ずい)” の例文
旧字:
わたしは、まるでゆめの中にでもいるように身を運びながら、何やら馬鹿々々ばかばかしいほど緊張きんちょうした幸福感を、骨のずいまで感じるのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
この節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたくな目玉などはついに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさえ、世にも稀な珍味と聞く。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この厳冬というに家康は火の気もない伽藍がらんのような広間に坐っていた。貧苦と逆境には骨のずいまでさいなまれて来た人とも見えない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが四十銭かかりましょう。その代り脛の骨からずいのマルボンというものを取れば二斤から二人前の美味おいしい御馳走が取れます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼等は真に骨のずいから盲目的に崇拝し、同時に天皇をもてあそび、我が身の便利の道具とし、冒涜の限りをつくしていた。
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
骨のずいまでもおののいていた。彼女が自分の役に打ち込んでる悲壮な熱意は、彼女といっしょに彼を焼きつくした。彼はついに彼女へ書き送った。
それは、ちょうど骨のずいをいためた古疵と同じように、ちょっとした寒さにもうずき出すことがあるものなのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「若い者ァ東京だってすぐ育つ、プロレタリアになれるからなんだ。けれど骨のずいまで百姓の年寄ぁダメなんだよ」
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
内側から照らされたようだ。彼は、それが可愛かわいくてたまらぬ。こうなるともう、皮膚ではない。ずいのような組織だ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
駸々しんしんと水泳場も住居をも追い流す都会文化の猛威もういを、一面灰色の焔の屋根瓦に感じて、小初は心のずいにまでおびえを持ったが、しかししばらく見詰みつめていると
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
貧乏の辛さを骨のずいまで知っているので、貰うなら一フランでもという、目ざましい強慾ぶりを発揮する。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「此の人が学校に出ないのは、自然にそうなったからさ。そんな風の性格に骨のずいから出来ているんだ。どうせここまで落ち込んで来るような種類の人間なんだ」
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼は何時いつにか、失業の苦しみが、芯のずいまで沁みていた……というよりも、職に離れると同時に、あの、たばかりの美しき野獣——京子に、別れなければならぬ。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
苦しき記念が必要ならば数えて白頭に至って尽きぬほどある。裂いてずいにいって消えぬほどある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ものすることいといぶかしきに似たりといえどもまた退しりぞいて考うればひとえおじのぶる所の深く人情のずい穿うがちてよく情合じょうあいを写せばなるべくたゞ人情の皮相ひそうを写して死したるが如き文を
怪談牡丹灯籠:01 序 (新字新仮名) / 坪内逍遥(著)
宮部みやべ博士の説明で二三植物標本を見た。樺太かばふとの日露国境の辺で採収さいしゅうして新に命名された紫のサカイツヽジ、其名は久しく聞いて居た冬虫夏草とうちゅうかそう、木のずいを腐らす猿の腰かけ等。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし、当の主水之介は只黙々として、心のずいまでがいかにもしんしんと寂しそうでした。
併し、暗闇の森の中には、いつまで待っても、何の目印も現れてはれないのだ。世にためしなき恐れであった。私はその時の、心のずいからの戦きを、何と形容すればよいのであろう。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
陰鬱いんうつ気懶けだるい気持が夜が更けるにつれて刻々に骨のずいまで喰いこんだ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
それは明るいしずかな画趣である。河底かていの砂にうもれた「はし」をあさるのだそうな。「木はし」は流木のずいであると聞いた。洪水に押流おしながされてきた樹木の磨き尽くし洗い尽くされたすえの髄である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
あの人は、骨のずいまで慾念で固まった、この世ながらの獄卒ごくそつだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
骨の中なるずいの髄。
此の節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたく目玉めだまなどはつひに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさへ、世にもまれな珍味と聞く。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
秀吉との親しみと尊敬には「己れを知る者のためには死す」という士心のずいに沁みて来るものがあったが、信長に向っては
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前の日に今の通りスープを拵えるのですが脛の骨のずいを抜き去ります。髄が入るとスープが澄みません。この髄はマルボンといって美味しい料理になります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
