一杯いっぱい)” の例文
それと同時に、林の中はにわかにばさばさ羽の音がしたり、くちばしのカチカチ鳴る音、低くごろごろつぶやく音などで、一杯いっぱいになりました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
六本のはしで根気好く今の通りの順序にして攪廻かきまわしていると最初は底の方に少しばかりあった白身が泡立ってえて湯呑一杯いっぱいになります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
未だお昼前だのに来る人の有ろうはずもなしと思うと昨日きのう大森の家へ行って仕舞ったK子が居て呉れたらと云う気持が一杯いっぱいになる。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ちょうど手摺がこしの辺に、あたります。はなれかかった足指には、力が一杯いっぱい、入っています。「神様!」ぼくは泣いていたかもしれません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして、彼はあがって、せい一杯いっぱいの早さで走り出しました。亀がどんなにせいを出しても追いつけないような早さで。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
褐色の口髭くちひげの短い彼は一杯いっぱい麦酒ビールに酔った時さえ、テエブルの上に頬杖ほおづえをつき、時々A中尉にこう言ったりしていた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あたう。男は無言で坐り込み、筒湯呑つつゆのみに湯をついで一杯いっぱい飲む。夜食膳やしょくぜんと云いならわしたいやしいかたの膳が出て来る。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「そら恵比寿が来た。この恵比寿がビールでないんだから面白い。さあ一杯いっぱい飲むかい」と碌さんが相手に洋盃を渡す。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一杯いっぱい雛壇ひなだんのやうな台を置いて、いとど薄暗いのに、三方さんぽう黒布くろぬの張廻はりまわした、壇の附元つけもとに、流星ながれぼし髑髏しゃれこうべひからびたひとりむしに似たものを、点々並べたのはまとである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
津村も私も、歯ぐきからはらわたの底へとおめたさを喜びつつ甘いねばっこい柹の実をむさぼるように二つまで食べた。私は自分の口腔こうこうに吉野の秋を一杯いっぱい頬張ほおばった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もしかすると、どこかで一杯いっぱいひっかけた好きな洋酒のいがまだ血管の中に残っているのかも知れない。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
葉書一杯いっぱい筆太ふでぶとの字は男の手らしく、高飛車たかびしゃな文調はいずれは一代を自由にしていた男に違いない。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
刺戟しげきするのかなア。だが待ちたまえ、今日は何も吸血鬼が犠牲者ぎせいしゃを出したという新聞記事を見なかったぜ。はッはッ、とうとう君に一杯いっぱいかつがれたらしい。はッはッはッ
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私の心はさっき霧の中から私を訴えるような眼つきで見上げた野薔薇のことで一杯いっぱいになっていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
すると、石切橋と小桜橋との中間に、せられている橋を中心として、そこに、常には見馴みなれない異常な情景が、展開されているのに気がいた。橋の上にも人が一杯いっぱいである。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さっき八っちゃんがにこにこ笑いながら小さな手に碁石を一杯いっぱい握って、僕が入用いらないといったのも僕は思い出した。その小さな握拳にぎりこぶしが僕の眼の前でひょこりひょこりと動いた。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
酒姫サーキイがもう一杯いっぱいと差し出す瞬間の
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
ひのきの一杯いっぱいにしげっている谷の底に、五つ六つ、白いかべが見えその谷には海が峡湾きょうわんのような風にまっさおに入りんでいました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それから、合宿で、恒例こうれいのテキにカツを食い、一杯いっぱいの冷酒に征途せいとをことほいだ後、晴れのブレザァコオトもうれしく、ほてるような気持で、旅立ったのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
女中はそれでもいやな顔をせずに、両手にコップを持ちながら、まめに階段をのぼりした。そのくせ保吉のテエブルへは紅茶を一杯いっぱい頼んでも容易に持って来てはくれなかった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
目になみだ一杯いっぱいたまっている。おれは泣かなかった。しかしもう少しで泣くところであった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「緋鯉は立派だから大将だろうが、鮒は雑兵ぞうひょうでも数が多いよ……かた一杯いっぱいなんだもの。」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その胴に、ときどき前にいく僚艇りょうていの噴射瓦斯が青白く反射する。また、ときおりは、空を一杯いっぱいに、ダイヤモンドをふりまいたような無数のかげが艇の胴のうえに、きらりと光をおとすこともあった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空には今日も青光りが一杯いっぱいみなぎり、白いまばゆい雲が大きなになって、しずかにめぐるばかりです。みんなは又叫びました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ドレスしおおもても萎れて登ってきたあなたの可憐かれんな姿が目のあたりにちらつきながら、手も足も出ず心もしびれ、なるままになれと思うのが、やっと精一杯いっぱいのかたちでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
