去歳こぞ)” の例文
あの敏感な市川が我と我身の青春にえないかのように、「されど去歳こぞの雪やいづこに」と吟誦ぎんしょうして聞かせた時の声はまだ岸本の耳の底にあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
故に前年はゆませて天下の神宮をととのへ、去歳こぞあまねく天下をして釈迦牟尼仏しやかむにぶつの尊像高一丈六尺なるもの各一鋪いちふを造り並に大般若経一部を写さ令めき。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
山神さんじんの石のほこら、苔に蒸し、清水の湧出わきいず御手洗池みたらしいけには、去歳こぞの落葉が底に積って、蠑螈いもりの這うのが手近くも見えた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
去歳こぞより何處开處そこからだに申分ありて寐つ起きつとの由は聞きしが、常日頃すこやかの人なれば、さしての事はあるまじと醫者の指圖などを申しやりて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
語るものはわがこの夏霎時しばらくの仮の宿やどりとたのみし家の隣に住みし按摩あんま男なり。ありし事がらは、そがまうへなる禅寺の墓地にして、頃は去歳こぞの初秋とか言へり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
去歳こぞの冬江戸庵主人画帖がじょう一折ひとおりたずさきたられ是非にも何か絵をかき句を題せよとせめ給ひければ我止む事を得ず机の側にありける桐の丸火鉢まるひばちを見てその形を写しけるが
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
去歳こぞの春すがもりしたるか怪しき汚染しみは滝の糸を乱して画襖えぶすま李白りはくかしらそそげど、たてつけよければ身の毛たつ程の寒さを透間すきまかこちもせず、かくも安楽にして居るにさえ、うら寂しくおのずからかなしみを知るに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
本玉ほんたまとかいふ水晶製の眼鏡の価たかきをもいとはで此彼これかれと多くあがなひ求めて掛替々々凌ぐものから(中略、去歳こぞ庚子かのえね即ち天保十一年の)夏に至りては只朦々朧々として細字を書く事ならねばその稿本を
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
埋もれし去歳こぞ樹果このみ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
養父やうふ清左衞門せいざゑもん去歳こぞより何處どこ开處そこからだに申分まうしぶんありてきつとのよしきしが、常日頃つねひごろすこやかのひとなれば、さしてのことはあるまじと醫者いしや指圖さしづなどを申やりて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
枯枝かれえだ去歳こぞの嵐に吹き折られ
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
葬りかくせ去歳こぞの冬
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
養父清左衛門せいざゑもん去歳こぞより何処亓処どこそこからだに申分ありてつ起きつとのよしは聞きしが、常日頃すこやかの人なれば、さしての事はあるまじと医者の指図などを申やりて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
葬りかくせ去歳こぞの冬
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
去歳こぞにくらべて長屋もふゑたり、所得は倍にと世間の口より我が家の樣子を知りて、をかしやをかしや、其やうに延ばして誰が物にする氣ぞ、火事は燈明皿よりも出る物ぞかし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
去歳こぞにくらべて長屋ながやもふゑたり、所得しよとくばいにと世間せけんくちより樣子やうすりて、をかしやをかしや、そのやうにばしてものにするぞ、火事くわじ燈明皿とうめうざらよりもものぞかし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
去歳こぞにくらべて長屋もふゑたり、所得は倍にと世間の口より我が家の様子を知りて、をかしやをかしや、そのやうに延ばしてが物にする気ぞ、火事は燈明皿よりも出る物ぞかし
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しばしやどかせ春のゆく衞と舞ひくるもみゆ、かすむ夕べの朧月よに人顏ほの/″\と暗く成りて、風少しそふ寺内の花をば去歳こぞも一昨年も其まへの年も、桂次此處に大方は宿を定めて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
横町も表も揃ひは同じ真岡まおか木綿に町名くづしを、去歳こぞよりはからぬかたとつぶやくも有りし、口なし染の麻だすきなるほど太きを好みて、十四五より以下なるは、達磨だるま木兎みみづく、犬はり子
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
横町よこてうおもてそろひはおな眞岡木綿まおかもめん町名ちやうめうくづしを、去歳こぞよりはからぬかたをつぶやくもりし、くちなしそめあさだすきるほどふときをこのみて、十四五より以下いかなるは、達磨だるま木兎みゝづくいぬはり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しばしやどかせ春のゆくと舞ひくるもみゆ、かすむ夕べの朧月おぼろづきよに人顔ほのぼのと暗く成りて、風少しそふ寺内の花をば去歳こぞ一昨年おととしもそのまへの年も、桂次此処に大方おほかたは宿を定めて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しばしやどかせはるのゆくひくるもみゆ、かすむゆふべの朧月おぼろづきよに人顏ひとがほほの/″\とくらりて、かぜすこしそふ寺内じないはなをば去歳こぞ一昨年おとゝしそのまへのとしも、桂次けいじ此處こゝ大方おほかた宿やどさだめて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
寢間ねま時計とけいの十二をつまで奧方おくがたはいかにするともねふことくていくたびがへりすこしはかん氣味きみにもなれば、らぬ浮世うきよのさま/″\より、旦那樣だんなさま去歳こぞ今頃いまごろ紅葉舘こうえうくわんにひたとかよひつめて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とりの市を除けては一年一度の賑ひぞかし、三嶋さま小野照をのてるさま、お隣社となりづから負けまじの競ひ心をかしく、横町も表も揃ひは同じ眞岡木綿まをかもめんに町名くづしを、去歳こぞよりは好からぬかたとつぶやくも有りし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)