“伽:とぎ” の例文
“伽:とぎ”を含む作品の著者(上位)作品数
泉鏡花12
吉川英治12
中里介山10
野村胡堂6
泉鏡太郎3
“伽:とぎ”を含む作品のジャンル比率
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.7%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)0.4%
文学 > 日本文学 > 評論 エッセイ 随筆0.1%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
「むむ、くどいの、あとは魔界のものじゃ。雪女となっての、三つ目入道、大入道の、酌なととぎなとしょうぞいの。わはは、」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その、光の絣模様のようにつらなっている美しい風景が、金五郎を、おとぎの国に入りこんだような、幻想的な気持にさせた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
しきりに婦人おんな不便ふびんでならぬ、深山みやま孤家ひとつや白痴ばかとぎをして言葉も通ぜず
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高齢の人には、心のおけないおとぎ坊主ですこしは慰めにもなったのであろう、何処どこへゆくにもおともをさせられるのだった。
「そりゃ、前者は芸術品で、後者は通俗も通俗、幼稚なおとぎばなしじゃないか」と、誰でも云うに決っている。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
村中での美しい娘を選んで、それを夜のとぎせしめようとするが、決してこれと親しく語り合うてはならぬ。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
しきり婦人をんな不便ふびんでならぬ、深山しんざん孤家ひとつや白痴ばかとぎをして言葉ことばつうぜず
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうして子供達と一緒におとぎ噺の世界をさまよっている内に、彼は益々ますます上機嫌になって来るのだった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「その上に、又、わたしのようなものの、つれづれのとぎまでたのまれて、さぞ、心苦しゅうありましょうな」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「それからね、二階のお嬢様がモシどこかへ出たがっても、お出し申さないように。そうそう、勢ちゃんが病気なら、勢ちゃんをおとぎによこそう」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とぎの世界にでもあるような幽幻神秘の宝物庫が、私の眼前に展開されて、見て行く私の眼を奪い計り知られぬその価値に私は思わず溜息をした。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「少しは察して頂戴な——お前さんのような優男をおとぎにして、このながながし夜を一人ならず明かしてみたい、弁慶と小町は馬鹿だと言いました」
慰められないまでも、おとぎとして座右へ置いても、癇癪かんしゃくの種にはならなかったようです。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幅の廣い段々を二段上つてずつと見渡してみて、私はおとぎの國を一目のぞいたやうな氣がした。
と、九鬼家の家臣という三名のさむらいが、船中料理の粋をこらして、やがてそれへとぎに出て来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとり寝をさせるには気のもめる、あの秀麗きわまりない肉体を、深々と郡内の総羽二重夜具に横たえて、とろとろと夢まどやかなおとぎの国にはいったのが
公方の寝間のとぎをさせたことそれ自体、いわば、親兄の犠牲としたのにすぎないのを考え合せると
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
船員がやってきてハッチの蓋を揚げ、不意に明るい日影がさっと差し込むと、おとぎ話で聞くような声でチュウチュウと鳴き、船底を駆けあるくものがある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一生懸命いつしやうけんめい學校用がくかうよう革鞄かばんひとひざいて、少女せうぢよのおとぎ繪本ゑほんけて
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
孫七の家には大きな囲炉裡いろりに「おとぎもの」の火が燃えさかっている。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それにも拘らず、お師匠様なる人は相変らず悠長に構えて、別に差当っての用事を頼むのでなく、意見を加えがてら、話し相手のおとぎにするようなあんばいで、
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虹猫もすつかり満足して、一週間、雲のお宮にゐて、それから自分のおとぎの国へ帰りました。
虹猫の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
わしがの、うやつてござるあひだ、おとぎ土産話みやげばなしを聞かせましよ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『殆ど二十何年ぶり。広島の屋敷におりました頃は、まれには、おとぎもいたしましたが』
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
温室にさいた珍しい花、世界各地からきた珍しい品物、おとぎばなしのような美しい店です。
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この前書によってあんずるに、二人が突然やって来たので、いささかもてなしのため、夜話のとぎにするような意味で、かき餅でも焼こうといったのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
