突張つっぱ)” の例文
と両袖を突張つっぱって肩でおどけた。これが、さかり場の魔所のような、廂合ひあわいから暗夜やみのぞいて、植込の影のさす姿見の前なんですが。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船頭はやはり二人で、さおをつつッと突張つっぱるや否や、あとのがべそを調べると、櫓をからからとやって、「そおれ出るぞぉ」である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
やい/\此処こゝ何処どこと心得てる、大伴蟠龍軒の道場へ来て、手前達が腕を突張つっぱり、弱い町人や老人をおどかして侠客の男達おとこだてのと云う訳にはいかぬ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
土人の一人は手でもって椰子のみきを抱き、足でもってそれを突張つっぱりながら、そろそろと登ってまいりました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
折角油の異臭においに慣れたところに、肥料こやしのにおいなんか押し付けられちゃ、たまらない……なぞと我儘を突張つっぱった。無理にも亭主に運転手稼業を止めさせまいとした。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
番犬を繋いである犬小屋があったが、二人が近づいても犬は吠えもしなければ、身動きもしない、ボートルレが走り寄ってみると、犬は四肢を突張つっぱって死んでいた。
「饂飩はよすよ。ここいらの饂飩はまるで杉箸すぎばしを食うようで腹が突張つっぱってたまらない」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三個が、手足を突張つっぱらかして、箸の折れたように、踊るふりで行くと、ばちゃばちゃと音がして、水からまた一個ひとり這上はいあがった。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども事実は事実でいつわる訳には行かないから、吾輩は「実はとろうとろうと思ってまだらない」と答えた。黒は彼の鼻の先からぴんと突張つっぱっている長いひげをびりびりとふるわせて非常に笑った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、あやつりの糸の切れたがごとく、手足を突張つっぱりながら、ぐたりと眠る……俗には船をぐとこそ言え、これはいかだを流すてい
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
済みやしないよ、七皿のあとが、一銚子ひとちょうし、玉子に海苔のりと来て、おひけとなると可いんだけれど、やっぱり一人で寝るんだから、大きに足が突張つっぱるです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せいの低い、色の黄色あおい、突張つっぱった、硝子ビイドロで張ったように照々てらてらした、つやい、その癖、随分よぼよぼして……はあ、手拭てぬぐいを畳んで、べったりかぶって。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きまりが悪いと云えば、私は今、毛筋立を突張つっぱらして、薄化粧はいけれども、のぼせて湯から帰って来ると、染ちゃんお客様が、ッて女房おかみさんが言ったでしょう。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愚僧は好事ものずき——お行者こそ御苦労な。江戸まで、あの荷物をおくりと見えます。——武士さむらいは何とした、しんえて、手足が突張つっぱり、ことほか疲れたやうに見受けるな。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何でも買いなの小父さんは、紺の筒袖を突張つっぱらかして懐手の黙然もくねんたるのみ。景気のいのは、蜜垂みつたらしじゃ蜜垂じゃと、菖蒲団子あやめだんごの附焼を、はたはたとあおいで呼ばるる。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただね、材木を組んでいかだこせえて流して来るのが、この下を抜ける時、どこでも勝手次第に長鍵ながかぎ打込ぶちこんで、突張つっぱって、くぐるくらいなもので、旦那が買置かっときなすった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この錠前だと言うのを一見に及ぶと、片隅に立掛けた奴だが、大蝦蟆おおがまの干物とも、河馬かば木乃伊みいらともたとえようのねえ、しなびて突張つっぱって、兀斑はげまだらの、大古物のでっかい革鞄かばんで。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しゃ横縞よこじまはかま突張つっぱらかして、折革鞄おりかばんわきに、きちんと咽喉のどもとをしめた浅葱あさぎの襟を扇であおぐと、しゃりしゃりと鳴る薄羽織の五紋が立派さね。——この紋が御見識だ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その鯉口こいぐち両肱りょうひじ突張つっぱり、手尖てさきを八ツ口へ突込つっこんで、うなじを襟へ、もぞもぞと擦附けながら
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄ゴオトでましたはいいが、すそをからげて、長襦袢ながじゅばん紅入べにいりを、何と、ひきさばいたように、赤うでの大蟹が、籠の目を睨んで、爪を突張つっぱる……襟もとからは、湯上りの乳ほどに
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が時々うかがうたびに、駒下駄を直さして、ああ、勿体ない、そう思う、思う心は、口へは出ず、手も足も固くなるから、突張つっぱって、ツンツンして、さぞ高慢に見えたでしょう。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、処々、張出しがれる、からかさすぼまる、その上につめたい星が光を放って、ふっふっと洋燈ランプが消える。突張つっぱりの白木しらきの柱が、すくすくと夜風に細って、積んだ棚が、がたがた崩れる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大土間の内側を丸太でしきった——(朝市がそこで立つ)——そのしきりの外側を廻って、右の権ちゃん……めくらじま筒袖つつッぽ懐手ふところで突張つっぱって、狸より膃肭臍おっとせいに似て、ニタニタとあらわれた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と額にびくびくとしわを刻み、痩腕やせうで突張つっぱって、爺は、彫刻のように堅くなったが
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、飯櫃めしびつに太い両手を突張つっぱって、ぴょいと尻を持立もったてる。遁構にげがまえでいるのである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時も、手で突張つっぱったり、指で弾いたり、拳で席をはたいたり、(人が居るです、——一人居るですよ。)その、貴下あなた……白襯衣しろしゃつ君の努力と云ってはなかった。誰にも掛けさせまいとする。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
香染こうぞめ法衣ころもをばさばさと音さして、紫の袈裟けさを畳んだままで、ひじに掛けた、その両手に、太杖ふとづえこごみづきに、突張つっぱって、れて烏の鳴く樹の枝下へ立つと、寺男が、背後うしろから番傘をさしかけた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
がっくりがっくりと、振り振り、(ぴい、ぷう。)と笛を吹いて、杖を突張つっぱって流して歩行あるきますと、御存じのお客様は、あの小按摩の通る時は、どうやら毛の薄い頭の上を、不具かたわの烏が一羽
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも宿を出る時、外套はと気がさしたが、借りて着込んだ浴衣ののり硬々こわごわ突張つっぱって、広袖のはだにつかないのが、悪く風を通して、ぞくぞくするために、すっぽりと着込んでいるのである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
からからと明くなって、蒼黒い海さ、日の下で突張つっぱって、ねてるだ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と車掌も大事件の肩を掴まえているから、息いて、四五人押込もうとする待合わせの乗組を制しながら、後退あとじさりに身をらせて、曲者を釣身に出ると、両手を突張つっぱって礼之進も続いて、どたり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人あるじが、尻で尺蠖虫しゃくとりむしをして、足をまた突張つっぱって
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、こうぬっと腕を突張つっぱった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せた肩を突張つっぱりながら
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)