裸身はだかみ)” の例文
が、生命いのちは取らぬ。さるかわり、背に裸身はだかみの美女を乗せたまま、池のほとりで牛をほふって、角あるこうべと、尾を添えて、これを供える。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その光に霑された彼女の指は、薔薇色にすきとほつて、それが亦次第に不透明な、牛乳のやうに白い、裸身はだかみの腕に溶けこんでゐる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
ののしらるべくもあるところをかえって褒められて、二人は裸身はだかみの背中をなまはまぐりで撫でられたでもあるような変な心持がしたろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こと気味きみわるかったのはわたくしのすぐそばる、一人ひとりわかおとこで、ふと荒縄あらなわで、裸身はだかみをグルグルとかれ、ちっとも身動みうごきができなくされてります。
おのれの罪という罪、悪という悪をぶちまけて、これを審判の前に置き、残るところの裸身はだかみを、あの十字の柱に向ってひしひしと投げかけている絶体絶命の仕草である。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
倉庫にはたて半分に立ち割った馬の裸身はだかみや、ダラリと長い耳を下げたうさぎかごなどが目についた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
裸身はだかみを屈ませて小走りに、素早く岩かげへ廻ると、何の設備しつらえもないとは言え、女性の浴客のために建てられたささやかな脱衣場がある——竹を立て、むしろをめぐらしたほんの掘立小屋。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼れは妻に手伝わせて馬の皮をぎ始めた。生臭い匂が小屋一杯になった。厚い舌をだらりと横に出した顔だけの皮を残して、馬はやがて裸身はだかみにされてわらの上に堅くなってよこたわった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
たけは六尺ばかり、赤髪あかきかみ裸身はだかみ通身みうち灰色はいいろにて、ぬけたるにたり、こしより下にかれ草をまとふ。此物よく人のいふことにしたがひて、のちにはよく人になれしと高田の人のかたりき。
蜑の裸身はだかみが、底の方にある時は、青い水の層の複雑な動揺の為に、その身体が、まるで海草の様に、不自然にクネクネと曲り、輪廓りんかくもぼやけて、白っぽいおばけみたいに見えているが、それが
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こけを畳むわずらわしさを避けて、むらさき裸身はだかみに、ちつけて散る水沫しぶきを、春寒く腰から浴びて、緑りくずるる真中に、舟こそ来れと待つ。舟はたても物かは。一図いちずにこの大岩を目懸けて突きかかる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「宗介天狗は裸身はだかみでござる!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
公孫樹よ、明日の裸身はだかみ
公孫樹 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
前刻さっきも前刻、絵馬の中に、白い女の裸身はだかみを仰向けにくくりつけ、膨れた腹を裂いています、安達あだちヶ原の孤家ひとつやの、ものすごいのを見ますとね。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
未だ小さな青い花で編んである長い乱れ髪は、彼女の頭にまばゆい枕を造つて、其房々した巻き毛は、裸身はだかみの肩を掩つてゐる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
たけは六尺ばかり、赤髪あかきかみ裸身はだかみ通身みうち灰色はいいろにて、ぬけたるにたり、こしより下にかれ草をまとふ。此物よく人のいふことにしたがひて、のちにはよく人になれしと高田の人のかたりき。
「てんぼうの裸身はだかみなんぞは、誰が見たって、あんまり見いいものじゃないよ」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
右の手高く振上ふりあげなたには鉄をも砕くべきが気高くやさしきなさけあふるるばかりたたゆる姿、さても水々として柔かそうな裸身はだかみらば熱血もほとばしりなんを、どうまあ邪見に鬼々おにおにしくやいばむごくあてらるべき
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
体がぶるぶるッとふるえたと見るが早いか、掻消かきけすごとく裸身はだかみの女は消えて、一羽の大蝙蝠となりましてございまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
未だ真珠の腕輪も外さない、裸身はだかみの腕が象牙のやうにつや/\と、まどかな肉附きを見せてゐる艶めかしさに——死後さへも猶——之のみが、反抗の意を示してゐるのである。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
はだかなる所以ゆゑん人気じんきにて堂内のねつすることもゆるがごとくなるゆゑ也。願望ぐわんまうによりては一里二里の所より正月三日の雪中寒気はだへいるがごときをもいとはず、はしらのごとき氷柱つらゝ裸身はだかみ脊負せおひて堂押にきたるもあり。
「坊や、」とばかり、あわれな裸身はだかみを抱え上げようとして、その乳のあたりを手に取ると、首が抜けて、手足がばらばら。胴中どうなかの丸いものばかり蝶吉の手に残ったので
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はだかなる所以ゆゑん人気じんきにて堂内のねつすることもゆるがごとくなるゆゑ也。願望ぐわんまうによりては一里二里の所より正月三日の雪中寒気はだへいるがごときをもいとはず、はしらのごとき氷柱つらゝ裸身はだかみ脊負せおひて堂押にきたるもあり。
禰宜 これ、すみやかにおわびを申し、裸身はだかみに塩をつけてんでなりとも、払いきよめておもらい申せ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それでも、あの段、くるくる舞うてころげた時は、あて、ぱッと帯紐とけて、裸身はだかみで落ちるようにあって、土間は血の池、おにが沢山いやはって、大火鉢に火が燃えた。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裸身はだかみの色の白さに、つい、とろとろとなって、面目なや、ぬらり、くらりと鰭を滑らかいてまつわりましたが、フトお目触めざわりとなって、われら若君、もっての外の御機嫌じゃ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やあ、あの、ものはぢをするひとが、裸身はだかみなんぞ、こんな姿すがたを、ひとせるわけはない。」
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
裸身はだかみに、あの針のざらざら刺さるよりは、鉄棒かなぼうくじかれたいと、覚悟をしておりましたが、馬が、一頭ひとつ背後うしろから、青い火を上げ、黒煙くろけむりを立ててけて来て、背中へつかりそうになりましたので
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じつ六十幾歳ろくじふいくさい婆々ばゞで、かもじをみだし、しろぬのを裸身はだかみいた。——背中せなかに、引剥ひつぺがした黒塀くろべいいた一枚いちまい背負しよつてる。それ、トくるりと背後うしろきさへすれば、立處たちどころ暗夜やみ人目ひとめえたのである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)