縁故えんこ)” の例文
主家小寺家と荒木家とは、いろいろな縁故えんこから旧交浅からぬ間であった。従って、官兵衛も彼の性行と今日ある由縁ゆえんはよく知っていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、ここに、幸いなことには、思いがけない縁故えんこ辿たどって、いろいろあの山奥の方の地理や風俗を聞き込むことが出来た。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「君が来たんで生徒も大いに喜んでいるから、奮発ふんぱつしてやってくれたまえ」と今度は釣にはまるで縁故えんこもない事を云い出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は、彼女の地位、縁故えんこ等が彼に合つてゐる故を以て、家柄いへがらや、恐らくは政略的な理由の爲めに彼が彼女と結婚しようとしてゐるのだと思つた。
じゅうぶんな手当てあてをしたのであるが、そういう縁故えんこをもたぬ貧乏な旅人たびびとには、旅は誠にういものつらいものであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
富貴ふうきには親類顏しんるゐがほ幾代先いくだいさきの誰樣たれさまなに縁故えんこありとかなしとかねこもらぬしまでが實家さとあしらひのえせ追從つゐしよう
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あの帆村荘六という奴は、わしと同郷どうきょうでな、ちょっと或る縁故えんこでつながっている者だが、すこし変り者だ。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてたまには神様かみさまれられて、現世げんせ縁故えんこふかかった人達ひとたちもとへもたずねてくとのことでございました。
貴君きくんいま本艦ほんかん水兵すいへい貴君きくん同伴者どうはんしやなる武村兵曹たけむらへいそうとの談話だんわによると、貴君等きくんらは、もつと親密しんみつなる海軍大佐櫻木重雄君かいぐんたいささくらぎしげをくん縁故えんこひとやうおもはれるが、はたして左樣さうですか。
アイヌ人は、そんな縁故えんこから、くまのにくを、よく、わたしの家へ持ってきてくれたものでした。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
中でも朝鮮との縁故えんこは深く、江戸時代三百年の間に、日本の焼物を非常に発達させる原因をなしました。豊臣秀吉の軍が、朝鮮に攻め入った時、彼は不思議な命令を下しました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
以前この寺の僧院であつた隣の建築物はツウル市の博物館に成つて居る。博物館の前は小さな広場で、文豪がしば/\この地に遊んだ縁故えんこから「エミル・ゾラの広場」と云ふ名を負うて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
明日行つて訊くがいゝ、——多分、大垣の縁故えんこの者だらう。金づくでやれる仕事ぢやないよ。あんな危ない仕事をさした上、口をふさぐ氣になつたのは、大垣も少し血迷つたのだらう。
丁度そこへ、彼の貧窮時代同じ下宿にいた縁故えんこで知合の小林紋三が、屈竟くっきょうな事件を持込んで来た。山野夫人の話を聞いている内に、彼は多年の慣れで、これは一寸面白そうな事件だと直覚した。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ふん、なんだと、お前はなんの縁故えんこでこんなことに口を出すんだ」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『だって、山岡屋じゃ、内密で盗品買けいずかいもしているというから、牢屋敷の者にだって、まんざら縁故えんこがないわけじゃないだろうさ』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助そうすけ安井やすゐ此所こゝに二三たづねた縁故えんこで、かれ所謂いはゆる不味まづさいこしらえるぬしつてゐた。細君さいくんはうでも宗助そうすけかほおぼえてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
想像さうざうとはほかでもない、貴君等きくんらはたして親愛しんあいなる櫻木君さくらぎくん縁故えんこひとならば、今度こんどこの不思議ふしぎなる出來事できごとも、あるひ櫻木大佐さくらぎたいさ運命うんめいある關係くわんけいいうしてるのではあるまいかと。
私達が偶然に同じ兩親によつて生れたといふ理由でもつて、あなたが極く僅かな縁故えんこを云ひたてゝ、頼つてくれば、そのまゝ私が寄せつけようなどゝは考へないで下さいよ。
かつて御産屋みうぶやに奉仕した者、またはその縁故えんこを引く人々をもって組織した部曲かきべであって、これにって御名を永き世に留めんとしたものと、普通に解釈せられていてまだ異説はない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
パンテオンのそばのオテル・スフロウにとまつてから一箇月近く経つた。この宿は最初和田英作えいさく君などの洋画界の先輩が泊つて居た縁故えんこ巴里パリイへ来る日本人は今でも大抵一先ひとま此処ここへ落ち着く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
三河屋の縁故えんこの者で、客分とも居候ともつかず、この二三年厄介になっている、佐々波金十郎ささなみきんじゅうろうという男、まだ二十七八でしょうが、腕も才智もすぐれた上、男前も恰幅かっぷくもなかなかに見事です。
「さようでございます。むかしからのご縁故えんこで、わたくしは、どこでもよいから、徳川さまのご領地りょうちに住みたいと願っております」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日曜にちえうかれまた安井やすゐふた。それは二人ふたり關係くわんけいしてゐるあるくわいつい用事ようじおこつたためで、をんなとはまつた縁故えんこのない動機どうきから淡泊たんぱく訪問はうもんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
詩人ベランゼが住んで居た縁故えんこで記念の名を負うた「ベランゼの並木路アブニウ」に臨んだ煙草たばこ屋は博士が七箇月間煙草たばこを買はれた店で快濶な主人夫婦が面白いと云ふので今度も態態わざわざ立寄つて煙草たばこを買はれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「いや、ただいまが初耳、それと知っておりましたら、もとのご縁故えんこあさからぬこと、ぜひおひきとめ申すのであったに」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日ははからず御招きにあずかりまして突然参上致しました次第でありますが、私は元この学校で育った者で、私にとってはこの学校は大分縁故えんこの深い学校であります。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また都に祗候しこうの主筋や縁故えんこを持つやからは、これまたぞくぞく、東国から京へと急ぎ、海道はそのため、西ゆく者、東する者、くしの歯をくが如しじゃと、いわれておる
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは近衛家の往来おうらい手形だった。官兵衛の祖父明石正風と、近衛家の当主との風交ふうこうは、近年こそ途絶えているが、その縁故えんこは歌の道のほうからいっても浅くない関係にある。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「や。おめえの言葉は北京語だが、そういうところをみると、もしやおめえは、盧員外ろいんがい(俊儀のこと)の縁故えんこの者じゃあねえのかい。いや、安心しねえ。おれたちは、梁山泊りょうざんぱくの者だからよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なるほど、その縁故えんこをたよって、御本陣へ行ったのか。そして、今夜は」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縁故えんこの手づる、見えすいた贈賄ぞうわい、後宮の女性の口出し、あらゆる浅ましいもののがんじがらめにされてしまい、藤房の潔癖では、到底、その処理もなしえず、やがて辞任を申し出る始末とはなった。
「そなたは、伊丹家の縁故えんことかいうが、そうなのかえ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、次には、卯木の縁故えんこさきを洗って行った。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)