凸凹でこぼこ)” の例文
箱の前には小さな塗膳があって其上に茶椀小皿などが三ツ四ツ伏せて有る其横にくすぼった凉炉しちりんが有って凸凹でこぼこした湯鑵やかんがかけてある。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
岩の凸凹でこぼこが跡型もなく消え失せて、その代りにラムプにアカアカと照らされた自分のうちの新しい松板天井が見えているのに気が付いた。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
奉天の道路は海城ほど凸凹でこぼこにでき上っていないから、むやみに車の上で踊をおどる苦痛はないが、その引き方のいかにも無技巧で
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに、大した面積でもない凸凹でこぼこした人間の顔などは、粘土細工同様に自由にこね直すことができると断言しているのであった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
「わたへ、まだ一遍も面皰出けえへん、何んでやろ。」と自分も顏を撫で𢌞して、ごは/\と凸凹でこぼこの多い、硬さうな父の顏を覗き込んだ。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
何が何でも、そこに立っちゃいられんから、ったか、ったか、弁別わきまえはない、凸凹でこぼこの土間をよろよろで別亭はなれの方へ引返すと……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幌は破れ、車体はゆがみ、タイヤは擦り減り、しかもごろた石の凸凹でこぼこの山坂道をはしり上るのである。揺れるの揺れないのでない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
凸凹でこぼこや泡のないものを選びたいのです、むかしのものは、ほとんど紙の如く薄いのをもちいています、なかなか味のあるものです。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
見るも無惨な凸凹でこぼこ瘡蓋かさぶたになつた私の顔に姉は膏薬かうやくを塗つてくれながらへんな苦が笑ひをした。私は鏡を見て明け暮れ歎き悲しんだのであつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
茶屋の前から、道は、播州路ばんしゅうじへ向って、かなり急な坂である。銀山がよいの荷駄が往来を荒すので、雨天のひどい凸凹でこぼこがそのままに固まっている。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度凸凹でこぼこなりの姿見の前で、職工風の一人の男の頭にバリカンをかけてゐる、頭髮のモヂヤ/\した貧相なこゝの親方に、『今日こんちは。』と挨拶する。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
君、警察の連中が此処へ着くまでには、まだまだ時間があるよ。遠い凸凹でこぼこ道だから、三時間は充分かかる。ね、ヨットを
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
現に、伊太利イタリーの十八世紀小説の中にですが、凸凹でこぼこ鏡玉レンズを透して癩患者を眺めたとき、それが窈窕ようちょうたる美人に化したという話もあるとおりで……。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
町じゅうが、赤い屋根も、白い壁も、凸凹でこぼこの舗石も、親しい魅力を帯びて、クリストフはそれに心を動かされた。
小石の多い凸凹でこぼこ径に、馬車は騒々しい音をたて、物凄く震動しながら、いっさんに駈けてゆく。黄色い花の穂が三太の眼から後ろへ、後ろへと逃げてゆく。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
坦々たんたんの如き何げんはばの大通路を行く時も二葉亭は木の根岩角いわかど凸凹でこぼこした羊腸折つづらおりや、やいばを仰向けたような山の背を縦走する危険を聯想せずにはいられなかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
斯うして斯の大傾斜大谿谷の光景ありさまを眺めたり、又は斯の山間に住む信州人の素朴な風俗と生活とを考へたりして、岩石の多い凸凹でこぼこした道を踏んで行つた時は
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
凸凹でこぼこの激しい、まるい石畳の間を粉のような馬糞ばふん藁屑わらくずが埋めて、襤褸ぼろを着た裸足はだしの子供たちが朝から晩まで往来で騒いでいる、代表的な貧民窟街景の一部である。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
吹く風は荒れくるい、息がふさがりそうであった。菱波立っている水の上には、大きい星が出ていた。河へ降りてゆく凸凹でこぼこの石道には、両側の雑草がたたきつけられている。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
工事場はもうツンドラをがして、下の真黒い泥炭がむき出しになっていて、凸凹でこぼこと歩きにくかった。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして大膽な足の爲めには運命の神が我々に對してふさいだ路と同じ位に、眞直な廣い路を伐り拓けばいゝのです。それが運命がふさいだ路よりも凸凹でこぼこしてゐるとしても。
だんだん道が凸凹でこぼこしだし、歩きにくくなつた。それは私達が郊外に這入りつつあることを私達に知らせた。ここまで來ると、もう全く人通りはなくなつてしまつてゐた。
水族館 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
みち凸凹でこぼこがないのか、それとも籠舁の足は宙を踏んでいるのか、すこしも踏みごたえがなかった。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夕日の眞赤な光が對岸の緑の平野の上に被ひかぶさつて、地平線を凸凹でこぼこにする銀杏樹いちやうらしい、またけやきらしい樹の塊りは、丁度火災の時のやうに、氣味わるく黒ずんでゐる。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
冬の日の空に煤煙! さうして電車をりた人人が、みんな煉瓦の建物に吸ひこまれて行く。やたら凸凹でこぼこした、狹くきたない混雜の町通り。路地は幌馬車でいつもいつぱい。
散文詩・詩的散文 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
私は、鬣の中に顔を埋めてその凸凹でこぼこの激しいジグザグの坂を登りながら、跛馬は平坦な道よりも寧ろ坂道の方が乗手に気楽を感ぜしめるという一事実を見出したりなどした。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
