ばう)” の例文
幸ひに航路は穏かで、心配した濃霧もかゝらずにばうと静かに海は暮れて行つたけれども、しかもさびしさは遂に遂にBを離れなかつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
成程なるほどむしふくろでは大分だいぶ見當けんたうちがひました。……つゞいてあまあついので、餘程よほどばうとしてるやうです。失禮しつれい可厭いやなものツて、なにきます。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こんなことになると、房一はふだんよりなほばうとした眠たげな眼つきになる。その目でちらりと相沢を眺めたのである。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
平次は脂下やにさがりに噛んだ煙管をポンと叩くと、起き上がつてこのばうとした子分の顏を面白さうに眺めるのです。
天のばう々たる他国にも是に似たる所あるべし、しばらくそのるゐしめす。
鏡子がばうとして居るところへ南が出て来た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
若旦那わかだんな氣疲きつかれ、魂倦こんつかれ、ばうとしてもつけられず。美少年びせうねんけたあとを、夫婦ふうふ相對あひたいして見合みあはせて、いづれも羞恥しうちへず差俯向さしうつむく。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そんな物はありやしません、手に持つてゐるのは、筆と短册たんざくだけ、——増田屋金兵衞ばうとなつてしまつた。
天のばう々たる他国にも是に似たる所あるべし、しばらくそのるゐしめす。
つたく、近頃ちかごろ天津てんしん色男いろをとこ何生なにがしふもの、二日ふつかばかりやしきけた新情人しんいろもとから、午後二時半頃こごにじはんごろばうとしてかへつてた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞさへ、おもけない人影ひとかげであるのに、またかげが、ほしのない外面とのもの、雨氣あまけびた、くもにじんで、屋根やねづたひにばうて、此方こなた引包ひきつゝむやうにおもはれる。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
めて、差窺さしうかゞふ、母屋おもやの、とほかすかなやうな帳場ちやうばから、あかりすゑばうとゞく。いけめんした大廣間おほひろまなかは四五十でふおもはるゝ、薄暗うすぐら障子しやうじかず眞中まんなかあたり。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
神田かんだ猿樂町さるがくちやうで、ほろのまゝ打倒ぶつたふれた、ヌツと這出はひでことたが、つけの賓丹はうたんふつもりで藥屋くすりや間違まちがへて汁粉屋しるこやはひつた、大分だいぶばうとしたにちがひない、が怪我けがなし。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一日いちにもばうつて、田圃たんぼかはみづんでところを、見懸みかけたむらわかいものが、ドンとひとかたをくらはすと、ひしやげたやうにのめらうとする。あわてて、頸首えりくび引掴ひツつかんで
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たにそこにもちないで、ふわりと便たよりのないところに、土器色かはらけいろして、なはてあぜばうあかるいのに、ねばつた、生暖なまぬる小糠雨こぬかあめが、つきうへからともなく、したからともなく、しつとりと
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)