小才覚があるので、若殿様時代のおとぎには相応していたが、物の大体を見ることにおいてはおよばぬところがあって、とかく苛察かさつに傾きたがる男であった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうだ、君でも当分あの方のお傍にいて、おとぎをつとめてもらうと助かるがなあ——
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かつて私のうちにただ一部あった草双紙はこうして亡き母のおとぎに行ってしまった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
「いずれは、一断に御処分し奉ることになろうが、ずいぶんズバズバ物を仰っしゃるみかどだ。もっといろんな秘事を聞きおきたい。よいかの、おとぎよりも目あてはそれだ」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸者の福松には、旅行用の合羽かっぱを手厚く着せて寝かせ、自分は、木を集めて火を焚いて、それをとぎに、柱があれば柱、壁があれば壁によりかかって、しばしまどろむ。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兵馬というものを、この山中の都会で見つけ出して、遮二無二しゃにむに、自分のとぎにしてしまわねば置かぬという権高と、性急とが、全く兵馬をして挨拶に困らせました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜は夜とて、酒肴しゅこうの善美、土地の名物、ひなびた郷土の舞曲など、数々のおとぎ。そして宿殿の外には、夜空も焦がす大篝火おおかがりびを諸所に焚きつらね、
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、その晩は、この何の変化もない、子供と酔っぱらいのおとぎの国に、というよりは、老ラッパ手格二郎の心に、少しばかりの風波を、もたらすものがあったのである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この猫はあたりまへの猫とはちがつた猫で、おとぎの国から来たものでした。
虹猫の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それが、通夜のとぎの話に父の後妻がわたくしに語ったところに依ると、
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
みんなは交替に、寂しい病室に夜のおとぎをすることになっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「弁信さん、よくおいでなさいました、ほんとうに、お待ち申していましたよ、寒くはございませんか、さだめてお退屈だろうと思いまして、おとぎにあがりましたよ、わたしですよ」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一方の『牡丹燈記』が浅井了意あさいりょういの『おとぎぼうこ』や、円朝えんちょうの『牡丹燈籠』に取り入れられているのは、どなたもく御存じのことでございましょう。
……そこの高欄におしかかりながら、月を待つのおとぎにとて、その坊さんが話すのですが、薗原山そのはらやま木賊刈とくさがり伏屋里ふせやのさと箒木ははきぎ
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一瞬、金五郎は、おとぎの国に来たような、夢幻的な気持になった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そうすれば、きみはまるでおとぎの都市に来たのかと思うでしょう。
殊に、馬の能力などを考えると、少々、おとぎばなしめいてくる。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わら小屋にねていたのを村の青年たちに叩き起されて、白野老人の家につれて行かれたときのことや、田添夫人に見送られて筑後川を下った時のことが、おとぎの世界のように思いおこされた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
竹永さん、貴下あなたを今夜は帰さないよ。隣のホテルからおまんまが取れるから、それでも食って、病院だから酒は不可いかんが、夜とともに二人で他所よそながらおとぎをする気だ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかるとぎする身の、何とて二人の眠らるべき。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やみの夜にぼそぼそおとぎばなしをしたばかりで、
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
「が、むかしとちがう今日のはなし。御内儀に異存なくば、亭主にも否やあるまい。ぜひ北ノ庄へ同道なつかまつろう。——御子息孫四郎どのは、おふくろ様のとぎに、あとへ残し置かるるがよい」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
番町の邸では、時折家族で——子供衆たちの催しではあろうが——大仕掛けなおとぎ芝居が催されたり、藤間勘十郎ふじまかんじゅうろうのおさらいなどに令嬢の一人舞台で見せられる時もあった。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日本一にっぽんいちの無法な奴等やつら、かた/″\殿様のおとぎなればと言つて、綾錦あやにしきよそおいをさせ、白足袋しろたびまで穿かせた上、犠牲いけにえに上げたとやら。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とぎの世界をねらう平和な獣だけの理想の天地。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「講釈に承りますると、参州の吉田御殿というお城の上の高いやぐらから、千姫様が東海道を通る男という男をごらんになって、お気が向いた男はみんな召上げておとぎになさるということでござんす」
