おっ)” の例文
「お客さんは、わたしより古くから、殿さまを知っているっておっしゃったけれど、殿さまのことはなにも御存じないようだからです」
「お師匠さま、お前をもはばからず、取りみだし、申しわけもござりませぬ。心を平らに伺いますゆえ、なにとぞ、おっしゃって——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おっしゃった事がほんとうなら飛立とびたつ程嬉しいが、只今も申す通り、わしは今じゃア零落おちぶれて裏家住うらやずまいして、人力をいやしい身の上
いわんや、こちらにも同じような欠点があるのを、潔く貰ってやるとおっしゃる御心には、涙を流して感謝致して居るので御座います。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「仕方が無い、争って居る時間が無い。それでは、あのを救うために、私が外の手段を採っても、不服をおっしゃってはいけませんよ」
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と、冷やかすようにおっしゃった。己は藝術家のなんたるかを知らないのだから“Yes”とも“No”とも答える訳に行かなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ええ、行って来ました。何だそうです。明日あした御引移りになるそうです。今日これから上がろうと思ってた所だとおっしゃいました」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ひどい風ですね、硝子障子が頭の上に倒れるかと思って、心配で寝られなかった」とおっしゃりながら、私達の申上げたことに対しては
今しがたも、わたしのママのことを、なんて言ってらしたの? ご自分の妹じゃありませんか? なんだって、あんなことをおっしゃるの?
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「もうおっしゃって下さるな、人には人の天命ありです。いくら妖人が祟ろうと、人命を支配するなどという理はうなずけません」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
別段わたくしたちには、何にもおっしゃいません。ハイ、東京からは時々、片仮名の手紙が来ていました。絵葉書もまいりました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「病人に何だって、こんなばかなことをさしとくのだ」鼈四郎はモデルの娘に当った。モデル娘は「だって、こちらがおっしゃるんですもの」
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
で、私は、貴方のおっしゃる通り、出来得べくば、男を元の京都に帰して、此処ここ一二年、娘はなおお世話になりたいと存じておりますじゃが……
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
貴方あなたが、幾何いくらおっしゃっても、僕は政治などには、興味が向かないのです。ことに現在のような議会政治には、何の興味も持っていないのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「イヤ何ともおっしゃりはしないが、アレ以来始終気不味きまずい顔ばかりしていて打解けては下さらんシ……それに……それに……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「いいえ。らぬことはございますまい。先程さきほどかけなさるときおびんとやらおっしゃったのを、しん七は、たしかにこのみみきました」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
近江へ往くとはおっしゃいましたが、わたくしにはまこととは思われませんでした。なぜかしらそんな気が致したのでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
由比少佐ゆいしょうさ挨拶あいさつ ほどなく由比少佐が出て来られて、やはり同じように伊藤さんのおっしゃった事を始めに言うて、それから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
三月の赤ん坊を此家ここへつれて来るって? 駄目よ、旦那さまはきっとけないとおっしゃるわ、心配が大変だからね。怪我でもあったらどうするの。
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
白柄組しらつかぐみとか名をつけて、町人どもをおどして歩く、水野十郎左衛門みずのじゅうろうざえもんが仲間のお侍で、青山播磨あおやまはりま様とおっしゃるのは、たしかあなたでごぜえましたね」
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今日はあにきの機嫌はどうだなんて、よくおっしゃってたものですよ、それが昨年の暮比からみょうに黙りこんで、いやな物でも眼前めのまえにいるようにしてるのですよ
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『よくそれだけかんがえがついた。それでこそ任務つとめ立派りっぱはたされる……。』そうおっしゃっていただいたのでございます。
もう一度去年見た村の古い家並みが見てきたいとおっしゃられるので、私たちもそこまでおともをすることにした。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「民さんは町場もんですから、春蘭などと品のよいことおっしゃるのです。矢切の百姓なんぞは『アックリ』と申しましてね、あかぎれの薬に致します。ハハハハ」
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それで誰か一人、坊っちゃまのお相手をして、ゆく/\は杖とも柱ともなってくれるような人がいれば世話をしてみたいとおっしゃっていらっしゃいますの。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
「さようでございます、清元きよもとが大層気に入りまして——踊りもたちがいいとおっしゃってくださいますので——」
