みゃく)” の例文
いいえ、」とおかあさんがった。「わたしはむねくるしくって、がガチガチする。それでみゃくなかでは、えているようですわ。」
私が三毛をだいて診察場へ行くと、風邪かぜでも引いたのかって私のみゃくをとろうとするんでしょう。いえ病人は私ではございません。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
以上のような鉄則にも人間の血がみゃくっていたし、藩という組織もまた、人間と人間、たましいとたましいを以て結ばれていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわて者は、肝腎かんじんの宝物に手をふれても、それと気がつかないだろう。まだみゃくがあるにちがいないと、私は合点がてんのいくまで調べる決心をした。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
支那しな四川省しせんしょうの奥で修業しゅぎょうをしたと云うんだ。気合をかけるとじぶんみゃくがとまるよ、仰向あおむいて胸をらして力を入れると、肋骨ろっこつがばらばらになるそうだ。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いやしずかに。——ただいまみゃくちからたようじゃと申上もうしあげたが、じつ方々かたがた手前てまえをかねたまでのこと。心臓しんぞうも、かすかにぬくみをたもっているだけのことじゃ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私は、軽い二間半で道糸に水鳥の白羽を目印につけ、暁の色を映しゆく瀬脇の水のおもてみゃく釣りで流した。
楢の若葉 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「いや、まて、まだ死んじゃいない。みゃくがある。この血も、どうやら鼻血らしいぜ。」
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宛如さながら、狂人、乱心のものと覚えたが、いまの気高い姿にも、あわてゝあとへ退かうとしないで、ひよろりとしながら前へ出る時、垂々たらたらと血のしたたるばかり抜刀ばっとうさえが、みゃくを打つてぎらりとして
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
十力じゅうりき大宝珠だいほうじゅはある時黒い厩肥きゅうひのしめりの中にもれます。それから木や草のからだの中で月光いろにふるい、青白いかすかなみゃくをうちます。それから人の子供こども苹果りんごほおをかがやかします
イヤこの山には金鉱きんこうみゃくがある! すなわち家康公いえやすこうにとっての金脈きんみゃくがあるのだ! これからそれをさがしにかかるのだから、ずいぶんほねを折るがよい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼんやり中腰ちゅうごしになってお由の白い顔を眺めていた土岐健助は、初めて愕然がくぜんと声をあげた。そして、おずおずとお由の硬張こわばった腕を持ったが、勿論もちろんみゃくは切れていた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なさけの風が女から吹く。声から、眼から、はだえから吹く。男にたすけられてともに行く女は、夕暮のヴェニスをながむるためか、扶くる男はわがみゃく稲妻いなずまの血を走らすためか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうです、そうです。血が通っています。死体人形なら、みゃくがとまったようです」
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして動くにれて、しおはしだいに増すようである。が、水の面が、みゃくを打って、ずんずんひろがる。かさす潮は、さしぐちはさんで、川べりのあしの根をすぶる、……ゆらゆら揺すぶる。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やなぎの木でもかばの木でも、燐光りんこう樹液じゅえきがいっぱいみゃくをうっています。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
みゃくちからたようじゃが。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すべて家康の四となり、家康と通じる者のみゃくを断って、その後、爼上そじょうに料理すべき大魚たいぎょながら——彼は網を南へ打ち、北へ打ち、おもむろに重点のものを
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そばによってみると、博士は、心臓が衰弱すいじゃくしているようで、みゃくがわるいが、しかしちゃんと生きていた。X号はよろこんだ。博士はこんこんとねむっているらしい。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けれども呼息いきをするたびに春のにおいみゃくの中に流れ込む快よさを忘れるほど自分は老いていなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小さな浮木うきほどに成つて居たのが、ツウと浮いて、板ぐるみ、グイと傾いて、水のおもにぴたりとついたと思ふと、罔竜あまりょうかしらえがける鬼火ひとだまの如き一条ひとすじみゃくが、たつくちからむくりといて、水を一文字いちもんじ
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これが裂罅れっか温泉おんせんの通った証拠しょうこだ。玻璃蛋白石はりたんぱくせきみゃくだ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
夜色やしょくをこめた草原のはてを鞍上あんじょうから見ると——はるかに白々しらじらとみえる都田川みやこだがわのほとり、そこに、なんであろうか、一みゃく殺気さっき、形なくうごく陣気じんきが民部に感じられた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時計を出しては一日にみゃくを何遍となくけんして見る。何遍験しても平脈へいみゃくではない。早く打ち過ぎる。不規則に打ち過ぎる。どうしても尋常には打たない。たんくたびに眼を皿のようにしてながめる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうか。おい立派りっぱなもんだなあ。シグナルさまの後見人で鉄道長の甥かい。けれどもそんならおれなんてどうだい。おれさまはな、ええ、めくらとんびの後見人、ええ風引きのみゃくの甥だぞ。どうだ、どっちがえらい」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
口へてのひらを当てがっても、呼息いきの通う音はしなかった。母は呼吸こきゅうつまったような苦しい声を出して、下女に濡手拭ぬれてぬぐいを持って来さした。それを宵子の額にせた時、「みゃくはあって」と千代子に聞いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)