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蹲
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うずくま
ふりがな文庫
“
蹲
(
うずくま
)” の例文
人目を避けて、
蹲
(
うずくま
)
って、
虱
(
しらみ
)
を
捻
(
ひね
)
るか、
瘡
(
かさ
)
を
掻
(
か
)
くか、弁当を使うとも、
掃溜
(
はきだめ
)
を探した
干魚
(
ほしうお
)
の骨を
舐
(
しゃぶ
)
るに過ぎまい。乞食のように薄汚い。
伯爵の釵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
楮煮のかまどの前に
蹲
(
うずくま
)
って、柴を折りくべている友太のうしろ影が、ふと夫の姿に見える錯覚に、思わずびくッとすることもあった。
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
韮崎は床に
蹲
(
うずくま
)
ってコトコト音を立てていたが、やがて床板の一部が揚げ蓋になって、ギイと開くと、地下から幽かな光が漏れて来た。
偉大なる夢
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
また或る時、一匹の野良猫が庭を横切ろうとした時、武蔵が室内から振向くと、猫は進退の自由を失って、その場に
蹲
(
うずくま
)
ってしまった。
随筆 宮本武蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
直径百メートルもあるかと思う円周の上を走って行くその円の中心と思う辺りを注意して見るとなるほどそこに一羽の鳥が
蹲
(
うずくま
)
っている。
鴫突き
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
▼ もっと見る
すると、まだ「トントン」の屍骸の前へ
蹲
(
うずくま
)
るようにして、
頻
(
しき
)
りにその柔かな両足の裏をひねくり廻していた博士が、不意に顔をあげた。
三狂人
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
すると、昨日の少女が、昨日彼女が
蹲
(
うずくま
)
っていたのと同じ場所に蹲っているのを見る。俊寛の胸には、湧き上るような
欣
(
よろこ
)
びが感ぜられる。
俊寛
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
で、自分は
其処
(
そこ
)
の
水際
(
みずぎわ
)
に
蹲
(
うずくま
)
って釣ったり、
其処
(
そこ
)
の
堤上
(
ていじょう
)
に寝転がって、たまたま得た何かを雑記帳に一行二行記しつけたりして毎日
楽
(
たのし
)
んだ。
蘆声
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
「さてはその
蝙蝠
(
かわほり
)
の翼、山羊の蹄、
蛇
(
くちなわ
)
の
鱗
(
うろこ
)
を備えしものが、目にこそ見えね、わが耳のほとりに
蹲
(
うずくま
)
りて、
淫
(
みだ
)
らなる恋を囁くにや」
るしへる
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
道のべに
佇
(
たたず
)
むとき、ふとわが身を訪れる、なごみゆく心……空の色、樹木のたたずまい、道ゆく人の顔、さては
蹲
(
うずくま
)
る犬の眼差し。
わが師への書
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
廊下の障子をあけると、私は母の枕頭に
蹲
(
うずくま
)
る黒い影を認めた。「誰?」と私は聞いた。すると意外にも嗣二の涙声が醜く私の耳に答へた。
母たち
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
これが大自然に対しては冥通自在を得た山の祖神ともいわれるものの心行かよ。翁は庭のはずれの台のところに来て
蹲
(
うずくま
)
りながら苦笑した。
富士
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私は次兄の家の女中に附添って行列に加わっていたが、この女中も、今はだんだんひどく膨れ上って、どうかすると地面に
蹲
(
うずくま
)
りたがった。
夏の花
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
されど、そのかわりには、
鱗
(
うろこ
)
生えて
巨
(
おお
)
いなる姿の一頭の
竜
(
りゅう
)
、炎の舌を吐きつつ、
白銀
(
しろがね
)
の床しきたる黄金の宮殿の前にぞ
蹲
(
うずくま
)
りてまもりける。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
肉いろの、緑の、桃いろの、パラソルを畳んで、水際に
蹲
(
うずくま
)
った
浴衣
(
ゆかた
)
の女学生らしいのが二、三人、これらは私たちの
連
(
つれ
)
ではない。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
土手の陰に
蹲
(
うずくま
)
って私は汽車を待った。だがいつまで経っても汽車は来なかった。やっと私は汽車がもう通過した後だということを知った。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