「オオ。そう云う貴方はお父さん、私はその香潮です。そして美留藻はまだ帰らぬとおっしゃるのですか」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「いえおっしゃったとおりポントスは死んでいました。やはりキャバレー・エトワールの中でした。ちょっと気がつかない二重壁の中に閉じ籠められていたのです」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女優も近々出来ましょうが、やはり男でなくては勤めにくい女の役があるとおっしゃる方もございます。西洋でも昔は男ばかりで女の役を勤めましたそうでございます
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私はC子氏に対してはおっしやる通りに或る侮蔑を持つて居ります。然しそれは、あなたには些の関係もないC子氏で御座います。私は「世間知らず」後のC子氏は存じません。
「おれは植木の医者の方が上手かも知れない。蟠竜はんりょうというのはこんなのだろう。これを見ると深山の断崖だんがいから、千仞せんじんの谷に蜿蜒えんえんとしている老松おいまつを思い出すよ」とおっしゃるので
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
なるほど、そうおっしゃれば、阿闍利さまのお話をおききするよりも悠閑のんびりとお笑いになるお顔を見ているだけでも、それだけわたくしだちの心がのびのびいたすのでございます。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
おっしゃった。私はその日、戻るとすぐ清書して送ったが、それっきりである。私は、筆記もとれないらしいのである。その内に、子が出来た。「木の実」という名をつけた。
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
滅相めっそうなことおっしやりますな。病気なしの十年延命なら誰しもいやはございません、この頃のやうに痛み通されては一日も早くお迎への来るのを待つて居るばかりでございます。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
大江山おおえやまの鬼が食べたいとおっしゃる方があるなら、大江山の鬼を酢味噌すみそにして差し上げます。足柄山あしがらやまくまがお入用いりようだとあれば、ぐここで足柄山の熊をおわんにして差し上げます……
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
「次郎さん、こうなったからには、もう、お祖母さんのおっしゃるように、押しづよく出るより手はありませんよ。……しかし、旦那が帰っておいでたら、何と仰しゃいますかね。」
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「ハイ、わたし何んだかこわい様に思いますけど、阿父様のおっしゃる事なら参りましょう」
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
アナタはお淋しいだろうけれども、何卒どうぞ私を手放して下さらぬか。私の産れたときにお父ッさんは坊主にするとおっしゃったそうですから、私は今から寺の小僧になったとあきらめて下さい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
丁度そこへ給仕が註文ちゅうもんしたものを持って来た。男はそれをい事にして、女が「おっしゃいよ、仰しゃいよ」と云っても、給仕の方を目で見て、じれったそうな身振をするばかりである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「あなたは、生きた人間を殺さぬと、おっしゃったではありませんか」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
さう目に角をたてゝおっしやると私も言はなけりやあなりません、旦那、先ほどは何と仰やつた、ちちうがあつたら許さないと仰やいましたらう、そつちの包にこれほどでもちちうは有やあしますまい
あの皿は古びもあれば出来もい品で、価値ねうちにすればその猪口とは十倍もちがいましょうに、それすら何とも思わないでお諦めなすったあなたが、なんだってそんなに未練らしいことをおっしゃるのです。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「お名前、何ておっしゃるの?」
「あのう、こんなことをおたずねしては、失礼かもしれませんが、もしや貴方は、……あの繁二郎さんとおっしゃるのではございませんか」
夕靄の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大変昂奮して妹さんの方がおっしゃるのを聞いたとか、後で山田さんという刑事の方が、家へ見えられた時に話していられました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
あなたがたはそれを、やれ文化の影響だとか、古い生活はしぜん新しい生活に席を譲るべきだとか、おっしゃることでしょうね。
「いえ、母様へもそう申して参りました。母様は——龍之助様先途を見届けるのはお前の役目、私は決して止めはしない——とおっしゃいます」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「オヤマア貴君にも似合わない……アノ何時いつか、気が弱くッちゃア主義の実行は到底覚束ないとおっしゃッたのは何人どなただッけ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「しかし御亡くなりになる前、島田とは絶交だから、向後こうご一切付合つきあいをしちゃならないっておっしゃったそうじゃありませんか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近江へ往くとはおっしやいましたが、わたくしにはまこととは思はれませんでした。なぜかしらそんな気が致したのでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)