新吉はすっかり巴里のずいに食い入ってモンマルトルの遊民になった。次の年の巴里祭前にも彼が留学の目的にして来た店頭装飾の研究には何一つ手を染めていなかった。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ある者はくじいてずいを吸い、ある者は砕いて地にまみる。歯の立たぬ者は横にこいてきばぐ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしの骨のずいまでしみわたって、わたしはそれを呼吸し、またそれは血の一滴々々いってきいってきに宿って、わたしの血管を走りめぐるのだったが……実は間もなく実現される運命にあったのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
いやもう骨のずいまで凍えそう。
京や伏見で七百両のやけづかいも、華やかだったには違いないが、月夜の晩にひいた風邪は、お綱のずいからぬけないのである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕はそれ等がずいの味感に持ち来されるまでの手数や外形に脅威と労苦を感ずるのだ。それだけに彼等からエスプリとニュアンスだけを引き抽いた女や詩を望むようになった。だが
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あけの明星の光明こうみょうが、嶮山けんざんずい浸透しみとおつて、横に一幅ひとはば水が光り、縦に一筋ひとすじむらさきりつつ真紅まっかに燃ゆる、もみぢに添ひたる、三抱余みかかえあまり見上げるやうな杉の大木たいぼくの、こずえ近い葉の中から
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今度は下へ行って尾のお料理ですが先日小山さんにお教え申しましたから御存知でしょう。それからすねはスープになりマルボンといってずいも取れますし、足の先のお料理も結構です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
る雲の底を抜いて、小一日こいちにち空を傾けた雨は、大地のずいみ込むまで降ってんだ。春はここに尽きる。梅に、桜に、桃に、すももに、かつ散り、かつ散って、残るくれないもまた夢のように散ってしまった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上の手欄てすりから見つめているうちに、お綱は夢ともうつつとも知らない境に、骨のずいまで沁みわたるほどなゾッとする恋慕の寒気さむけにとりつかれた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一がマルボントースといって牛のずいの料理、第二が仏蘭西豆ふらんすまめのスープ、第三が比目ひらめのパンデポーソンといって蒲鉾かまぼこのようなもの、第四がポーレーシューカナペールと申して鳥の肉の料理
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
此の都の魅力に対する憎みを語って語り抜いて彼女から一雫ひとしずくでも自分の為めに涙を流して貰ったら、それこそ自分の骨のずいにまで喰い込んでいる此の廃頽はいたいは綺麗に拭い去られるような気がする。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ずぶぬれ破褞袍やれぬのこけだし小児の尿汁にょうじゅうを洗わずして干したるもの、悪臭鼻をえぐってずいとおる。「やれ情無い、ヘッヘッ。」と虫唾むしずを吐けば、「や、ぜんの上へつばを吐くぞ。」と右手めてなる小屋にてわめく声せり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また一は精神をずいとした理念的の組織体。一は人間——わけて情念の面を壁とし理想を柱として寄った巨大なる家族体。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのずいはしで突出して塩胡椒を加えてトースパンへせましたのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「表面にもれて、ずいのいのちに喰い込んで行く」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今まで石のようになっていた新九郎は、この大月玄蕃の面罵を受けて、かつてない反抗的な血がじくじくと骨のずいから吹き出して来るのを覚えた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう特殊な職分の中にあって、ほねずいまで信念にしている三平、天蔵の二人であった。で、いま一方の甘糟あまかす三平が
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウーム、こう見ていると、背骨のずいまでこごえてきそうだ。こんな名刀をさしていた人の、若い姿がおもわれるなあ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウーム……」と、百は思わず、ふとくうめいた。ほねずいまで、しんしんと、痛い、だるい、精神がぼうっとする。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
骨のずいをぶるッとさせて。「——くそっ、俺としたことが」と、山門をとびだした。そして後ろを振向くと、山月さんげつが青かった。それからはもう一足跳び。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええい街のダニめ。よくもあわれな歌唱いの父娘おやこを、骨のずいまでしゃぶりやがったな。この味はその利息だ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日吉が、襟すじから、ぞっとしたようなふるえを感じたのは、嘉兵衛の情けが——人の恩義というものが——ほねずいまで沁み入るほど、身にこたえたからだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
揶揄からかったのである。しかし伊織は骨のずいまで恥辱を覚えた。いきなり足もとの石を拾って、投げつけようとしたのである。その手を、無自覚に振りあげたせつな
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまりは骨のずいまでの古兵学の権化ごんげなのだ。獄にいても、彼は日夜、退屈は知らないのである。朝夕、身近に来る雑武者から全戦場のいろんなことを聞きほじっていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)