と気の早い男があったもので、
碌々
(
ろくろく
)
聞きもしないうちからもうグンニャリして、
椅子
(
いす
)
に
蹲
(
うずくま
)
った。そして恐る恐る顔を
擡
(
もた
)
げて
葛根湯
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
すると、
蹲
(
うずくま
)
っているその
乞食
(
こじき
)
は、
頸
(
くび
)
が自由にならぬままに、赤く濁った
眼玉
(
めだま
)
をじろりと上向け、一本しかない長い前歯を見せてニヤリとした。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
見渡す限り青葉で覆われた武蔵野で、その中にぽつんぽつんと
蹲
(
うずくま
)
っている
藁屋根
(
わらやね
)
が何となく原始的な
寂蓼
(
せきりょう
)
を忍ばせていた。
いのちの初夜
(新字新仮名)
/
北条民雄
(著)
笑いとも恐怖とも、何とも判断のつきかねる声を発したかと思うと、見る見るうちに彼は顔色を土のようにして、その場に
蹲
(
うずくま
)
ってしまいました。
三つの痣
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
何処からか吹きこんだ朝山
颪
(
おろし
)
に、
御灯
(
みあかし
)
が消えたのである。
当麻語部
(
たぎまかたり
)
の
姥
(
うば
)
も、薄闇に
蹲
(
うずくま
)
って居るのであろう。姫は再、この老女の事を忘れていた。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
が、それ以外は、箱の中に
蹲
(
うずくま
)
って、卵を抱き続ける。まるで苦行者の姿のようである。私は自分を抱き鳥の身に代えて、その苦痛を想像してみた。
澪標
(新字新仮名)
/
外村繁
(著)
不気味に、静かに、威嚇しながら、そこに慄え慄え、
蹲
(
うずくま
)
っている、わたしの念日様なる恋の対手の若僧をじろりと見眺めました。——無理はない。
旗本退屈男:06 第六話 身延に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
この以前より、避難民の群れがそっと露台へはいって来て、中仕切りの陰に
蹲
(
うずくま
)
り、成往きを気遣っていたが、降伏勧告と聞いてざわめきはじめる。
若き日の成吉思汗:――市川猿之助氏のために――
(新字新仮名)
/
林不忘
、
牧逸馬
(著)
妻はと見ると虫の息に弱った赤坊の側に
蹲
(
うずくま
)
っておいおい泣いていた。笠井が例の
古鞄
(
ふるかばん
)
を膝に引つけてその中から護符のようなものを取出していた。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
煉
(
ね
)
り餌をやると、自分たち同類の鳥が巣を作る、至極あつらえ向きの
捏土
(
こねつち
)
だと思いこんで、ただ本能的にその上に
蹲
(
うずくま
)
る。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
それにてらされて、白い蚊帳を通して清三が全く床から起き上って稍々前こごみになって
蹲
(
うずくま
)
っているのがはっきりわかる。俺がそれを発見した途端
彼が殺したか
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
しかし、直ぐ金剛石のことを思い出すと裏へ廻って行って、
夕闇
(
ゆうやみ
)
の迫った
葉蘭
(
はらん
)
の傍へ
蹲
(
うずくま
)
って、昼間描いておいた小さい円の上を指で
些
(
ち
)
っと
圧
(
おさ
)
えてみた。
火
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
蹲
(
うずくま
)
ってこちらを見る目が光っています。翌日早速厚い窓掛を
拵
(
こしら
)
えました。その家は、私どもが引移った後には
長岡半太郎
(
ながおかはんたろう
)
氏が長く住んでいられました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
街道は白く弓なりに
迂廻
(
うかい
)
しているので
忽
(
たちま
)
ち私は彼らの
遥
(
はる
)
か行手の馬頭観音の
祠
(
ほこら
)
の傍らに達し、じっと息を殺して
蹲
(
うずくま
)
ったまま物音の近づくのを待伏せした。
鬼涙村
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
ぜひなく米友は、道しるべの蔭にいよいよ
蹲
(
うずくま
)
って、ともかく、この人波の停滞が崩れ去るのを待って、おもむろに身の振り方をつけようと覚悟しました。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
賀川市長は、人類の馬鹿さ加減を田螺に教えられて沈黙のまま泥の中に
蹲
(
うずくま
)
っていた。それを見た〈めだか〉は
空中征服
(新字新仮名)
/
賀川豊彦
(著)
見たまえ、そこに片眼の犬が
蹲
(
うずくま
)
っている。この犬の名の通っているかぎりがすなわちこの
町外
(
まちはず
)
れの領分である。
武蔵野
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
吹いてガクガクっとその下に
蹲
(
うずくま
)
った。そんなことをしてもいゝもんか! そんなことがあってもいゝもんか!