高梁コウリャン畑を、ひとしきり踏み過ぎると、だらだら凸凹でこぼこの激しい一寸ちょっと拡い野っ原であって、右手に線路が淋しく光って見え、凹間くぼまらしいくろずんだ向う側に、また高梁畑が起伏していた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
赤痣あかあざ凸凹でこぼこの大きい顔は、網杓子あみじゃくしに似ていた。ひげまではえていた。まったく市場の人夫の理想的な型で、ただ女の着物を着てるだけであった。そのどなる声は素敵なものだった。
路の凸凹でこぼこがはげしいので、車は波を打つようにしてガタガタ動いていく。苦しい、息が苦しい。こう苦しくってはしかたがない。頼んで乗せてもらおうと思ってかれは駆け出した。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「家賃で食って行くなぞは大屋おおや凸凹でこぼこのすることです。何かします。額の汗で食って行きます。しかし僕は金専門で働く気には何うしてもなれません。同僚は実にひどいんですよ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして、其又顏といつたら、蓋し是れ天下の珍といふべきであらう。唯極めて無造作に凸凹でこぼここしらへた丈けで醜くもあり、馬鹿氣ても居るが、く見ると實に親しむべき愛嬌のある顏だ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
千住の家では、凸凹でこぼこの金属の板を張ったのに、細長くした材料を横に入れ、同じような板の両端に把手とっての附いたので押して、前後に動かしますと、二、三十粒の丸薬が一度に出来ます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「地上」は、こけむしたようなすすけた緑の斑点はんてんを、校舎の裏の赤土の上にひろげ、ところどころ地面に凸凹でこぼこの影をつくりながら、眼下から渋谷川のほうにかけて裸の空地をつづけている。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
阿蘇山が怒ってばさら竹の杖をもって、始終猫岳の頭を打っていたので、頭がこわれて凸凹でこぼこになり、また今のように低くなったのだといいます。(筑紫野民譚みんたん集其他。熊本県阿蘇郡白水はくすい村)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ベルリンのウンテル・デン・リンデンと云う大通りの人道が、少し凸凹でこぼこのある鏡のようになっていて、滑って歩くことが出来ないので、人足がすなを入れたかごわきに抱えて、いて歩いています。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これが自転車乗りを目のかたき、早速やって来て、人ッ子一人いない場所でも「道路であるから稽古相成らん」と厳命、しかし草ッ原は凸凹でこぼこで稽古ができぬ、勝手ながら巡査君が立ち去るとまた逆戻り
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
過ぎ曲折して平地にいづれば即ち長久保ながくぼなり宿しゆく家並やなみよく車多し石荒坂にて下駄黨も草鞋派も閉口したればこゝより車に乘る此邊平地とは云へ三方山にて圍ひ一方は和田峠に向ツて進むなれば岩大石ゴロタ石或ひは上り或は下る坂とまでならねど凸凹でこぼこ多く乘る者は難儀なれど挽夫ひくものは躍るもガタツクも物とは
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
三輛の馬車は相隔つる一町ばかり、余の馬車は殿しんがりに居たので前に進む馬車の一高一低、凸凹でこぼこ多き道を走つて行く様がく見える。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
松原の方へ長く續いた里道の砂塵は、しツとりと露に濡れて、晝間は氣の付かぬ凸凹でこぼこしたところが、一目にずうツと見られた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
向うの方で凸凹でこぼこの地面をならして新墓地を作っている男が、くわの手を休めて私たちを見ていた。私たちはそこから左へ切れてすぐ街道へ出た。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丸味をおびて凸凹でこぼこした頭部とうぶとおぼしきものと、両肩に相当する部分があり、それから下はだらりとして長くすそをひいていた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから「江差追分」「八木節」「博多節」などに変って行ったが、青羅紗ラシャ凸凹でこぼこの台の上にレコードはへたばりへたばりキイキイ声で旋廻した。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
と円満にして凸凹でこぼこなき、かつ光沢のある天窓あたまを正面から自分ゆびさしながら、相対して、一等室の椅子にかけたのは同社名誉の探訪員、竹永丹平である。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立止って見ていた通りの物凄い岩壁の凸凹でこぼこを、半分麻痺した福太郎の脳髄が今一度アリアリと描き現わしたところの、深刻な記憶の再現に外ならなかった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
黒い荒い無格好なひげが生えてる赤ら顔、眼鏡の奥で笑ってる善良な眼、しわの寄ったざらざらした凸凹でこぼこの無表情な広い額、丁寧ていねいに頭にでつけられてる髪は
庸三はきつねつままれているような感じだったが、ちょうどそのころ、庸三は目に異状が現われて来て、道が凸凹でこぼこしてみえたり、光のなかにもやもやした波紋が浮いたりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
冬の日の空に煤煙! さうして電車をりた人人が、みんな煉瓦の建物に吸ひこまれて行く。やたら凸凹でこぼこした、狭くきたない混雑の町通り。路地は幌馬車でいつもいつぱい。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
根に持とうや。……筑前が笑うたのは、余りにも、佐々さっさの頭が、おかしいからだ。いま初めて、佐々の頭の凸凹でこぼこを見つけたからじゃよ。悪く思うな、佐々、おもてを上げい、面を——
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは女にはちがいないが、その顔は電燈の片光りを浴びて、へんに無気味な凸凹でこぼこをつくっているので、それが少女の顔なのか年よりの顔なのか私にはどうしても識別できなかった。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あしに似た禾本かほん科の植物類が丈深く密生して、多少凸凹でこぼこのある岸の平地から後方鳥喰崎の丘にかけて、いばらのような細かい雑草や、ひねくれた灌木だの赤味を帯びた羊歯類の植物だのが
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)