口説くど)” の例文
「まさにその通り、ありゃ女房の虎の子にしていた、お袋の形見だよ。何べん口説くどいても、あればかりは質に入れさせなかった品で」
お通夜や又何やかや用達ようたしの道々などで、私は高木の妹から、彼が甚だ好色漢で、宿屋へ泊れば女中を口説くどく、或時バーの女に
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
でありますから、私も眼の前にお幸を突きつけられて、その兄から代って口説くどかれましては女難なぞを思うことができなかったのです。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おげんはそこに父でも居るようにして、独りでかき口説くどいた。狂死した父をあわれむ心は、眼前めのまえに見るものを余計に恐ろしくした。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとえば、かの「忠臣蔵」の七段目で、おかるの口説くどきに“勿体もったいないがととさんは、非業ひごうの最期もお年の上”というのは穏かでない。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それで親爺は、『手助けをするつもりで、行って来てくれ』と、イワンを口説くどいているところだが、二、三日はかかる用事なんだ。
(どうしても、沢井を口説くどき落さねばならぬ、利を喰わすに物惜しみすな。条件は望み次第とし、何でもかでも、説きつけてこい)
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今まで米友を見かけて口説くどいていた眼と口とが、忙がわしく前方へ活動をして、面の色さしまで変ったのは挙動がはなはだ不審です。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
口説くどかれると、見境いなく、誰の言う事でもすぐきくのが、あの女の病いでもありまた徳でもあり、そのためにとうとう生命をなくした。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ところであねごはおどしっぷりがいいや。どっちみちあねごと二人っきりだ。今度の旅行は楽しみさ。口説くどくかな、その辺で」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は最後に母から口説くどかれた時、卒業の上、どうとも解決するから、それまで待ってれろと母に頼んでおいたのだそうである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
澄見はなほも押し返し、いろいろ口説くどき立て候へども、一向に御承引遊ばされず、遂に澄見の妙案も水の泡と消え果て申し候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
美しい一人の青年の諸侯に口説くどかれて木陰で接吻をする。それを偶然来掛つたモリエエルが瞥見べつけんした。恋に落ちた若い男女なんによは林の奥へ逃げた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
綺麗に家に帰りしが、これよりせっ/\と足近く笹屋に通い、金びら切って口説くどきつけ、遂にの女と怪しい中になりました。
女房のお初が、利平の枕許まくらもとでしきりと、口説くどきたてる。利平が、争議団に頭を割られてから、お初はモウスッカリ、怖気おじけづいてしまっている。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
……蛇塚の眷族はみんな女体にょたいだそうだから、ひょっとすると、こりゃあ、色っぽい話になるかも知れないぞ。ひとつ、とっつかまえて、口説くどくか
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
紅殻べにがら塗りのかまちを見せた二重の上で定規じょうぎを枕に炬燵こたつに足を入れながら、おさんの口説くどきをじっと聞き入っている間の治兵衛。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ナライ小碓皇子おうすおうじの故智をならい、花恥ずかしき美女に化けて往くと、ノンテオクたちまちれて思いのありたけ口説くどく。
これは声帯の充血を一時的に散らすので、長い効能は無いが、女でも口説くどかうといふものはその三十分前にこれを注射して見るのも面白からう。
口説くどいてみたってはじまらない。どうしても探し出さなければならない性質のものだから、徹夜してその事業に着手した。出帆前夜のことである。
早い話が玄関先で女を口説くどいているようなものだからである。それと、この路地の小さな袋路地であることが、私の気持を冷淡にしたのであろう。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
やすやすと口説くどき落した手柄話や、奥山へドライヴをした話などが事新しく思い出されて、行きずりのはかなくもあわただしい関係だの、名前も苗字も
三晩續けて徹夜よどほしに踊つても、猶踊り足らなくて、雨でも降れば格別、大抵二十日盆が過ぎるまでは、太鼓の音に村中の老人達が寢つかれぬと口説くどく。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
次の日も又次の日も、私は誰にも言はないからとずるい前置をして口説くどいたすゑ、やつと白状させた。私はほく/\と得たり顔して急ぎ佐伯に告げた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
このような喧騒けんそうきわめた中でも、彼の箱の一隅で、喇叭はイレーネの肩に手をかけ、何事か一心不乱のさまで彼女の耳にかき口説くどいてやまなかった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
中学生の頃から誘惑ゆうわくが多くて、十七の歳女専の生徒から口説くどかれて、とうとうその生徒を妊娠させたので、学校は放校処分になり、家からも勘当された。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
