賽銭さいせん)” の例文
旧字:賽錢
「俺は今日浅草の観音様へ行ったのさ。思い切りお賽銭さいせんをあげて、半日拝んだ揚句、この縁談をうらなうつもりで御神籤おみくじいた——」
庫裡の炉の周囲まわりむしろである。ここだけ畳を三畳ほどに、賽銭さいせんの箱が小さくすわって、花瓶はながめに雪をった一束のの花が露を含んで清々すがすがしい。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みやというものは、あれはただお賽銭さいせんあげげて、拍手かしわでって、かうべげてきさがるめに出来できている飾物かざりものではないようでございます。
信長、この時、賽銭さいせんを神前に投げながら、「表が出ればわが勝なり」と云った。神官に調べさせると、みんな表が出たので将士が勇躍した。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
新「こんな処に宿屋はなし、仕方がないから此の御堂おどうで少し休んで往こう、お賽銭さいせんを上げたらよかろう、坊さんがいるだろう」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なんとかしようと思っても、こう人間が吝嗇けちになっては全く仕事がやりにくい、この頃の手合は容易のことでは百文の賽銭さいせんも投げんからの」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寺の御堂にも香の煙くゆらし賽銭さいせんさえあがれるを見、また佐太郎が訪い来るごとに、仏前に供えてとて桔梗ききょう蓮華れんげ女郎花おみなえしなど交る交る贈るを見
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
また、七島中に神社もあって島民はこれに参拝するが、賽銭さいせんの代わりに大島では米を投げ、八丈島では海浜より清浄なる砂を取りきたって投げる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「もうこの金は、お髯どのの金ではない、如来様にょらいさま賽銭さいせんにさしあげて、如来様から改めていただいたお金じゃよ。お守りのかわりに持っておいで」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、イヨイヨホントウに心の底から驚いて、彼に何等かの御利益を祈願すべく、お賽銭さいせんふところにして参詣して来る実業家が何人居るかわからない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
亀岡氏は、師匠生前ながの歳月を丹精して集められたもの故、自分はこれを神仏へのお賽銭さいせんに使用するつもりである。
あのあぶらぎったご後室もご利益うけている信者に相違あるめえ。ちりめんのあのひとそろいも、お賽銭さいせん代わりにうぬへ寄進した品にちげえねえんだ。
毎日館を掃除して待つてさえいれば老若男女がどこからともなく賽銭さいせんを持つて集まつてくる仕組みになつている。
映画の普及力とは (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
道すがら町と人家の形勢を見て、そのつもりもなく壬生みぶの地蔵の前まで来ました。地蔵へ心ばかりの賽銭さいせんを投げ、引返して表へ出ると例の南部屋敷の前。
船津ふなつの阪本の弘法井は、今でも路通る人が花を上げお賽銭さいせんを投げて行きます。高家たかいえ水飲谷みずのみだににあるのは、弘法大師が指先で穿ったといって結構な水であります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
中は薄暗く、鏡が光って、大きな太鼓とさかきに白紙の結び付けられた生花と、御幣ごへいと、白い徳利とくりとが目に入って、それに賽銭さいせん箱がぐ格子戸のきわに置かれてあった。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
金を使い潰す所であるから、檀家を沢山拵えてそこから賽銭さいせんをどんどん寄進しなければならぬのである。
これは、賽銭さいせん寄進物きしんぶつの多少によってその御利益ごりやくの程度を暗示して、利得を計ったものと思うが、どうか?
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「受け取って下さいよ。お寺参りのお賽銭さいせんか何かに使って下さい。僕には、お金がたくさんあるんだ。僕が自分で働いて得たお金なんだから、受け取って下さい。」
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そうではない。あの尊像の後ろには、今、この暴風雨に乗じて、この寺にしのび入った賽銭さいせん泥棒がかくれているのだ。それをお前の身代わりにするのだ。さあ来い」
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
僕も父もしばらくの間毎朝水を浴びて精進し、その間に喧嘩けんくわなどをけ魚介虫類のやうなものでも殺さぬやうにし、多くの一厘銭を一つ一つ塩で磨いて賽銭さいせんに用意した。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「むやみにほうらねえで、どうせのことなら、おひねりにしてくんねえ。お賽銭さいせんじゃアねえんだ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いゑいゑねえさんの繁昌はんじようするやうにと私がぐはんをかけたのなれば、参らねば気が済まぬ、お賽銭さいせん下され行つて来ますと家を駆け出して、中田圃なかたんぼ稲荷いなり鰐口わにぐちならして手を合せ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これを評して、賽銭さいせんを投げて鐘を撞く事であるといふてあるが、余の趣向はさうでない。一銭出すと釣鐘を一つ撞かすといふ処がある。その釣鐘を撞いたつもりなのである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
などと戯談ぜうだんを言ひ言ひ、また打ち始めたが、かね/″\お賽銭さいせんを貰つてゐる氏神様のお力で、河合は手もなく松平を負かして、名高い「古松研」は到頭河合の手に渡つて了つた。
古松研 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
