)” の例文
旧字:
また床次君のやうに自分が偉人らしい言草いひぐさも気に喰はぬ、不肖ふせうながら朝夕南洲翁にいてゐたから、翁の面目めんもくはよく知つてゐるが
くわを肩に掛けて行く男もあり、肥桶こえたごを担いで腰をひねって行く男もあり、おやじの煙草入を腰にぶらさげながらいて行く児もありました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
栄さんが春まで家におってくれると、勝も東京へいて行けるのじゃけれどな、戻ったと思うと、すぐにまた行ってしまうんでしょう。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
私はちやうど籠球部へ籍を入れて四日目だつたが、指導選手のあとにのこのこいて行つて、夕陽丘の校門をくぐつたのである。
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
許宣はこんな大きな家に住んでいた人が何故なぜわからなかったろうと思って不審した。彼はそのまま小婢にいてそこの門をくぐった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
支那人ボウイは顔をしかめていて行く。駅長はただちにドアの真向うの部屋へはいって、同じことを言っているのが聞こえて来る。間。
蝉取竿せみとりざおを持った子供があちこちする。虫籠を持たされたは、時どき立ち留まっては籠の中を見、また竿の方を見ては小走りにいてゆく。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
娘は煉瓦積む手をめて、男のかほぢろりと見た。もう眼には泪を一杯溜めて居たが、それでも男の跡にいて行つてしまつた。惚れてゐるのだ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
いつか、人混の中へ織り込まれていたかの女は、前後の動きの中に入ってかえって落着いた。「藻掻もがいてもしようがない。いて行くまでだ」
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この兄というのは軍籍にあったので、日清戦争後は小倉こくらの師団に転任させられた。少女もまた兄の赴任にいて小倉へ行った。
奥さんもお嬢さんもいかにも幸福らしく見えました。私も幸福だったのです。けれども私の幸福には黒い影がいていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婆「何だかお医者がいて来まして膏薬こうやくると、これがでけえ薬になる、毒と云うものも、使いようで薬に成るだてえました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、口小言を言い言い、母も渋々起きて、雪洞ぼんぼりけて起上たちあがったから、私も其後そのあといて、玄関——と云ってもツイ次の間だが、玄関へ出た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
りにも択ってこんな貧乏な人間を友達にして、大小となく相談をかけている印度の太子やそれにき従っている周囲の人々の心を考えると
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
飛びまはりまとはりついて居た彼の二疋の犬が、やうやう柔順になつて、彼のうしろに、二疋並んで、そろそろいて来るやうになつた頃である。
玄関へ加賀田さんが出て来て、上れと云はれておくし心を隠してその人にいて行きますと、幾室かを通つてそれから出た所は明るい庭の前でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一家は玩具や雑貨の荷を背で負って、盛り場から盛り場へと歩いてゆく父親にいて、祭礼や縁日のある土地へ行った。
雨の回想 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
「そいでぁうなだ、この人さぃで家さ戻れ。この人ぁ楢鼻ならはなまで行がはんて。今度の土曜日に天気ぁ好がったら又おれぁ迎ぃに行がはんてなぃ。」
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あるいは浮かびあるいは沈み数千里行くを、処三日三夜れ行き殺して出で、自ら行いを改めて忠行もてあらわれたという。
だから、つまりみんなの自然発生的な気持に我々までがいて歩いてるわけだ。日常の不満から帝国主義戦争の本質を
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「まア御寮人さん……」と、仰山ぎようさんらしくあきれた表情をしたが、後からいて入つて来た源太郎の大きな姿を見ると
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
と感謝していて来る少女を、うまく不良事務所へ連れ込むのであるが、少女の場合は少年のと違って、第一に着物に眼をつける。その次が手紙である。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
雨上りの泥道をひたすら急ぐ藤吉のあとから、勘次と彦兵衛の二人が注進役の小僧を中に小走りにいて行った。
その人もをりをり、老人にいて謡をうたつた。直されては同じ所を幾度もくり返した。丁度に謡へないので、何方どちらも笑つては止めてしまふのが例であつた。
秋の第一日 (新字旧仮名) / 窪田空穂(著)
新子は、木賀の相変らずの朗かな調子に、いて行くことが出来なかった。木賀も、やや、真面目になって
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
右大臣という人物にはいつも気づまりさを匂宮におうみやはお覚えになるらしい。右大臣の息子むすこの右大弁、侍従宰相、権中将、蔵人兵衛佐くろうどひょうえのすけなどは初めからおきしていた。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