顔容かおかたちに似ぬその志の堅固さよ。ただおとぎめいた事のみ語って、自からそのおろかさを恥じて、客僧、御身にも話すまいが、や、この方実は、もそっと手酷てひどこころみをやった。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吉保は、一門一族をあげてこれを迎え、歓楽つきて、秘室、伽羅きゃらきこめた屏裡へいりには、自分の妻妾でも、家中のみめよき処女でも、綱吉のとぎに供するのを否まなかったとさえいわれる。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今夜のとぎだ! 嬉しそうに笑え!」
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あたいね。金の服をきたフランスの女王様とね、そいから赤いほっぺをした白いジョーカーと、そいから、おとぎばなしの御本と、そいから、なんだっけそいから、ピアノ、そいから、キュピー、そいから……」
クリスマスの贈物 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
有島氏はなるべく解り易いやうにおとぎばなしの口調で話し出した。すべての女は、どんな真理をでも餡子あんこや小説の文句やでまぶして置かなければ滅多に口にしないものだといふ事を有島氏はよく知つてゐた。
ところが、その後もよく召される伊吹ノ館で、或る夜、藤夜叉は、道誉の寝所から逃げ出した。彼のとぎを拒んで、夜中、独りで村へ逃げ帰ったのである。以後、彼女だけは、お城田楽には、病といって、出なかった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ、おとぎばなしみたいですね」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お寝間のとぎでも仕ようという訳だ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
えゝ、そんなおもひをして、くもあめも、みんな、したとほえます、蒼空あをぞらたかみねやかたなかに、ひるとぎをしてくらしました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜のとぎに、母を中心に取巻いて、
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「河内瓢箪山稲荷辻占」恋の判断を小さな紙に記して、夜長のとぎに売りあるく生業、これも都にフッツリ影を留めずなって、名物かりん糖の中に交れるを買って見るなど、今は恋にも喰意地がついてまわるとは情ない限りだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
島のおとぎの泣き伏せる月 翁
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「怪しい奴ばかりで、——もつとも女房子のある市十郎が、同じ屋根の下に二人も妾を飼つて、籤引くじびきで毎晩とぎをさせるなんざ、助平なお大名のやりさうな事で、見せつけられる者は、誰だつて腹を立てますよ」
意地の悪いことをおっしゃる弁信さん。実はねえ、あなたのために、おさびしかろうと思っておとぎに出たのなんのというのは、お為ごかしなんでして、本当のところは、こっちが淋しくてたまらないんですよ、お察し下さい。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お寝間のおとぎもまけにしてと——姉さん、真個ほんとかい、洒落しゃれだぜ洒落だぜ洒落じゃねえ。らっしゃい、お一方ひとかた、お泊でございますよ。へい、お早いお着様つきさまで、難有ありがとう存じます。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こいつをおとぎに……
わたしは、わたしころされるんでございませうか、ときながらまをしますとね、年上としうへかたが、いゝえ、お仙人せんにんのおとぎをしますばかりです、それは仕方しかたがござんせん。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おとぎします」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
源三郎店の喜六と言ふ小道具屋は間違ひもなく昨日の朝急死して、昨夜は仲間でもあり、格別の間柄でもあつた與次郎が、明るい内から來て世話をして一と晩皆んなと一緒に佛のとぎをしたことは、多勢の人が口を揃へて證明して居ります。
「毎晩籤引くじびきで、夜のとぎをする妾をきめると言ふことになつてゐるが、近頃は若い妾のお袖を可愛がり、お吉を追つ拂つて、日が暮れるとお袖を二階の自分の部屋に呼び入れ、夜中まで呑みながら勝手な振舞ひをするんださうで」
ただし女は出世で済まそうとも、済まぬは我々旗本の身分、ほいと賤人を寵愛してねやとぎをさせるはすなわちほいと賤人に落ちたも同然、もし我々同族のうちに、左様な人物がありとすれば、同席さえもけがれではござるまいか。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ヒルミ夫人が、なぜモニカの千太郎の何処どこきつけられて花婿にえらんだのか、それはまた別の興味ある問題だが、とにかく結果として、千太郎は万吉郎と名乗って、年上のヒルミ夫人のおとぎをするようになったのである。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
「そんな邪見なことをおっしゃらずに、奥さんは、お一人で淋しがっていらっしゃいますから、今晩、おとぎをしてやってくださいましよ、こうして、お金がうなるほどある方ですから、あなたの御都合で、どんなことでも出来るのですよ」
