継母ままはは)” の例文
旧字:繼母
なんでもお母さんが継母ままははで、お父さんは死んじゃってて、弟や妹からもバカにされるし、親戚もだれもかまっちゃくれないんですって。
トンボの死 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
すでにお紹介しておいた六番てがらの継母ままはは事件で、右門に生まれてたった一度のごとき男涙をふり絞らしたあの孝女静のことです。
ほかから見れば父親のない人は哀れなものに思われますが、性質の悪い継母ままははに憎まれているよりはずっとあなたなどはお楽なのですよ。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
おもわず洩れるひとりごとは、やくざな継母ままはは、あのお蓮様のうえを、ひそかにあざけりもし、またあわれみもしているとみえます。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女の継母ままははは、祖父のこのつぶやきを、快く聞き流しながら、背中に小さな子供を不格好に背負い込んで囲炉裏いろりで沢山の握り飯を焼いていた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
葉子はどうかすると、熱に浮かされて見さかいのなくなっている貞世を、継母ままははがまま子をいびり抜くように没義道もぎどうに取り扱った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「じゃア、一しょにおいで!」といって、継母ままはは部屋へやへはいって、はこふた持上もちあげげながら、「さア自分じぶん一個ひとつりなさい。」
「おっ母あはみんなの継母ままははだよ」と彼は云った、「おらたちみんなが生れてっから来ただよ、そんだからうちはずっとうまくいってるだよ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もっとも伊助は自分が承知してもお定がうんと言うはずはないと、妙なところで継母ままははを頼りにしていたのかもしれなかった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
世間によくある習いで、彼女はおそろしい継母ままはは根性からその惣領息子を亡きものにしようとたくらんで、子供の玩具として蛙の水出しを買って来た。
これでは全く継母ままはは扱いをまざまざ鼻の先に見せつけられるようなものでございます。わたくしはもう堪りません。それで御相談に参ったのでございます
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのころ私は毎晩母のふところいだかれて、竹取のおきなが見つけた小さいお姫様や、継母ままははにいじめられる可哀かわいそうな落窪おちくぼのお話を他人事ひとごととは思わずに身にしみて
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
一口ひとくちでいうと、彼らは本当の母子ではないのである。なお誤解のないように一言いちげんつけ加えると、本当の母子よりもはるかに仲の好い継母ままはは継子ままこなのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黙って材木から顔を離して振り返ると、肩のあたりへ近々と、お駒の継母ままははのお仙が、連れ子の少し足りない定吉と一緒に、心配そうに立っているのでした。
昔々遙かの昔に、墨西哥メキシコの国ガイマスの地にガイマス王という国王があった。その王子を壺皇子つぼみこと云ったが、早く母上と死に別れ、継母ままははの手で育てられた。
一つは継母ままははに仕えて身を慎んで来た少年時代からの心の満たされがたさが彼の内部なかに奥深く潜んでいたからで。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下駄げたの甲羅問屋の娘さんで、美しいので評判な娘だったのを、鬼眼鏡が好んでもらったのだが、実家にいては継母ままははで苦労し、そこでは鬼眼鏡に睨み殺された。
いえ、私はな、やっぱりお伊勢なんですけれど、おとっさんがくなりましてから、継母ままははに売られて行きましたの。はじめに聞いた奉公とは嘘のように違います。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある日離れで葉子と庸三とが文学の話などにふけっていると、そこへ母親が土間の方から次ぎの間の入口へ顔を出して、今瑠美子たちの継母ままははと二人の書生とが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しげるの母親は継母ままははなのだ。それにしても、こんな深夜に、九つぐらいの子供がどっかへ行方不明になっているとすれば、家では大騒ぎをしているに相違ない。
夏の夜の冒険 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そのたたりであの奥様も子供の時分から継母ままははにかかってえらくいじめられたとか苦労なすったとかいっとるですが、どこまでほんとの話かどうかは知れねえですが
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ですから、警官は富三の継母ままははふさを警察署へ拘引してきびしく尋問しました。その結果、どうでしょう、継母ふさは、富三を殺したことを白状したそうであります。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
全然同じ話というわけではないが、これとほぼ似通うた話は、郭公かっこうについても語られている。たとえば甲州の精進湖しょうじこに近い山村では、カッコウ鳥はもと悪い継母ままははであった。
かみさんはしきりと幸ちゃんをほめて、実はこれは毎度のことであるが、そして今度の継母ままはははどうやら人が悪そうだからきっと、幸ちゃんにはつらく当たるだろうと言ッた。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
東側の偃松の中を辿って継母ままはは岳の頂上に出て振り返ると、梵天のようなものを押し立てた四十人余りの白衣の信徒達が池に向って高声に祈祷しながら九字を切っていました。
木曾御岳の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それは彼女が身を売るまでに、邪慳じゃけん継母ままははとの争いから、すさむままに任せた野性だった。白粉おしろい地肌じはだを隠したように、この数年間の生活が押し隠していた野性だった。………