い加減に外へ出て一杯いっぱいやるか?」
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
野だ公と一杯いっぱい飲んでると見える。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ネネムは何とも云えずいやな心持がしました。けれども仕方なく力一杯いっぱいにそれをたぐり寄せてそれからあらんかぎり上の方に投げつけました。
「エステル工学校。ハッハッハ。素敵だ。さあどうです。一杯いっぱいやりましょう。チュウリップの光の酒。さあみませんか。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そしてある目的の作物を育てるのでありますがこの際一番自然なことは畑一杯いっぱい草が生えて作物が負けてしまうことです。これは一番自然です。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なあにほんとうはあのいばらやすすきの一杯いっぱい生えた野原の中で浜茄などをさがすよりは、初めから狐小学校を参観した方がずうっとよかったのです。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
次の晩もゴーシュは夜中すぎまでセロを弾いてつかれて水を一杯いっぱいのんでいますと、またをこつこつたたくものがあります。
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
空はその時白い雲で一杯いっぱいになり、太陽はその向うを銀の円鏡のようになって走り、風はいて来て、その緑いろの壁はところどころゆれました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その本能や衝動が生きたいということで一杯いっぱいです。それを殺すのはいけないとこれだけでお答には充分じゅうぶんであります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
四角な家の生物が、脚を百ぺん上げたり下げたりしたら、ペムペルとネリとはびっくりして眼をこすった。向うは大きな町なんだ。一杯いっぱいについている。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「まあ、よく、あとで考えてごらん。市蔵なんてそんなにわるい名じゃないよ。」鷹は大きなはねを一杯いっぱいにひろげて、自分のの方へ飛んで帰って行きました。
よだかの星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「お役人さん。そいつぁあんまり無理ですぜ。わしぁ一日一杯いっぱいあるいてますがやっとうだけしか貰わないんです。あとはみんな親方がとってしまうんです。」
生徒はみんな大急ぎで筆記帳に黄という字を一杯いっぱい書きましたがとても先生のようにうまくは出来ません。
小猿が、バラバラ、その辺から出て来て、草原一杯いっぱいもちゃもちゃはせ廻り、間もなく四つの長い列をつくりました。大将についていた二疋も、その中にまじりました。
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
どんどん北の方へ飛び、野原はひっそりとして人も馬も居ず、草には一杯いっぱいに出ていました。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
今は、空は、りんごのいいにおいいで一杯いっぱいです。西の空に消え残った銀色のお月様がいたのです。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ある晩空の下の方が黒い雲で一杯いっぱいまり雲の下では雨がザアッザアッと降ってりました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ところがそのへん、ふもとゆる傾斜けいしゃのところには青い立派りっぱ闊葉樹かつようじゅ一杯いっぱいえているでしょう。あすこは古い沖積扇ちゅうせきせんです。はこばれてきたのです。割合わりあい肥沃ひよく土壌どじょうを作っています。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ふんふん。よし、よし。さあ、みんな舶来はくらいウィスキーを一杯いっぱいずつ飲んでやすむんだよ。」
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
童子さまののうはもうすっかりつかれて、白いあみのようになって、ぶるぶるゆれ、その中に赤い大きな三日月みかづきかんだり、そのへん一杯いっぱいにぜんまいののようなものが見えたり
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
まつの木やならの木の林の下を、深いせきが流れてりました。岸にはいばらやつゆ草やたでが一杯いっぱいにしげり、そのつゆくさの十本ばかり集った下のあたりに、カンがえるのうちがありました。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私はもうふところへ一杯いっぱいにきのこをつめ羽織を風呂敷ふろしきづつみのようにして持って待っていましたが斯う言われたので仕方なく包みを置いてうしろから理助の俵を押してやりました。
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それはツンツン、ツンツンと鳴いて、枝中えだじゅうはねあるく小さなみそさざいで一杯いっぱいでした。
十月の末 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
(だってお父さん。みんながあのお母さんの馬にも子供こどもの馬にもあとで荷物にもつ一杯いっぱいつけてひどい山を連れて行くんだ。それから食べ物がなくなるところして食べてしまうんだろう。)
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
丁度午后ごご二時に授業がすみましたので、いつものように教室の掃除そうじをして、それから二人一緒いっしょに学校の門を出ましたが、その時二人の頭の中は、昨日の変な子供で一杯いっぱいになっていました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)