必ず恭々うやうやしく拝礼し、ジャランジャランと大きな鈴をならす綱がぶらさがっていれば、それを鳴らし、お賽銭さいせんをあげて、暫く瞑目最敬礼する。お寺が何宗であろうと変りはない。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しゃがんで、体をえびのように曲げて、何かぐずぐず云って祈っている爺さん婆あさん達の背後うしろを、堂の東側へ折れて、おりおりかちゃかちゃという賽銭さいせんの音を聞き棄てて堂を降りる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
賽銭さいせんの上がりによる彼らの経済生活が安定しておりさえすれば、それで満足したのです。
こんな風体なりをしていても中には本願寺へ五円十円のお賽銭さいせんを上げて行くのがあるそうだよ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その日仏様の供養をしたところが、その人達のいうには「私達はこんな立派な物を拵えて戴く心算つもりではなかった。こりゃ実にありがたい」といって相当のお賽銭さいせんを上げてくれた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
賽銭さいせん箱の前には、額髪ひたいがみを手拭いで巻いた子傅こもりが二人、子守歌を調子よくうたっていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おとらはそう言って、博多はかた琥珀こはくの昼夜帯の間から紙入を取出すと、多分のお賽銭さいせんをお島の小さい蟇口がまぐちに入れてくれた。そこは大師から一里も手前にある、ある町の料理屋であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
男も、女も、懐中ふところから紙入を取出して、思ひ/\に賽銭さいせんを畳の上へ置くのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
思うにカイゼルへのお賽銭さいせんであろう。そばに一文字に小穴のあいた木箱と訪問者名簿が置いてある。そこで私は金一ギルダ也をその穴へ落しこみ、日本語で日本東京と下へ名前を書いた。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
羽黒山の社の前後に賽銭さいせん砂礫されきのごとく充満し、参詣人の草履ぞうりく故、下山に先だちことごとく払い落す。強慾な輩、そのまま家へ持ち帰れば皆馬糞にるという(『東洋口碑大全』七六二頁)。
不審のかどを以て吟味ぎんみ致し候処、右慶蔵申立て候処によれば、慶蔵事盗み候金子は満行寺境内に有之候子育地蔵尊こそだてじぞうそん賽銭さいせんばかりにて、所持の大金は以前より満行寺門内の大木の穴に有之候ものゝ由にて
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長は賽銭さいせんをあげ、鈴を鳴らして柏手かしわでを打った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お賽銭さいせんや奉納は大変なものだそうですが、先達せんだつ様がよく出来た方で、貧乏人に施しをするから、祈祷所もこれで結構だというそうですよ」
まるで、賽銭さいせん泥棒が荒して行ったあとのようです。霊あらば石神様の御機嫌とても、易々やすやすこのままでは納まりますまい。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも、この話は下等の無教育のものではあるが、神社仏閣の御鬮を探るに、はじめに賽銭さいせん一銭を投じて大凶という鬮が出ると、さらに二銭を投じて再び探る。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
御利益のねだんは向うで勝手にきめて、ドシドシ賽銭さいせん箱に放り込んで行くのだから、お手に入ったもの。
賽銭箱さいせんばこ。梅「成程なるほどみんながお賽銭さいせんげるんで手を突込つツこんでも取れないやうに…うま出来できますなア…あのむかうに二つ吊下ぶらさがつてますのは…。近江屋「あれは提灯ちやうちんよ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
(ああ、身震みぶるいがするほど上手うまい、あやかるように拝んで来な、それ、お賽銭さいせんをあげる気で。)
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古来未染の女子もし懐姙するときは、鍛冶屋神に詣で賽銭さいせんを奉納し、銕糞を申し請けて帰り、これに唐竹の葉と柳の葉とを混じて器に入れ水を注ぎてせんじその女に飲ましむ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
取り貯めてあるお賽銭さいせん、ふんだくろうとするのだろう? いけねえいけねえ、そいつはいけねえ。というのはそんなものはないからさ。ああないよ、お賽銭なんか! 第一……
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
などと戯談ぜうだんを言ひ言ひ、また打ち始めたが、かね/″\お賽銭さいせんを貰つてゐる氏神様のお力で、河合は手もなく松平を負かして、名高い「古松研」は到頭河合の手に渡つて了つた。
同行衆どうぎょうしゅうや、あしたに白骨となりゆうべに白骨となるなんかんとやると、それ、後生安楽ごしょうあんらく、南無阿弥陀仏、バラバラ、バラバラ(財布からお賽銭さいせんを取り出して投げる真似をする、聴衆笑う)
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして賽銭さいせんが祠守りの生活を十分に保証し、山林や田畑を寄進する地主さえあった。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ある坂道のところで、雨のように降った賽銭さいせんを手探りに拾う女の児なぞが有った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どこに神の宮らしきおごそかさがあるか。商人は参詣人より利をかすめ、祭司は商人の上前をはね、賽銭さいせんの上がり高の多きを喜んで神の家から神聖さを強盗している。綱紀弛緩、俗気紛々。