ひえ)” の例文
ことに近頃の冬は彼の身体からだに厳しくあたった。彼はやむをえず書斎に炬燵こたつを入れて、両膝りょうひざから腰のあたりにみ込むひえを防いだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊香保饅頭はあったかいうちは旨いがひえると往生で、今坂いまさかなんざア食える訳のもんではありません……へえー藤村ので、東京とうけいから来るお菓子で、へえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
スーッと身に涼風りょうふうが当るように感じたそのうちに、エレヴェーターで下に降りるような気がしてきた。それと共に身体がひえて、ガタガタふるえだした。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
寒中雨雪うせつ歩行ありきひえたる人きふ湯火たうくわもちふべからず。おのれ人熱じんねつあたゝかならしむるをまつて用ふべし、長生ちやうせいの一じゆつなり。
そのうち湯が沸騰わいて来たから例の通り氷のようにひえた飯へ白湯さゆけて沢庵たくあんをバリバリ、待ち兼た風に食い初めた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夜更けてかえるとひえるので牛肉を半斤ばかり煮て食べるのが仕来しきたりになっていた。それさえ口にしなかった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
停車場ていしやばから宿屋まで、僅か一町足らずの間に、夜風のひえおとがひを埋めた首巻が、呼気いき湿気しめりで真白に凍つた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いとひなくば其所そこひえれば此方こなたにてと座敷の中へ花莚はなござしかせて二個ふたりせうずるに此方は喜び有難ありがたき旨をのべつゝ上へ登り風呂敷包ふろしきづつみ解開ときひらき辨當を出し吹筒すゐづつの酒を飮んとなしけるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見渡す処、死んだ魚の眼の色は濁りよどみそのうろこは青白くせてしまい、切身きりみの血の色は光沢つやもなくひえ切っているので、店頭の色彩が不快なばかりか如何いかにも貧弱に見えます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
枯野かれのひえ一幅ひとはばに細く肩のすきへ入つたので、しつかと引寄せた下着のせな綿わたもないのにあたたかうでへ触れたと思ふと、足を包んだもすそが揺れて、絵の婦人おんなの、片膝かたひざ立てたやうなしわ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぬくとくつてえゝ鹽梅あんべえだ、ひえさせちやえかねえ」かれ掛蒲團かけぶとんをとつぷりふたした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その下には地球が刻々に零下二百七十四度に向ってひえて行きつつあります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
照る月のひえさだかなるあかり戸に眼はらしつつひてゆくなり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たのしみは小豆あずきの飯のひえたるを茶づけてふ物になしてくふ時
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
愛のひえきつた世でござる、何卒どうぞえびらの矢をとつて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「わたしの前生さきしやうはルンペンだつたのかしらん。遠い昔、野の草を宿としてゐて、ひえこんでんだのかもしれない。それでこんなにうちのなかにばかりゐるのかしら?」
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
文「町、うした、足がひえるから一寸ちょっとつまずいても怪我をする、大分だいぶ血が出るな、足袋たびを脱いで御覧」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かゞめて歩行あるきながら三五郎に向ひ我等近頃𬏣癪せんしやくにて折々難澁なんじふ致すなりと申ければ三五郎聞て夫は彼の大津屋へ入夫にふふまゐつてより金がたまりし故にこしひえるのんなんど戯談たはぶれつゝ先へ行を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くもあたゝかなる気を以て天にのぼり、かの冷際れいさいにいたればあたゝかなるきえて雨となる、湯気ゆげひえつゆとなるがごとし。(冷際にいたらざれば雲散じて雨をなさず)さて雨露あめつゆ粒珠つぶだつは天地の気中にるを以て也。
おとなしく炬燵こたつにはひり日暮なりふりつつやみし雪のあとのひえ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やわらかい羽根はひえきっている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そろって座についたが、本堂は硝子障子が多いので、書院よりは明るいが、そのひえはひどかった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
眼はぢて眶毛まつげにさやる眼帯のひえきはみけり月夜かも沁む
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
新「アヽ、下りないでも宜いよ、ひえるといけねえよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
したしくは妻子とこもれゆきあかりのこの谿底たにそこの日の暮のひえ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
新「仕様がねえなひえるといけないからお這入りよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひえびえと雨が、さぎりにふりつづく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)