お前はわたしの憧憬にいて来て、わたしの幸福となるために、わたしのそばへ来てくれたのか。お前はそれになっているのだ。安心おし。そうしておねむり。
わたしは素直に立上って、ぞろぞろ動くものにいておとなしく歩いた。そうしていれば、そうしていれば、わたしはどうにかわたしにもどって来そうだった。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
が、落日に対してまことに気高い、蓬莱ほうらいの島にでも居るような心持のする時も、いつも女中がいていたのに。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ありがとうござります、お出かけのところを済みません、御免下さいまし、ハイハイ、と云いながら後にいて格子戸くぐり、寒かったろうによう出て来たの
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
洒落しゃれで何か人の気を「なるほど、これは、どうも、おもしろい。好い趣向だ」と感心させて見たいという気分で、これがこの老人にいて廻った癖でありました。
たとい世間で笑われようが、どうしょうが、わたしはどこまでもお前にいて行く……行きますわいなあ
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
間道を通っていわゆる桃溪とうけい街道を通って帰る事になりましたが、これは後に聞いて見ますとやはりその男が私にいて来た事までは探偵が行届いて居らんようです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
仕方がないから出迎えに来た盛装の連中も、みんな馬に乗っていましたのに、わざわざ降りてしまいまして、そうしてザヴィエルの後からぞろぞろといて参ります。
というと老婆はそのままいて来た。王成はそこで細君を呼んであわした。細君の頭髪は蓬のように乱れて、顔色は青いうえに薄黒みを帯びていた。老婆はそれを見て
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
いて行った私の子供が帰ってから、皆にこの事を話したのでわれわれは笑った。しかし、お梅の弁明によると、蛸の足は決して常に八本そろってはいないというのであった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
白萩 あの男なら、とうから我等の後にいて参りました。気味わろいことぢやわいな。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
強いこがらしの中を、葬列は門をはいって暗い墓地の方へ消えて行った。いつもは思いもよらぬわるさを仕出す悪童達も、今日は誰もそれにいて行って見ようとする者がなかった。
が、私が追々と土地ところの事情が解つて来るにれて、此神経過敏の理由わけも読めて来た。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼にいて、この門まで足を運んだ背の高い看守かんしゅが、釈放囚しゃくほうしゅうの肩をぽんと叩き
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その後から又二人、馬の歩みに遅れまいとしていて行くのは、調度掛と舎人とねりとに相違ない。——これが、利仁と五位との一行である事は、わざわざ、ここに断るまでもない話であらう。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
事実は役所の帰途かえりみちいて来た野良犬のらいぬをズルズルベッタリに飼犬としてしまったので、『平凡』にある通りな狐のような厭な犬であったから、家族は誰もいやがって碌々ろくろくかまいつけなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
今となって残したのが気まりが悪く、いそがわしく袂へほうり込んで梯子を下りる後から、帽子を持ていて来た小歌が、帽子の内側に名刺の挾んであるのをみつけ、これはあなたの、そうなの
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
『イヤそうも言えない随分ひどいという事だから』と叔父のいうにいてお絹
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いて来た家臣三名へも、黄金や衣服などを与えた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何んでも好いから妾にいていらつしやいよ。」
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
退職の敬之進は最早もう客分ながら、何となく名残が惜まるゝといふ風で、もとの生徒の後にいて同じやうに階段を上るのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
王もその後からいて往ったが、女の足が馬鹿に早いので追っつけなかった。そして、やっと女に追いついたかと思うと女は立ち止まった。
蘇生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、うしろからボソボソといて来る楢雄の足音を聴きながら、明日は圭介の知り合ひの精神科医のもとへ楢雄を連れて行かうと思つた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
で、母が来いと云うから、あといて怕々こわごわ奥へ行って見ると、父は未だ居る医者と何か話をしていたが、私のかおを見るより、何処へ行って居た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)