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あれはお前の継母ままははで、弟の栄一とは腹ちがいだなんて聞かされてもあたしは平気だったわ。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あんまりやさしみのないところをみると、継母ままははであるのかもしれないぞと、おじいさんは、いろいろにかんがえましたが、こんなおんなには、わかるようにいわなければだめだとおもって
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
十二歳の大曾根さち子は、肺病の継母ままははに卵を一つだけ買ってくることを命じられて家を出たが、ふと夢見る子の異常な心理になって、そのままどこまでも、どこまでも歩いていった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と言つた調子で、松太郎は、継母ままははでもあしらふ様に、寝床の中に引擦り込んで、布団をかけてやる。渠は何日いつしか此女を扱ふ呼吸こつを知つた。悪口あくたい幾何いくらいても、別に抗争てむかふ事はしないのだ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
本来なら土井鉄之助は、越前大野の四万一千石をつぐはずだったが、継母ままははのために廃嫡はいちゃくされ、いっそ気楽な世わたりをしようと、非人の境涯へ身を落したが、もとを正せばおなじ清和源氏せいわげんじ
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
思ふままを通して離縁とならば太郎には継母ままははき目を見せ、御両親には今までの自慢の鼻にはかに低くさせまして、人の思はく、おととの行末、ああこの身一つの心から出世のしんも止めずはならず
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
火傷の怪我というのが偶然のあやまちの怪我じゃねえんだ、あの娘の継母ままははという人が、自分の子に家をとらせてえがために、あのお嬢様を焼き殺そうとしたというのが、あの娘の呪いと、憎しみと
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それ以後もただ世間並みのよいといわれる継母ままははぐらいのことと思いましたが、あの方の御愛情はそんなものではありませんでした。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
「おっ母あはみんなの継母ままははだよ」と彼はった、「おらたちみんなが生れてっから来ただよ、そんだからうちはずっとうまくいってるだよ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それを何か世間にありふれた継母ままはは根性のようにでも思われますのは如何にも残念でございまして……。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ところが、そんなやさしい母親が、近所の大人たちに言わせると継母ままははなのです。この子どこの子、ソバ屋の継子ままこ、上って遊べ、茶碗の欠けで、頭カチンと張ってやろ。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
三度々々の食事の気分というものが、人間の生活にとってどんな影響を与えるかということは、普通世間の嫁しゅうとめ継母ままはは継子のあいだにしばしば経験されることだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かくて、この難事件は俊夫君によって解決され、富三の継母ままははおふささんはもちろん放免されました。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それでKの小供こどもの時分には、継母ままははよりもこの姉の方が、かえって本当の母らしく見えたのでしょう。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それをると、継母ままははきゅうおそろしくなって、「どうしたら、のがれられるだろう?」とおもいました。
これは此の春頃から、其まで人の出入ではいりさへ余りなかつたかみの薬屋がかたへ、一にんの美少年が来て一所いっしょに居る、女主人おんなあるじおいださうで、信濃しなののもの、継母ままははいじめられて家出をして
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
継母ままははの腹は言うまでもなく姉のお絹を外に出して自分の子、妹のお松をあとに据えたき願い
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今の母親は継母ままははでしたけれど、それはそれは実の母親も及ばない程に二人を可愛がってくれたのであります。ですから二人は今の母さんをば前の母さんを慕うように慕っています。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
或いは支那シナ閔子騫びんしけんが、継母ままははに憎まれて着せられたというような、あし穂綿ほわたなども使われていたろうかと思うが、少なくとも木綿の綿はまるで無く、筑紫綿つくしわたとも言わるる絹の真綿まわた
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
娘奈々子は二十二、これは先妻の忘れ形見で、継母ままははの由喜子とは姉妹としか見えません。淋しいが品の良い顔立ちで、少し権高だという悪口があるにしても、ずは申分のない令嬢です。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
せて色の黒い、聡明な継母ままははとの間で、くるしんで育ち、とうとう父母にそむいて故郷から離れ、この東京に出て来て、それから二十年間お話にも何もならぬ程の困苦にあえぎ続けて来たという事
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
持つまじきは放蕩のら仕立したつ継母ままははぞかし。
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今年の春おかくれになった式部卿しきぶきょうの宮の姫君を、継母ままははの夫人が愛しないで、自身の兄の右馬頭うまのかみで平凡な男が恋をしているのに
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
継母ままははにいじめられて、言いつくされない苦労をした末に、半分は乞食同様のありさまで、江戸の身寄りをたずねて下る途中であるが、長いあいだ音信不通であったので
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)