とぎ)” の例文
お女中がたは何と申してもお口が軽うござりますから、おとぎに上っておりますと、いろ/\のことを聞き出すついでがござりました。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は病人のおとぎをする積りで、根気よく待っていると、やがて、彼はパッチリと目を開いた。その瞳が喜ばしげな光を放っている。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
毎晩籤引くじびきで、夜のとぎをする妾をきめると言ふことになつてゐるが、近頃は若い妾のお袖を可愛がり、お吉を追つ拂つて、日が暮れるとお袖を
日本一にっぽんいちの無法な奴等やつら、かた/″\殿様のおとぎなればと言つて、綾錦あやにしきよそおいをさせ、白足袋しろたびまで穿かせた上、犠牲いけにえに上げたとやら。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そしてその花形の人、神崎の苦ミ走った容貌と外出の騎馬姿は、おとぎ話の中の騎士ナイトのようにぼくら子供の眼には映じて、ひどく印象的だった。
その、光の絣模様のようにつらなっている美しい風景が、金五郎を、おとぎの国に入りこんだような、幻想的な気持にさせた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
高齢の人には、心のおけないおとぎ坊主ですこしは慰めにもなったのであろう、何処どこへゆくにもおともをさせられるのだった。
「柳沢侯は数寄のお方で、お眼にとまる者は必ずお部屋にお入れなされ、やがて将軍家のとぎにおすすめなさる、ということではございませんか」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それからね、二階のお嬢様がモシどこかへ出たがっても、お出し申さないように。そうそう、勢ちゃんが病気なら、勢ちゃんをおとぎによこそう」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とぎの世界にでもあるような幽幻神秘の宝物庫が、私の眼前に展開されて、見て行く私の眼を奪い計り知られぬその価値に私は思わず溜息をした。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一方の『牡丹燈記』が浅井了意あさいりょういの『おとぎぼうこ』や、円朝えんちょうの『牡丹燈籠』に取り入れられているのは、どなたもく御存じのことでございましょう。
宝物といえば、このおとぎの国の水晶よりも、もっと珍しい貴重な芸術品も降って来る。それは六角の柱の上と下とに、六花の花型が咲いた結晶である。
するとある年のなたら(降誕祭クリスマス)の悪魔あくまは何人かの役人と一しょに、突然孫七まごしちいえへはいって来た。孫七の家には大きな囲炉裡いろりに「おとぎもの
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
虹猫もすつかり満足して、一週間、雲のお宮にゐて、それから自分のおとぎの国へ帰りました。そのゝち、何事が起つたかは、又この次にお話しませう。
虹猫の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
いわばただ筋書ばかりを面白く感じますのです、つまりおとぎ的に面白みを感ずるのでありました、それで少し文学的とか詩的とか真面目な意味から視ると
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
村中での美しい娘を選んで、それを夜のとぎせしめようとするが、決してこれと親しく語り合うてはならぬ。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それから、あの共産党の中川さまを、おとぎにおすすめ致しましたのも、ほかならぬ私めが仕事で御座いまする。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小才覚があるので、若殿様時代のおとぎには相応していたが、物の大体を見ることにおいてはおよばぬところがあって、とかく苛察かさつに傾きたがる男であった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
船員がやってきてハッチの蓋を揚げ、不意に明るい日影がさっと差し込むと、おとぎ話で聞くような声でチュウチュウと鳴き、船底を駆けあるくものがある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この前書によってあんずるに、二人が突然やって来たので、いささかもてなしのため、夜話のとぎにするような意味で、かき餅でも焼こうといったのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そうすれば、きみはまるでおとぎの都市に来たのかと思うでしょう。広い敷石しきいしのあいだには草がえています。
「その上に、又、わたしのようなものの、つれづれのとぎまでたのまれて、さぞ、心苦しゅうありましょうな」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
とぎの世界をねらう平和な獣だけの理想の天地。宮様がお通りになるからと云って、一日じゅう障子を閉ざして息を殺していなければならぬ私は階級なのだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
幅の廣い段々を二段上つてずつと見渡してみて、私はおとぎの國を一目のぞいたやうな氣がした。それ程その向うの光景は、新參の私の眼には輝やかしいものだつた。
事に慣れたとぎが一人附いて行くから心細い事はないなどと励ます様に云いました、其の伽とは監獄の病院で大場連斎の手下に成って秀子の脱獄を助けた老看護婦で