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そりゃ、いい株の先生だね、人の家に寝泊りをしてさ、そうして別嬪べっぴんさんたちを、入代り立代りおとぎに使ってさ、それできむずかしやで納まっていられる先生には、がんりきもちっとんばかりあやかってみてえものさ、どっこいしょ」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「うまく言うぜ、そんな甘い口に乗るものか。とにかく、お前さんを放し飼いにしておいちゃ物騒でかなわねえ。窮屈でも旦那様のお帰りまで、ここで我慢をして貰おうか。もっとも、その間俺がとぎをしてやるから、淋しがらせるような事はねえ」
眼に見えぬ運命の神様のお力を借りまして、あの赤岩権六様を、あなた様にお近づけ申し上げましたのも、かく申す私なので御座います。それから、あの共産党の中川さまを、おとぎにおすすめ致しましたのも、ほかならぬ私めが仕事で御座いまする。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「うまく言ふぜ、そんな甘い口に乘るものか。兎に角、お前さんを放し飼にして置いちや物騷でかなはねえ。窮屈きうくつでも旦那樣のお歸りまで、此處で我慢をして貰はうか。尤も、その間俺がとぎをしてやるから、淋しがらせるやうな事はねえ」
「その間お近さんだけが、皆んなに内證ないしよで離屋へ來て、おいらがお寺へ、お母さんが早桶はやおけ屋や荒物屋へ線香やお供物を買ひ集めに出かけてゐる間、佛樣のとぎをしてくれたんだ、——お近さんはさう言ふ人だよ、根が好い人なんだね」
「孫四郎は、おふくろのとぎに残せとの、仰せではございましたが、わたくしはまだそんな年でも、そんな淋しがりやでもございませぬ。城の留守にも、守るに案じのない武者も多くおりますことゆえ、どうぞ、あるじと共におつれ遊ばして下さいませ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此の道阿弥は武州公に関する貴重な記録をのこしたところの、「道阿弥話」の筆者であって、かねてから此の城中の表向きに仕え、軽口や愛嬌あいきょうを売り物にしていたのが、その夜はじめて女中方のおとぎをするために若夫人の御殿へ召されたのであった。
片翼かたはになって大道に倒れた裸の浜猫を、ぼての魚屋が拾ってくれ、いまは三河島辺で、そのばさら屋の阿媽おっかあだ、と煮こごりの、とけ出したような、みじめな身の上話を茶のとぎにしながら——よぼよぼの若旦那が——さすがは江戸前でちっともめげない。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの晩のことをもう一度思ひ出して見るが宜い。お直が死んだのは酉刻半むつはん(七時)頃で、お近が行つて佛樣のとぎをしたのは戌刻いつゝ(八時)から亥刻よつ(十時)迄の間だ。——その間に孝吉と母親のお市は、お寺や早桶はやをけ屋へ行つて居るし、供物も買つて來て居る」
恐らく今まで渡米した英国の婦人で斯くまで充分の紹介状を持って行った者は有るまいと云い、猶秀子に向って全くの一人旅とは違い、事に慣れたとぎが一人附いて行くから心細い事はないなどと励ます様に云いました、其の伽とは監獄の病院で大場連斎の手下に成って秀子の脱獄を助けた老看護婦で
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
旦那、ご存じありませんか。この潯陽じんよう城の船着きは、むかし白楽天はくらくてんとかいう詩人うたびとが、琵琶行びわこうっていう有名な詩をのこした跡だっていうんで、琵琶亭びわていがあるし、それから船で琵琶をいて、旅のお客さまにとぎをするおんながいるんでさ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなた様には、わが殿をもって、ひたすら信長公の御機嫌を取りむすぶおとぎ芸人げいにんやからと同視しておいでられますか。明智日向守様ともある武門を、それでよいとお考え遊ばすのか。何ら、御無念とも、恥辱ちじょくとも、またかくて自滅のふちへ追いやらるるとも、お感じになりませぬか」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東野南次は階子はしご段を登る人の足音に神経を立てたり、窓から見える銀座の路地の一角の、若い女の姿に胸とどろかせたりしましたが、残念なことにそれはことごとく似もつかぬ通行人で、東野南次の待っている、香ぐわしい幽里子、——あのおとぎの国の王女のような、恋の麗人は消息を絶ってしまいました。
物好きといわれれば、将軍職の称号を欲しがるなどは、それ以上な物好きではあるまいか。あの猫背の歯抜けじじを、堺から召し呼んで、とぎしゅうに加えおく物好きと、将軍家になりたいというわしの物好きと、いずれ劣らぬ愚とはおもうが——菊亭どの、笑うてくれい、秀吉は、是が非でも、成りたいのじゃ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ハイ、その訳と申しますのは……あなた様もご存じでござりましょうが、あの鳰鳥という女子、側室の身分でありながら、これまで一度もお殿様のおとぎを勤めたこともなく、そのためお殿様におかれましては、ご不満足であらせられ、そのご不満が事にふれて、お手討ちなどという荒々しいことに、成って行くのでございます。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのころ君の御家来には木村常陸介どの、粟野杢助もくすけどの、熊谷大膳どの、白井備後守どの、東福寺の隆西堂どの、などの方々がひかえておいでなされましたので、迂濶うかつに聞き耳を立てるわけにも参りませなんだが、お女中がたは何と申してもお口が軽うござりますから、おとぎに上っておりますと、いろ/\のことを聞き出すついでがござりました。左様でござります。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのくらいですから、それ以外にあの秀吉の征服した女という女の数は幾人あったか知れません——と想像もできますし、また物の本を読めば、相当に実例を挙げて数えてみることもできるのではありませんか。はなはだしいのは、宿将勇士たちを朝鮮征伐にやったそのあとで、いちいち留守の奥方を呼び入れてねやのおとぎを命じたということが、事実として信ぜられているではありませんか。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)