だが、おめえは、源三郎をだしぬいて、この女を口説くどきにかかったじゃアねえか。おらアそれが気にくわねんだっ!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
我が家に帰りつくと妓王は又さめざめと涙を流しながら、こんな生き恥をさらしているより死んだ方がよっぽど良いと母の膝によりすがって、かき口説くどく。
だが、お初ッて奴も、いい加減な茶人だなあ——見す見す泥棒と見ぬかれているのを知りながら、こわおもてで口説くどくなんて、ちっとばかしだらしがねえ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
人々ひとびとは、うちなかで、昼寝ひるねでもしようとおもっているやさきなものですから、あたままくらからあげて口説くどきました。
泣きんぼうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はそれを、或はすかし、或はおどし、色々に骨折って、三十分ばかりの間も、口をすっぱくして口説くどいた上、とうとう、半ば威圧的に、彼女をうなずかせて了いました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして手を振り廻しながら何やら盛んに掻き口説くどいてから、どっさり空箱を懐の中から掴み出し、それと引換えにありったけを買ってへらへらわらいつつ出て来た。
親方コブセ (新字新仮名) / 金史良(著)
先奥様せんおくさまがおいでになったらとかき口説くどいて泣きたりしも、浪子はいそいそとしてわがかどでぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「うまく言ッてるぜ。淋しかろうと思ッてじゃアなかろう、平田を口説くどいて鉢をッたんだろう。ははははは。いい気味だ。おれの言うことを、聞かなかッたばちだぜ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「叔母さん叔母さん、お勢さんを放飼はなしがいはいけないよ。今も人をつかまえて口説くどいて口説いて困らせ抜いた」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『鼻』に嫌気いやきがさしていた山口を誘い、彼の親友、岡田と大体の計画をきめてから、ぼくは先ず神崎、森の同感を得、次に関タッチイを口説くどきに小日向に上りました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わしゃ、おん年十六歳のときその後家を口説くどいたことがあるが、それ以来、自分から思い立って仕かけたことはなに一つありゃせん。天下国家のためだか知らんがのう。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
カント・デックは前からチャンと研究して、あっしを口説くどき落す手をかんげえていたらしいんですね。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そしてメァリーも一緒になつて、ジョンは二人を口説くどいて、こんなことに二人共同意させるやうなことは、決してしなかつたらうと云つた。彼は答へた、もの靜かに——
かつて、あるテキヤに口説くどかれたことがあつたが、そして、もう少しのところで誘惑されて了ふところであつたが、彼女は思ひとどまつて次のやうに言訳をした程である。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
そして、月を見つ酒を酌みつしながら、私は白骨から連れて來た老爺を口説くどき落して案内させ、つひにその翌日一時諦めてゐた燒嶽登山を遂行することになつたのであつた。
……なにかんがへたか、いづれ周章あわてたまぎれであらうが、神田かんだ從姉いとこ——松本まつもとながしあね口説くどいて、じつ名古屋なごやゆきにてゐた琉球りうきうだつて、月賦げつぷ約束やくそくで、その從姉いとこかほ
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「うき人を又口説くどき見む秋の暮」「君と我うそにればや秋の暮」というような句は、一見この単調を破り去ったようで、実は心底の寂しさを紛らそうとする声に外ならぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
安江では手におえぬとみて文吉を口説くどこうというのであろうか。安江は意地悪く笑い出し
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ここでったが百年目ねんめと、とっつかまえて口説くどこうッたって、そうは問屋とんやでおろしませんや。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ちょうど、あとになっていろんな女を口説くどいた時と、まるっきり同じだったわけです。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ことにお千代は極端に同情し母にも口説くどき自分の夫にも口説きしてひそかに慰藉いしゃの法を講じた。自ら進んで省作との間に文通も取り次ぎ、時には二人をわせる工夫もしてやった。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
夫の膝を右の手で揺り動かしつ口説くどけど、先刻さきより無言の仏となりし十兵衛何ともなお言わず、再度ふたたび三度かきくどけど黙黙むっくりとしてなお言わざりしが、やがてれたるこうべもた
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あんたがあんまりおとなしいものだからよ。口説くどいたのよ。ここのうちの青熊が」
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「何云ってるのだ、今まで俺を口説くどいて、待合へ往こうとか何とか云ってた癖に」
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)