方山よもやまはなしをしているうちに、はまったくれてしまった。はなは、やみなかで、とんぼをることができなかった。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
根津の下宿に居たある年の夏の夜、圭一郎は茶の間に招かれて宿のをばさんと娘の芳ちやんと二人で四方山よもやまの話をした。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
表の間の格子のところで、四人の若い衆が、時々富士春を眺めたり、格子の外に立っている人を、すかして見たりしながら、四方山よもやま話をしていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
このたくさんの文字は小作人が語った四方山よもやまの話だ。それが皆ゲラゲラ笑い出し、気味の悪い目付でわたしを見る。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
実定は重兼を相手に、四方山よもやまの世間話に打ち興じていたが、その内いつしか話題は平家一門の話にもふれていった。
四方山よもやまの物語に時移り、入日いりひの影も何時いつしか消えて、冴え渡る空に星影寒く、階下のくさむらに蟲の鳴く聲露ほしげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そのとき宿の若い亭主が訪ねてきて四方山よもやまばなしをはじめ、あまりお世辞のよい男なのに、一杯さすと彼はこのウイスキーの質を賞めながら盛んにのむ。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
何にも知らぬ二僧は、すっかり悦んで箸を取りながら主人や女中を相手に四方山よもやまはなしの末、法眼が言いました。
茶屋知らず物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あれやこれやと四方山よもやまばなしが出たなかで、どうやらその、手形で金を借りて、銀行の利子が払えそうなんだ。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
まず父母のやすきを問い、四方山よもやまの話相手にもなり、とくに親孝行といわれるほどの人は、二十四孝にじゅうしこうの芝居でみるように、肩をもみ腰をなで、洗足せんそくの湯をとり
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
そのうちに渋茶がはいると、かねて中間に持たせて来たすしを今日の昼食として、なお四方山よもやまの話をしていた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
幸子は夫と一緒なら兎に角、悦子と二人で旅館に泊るのも気が進まなかったし、久々で姉と四方山よもやまの話をするには姉の家の方が便利であると考えた訳であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と云いながら上へあがり、是から四方山よもやまの話を致しながら、春見は又作にさかずきを差し、自分は飲んだふりをして、あけては差すゆえ、又作はずぶろくにいました。
四方山よもやまの話をして、間もなくお徳は帰りました。それに続いて、平次とガラッ八が出かけようとすると
「こはきことを聞き得たり」ト、数度あまたたび喜び聞え、なほ四方山よもやまの物語に、時刻を移しけるほどに、日も山端やまのはかたぶきて、ねぐらに騒ぐ群烏むらがらすの、声かしましく聞えしかば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
今、二人は岩の上の獣の皮の敷いてある上へ、暢気のんきそうに腰をおろしながら、四方山よもやまの話に余念がない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日の当った事のないように薄暗い部屋を見回すと、マントルピースの上にさびしい水仙がけてあった。主婦は自分に茶だの焼麺麭トーストすすめながら、四方山よもやまの話をした。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
色の白い、眉の迫った、せぎすな若主人は、盆提灯ぼんちょうちんへ火のはいった縁先のうす明りにかしこまって、かれこれ初夜も過ぎる頃まで、四方山よもやまの世間話をして行きました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
間もなく方丈では主客うちくつろいでの四方山よもやまの話がはじまった。点火あかりもわざと暗くした風情ふぜいの中に、おのおのぜんについた。いずれも草庵そうあん相応な黒漆くろうるしを塗った折敷おしきである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寐顔の※ひを洗ひ捨てゝ四方山よもやまを見るに、さりとは口惜しや一銭つかはで是ほど面白く風情ありしことを知らず、もたれたる遊びに金銭を費して無益の年月を送りけるよと
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ドイツ見物に数週間ベルリンについやしたことがあったが、その際ある文士に会って、四方山よもやまの文談を聞いたときに、話がゲーテとシラーに移って、両氏の性格および文才と
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
紅葉もまた打解けて少しもわだかまりがなく用件以外の四方山よもやま世間咄せけんばなしをしてその夜をかした。
或日あるひ奥平の屋敷に推参すいさんして久々の面会、四方山よもやまの話のついでに、主人公が一冊の原書を出して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あなたの深い静かな心に映った物ごとの四方山よもやまばなしをきかせて頂こうじゃありませんか
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
家の者が茶の間へ集って茶でも飲みながら心静かに四方山よもやまの話をしているだろうと云う事を、彼は、自分もかつてよくそうした仲間の一人であったのでよく知っているのであった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
初対面の私を種々しゅしゅ厚遇してくれて、さて四方山よもやま談話はなしの末に老僧がいうには
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
兎も角、釣道の一名家に相違無ければ、道連れになりしを、一身の誉れと心得、四方山よもやまの話しゝて、緩かにあしを境橋の方に移したりしに、老人は、いと歎息しながら一条の物語りを続けたり。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
四方山よもやまの話をした末に賀川市長は教育者大会の失敗に終った話をした。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
室の中央に火鉢がおかれ、その周囲に、老若諸大家が座をしめ、何とかいう茶人がたてる抹茶を服みながら、四方山よもやまの話がはずみます。旅の話が出ているかと思うと、こちらでは鳥の話が出ている。
明治懐顧 (新字新仮名) / 上村松園(著)
四方山よもやまの話が出た。行一は今朝の夢の話をした。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
女の外出などはくれぐれ気をつけねば物騒である。——と、いうような四方山よもやまばなしなどのすえ、しばらくは小右京の帰宅を待っていたが
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかしは吉原の全盛の色香に心を引かれたらしい。——三の輪の知人在宿にて、双方心易く、四方山よもやまの話に夜が更けた。あるじ泊りたまえと平にいう。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一日いちにちわれ芝辺しばへんに所用あつて朝早くよりいえを出で帰途築地の庭後庵ていごあんをおとづれしにいつもながら四方山よもやまの話にそのままをふかし車を頂戴して帰りけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うやまふ事大方ならず今日はからずも伊賀亮の來訪らいはうあづかれば自身に出迎ひて座敷ざしきしやうじ久々にての對面を喜び種々饗應きやうおうして四方山よもやま物語ものがたりには及べり天忠言葉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
四方山よもやまの話をもちかけたのは、一つは、これから仙台郷へ入って、なるべくごうに従わんとする用意としての、奥州語の会話の練習を兼ねんがためでありました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と茶をみながら四方山よもやまの話を致して居りますも、おのずから経済法が正しく、倹約の道にかなって居りまする。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
田川夫妻は自然に葉子を会話からのけものにして、二人の間で四方山よもやまのうわさ話を取りかわし始めた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
周囲は駕籠かごが通り人々は煙草たばこをふかし、茶をのみ乍ら四方山よもやまはなしにふける普通の現実の世界である。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
四方山よもやまの話をして六時頃寿引上げかけたら、酒やで福神漬を売るから月番よろしくとのことで、わたしは日のかげったときゆっくり畑いじりしてみようと思っていたのに
たゞ何とのう四方山よもやまの世間話をいたしましたり、又は諸国の昔話、浄瑠璃、草紙の類などを面白おかしゅうこしらえて、道化どうけた身ぶり手真似などを加えて申し上げますと
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
九人の山伏を相手にして、この夜おそくまで戸野兵衛は、機嫌よく四方山よもやまの話をしていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
書肆某来りて四方山よもやまの物語をす、余はかかる射利の徒と交はるだも心苦しけれどもこれも交際と思ひ返してよきほどにあしらへり、もし心に任せたる世ならましかば彼ら如き輩を
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)