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
指さしたのは、中ぐらいな
鯉幟
(
こいのぼり
)
を半分ほどおろした下、幟の竹竿を立てた、厳重な二本の石柱のあたりに、
紅
(
あけ
)
に染んで一人の男が
蹲
(
うずくま
)
っているではありませんか。
銭形平次捕物控:089 百四十四夜
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
たとえば
闇
(
やみ
)
の底に
蹲
(
うずくま
)
ってかすかに息づいている
獅子
(
しし
)
、或は
猛虎
(
もうこ
)
の発散するエネルギーと香りを感じさせる。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
尊き哲学者を想うこころは、私をしてその墓の前に半時間あまりも
蹲
(
うずくま
)
らしめて深い物想いに沈ましめた。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
平ヶ岳方面からは前記の如く中ノ岳と重り合う為に其下に
蹲
(
うずくま
)
ってしまうが、さりとて其大きな輪廓と東面に懸る数条の雪渓とは、元より紛るべくもないのである。
利根川水源地の山々
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
奥の座敷で日課を書いて居ると、縁に
蹲
(
うずくま
)
って居た猫のトラがひらりと地に飛び下りた。またひらり縁に飛び上ったのを見ると、
蜥蜴
(
とかげ
)
を
啣
(
くわ
)
えて居る。
窃
(
そ
)
と下ろした。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
彼女はベッドの上に
蹲
(
うずくま
)
るようにして、恐怖に衝き揺られながら、驚きの眼を
睜
(
みは
)
ってその記事を読んだ。
秘密の風景画
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
或る晩は泥酔者を粧い曙館の塀に
蹲
(
うずくま
)
ったり、或る晩は向いの三好野に喰い度くも無い汁粉の椀などを前に置いて、絶えず楽屋に出入する女に注視の眼を見張ったり
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
糸子たちがズンズン仕度をととのえているのを見ると、さっきから室の片隅にジッと
蹲
(
うずくま
)
っていた帆村は、黙々として立ち上り、コソコソと廊下づたいに出ていった。
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
私は懸命に洞の中へ飛びこみ、最前の穴らしい窪みをみつけて隠れた。が、その
洞穴
(
ほらあな
)
は、浅くゆき詰っている。なお悪いことに、そのゴリラが穴のまえで
蹲
(
うずくま
)
ったのだ。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
陽が暮れて碧い空が
燻
(
くす
)
ぼり、山の尖りももう見えなかった。其処には一つの石が犬の
蹲
(
うずくま
)
ったように朽葉の中から頭をだしていた。彼はその石へ崩れるように腰をかけた。
陳宝祠
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
それは美しい韻律をもって、例えば夢のからくりのようにいとも快い刺激を鼓膜に与えた。彼は尻を立てた黒猫のような格好で、忘我の中に、そのまま
凝乎
(
じっ
)
と
蹲
(
うずくま
)
っていた。
自殺を買う話
(新字新仮名)
/
橋本五郎
(著)
足許には死んだ女が転がっている、その傍には血に染んだ、ずぶ濡れの男が
蹲
(
うずくま
)
っている、しかも興奮して——、となるとどうしたって、俺は有力なる容疑者、という恰好だ。
黒猫十三
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
例
(
いつも
)
の様に戸外に出もせず、日が暮れるまで大きい囲炉裏の隅に
蹲
(
うずくま
)
つて、浮かぬ顔をして火箸許り
弄
(
いぢ
)
つてゐたので、父は夕飯が済んでから、黒い羊※を二本買つて来て呉れて
二筋の血
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
妹は影の様に裏口から出て行ったと思うと、すぐコソコソと戻ってきてカマドの蔭に
蹲
(
うずくま
)
った。
十姉妹
(新字新仮名)
/
山本勝治
(著)
すぐ列を作つてならべるやうに支度をして——
蹲
(
うずくま
)
つて考へたり、立話をわいわいやつてゐた。
釜ヶ崎
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
瞳
(
ひとみ
)
を定めて見れば、老いさらぼうた
翁媼
(
おううん
)
が
蹲
(
うずくま
)
っている。家も人も偶然開化の舌に
舐
(
な
)
め残されたかと感ぜられる。またお
伽話
(
とぎばなし
)
の空気が
闇
(
やみ
)
の
裡
(
うち
)
に浮動しているかとも感ぜられる。
細木香以
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
“蹲(つくばい)”の解説
つくばい(蹲踞、蹲)とは、日本庭園の添景物の一つで露地(茶庭)に設置される。茶室に入る前に、手を清めるために置かれた背の低い手水鉢に役石をおいて趣を加えたもの。
(出典:Wikipedia)
蹲
漢検1級
部首:⾜
19画
“蹲”を含む語句
蹲踞
蹲居
蹲跼
蹲螭
落蹲
犬蹲
掻蹲
蹲石
蹲裾
蹲跪
蹲踞込
蹲躅
蹲込