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
夜長のとぎに売りあるく生業、これも都にフッツリ影を留めずなって、名物かりん糖の中に交れるを買って見るなど、今は恋にも喰意地がついてまわるとは情ない限りだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
温室にさいた珍しい花、世界各地からきた珍しい品物、おとぎばなしのような美しい店です。
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
このおとぎばなしのような出来事も、お前が立派に成長したときには、たのしい伝説の一つになるであろう。お前はそのはなしをお前の母と姉からもっと、こまごまときくがいい。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
とろとろと夢まどやかなおとぎの国にはいったのが、いま申しあげたその四ツ下がり——
おっしゃらずに、奥さんは、お一人で淋しがっていらっしゃいますから、今晩、おとぎ
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かつて私のうちにただ一部あった草双紙はこうして亡き母のおとぎに行ってしまった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
きたフランスの女王様とね、そいから赤いほっぺをした白いジョーカーと、そいから、おとぎばなしの御本と、そいから、なんだっけそいから、ピアノ、そいから、キュピー、そいから……
クリスマスの贈物 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
とぎの野は長く駒の形付かたちつきたる石ありといふ駒形明神こまかたみやうじんの坂も過ぎ鹽灘しほなだへこそ着にけれ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
おさゆるなみだそできてモシとめれば振拂ふりはら羽織はおりのすそエヽなにさるゝ邪魔じやまくさしわれはおまへさまの手遊てあそびならずおとぎになるはうれしからず其方そなた大家たいけ娘御むすめごひまもあるべしその日暮ひぐらしの時間じかんもを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わら小屋にねていたのを村の青年たちに叩き起されて、白野老人の家につれて行かれたときのことや、田添夫人に見送られて筑後川を下った時のことが、おとぎの世界のように思いおこされた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「そりゃ、前者は芸術品で、後者は通俗も通俗、幼稚なおとぎばなしじゃないか」
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それが、通夜のとぎの話に父の後妻がわたくしに語ったところに依ると
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
先生の仕事のもうあがっている笹村は、慌忙あわただしいような心持で、自分の創作に執りかかっていた筆をおいて、時々先生の様子を見に行った。みんなは交替に、寂しい病室に夜のおとぎをすることになっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
有島氏はなるべく解り易いやうにおとぎばなしの口調で話し出した。
御飯焚ごはんたきでもお小間使いでも、お寝間のとぎでも仕ようという訳だ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
年上のヒルミ夫人のおとぎをするようになったのである。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
やみの夜にぼそぼそおとぎばなしをしたばかりで
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
「おとぎします」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「むむ、くどいの、あとは魔界のものじゃ。雪女となっての、三つ目入道、大入道の、酌なととぎなとしょうぞいの。わはは、」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜は夜とて、酒肴しゅこうの善美、土地の名物、ひなびた郷土の舞曲など、数々のおとぎ。そして宿殿の外には、夜空も焦がす大篝火おおかがりびを諸所に焚きつらね
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東野南次の待っている、香ぐわしい幽里子、——あのおとぎの国の王女のような、恋の麗人は消息を絶ってしまいました。
「少しは察して頂戴な——お前さんのような優男をおとぎにして、このながながし夜を一人ならず明かしてみたい、弁慶と小町は馬鹿だと言いました」
伊緒は父のこころがよくわかるので、一ときほど遺骸のとぎをしただけで、かたみの品を抱いて雪のなかを帰って来た。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして子供達と一緒におとぎ噺の世界をさまよっている内に、彼は益々ますます上機嫌になって来るのだった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
巨大な銀河の帯は光を密集させて、南北に走り、手をあげて払えば落ちそうに、近々と、見えた。一瞬、金五郎は、おとぎの国に来たような、夢幻的な気持になった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)